【悲報】引きこもりのワイ、里から追い出される。誰か助けて。【所持金0】   作:ケンブリッジ明夫

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強くなったと調子に乗っている孝太郎をボコボコにする回です。
今回でもうママは対魔忍は一応の終結となります。
まぁまだ続くのですが。


俺は強くなったはず

「ひでぇ・・・・・」

口を衝いて出たのはそんな言葉だった。

それも宜なるかな。

建物の中に一歩踏み込むと、そこには魔族の死体や生首がごろごろと転がっている。

壁一面は返り血か、血でべっとりと赤く染まっている。

明らかな地獄絵図、正直ちびってるし、なんなら尻尾巻いて逃げ帰りたい。

首を切られた欠損死体をよく見てみると、首の断面が滑らかだ。

刃物、しかもかなりの腕の人物がやった凶行だ。

「はぁ・・・はぁ・・・うっ!!」

ナドラが後ろで嘔吐をこらえるかのように口元を抑える。

「お、おい・・・大丈夫かよ。」

ナドラの背中を撫でながら聞くと、ナドラが答える。

「いえ、大丈夫ですわ・・・・ただ、とても言い表すことが出来ないようなドロドロしてネジ曲がった感情の流れを感じます。あそこの先から・・・・」

ナドラが指差す方を見ると、そこには少し開いている扉。

「・・・俺が先に見る。」

ナドラにそう告げると、扉の方に忍び足で歩み寄り、隙間から扉の向こうを覗く。

そこには・・・・・・

 

今まで行方不明になっていた女性達だろうか?

拘束具のような物で体を四つん這いのまま固定され、乳房に識別するためかバーコードと数字が刻まれた女性達。

その前で追っていた魔族の男が首と胴体が分かれた状態で地面に転がり、そして・・・見覚えのある女が吉沢の首を掴んで持ち上げていた。

「は、放し・・・・」

「・・・・・」

その女を孝太郎が見間違うはずがない。

自分に散々迫ってきて、挙句の果てに家にまで押しかけてきたヤバい女。

呉姫香俱夜。

アイツ・・・なんでこんな所に・・・・・。

孝太郎は扉の向こうに聞こえないように小さな声で呟く。

すると香俱夜は無表情で藻掻く吉沢を見つめて、そして・・・・

「ま、待って・・・わ、私はたd・・・・・」

もう片方の手に持っていた刀を蠢動させて、吉沢の首を落とした。

「・・・は?」

目の前で起こったことを理解できない。

アイツは今、魔族に堕とされていたとはいえ、元対魔忍を・・・殺したのか?

何のために?

俺や裏切ってはいたが夏鈴がやるのなら分からなくもない。

それこそ夏鈴のように実働隊であったのならば、救いようがないと判断すればその命を刈り取らざるおえないこともあるだろう。

だがアイツにはそれがない。

魔族ですらないただの人間を殺したのか?

・・・いや、もしかすればアイツも俺と同じように任務に駆り出されているのか?

それとも可能性は低いが、アサギが寄越した応援?

 

孝太郎が考え込んでいると、香俱夜が吉沢の死体を乱雑にその辺に投げて、拘束されている女性に目を向ける。

「た、・・たずけっ!!」

その中の女性の一人が声を上げる。

拘束されている女性の中で比較的、瞳に理性を感じさせる為、まだ捕らえられて日の浅い、調教がまだ完了していない女性だろうか?

