地上ミサイルの「要塞」で中国を封じ込め

米シンクタンク、対中国で新戦略
占領の「既成事実化」阻止

 米有力シンクタンク、戦略予算評価センター(CSBA)は先月下旬、中国が増強する「接近阻止・領域拒否」(A2AD)能力に対抗するため、米軍の新たな作戦構想を発表した。沖縄や台湾、フィリピンをつなぐ「第1列島線」上に地上発射型のミサイル網を構築するなどして、中国による周辺国領土への侵略やその「既成事実化」を阻止することを狙ったものだ。国防総省への影響力を持つことで知られるCSBAの新戦略は、今後のトランプ政権の対中軍事戦略に取り入れられる可能性がある。

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(米戦略予算評価センターの報告書を元に作成)

 中国は地域紛争時に米軍の介入や展開を阻むA2AD戦略の下、多数の弾道・巡航ミサイルを配備。これらの多くは米軍基地のある日本やグアムなどを射程に収め、中には「空母キラー」と称される対艦弾道ミサイルも配備している。これが、空母と世界各地の基地を通じて世界覇権を維持してきた米軍の優位性を脅かしているのだ。

 この現状で、懸念されるのは、中国軍が台湾や尖閣諸島、南シナ海などの周辺国領土を前触れなく急襲し、米軍が反撃態勢を整える前に、一気に占領の「既成事実化」を進める事態だ。つまり、ロシアによる2014年のクリミア併合の再現が起きるケースである。

 この有事に対処すべく集結する米軍の前に立ちはだかるのが中国のA2ADネットワークだ。米国の指導者は、それを突破するために多大な犠牲を払うか、介入を断念して米軍の威信失墜を受け入れるかという厳しい判断を迫られることになる。

 「海洋プレッシャー」と名付けられたCSBAの新戦略の概要は、紛争の初期段階で米軍を即座に中国大陸に近い最前線に展開。中国近海に地理的特徴を生かした二段構えの強固な防御網を構築することで、この既成事実化を阻止するというものだ。

 第一に、地上戦力や水陸両用隊を軸とした「インサイド部隊」を中国のA2AD圏内の第1列島線に配備。そこに地対艦、地対空ミサイルや電子戦システムなどを集中させることで列島を「要塞(ようさい)化」する。

 地上戦力の強みは、頻繁な移動が可能な上、隠蔽(いんぺい)や偽装、デコイ(おとり)による騙(だま)しが可能なことだ。これを分散して配置することで、A2AD圏内でも攻撃に耐えることができるだけでなく、中国軍の時間を浪費させることができるという。

 そして、もう一つの「アウトサイド部隊」を小笠原諸島と米領グアムを結ぶ第2列島線の内側に海空の兵力を分散して配置。長距離の対艦ミサイルなどでインサイド部隊を援護するとともに、必要に応じて第1列島線付近まで前進し、インサイド部隊の戦力を補う役割を果たす。

 アメリカンフットボールに例えると、それぞれインサイド部隊は、最前列で奮闘する「ディフェンスライン」、アウトサイド部隊は、その後方で守備の司令塔を担う「ラインバッカー」の役割を果たす。

 この二段階の「インサイド・アウト防御」により、戦域の海上優勢、航空優勢を確保し、中国による周辺諸国の領土への侵略を阻止、または遅らせる。同時に、中国の海軍、空軍が第1列島線を通り抜け、西太平洋に展開するのを防ぐ。

INF脱退で中国本土も射程に

 これまで、中国による軍事侵攻への米軍の対応策としては、戦略爆撃機による中国本土への大規模な爆撃やマラッカ海峡など南シナ海からインド洋にかけての海上の要衝を封鎖する「遠距離封鎖作戦」などが選択肢として上がっていた。ただ、これらは実行に移すまでに時間がかかるため、「中国軍による占領の既成事実化を許す可能性が高い」とCSBAは指摘する。

 これに対し、新戦略は紛争の初期段階において迅速に最前線で対抗し、中国による軍事侵略の阻止を目指す。仮に阻止できなかったとしても、中国軍を第1列島線内に封じ込めて占領を既成事実化させないことで、中国大陸への大規模な爆撃や遠距離封鎖作戦などの次の作戦への移行が容易になる。

 また、戦略の実現には、第1列島線上の日本、台湾、フィリピンなどとの連携を図ることが不可欠となる。CSBAのトーマス・マンケン所長は、日本の役割について、本紙の取材に「次世代型の地対艦ミサイルの配備や南西諸島におけるプレゼンスの強化など、自衛のための取り組みの多くが今回の戦略の実現にも大きく寄与するだろう」と語った。

 CSBAは、中国によるA2AD能力への対抗手段として、海軍と空軍の統合作戦構想「エアー・シー・バトル」を発案し、国防総省がこれを採用しようとしたことで知られる。今回の新戦略も、同省で検討の対象となり、今後の対中軍事戦略に取り込まれる可能性がある。

 トランプ政権が2月に射程500㌔から5500㌔の地上発射型ミサイルを禁止する中距離核戦力(INF)全廃条約からの脱退を表明したことも、この新戦略の実効性を後押ししそうだ。

 INF全廃条約の制約を受ける現在の米軍の地上発射型ミサイルの射程では、第1列島線上の島から中国本土やその沿岸部、台湾海峡などを攻撃するには不十分だが、同条約の足かせが外れ、中距離ミサイルを開発、配備すればそれが可能になるという。

 具体例としてCSBAは、1988年のINF全廃条約締結により廃棄された中距離弾道ミサイル「パーシング2」の後継の開発やトマホーク巡航ミサイルの転用などを有力な選択肢として示している。こうした中距離ミサイルの標的となるのは、中国本土のミサイル発射装置や地上に着陸中の戦闘機、港湾に停泊する主力艦などだとする。

 米軍が今後、A2AD能力に直接打撃を与えることができる地上発射型の中距離ミサイルを開発、配備すれば、中国は多額の資金をミサイル防衛に費やさざるを得なくなるだろう。

 トランプ政権の対中強硬姿勢の「追い風」を受け、地上発射型ミサイルを生かした戦術について議論が加速しそうだ。

(ワシントン 山崎洋介)

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