目次
1.概要
RolandのMIDI音源「SC-88Pro」を分解し、電解コンデンサを交換しました。作業記録を残しておきます。修理の参考になればと思います。
SC-88Proは製造後20年以上経過しているため、劣化した部品の交換が必要です。特にアルミ電解コンデンサは経年劣化しやすく、電解液の漏出によって基板パターンを腐食させることもあり、修理が大変になります。故障を予防するためにも、電解コンデンサを交換することをお勧めします。
2.分解
メイン基板
作業前にコンセントから電源プラグを抜きます。プラスドライバー(2番)で、側面4カ所・背面3カ所のネジを取り、パネルを開けます。
パネルを開けると、メイン基板(名称:MAIN BOARD)が見えます。クリップのような部品を外し、基板を直接固定しているネジを3カ所、背面のネジを4カ所取ると、メイン基板を持ち上げられます。持ち上げる際は、ハーネスを傷めないように注意します。
基板に接続されているコネクタ類を外していきます。
オレンジ色のコネクタ(JAE IL-Sシリーズ)の抜き取りには、エンジニア SS-10が便利です。無ければプライヤーで代用します。かなり固いですが、じわじわと引っ張れば外れます。やむを得ずこじる場合は慎重にやります。外す際の反動でコネクタやハーネスを傷めないように、力のかけ方を調整します。
※コネクタ類は生産中止なので、壊さないように作業をします。抜き差しの回数を極力減らしたい所です。
また、白いコネクタ(Molex 52328-1410)は、ロックを先細のペンチなどで押し上げることで、フラットケーブルを外せます。
メイン基板のネジ穴にスペーサーを付け、机上に直接触れないようにします。静電マットがあればその上に置きます。また、はんだ作業前にボタン電池(CR2032)を取り外します。ボタン電池は液漏れしやすいので、作業後に新品に交換します。
アナログ基板
メイン基板を外すと、アナログ基板(名称:ANALOG & POWER SUPPLY BOARD)が見えます。アナログ基板上のコネクタを外し、基板を固定しているネジを5カ所と、背面のネジを4カ所取ります。これでアナログ基板の取り外しができます。
アナログ基板のネジ穴には、上下に長めのスペーサーを付けると良いです。裏返しに出来るので作業性が向上します。写真では50mmのスペーサー(オスメス)を取り付けています。
3.電解コンデンサの選定
同型に交換できれば良いですが、入手性が悪かったり製造中止だったりします。そこで代替品を選定しました。選定の基準は次の通りです。
- Digi-Keyで入手可能
- 同形状、同耐圧、同容量
- 105℃品
- 平滑用のC125-127は、交換前と同等以上の許容リプル電流(@120Hz)を持つもの
基板名 | 出荷時取付品 | 代替品 | 個数 | 容量 | 耐圧 | 外径φD | 高さL | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
メーカ | 型式 | メーカ | 型式 | [μF] | [V] | [mm] | [mm] | ||
メイン | 三洋電機(サン電子工業) | 16CE10BS | ニチコン | UWT1C100MCL1GB | 6 | 10 | 16 | 4 | 5.4 |
メイン | 三洋電機(サン電子工業) | 16CE100BS | ニチコン | UWT1C101MCL1GB | 2 | 100 | 16 | 6.3 | 5.4 |
アナログ | 松下電器産業(パナソニック) | ECA1HM010 | 日本ケミコン | EKMG500ELL1R0ME11D | 1 | 1 | 50 | 5 | 11 |
アナログ | 松下電器産業(パナソニック) | ECA1CM330 | ニチコン | UKT1C330MDD | 29 | 33 | 16 | 5 | 11 |
アナログ | 松下電器産業(パナソニック) | ECA1CM101 | 日本ケミコン | EKMG160ELL101ME11D | 10 | 100 | 16 | 5 | 11 |
アナログ | 松下電器産業(パナソニック) | ECA1EM102 | ルビコン | 25YXJ1000M10X20 | 2 | 1000 | 25 | 10 | 20 |
アナログ | 松下電器産業(パナソニック) | ECA1CM332 | 日本ケミコン | EKYB160ELL332MK25S | 1 | 3300 | 16 | 12.5 | 25 |
電解コンデンサの詳細なリストはこちら(Googleスプレッドシート)。