香俱夜はその女性に対して、軽蔑と嫌悪の念が籠ったかのような般若のような表情で睨み付ける。

憎悪が顕わになったその表情を見て、孝太郎は本能的に香俱夜のやろうとしていることを理解した。

この女は、さっきの吉沢のように捕まっている女性ですら手に掛けようとしている。

最早その時点でこの女が任務でもなければアサギが寄越した応援でもないことが分かる。

確かに吉沢のように自由の身で元凶と思しき魔族に付き従っている元対魔忍であれば、敵対勢力に転んだと見て殺してしまってもまぁおかしくはないだろう。

だが拘束され、魔族に調教されていると思しき被害者女性を殺すことはありえない。

だからこそ、この女はきっと任務でも応援ですらなく、なにかしらの理由でここにいるということになる。

・・・いや正直この女がなんで居るかなどはどうでもいい。

だが冗談じゃないと思う点は被害者女性達を殺そうとしていることだ。

殺されてしまえば、夏鈴の被害者女性はみんな死亡して発見されたという本部への報告が正しいことになってしまう。

それではせっかく生かしたままミイラ状態にしたのが無駄になってしまう。

夏鈴は魔族側に寝返る前から色々功績を上げているらしいし、被害者女性達という明確な証拠がなければ本部には相手にされないだろう。

だからこそそんな大切な証拠を潰されてはたまったものじゃない。

孝太郎は忍んで扉の隙間を見ていたにも関わらず、扉を開けて駆け出していた。

「なにしてんだ!!やめろ!!!」

すると、その声を聞いてか香俱夜の動きが止まる。

そしてゆっくりと首だけを動かして、後ろを見やる。

「・・あっ、パパぁ!こんな所で会うなんて偶然だね!!・・・やっぱりこれは運命だよぉ!」

声の主が孝太郎だと分かると、さっきまでの般若のような形相とは打って変わった快活な笑顔に変わる。

しかし体中に頭から被ったかのように返り血で濡れている為、陽だまりのような笑みは薄気味悪く不穏な印象を孝太郎に与えていた。

「・・・その人達を殺す必要なんかないだろ。今すぐその人達から離れろ。」

孝太郎がそう言うと、香俱夜はつまらなそうな表情で答える。

「なんだそんなことぉ?こいつらは既に魔族に犯されて妊娠している。腹に魔族との合いの子が居るんだよ。調教された親から生まれた混血児の大半がどんな人生を送るか知ってる?誰にも受け入れられず見下されて。忌避される。・・・だから生まれてくる前に母親を殺して、楽にしてあげようかなーって。」

香俱夜がそう答えると、孝太郎は目を細める。

「・・・だからって殺されちゃ困る。この人達は俺が正しいという証明になりうる人達だ。だから、やめてくれ。」

孝太郎が香俱夜を見据えてそう言うと、香俱夜は刀を払って、血を払う。

そして笑みを孝太郎に見せると、ゆっくりと口を開く。

「・・・いいよっ。パパの頼みだし、正直俺もこいつらの事はどうでもいいしぃ。」

そう言うと此方を向いて、刀を鞘に納める。

よかった。

聞き入れてくれた。

今まではやめろといっても聞き入れてくれなかった武蔵野が聞き入れてくれたのだ。

もしかすれば俺自身が強くなったから、知らない間に覇王色でも出しちゃったかな~www

香俱夜が自身の頼みを聞き入れたことを自身が強くなったのが由縁かと浮かれていると、香俱夜がゆっくりと言葉を続けた。

「・・・でもあの魔族の女、居るんだろ?後ろに。」

香俱夜の目に剣呑な色が灯る。

殺気を体中で感じるほど察していて、相対している孝太郎の背中に冷たい汗が流れる。

「・・・・なんの話だ?」

孝太郎はとぼける。

しかし心中は穏やかでなかった。

なぜこの女がナドラの存在を知っている?

誰かに見られていた?

