[PR]

 財政難のなか、巨額の費用に見合う効果があるのか。配備先の変更にとどめず、計画自体を見直す契機とすべきである。

 陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」のことだ。弾道ミサイルの脅威に備え、秋田、山口の東西2カ所で日本全体をカバーするというが、地元の強い反発を受けている。政府は秋田市陸上自衛隊新屋(あらや)演習場への配備を断念する方針を固め、新たな候補地を選び直す作業を本格化させた。

 新屋は住宅地に近く、レーダーの電波の影響や、有事に標的となるリスクなどが懸念されていた。見直しは当然だ。

 東日本で「唯一の適地」とした防衛省の報告書にずさんな誤りが何カ所も見つかり、直後の住民説明会では職員が居眠りをする失態もあった。昨夏の参院選秋田選挙区では、反対派の野党系候補が当選。もはやごり押しはできないと、方針転換せざるをえなかったのだろう。

 それでも防衛省は、同じ秋田県内を軸に新たな配備先を検討しているという。秋田、青森、山形の3県を対象に「ゼロベース」で再調査を始めたはずではなかったか。「新屋ありき」が「秋田ありき」に変わっただけなら、とても地元の幅広い理解を得られるとは思えない。

 陸上イージスの費用は、東西2基で5千億円を超すとみられている。運用開始は早くても25年度以降となり、周辺国のミサイル技術の急速な進展に対応できるのかも疑わしい。

 自衛隊はすでに、イージス艦の迎撃ミサイルと地対空誘導弾PAC3」の二段構えの体制をとっている。それに加えて陸上イージスを導入するのは、米国製兵器の大量購入を求めるトランプ米大統領への配慮という狙いも透けて見える。

 朝日新聞の社説は、限りある予算の中で、この計画の妥当性と実効性が厳しく吟味されねばならないとして、導入の再考を求めてきた。今がまさに、立ち止まるべき時である。

 防衛力の整備に長期的な視点が欠かせないのは確かだ。それでも国民の命とくらしを守るための喫緊の課題が、新型コロナウイルスへの対応であることに異論はあるまい。

 総額25兆円余の今年度補正予算の財源は、全額を国の借金である国債に頼っている。コロナ対策は長期化が予想され、生活支援や医療体制の拡充のための予算は、今後さらに膨れ上がることが予想される。

 財政事情は一段と厳しさを増していく。人々の生活を守るため、どこに財源を振り向けるのか。聖域なく予算全体を洗い直し、優先順位を過たぬ判断が、政府に求められる。

連載社説

この連載の一覧を見る
こんなニュースも