また、Digi-Keyのカート(1台分)はこちら。
4.電解コンデンサの交換
メイン基板
メイン基板の電解コンデンサは8個あり、全て表面実装品です。はんだごてを2本使用し、両側のランドを加熱すると簡単に外れます。ホットツイーザーを使う手もあります。液漏れが進んで端子が腐食している場合は、ニッパーでコンデンサを割る方法があるようです。(参考→Roland SC-88の補修(古典コンピュータ愛好会), 表面実装コンデンサーの交換作業風景)。
面実装の電解コンデンサは、基板上の-(マイナス)マーク側を負極にして実装します。ランドをはんだ吸い取り線で平らにした後、両方のランドにはんだを少し盛ります。片方のランドをコテで加熱しながら、ピンセットで電解コンデンサを載せます。最後にもう片方のランドを加熱し、はんだ付けして終わりです。なお、はんだは「鉛入りはんだ」を使います。
アナログ基板
アナログ基板の電解コンデンサは43個あり、全てラジアルリード品です。裏面のはんだを吸い取りコンデンサを引き抜く、という作業を地道にやる必要があります。めんどくさいよ~~~
電解コンデンサの引き抜きには注意が必要です。写真のように、リードは直線状ではなく、取付後に曲げられています(→クリンチ実装)。この状態で引き抜くとランドを破壊します。さらに、リードとランドの隙間のはんだが除去できず、うまく抜けない場合があります。そこで、1.リードをコテで熱しながら押して穴中心に移動させる、2.リードをペンチで真っ直ぐにする、3.コンデンサを抜く、とします。あらかじめリードをニッパーで切っておくのも一つの手です。
また、比較的大きなC125, C126, C127には接着剤が塗布されているので、剥がします。ヒートガンで温めると柔らかくなり、ペンチで摘まんで剥がしやすくなります。あまり高温にすると焦げます。アルコールやアセトンでは取れませんでした。
取り外した後は交換品を挿入してはんだ付けします。基板上の●マーク側を負極にして実装します。ただし外径5mmのものは、リード間隔(2mm)と基板の穴間隔(5mm)が合いません。無理矢理差し込むと電解コンデンサや基板に力が掛かるので、写真のように曲げ加工しておくのがベストでしょう。
※入手できるのなら、リードフォーミング品を使えば良いです。例えばこれとか
なお、この基板のランドは熱で剥がれやすいです(スルーホールにメッキが無く機械的強度が弱い)。コテは320℃ぐらいの低温に設定し、ランドに直接当てないようにします。
最後に念のため、定数と極性をチェックします。ここでミスが判明しても、まだリカバリーが効きます。
5.組み立て・動作確認
組み立ては、「2.分解」と逆の手順を踏めばOKです。ハーネスに過度な力を掛けたり、ネジを締めすぎたりしないように注意します。
全ての基板とハーネスを組み付けたら、電源オンです。変な音や匂いがしないことをチェックし、動作確認に移ります。
動作確認の方法は、テストモードを使います。SC-88Proにはいくつかのテストモードが用意されていますが、ひとまず”Memory Test”を実施します。(参考→SC-88Proのテストモード(Synthesized Malfunction))
Memory Testの手順は次の通り。
- 「KEY SHIFT<」「KEY SHIFT>」を同時に押しながら電源投入
- 起動ロゴが流れている間に「PREVIEW」を押しテストモードに入る(画面が暗転)
- 「KEY SHIFT<」を押しながら「PART>」を押下
数秒後、画面に「OK」または「NG」が表示されます。
問題が生じた場合は、以下を確認します。
- メイン基板にはんだくずのような、導電性のゴミが付着していないか
- メイン基板の部品が割れていたり、はんだクラックはないか
- コネクタの抜けや、ケーブルの断線はないか
6.音の比較
電解コンデンサ交換前と交換後の演奏を録音しました。Windows付属のflourish.mid(C:\Windows\Media\)を鳴らしています。同一個体を使用し、電解コンデンサ以外は同条件です。
交換前
音声プレーヤー
交換後
音声プレーヤー
出音の傾向も変わらず、「The ハチプロの音」って感じで良いですね。劣化部品を修理しつつ、大事に使いたいと思います。
7.参考資料
- SC-88Pro SERVICE NOTES (Roland, 1996)
- ルビコン アルミニウム電解コンデンサの使用上の注意事項
- Twitter画像検索「SC コンデンサ」
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