いや・・・・そんなはず・・・・。

動揺していることを表情に出さないように心がけて、無表情でとぼける孝太郎を見て、香俱夜が微笑まし気に笑う。

「ふふっ、とぼけなくていいよぉパパぁ。後ろに居るんでしょ?俺、知ってるんだよ?」

「だからなんの話だ、俺に魔族の、しかも女で知り合いなんかいな・・・「誰かと話していらっしゃるみたいですけどどうしましたの?孝太郎さん」あっ、やば・・・・・」

しらを切りとおそうとした瞬間、ドアを開けてナドラが俺の様子を窺いに来る。

まぁでも普通に考えたら分からないでもない。

急に血相を変えて扉の向こうへと走っていったのだ。

心配して様子を見に行っても無理はない。

「・・・やっぱり居るじゃん。なんで庇うの?」

香俱夜が孝太郎に目を見つめて笑いかける。

だが目は笑っておらず、それどころ刃物の如く冷たい光が瞳に宿っている。

なにも言えない孝太郎に歩み寄る香俱夜。

その顔はどこか悲し気だ。

「・・・パパ、私は悲しいよ。パパは今まで私に嘘吐いたこと、なかったのに・・・・・」

「いや嘘吐いたことなかったっていうか、多分お前と俺まともに話したことなくない?」

正直、こいつとまともに話したことあるのってヨミハラから奴隷を解放する時と里に帰る間にしか話したことない気がする。

「なに言ってるの?孝太郎が小学生の頃とかお風呂入れてあげたりしたじゃん。かぐやおねえちゃん、かぐやおねえちゃんって。」

ちょっと待てそんなことあったか・・・・・・

「ねぇよ!そんなこと!!その頃は一度甲賀に預けられたり、妹が出来たりでアンタみたいな人身近にいねぇよ!!」

どんなに記憶を探っても香俱夜と一緒にお風呂に入った記憶どころかお姉ちゃんと呼ぶ子が居た記憶すらない。

流石にそれは嘘だと分かる。

ていうか嘘にしてはかなり無理がないか?

しかし香俱夜はさらに悲し気に顔を伏せる。

「そっか・・・記憶を改竄されて。許せない・・・絶対に殺してやるからな・・糞魔族。」

ナドラを今にも殺さんとしかねないほどの形相で睨む。

「この人です・・・形容しがたい歪んだ感情の流れの源は・・・・・。」

ナドラが吐きそうになるほどの感情の流れの源はどうやら香俱夜だったようだ。

あ~道理で、と思う。

この女はやばい、深く関わってはいけないと思わせるほどの何かがある。

そして孝太郎はどこか察しつつあった。

刀を抜いて、ナドラの方へ歩み寄ろうとする

ナドラを守るかのように前に出る。

「・・・どいて、邪魔。」

香俱夜がそっけなくそう言うも、孝太郎は退く事はない。

「なにをするつもりだ。」

孝太郎が問うと、香俱夜は答える。

「決まってんじゃん。パパを助けんだよ。・・・だからそこのアバズレ魔族を斬り殺してやる。俺のパパを穢しやがって・・・・ぜってぇ許さねぇ・・・・。」

まるで親の仇を見るかのような目。

だが孝太郎は退かない。

「悪いんだけど、コイツは俺の命の恩人なんだ。殺させない。」

ナドラがいなければ夏鈴が来た時点で死んでしまっているだろう。

だからこそナドラは孝太郎の命の恩人であると言えるだろう。

「孝太郎さん・・・・」

ナドラはそんな孝太郎の背中を見つめる。

そんなナドラを一層眼光鋭く睨む香俱夜。

「いつもいつも・・・お前ら魔族はぁぁ!!俺の大事な物に手を出しやがって!目障りなんだよ、孝太郎は俺のパパだ、お前を守ることなんかねぇんだよ!!人の記憶を弄びやがって、お前は簡単には殺してやらねぇ・・・・。」

