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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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期間限定

 そんなこんなで村に戻って波までの間にLvを維持する日々が始まった。

 その辺りはLvの高いラフタリアやその他奴隷共と遠征に行ったりしてどうにかしている。

 あー……そう言えば、村から帰った日の夜の事。

 日課にしている乳鉢で調合をしようとした。


「ん?」


 ザリっと少しだけ擦った瞬間、薬草が真っ黒な産業廃棄物と言うか異臭を放つ物体に変化した。

 失敗とかそういう次元じゃない。

 擦れば擦る程ゴミが増えていく。

 薬草を煎じただけで何故炭化するのか首を傾げたんだが。


「ナオフミ様。何かありました?」

「調合が……」


 他にも調合作業を行おうとすると必ず、失敗してしまう。

 ……どうやら呪いの影響で調合が出来なくなってしまったらしい。


 これは錬みたいにアイテムクリエイション系は全滅だな。

 作業を中断し、その日は早めにベッドに入る。

 ああ、アトラの問題は、家の近くに奴隷共を配置し、完全防壁として来られないようにしている。

 ま、フォウルが厳しく抑え込んでいるからどうにかなるだろう。


 他にも……ラフ種と言う魔物共が村中で目を光らせているし。

 で、ラフタリアは夜の稽古をする為に外で素振りを始めている。


「ラフー」


 ラフ種と言うタヌキの様なアライグマの様な魔物がいつの間にか部屋に入ってきている。

 そういえばラフタリアと同じで幻影魔法を使えるんだったか。

 地味に便利だな。

 それでいて数も多いと来た。


「お? 確か第一世代ラフ種だったか?」


 見た目は割と可愛い方だと思う。

 何種類か世代があるらしいが、この辺りは曖昧でよくわからない。


「ラフー」


 ラフ種は指と言うか手を前に出して七回地面を叩いた。

 第七世代ラフ種? と言うか態度が慎ましいな。

 何処かの人語を解するピーチクうるさい鳥共とは大違いだ。

 好きか嫌いかと言えば、割と好きな方に入るな、これ。

 部屋に入ってきたラフ種は小型な奴で、俺に向かって鳴きながら近付いてくる。


「ラ、ラフタリアさん。ラ、ラフ種の皆さん! お兄様、私は尚文様の所へ行きたいだけなのです! 退いてください」

「ダメです」

「ダメだ」

「「「ラフー!」」」


 ……何やら外が騒がしいな。

 とは言いつつ、ラフ種を適当に撫でまわす。

 肌触りも悪くない。

 頭のおかしくなった俺はこれを作ったらしいが……案外、良い仕事をしているじゃないか。


 ん? 抜け毛があるな。

 ……盾に入れたらどうなるんだろう?

 試しに入れてみた。


 ラフシールドの条件が解放されました!

 タリシールドの条件が解放されました!

 リーアシールドの条件が解放されました!

 原初ラフシールドの条件が解放されました!

 攻撃型ラフシールドの条件が解放されました!

 ……etc


 新種の生命体の盾があるってどういう事だ。

 まあ考えてみれば魔物も生命である以上、進化したりする訳だし、項目が増え続けるのはおかしくは無いのか。

 ……ラフシールドを調べる。


 ラフシールド 0/20 C

 能力未解放……装備ボーナス、ラフ種の成長補正(小) ラフ種、攻撃指示1 (期間限定)ラフタリアの能力補正(小)

 熟練度 0


 ……えっと。

 もう何処から突っ込めば良いのかわからない。

 期間限定というのはなんだ?