目を剥き、癇癪を起したかのように喚き散らす香俱夜。

それを見て、確信する。

この女は頭がおかしい。

人の話を聞かないどころか、物事を自分の思った通り捉える。

・・・だからこそ、ここで決別しなくては。

もういい加減、コイツに付け回される生活はこりごりだ。

「来いよ、メンヘラ女。俺は前の俺とは違う。軽くひねってやるよ。」

優秀だと言われていた夏鈴にもナドラの助力があったとはいえ勝てたのだ。

大丈夫。俺は強くなった。

ならば目の前の女に勝てない道理はない。

刀を持ってはいるが、それ自体はナドラに吹き飛ばしてもらうなりすればいい。

すると香惧夜は刀を再び納める。

「どうした?刀を使わないのか?」

「だってパパを傷つけるわけにはいかないでしょぉ?」

香惧夜はそう言って笑う。

その笑みがまるで昔から里で引き篭もった自分を嘲笑する人々の笑みと重なった。

「・・・舐めやがって。行くぞ、ナドラ。」

「は、はい!わかりましたわ!」

ナドラに声を掛けて、香惧夜に向かって走る。

「ふふっ、パパと戦うのって初めてだね。新鮮だなぁ・・・・。」

「余裕ぶってられるんも今のうちだ!オラっ!」

拳を振るうも、全て防がれるかいなされる。

だからこそ、相手が拳を防いだ瞬間に右足で蹴りを繰り出すも、香惧夜が左足で受け止める。

「チッ・・・、!がはっ・・・!!」

香惧夜は孝太郎の蹴りを受け止めた足を伸ばすかのようにして前蹴りを繰り出して、もろに腹に食らった孝太郎は前方へ蹴り飛ばされる。

「パパ、可愛い・・・・」

ボソリとそう呟く香惧夜。

しかしそんな態度が孝太郎の苛立ちを煽る。

「馬鹿にしやがって・・・こんなもんじゃ終わりじゃねぇ!!」

完全に怒りで我を見失った孝太郎は勢い良く掛けておおきく振りかぶって殴ろうとする。

が、やはりそんな攻撃は通るはずもなく受け流される。

「クソッ、まだだ!」

避けた香惧夜に向かって蹴りを繰り出されるもこれまた当たらない。

孝太郎のような格闘技などの武芸を嗜んでいない者の闇雲な攻撃など当たるはずもない。

しかしそんな簡単なことにも頭に血が昇った孝太郎は気づけない。

そしてまた拳を突き出すと、今度は拳を掴まれる。

「な、なにっ・・・・!?」

「は〜い、終わりっ!!」

そして掴んでない方の拳を振りかぶり、孝太郎の顔に拳が迫る。

まずい。

そう思った瞬間、香惧夜が横薙に吹く風に吹き飛ばされる。

「何を激昂していらっしゃるの!しっかりしてくださいまし!」

ナドラが孝太郎にそう強く言う。

そうだ。

なにをムキになっていたのか。

俺はもう昔の俺とは違うんだ。

彼女の手助けのお陰で強くなれた。

だからもう、弱い頃の自分なんて・・・気にする必要はないっ!!