 個人限定で能力が上がるとか、どんな性能だよ。

 まあラフタリアは俺が一番頼りにしているし、強くなる事に不満は無いが。

 と言うか。


「ラフー」


 気の所為か? この解放の仕方やパターンが何処となくフィロリアル系に似ているような気がする。

 盾のツリーもそんな感じに開いて行っているし。


「ラフー?」

「これって子供なのか、それともこれで大人か。なんか大きいの居たよな? お前はどうなんだ?」


 あのミー君とか言った奴、なんて言うか田舎にいる隣の妖精みたいに、一度はあの腹で寝てみたい感じだった。

 奴自身は近付きたくないからやりたくは無いが、見ず知らずのラフ種なら良いかも。

 あ、この子はメスだ。オス個体もいるらしい。

 そっちは元々が別の魔物らしいけど。


「ラフー!」


 ボフッと音を立てて、俺が抱いていたラフ種が少し大きくなった。

 ちょうど、抱き枕に良いくらいの大きさ。

 そしてポンポンとお腹を差しだして横たわる。


 ……少し触ってみたい。

 撫でつつ、枕の様な感覚であおむけに寝てみた。

 なんかラフタリアの匂いがするな。


 あー……なんか不思議な安心感がある。

 その後も、色々とスキンシップを取っていると中々に俺に懐いた反応をしてくれる。

 結構かわいい。

 俺がペットに求める理想系みたいな完成度だ。


「ラフー」

「ナオフミ様! そろそろ……」


 ガチャッと部屋の扉を開けてラフタリアが入ってきた。


「……何、しているんですか?」

「ん? なんか遊びに来たから相手をしていただけだが?」

「ニセモノー!」

「黙りなさい!」


 なんかラフタリアが尻尾を膨らませてラフ種を注意した。


「あ……」


 ラフタリアがラフ種の襟首を掴んで部屋の外へ追い出してしまった。

 俺は無意識に手を伸ばし、名残惜しそうにしてしまう。

 撫で心地……良いのにな。

 抱き枕に丁度良さそうだと思ったんだが。


「ナオフミ様、あんまりラフ種とじゃれ合わないでください」

「そうか? こういうペット欲しかったんだよな。ぶっちゃけ好みの魔物なんだが」

「私との約束です!」

「どうしてそんなに嫌がるんだ?」


 まあ、わからなくもない。

 オタクが彼女をモデルにフィギュアを作ったとプレゼントされるような物なんだろうな。

 しかも存分に目の前で撫でまわす感じ。


 よく考えれば俺は変態オタクか!?

 いや、彼女ではないが。むしろ娘の感覚だ。

 娘の腹で寝るのはどうかと思うがな。


 まあ、後でステータスを確認すると、中々優秀な連中だと判明した。

 Lvが低いけれど、潜在能力はかなり高めと見た。

 フィロリアルに匹敵すると思う。


 亜種もかなり多い。

 フィロリアルみたいに馬車を引く個体もいる。

 これは元々がキャタピランドだった奴だけど。


 総合的に見て、村の戦力や行商に一役買っている。

 ああ、だから元々いた魔物舎の連中は改造を望んだんだな。


「えっと……見ていると恥ずかしいと言いますか」

「そう言う事ね」


 気持ちはわかった。

 俺だって自分のクローンとか作られてラフタリアに撫でられていたらイヤだ。


 ちなみに先ほどの盾に入っていた技能、攻撃指示1とは、使うとラフ種が俺の指示する魔物を重点的に攻撃してくれると言う物だった。

 後、他にも色々と指示系は出てきた。


 更にはカモンラフとか変なスキルまで……どんだけ盾の中にあるんだよ。

 使うとラフ種をポータルの原理で召喚できる。

 ……なんか使うたびにラフタリアが微妙な顔をするから封印しようか悩んでいる。

 ちなみに野生化したラフ種系が俺の領地で勢力を伸ばし、生態系に組み込まれたと言うのはどうでも良い話だな。



 翌日。


「さて、じゃあナオフミ様。アトラちゃん、フィーロ、キールくんにそれぞれ叱って罰を与えて下さいね」


 村の広場でアトラ、フィーロ、キールを囲って俺は叱るようにラフタリアに言われてしまった。

 実際俺がおかしくなって、それに便乗したのだから悪いのは俺なんじゃないかとは思う。

 罰を与える立場でもない気がするんだけどなぁ……。

 むしろ罰を受ける立場というか。


 メルティが色々と手を回してくれたお陰で大事にはならなかったけど、かなり損失が出た。

 村や街にも時々嫌がらせに来て破壊していったそうだ。

 まあ復興祭の収益を使って補填したらしいが。


 他にも領内の商人を襲ったと聞いたな。

 フィーロ曰く、素材が足りないから持ってそうな奴等を襲う事になって空を飛ぶフィーロで襲撃したとかなんとか。

 まあ賠償もしたし、近付くなと事前に通知していた場所へ近付いた商人も悪いんだけどな。

 尚、この辺りはメルティがちゃんと裏を取っているので、虚偽報告は無いらしい。


 正直、今回みたいな事は勘弁願いたい。

 なので、次は俺に何かあったらラフタリアの指示に従う様言っておいた。


 ぶっちゃけ、サディナの茶色が心に痛い。本人は気にしなくて良いと酒飲んでるけど。

 お酒を飲める量が増えたとか慰めてくれるが、俺の所為でとんでも無い事態になってしまったと俺自身が反省している。

 ここでビシッとラフタリアが注意すれば……ってこの三人は聞く耳を持たないか。


「アトラ」

「なんですか尚文様?」

「……どうして便乗した?」


 前にも聞いたが、あえてもう一度聞く。


「あの方も尚文様ですからですわ、私は尚文様のいつも傍にいます」

「フィーロもー」


 フィーロがアトラの後に続いて喋る。


「ごしゅじんさまね。とっても良い笑顔だったの」


 そしてぽろぽろと泣きだした……ああもう。

 どんだけ懐いてたんだ。

 空を飛べる様にしてもらったのが、そんなに嬉しかったのか?


「そいつは俺じゃない。俺を乗っ取った何かだ」

「えー違うよー」

「そうですわ」

「うん! 兄ちゃん優しかった!」


 俺は傲慢な悪人だ! 優しくは無い!

 と言い返す事も出来るが……なんか地雷を踏みそうだから黙っておこう。


「じゃあ……」


 罰ってのは本人が嫌がる事を反省するためにさせないといけない。

 アトラの場合、俺が何を命じても喜びに変えてしまうかもしれないんだよな。

 よし。


「フォウル」

「……なんだ?」

「アトラを追い出して、お前が俺の部屋で寝ろ」

「またか!」

「お前のアトラが嫌がる事は?」

「うう……お兄様、そんな事をしたら――」


 アトラが負のオーラをフォウルに放っている。


「わ、わかった! 兄ちゃん、アトラに罰を与える為に頑張る」

「ラフタリアもそれで良いよな?」

「あ……はい……フォウル君。ラフ種からもナオフミ様を守ってくださいね」

「わかったぜ、姉貴」


 フォウルの奴、ラフタリアには素直に応じるようになりやがった。

 くっそ。お前にラフタリアはやらん!

 って何を考えているんだ俺は。


「次はフィーロか」


 フィーロには何を罰にすれば良いかな?

 三日間飯抜きとかにすれば十分反省しそうだ。魔物紋で強制も出来るだろう。

 問題は……空腹で判断が出来なくなったフィーロがとんでも無い事件を引き起こす可能性があるから危険だけど。


「お義父さん!」


 元康がこっちに話しかけてくる。

 また碌でも無い事を言い出すんだろう。

 無視を決め込もう。


「あ、ナオフミ様」

「なんだ?」

「槍の勇者は、その……今回の事件で私達にとても協力してくださっています。どうか何か褒美を与えてやってください」

「いきなりどうした?」

「と、約束してしまったんですよ……」


 く……そう言えば経緯は聞いた。

 最初はおかしくなった俺の配下だったけど、メルティにラフタリアがフィーロの関係者だと言われて元康はラフタリアを豚では無く人と認識し、説得の末に協力してくれたとか。


 コイツがメルティ以外の女と会話が成立する事に驚きを隠せなかったが、またフィーロ関連。

 メルティが婚約者でラフタリアは姉か。

 やはりフィーロと関係性のある女以外豚なんだな。

 考えてみれば必然の結果だったのか。


 それにしてもフィーロへの罰と元康の褒美か……。

 よし!


「フィーロ」

「なーに?」

「今日元康と一日デートしろ。半径三十メートル以内に必ずいるように」


 魔物紋を作動させて、違反すると苦しめるようにする。


「やー!」

「本当ですか、お義父さん!」


 元康の目が輝く!

 顔を近付けるな気持ち悪い。


「ああ、但し、デート以上の関係、特に無理矢理キスを迫る、肉体関係に走るなどをしたら絶対に許さないぞ」

「はい! じゃあフィーロたん。デートしましょう」

「「「ブゥウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」」」


 元康の三匹が殺気を放ちながら俺に抗議する。

 知らん。こうでもしないと褒美にも罰にもならんからだ!

 元康はフィーロを縛るロープを解いた。

 するとフィーロは暴れて空を飛び始める。


「やー! ごしゅじんさま助けて!」

「悪いな。俺も弁護できる立場にいない」


 罰したのは俺だがな。


「やーーーー!」


 パタパタとフィーロは結構速い速度で飛んでいく。

 三十メートルギリギリで止まった。


「ははは、お空のランデブーかい? フィーロたん!」


 元康がそれを走って追いかけていく。


「近寄るなーーー!」


 フィーロは飛びながら逃げて行った。

 あれってデートか?

 元康が凄く嬉しそうだから、まあ良いか。

 うん。これでしばらくは帰ってこないだろう。


「あのメスの飼い主、なんて褒美を与えるのよ! 絶対に許せないわ!」

「うん! 許せない」

「呪ってやる」


 三匹がうるさいな。

 それならお前等が元康を射止めれば良いだろ。


 ちなみにフィーロと元康は一日中追いかけっこをしていたらしい。

 嬉しそうに元康が報告していたが、それでいいのかと首を傾げる事しかできなかった。

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