「いくぞ!ナドラ、あの技だ!!」

「わかりましたわ!気をつけてくださいまし!」 

孝太郎の提案を承諾すると、孝太郎に向かって手を翳すナドラ。

すると孝太郎の足元につむじ風が発生する。

それは段々と強く、大きくなり、そして孝太郎の体が浮いていき、そして孝太郎は香惧夜に対してドヤ顔で言い放つ。

「さぁ、お前の罪を・・・・数えろ。

これで決まりだ!サイクロンマキシマムドラァァァイブッ!!」

夏鈴を仕留めたナドラとの連携技。

それをずっと言いたかったセリフを言いながら決めることが出来た高揚感に浸る。

孝太郎の渾身の一撃は香惧夜に当たり、その威力の前に香惧夜は敗れる。

・・・・そう思っていた。

「可愛いなぁパパは・・・・この程度で俺を倒せるなんて思っちゃってさぁ!!」

蹴りを片手で掴み、止めた。

「な、そんな馬鹿な・・・・」

決まると思っていた技を受け止められて唖然とする孝太郎。

そしてそんな孝太郎をそのまま掴んだ腕を振り下ろすことで地面に叩きつける。

「ガフッ・・・ぐぁああ・・・・」

地面に叩きつけられて痛みに悶える孝太郎。

そんな孝太郎に近づく香惧夜。

立たなければと立ち上がろうとするも、胸を強い力で踏みつけられて立ち上がることが出来ない。

踏みつける香惧夜を睨む孝太郎。

そんな孝太郎を見て、香惧夜はにっこりと楽しそうに笑う。

「パパぁ、強くなったとか粋がってたみたいだけどさぁ・・・ぜんっぜん強くないじゃん。寧ろザコだよ♡ザーコ♡」

嗜虐的な笑みを浮かべながら孝太郎を馬鹿にする。

「ち、違う!俺は強くなって・・・ガッッ!?」

「こんな風に女の子にお腹踏まれて藻掻いている様なのが強いわけないでしょう?さっさと終わらせるからザコパパは黙ってて☆」

勢い良く腹を踏みつけられて、体を丸くして蹲る孝太郎。

体が、痛みで、動かない・・・・。

そんな孝太郎を見やると、そのまま視点から外してナドラへと標的を移す。

「かわいそうなパパ、お前に唆されなければこんな風に苦しむこともなかったのに。パパの代わりに仕返しをしないと・・・・」

そう言ってゆらゆらと刀を抜いてナドラに迫る。

ナドラは風を操作して、目の前の狂人を吹き飛ばそうとする。

「!?目が・・・・」

しかしその瞬間、目の前の風景が全てノイズが走ったように不安定になり、しっかりと流れが見えなくなる。

「前に一度お前みたいな目の力を使う奴を殺したことがある。・・・だからお前みたいなのの対策くらい立ててんだよ。」

香惧夜の光遁でナドラの目に入る光を歪めて正確に流れを捉えられなくしたのだ。

目が正しく見えなくなり、取り乱すナドラを見て、香惧夜は舌なめずりする。

「決めた。テメェはそのご自慢のお目々をくり抜いた後に、爪先から頭に掛けて輪切りにしてやるよぉ・・・。」

(・・・私は、やっと、添い遂げられたらと思う殿方に出会えたというのに、こんなところでっ・・・)

死を予感し、孝太郎との日々を思い浮かべる。

もっとあんな日々が続けばよかった・・・

そう思いながらも諦観からか目を閉じる。

しかし、その瞬間はいつまでも来なかった。

「パパ!邪魔しないでっ!!怒るよ!!」

怒鳴る香惧夜。

そして正確には捉えることができなくても、なんとなく、ナドラには孝太郎が香惧夜を止めているのが分かった。

「ナドラァァ!逃げルルォ!!」

香惧夜の腰元にしがみつき、必死の形相で叫ぶ孝太郎。

しかし孝太郎を置いていくことにナドラは抵抗を感じる。

「で、でも・・・孝太郎さんが!!」

「いいから逃げろ!!そして助けを呼んで来てっー!!」

後半は孝太郎の心からの叫びだ。

それを聞き、ナドラは立ち上がる。

「分かりましたわっ!付近の戦っている人たちに救援を頼みますのっ!!」

そう言ってナドラは走っていった。

 

「・・・あのさぁ、パパァ。いい加減、イライラさせるの・・・やめてくれないかなぁ?」

自分の腰にしがみついている孝太郎を冷たい目で見下ろす香惧夜。

ギリギリと歯軋りしていることから激情を抑えようとしていることが分かる。

それでもなお離さない孝太郎を見て、溜息を付くと、両腕を力一杯孝太郎の背中に振り下ろした。

「ぐぁあ!」

背中を殴られた痛みで掴む力が緩む。

続けて髪を掴み、無理やり頭を挙げさせると、腹に膝蹴りを入れる。

「がはっ・・!おえっ・・こほっ・・・・!」

体をくの字に曲げて咳き込む孝太郎を勢い良く殴り飛ばす。

地面を転がる孝太郎。

そしてそんな孝太郎に馬乗りになると孝太郎を睨んで喚き散らす。

「言うこときかねぇザコガイジがっ!!赤ちゃんじゃねぇんだからよぉ・・・・いや、赤ちゃんなのかな?パパじゃねぇじゃねぇか俺を騙しやがって・・・・赤ちゃんなら再教育が必要だよなぁぁああ?」

「は、放せ・・・・ガッ!!グハッ!!やめ・・・ブヘッ!!」

藻掻く孝太郎の顔面にグーで力一杯拳を振り下ろし続ける。

殴られ続け、口の中が切れ、力溢れ出してくる。

脳が揺れて意識が遠のいていく。

(なんだ俺、別に強くなってないじゃん・・・なにも、変わってなかった・・・・、調子に乗って、馬鹿みたい・・・・)

自分に対する失望のような惨めな感情が湧いてくる。

そして終わる頃には血塗れのボコボコで泣きながらか細い声で懇願していた。

もう、やめて・・・許してくだ、さい・・・・。

そんなプライドも何もかもをズタズタにされて咽び泣く孝太郎を見て、香惧夜は笑う。

「許してほしい?なら条件があるよ?・・・・今から私のお家でバブバブ再教育を受ける。受けたら孝太郎も許してあげるし、あの褐色魔族女も見逃してあげる。・・・聞いてくれないならバブちゃんもあの女も殺しちゃうよ?」

香惧夜は愉快そうににやけ面でそう言う。

ナドラには助けられてきた。

今度は自分が助けたくて、ナドラを逃したはずだ。

それに・・・・死にたくない。

この女はきっと嘘でもなんでもなく、俺を殺した後にナドラを殺しに行くはずだ。

だから・・・・これしか、ないんだ。

「う、受けます!受けるから・・・だからっ!」

「そっか、偉いね。なら、家に着くまで寝てようかっ!!」

香惧夜は孝太郎の返事に満足げに頷くと、孝太郎の顎を殴る。

最後に大きく脳を揺さぶられて、孝太郎は意識を手放した。

そして気絶している孝太郎を担ぐと、そのままナドラが呼んだかもしれない応援に出くわすと面倒なので、窓からどこかへ逃げていった。

その時、孝太郎の懐から日記が落ちたのだが、香惧夜は気づくことはない。

そして日記を拾う人間が一人。

孝太郎が監察中にドアに落書きをしていたあの奴。

掲示板の方のイッチである。

孝太郎の役に立って、ドアの件を許してもらい、スレ民からの嫌がらせやバッシングを終息させようとしたものの、既にいた頭のおかしい女の気迫で体が強張って動けなくなり、その様子をスレに書き込むことしかできなかったのだ。

「や、やば・・・孝太郎連れ去られちゃったけど・・・・と、とりあえず今のをスレに上げないと・・・・」

そう思って、さっき咄嗟に撮った孝太郎を担いで窓から逃げた香惧夜の画像と、日記の画像を掲示板に上げる。

すると背後で音がした。

「ひ、ひぃぃっ・・・!!」

縮み上がり、情けない声を上げるイッチ。

「あなたは・・・子供?いやというかそれは孝太郎さんの!?」

「え、先輩のっ!?」

後ろにいたのは応援を連れて戻ってきたナドラ。

傍らにはバイザーを着けた少女が居る。

ナドラにとってみれば戻ってきたら孝太郎と香惧夜の姿がなく、そこに顔に衣類を巻いて隠した子供ぐらいの背格好の人がいたのだ。

困惑するのも当然だ。

ここで黙っていては勘違いされてしまう。

そこでイッチは話を切り出した。

「今さっき、そこで戦っていた男の人が女の人に連れ去られて!!」

それを聞き、ナドラは何が起こったのか理解する。

孝太郎に対して得も知れぬ執着の流れを見せていた女。

 

あの女に、孝太郎が攫われたのだ。




というわけで武蔵野にボコられた後、再教育と称して武蔵野の家に連れて行かれました。
こんな好き勝手してる時点で、武蔵野はツバキのように抜け忍だったわけです。

武蔵野が捕まっていた人妻に憎悪を抱き、殺そうとしたのは彼女自身が親が魔族に輪姦されて生まれた子供だからです。
なので彼女の出生や今までの人生が彼女の生まれてくる前に楽にするという思考と密接に関連しています。

バイザーは自斎ちゃんで、アサギが孝太郎のメールを読んで寄越した応援です。

ナドラは魔眼を武蔵野にメタられました。
孝太郎は武蔵野の中でパパから教育しないといけない無知蒙昧な赤ん坊という評価に変わってしまったので、家で調教されることになると思います。

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