【悲報】引きこもりのワイ、里から追い出される。誰か助けて。【所持金0】   作:ケンブリッジ明夫

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今回で日常回は最後ですね。
もうすぐテストが来るので一旦投稿頻度が落ちます。
許してください!何でもしますから!



変態は忘れた頃にやってくる。

翌日、朝。

父親と母親と香子。

いつも通りの朝食の席に一人異物ともいえる人物が昨日から紛れている。

「・・・・・」

桂孝太郎だ。

父親と母親の前だからか目が死んでいる。

やってることと言えばただ黙って飯を口に運ぶことだけだ。

 

「孝太郎・・・・、最近午前中バイクで走り回っているそうじゃないか。」

孝太郎の動きが一瞬固まる。

「・・・そ、それがなに?」

孝太郎はあくまでも平静を保とうとするも、声が震えている。

父親はそんな孝太郎を見て溜息を吐く。

「確かにお前のやったことは善行と言える。だがな、羽目を外すならほどほどにしなさい。」

父親は孝太郎の顔も見ずに粛々と話す。

「と、父さんそのくらいで・・・・」

妹が作り笑いで明らかに委縮している兄と父の間に入る。

すると父は妹の顔を見て、思いついたかのように言った。

「どうせバイクで走り回っているだけなら香子を迎えに行ってやれ。香子は学校で疲れてるんだから。」

そう言うと父は食事に意識を向け直す。

「わかった。」

孝太郎もこれで話は終わりかと言わんばかりに返事して、食事に意識を戻した。

「えっ、えっと・・・・じゃあ兄貴よろしくね?」

「おう。」

うかがうように妹がそう言うのを簡潔に返事して食事を終わらせて自分の部屋に戻る。

一刻も早く両親と同じ卓上から離れたかったのだろう。

後に残された妹も食事を終わらせて登校するために席を立つ。

父と母だけがテーブルに付いていた。

 

五車学園に放課後のチャイムが鳴る。

香子は階段を下りながら、一人考え事していた。

(多分兄貴返事だけして来ないんだろうなぁ・・・そもそも学校嫌いだし。)

呆れると共に少し残念な気持ちで校舎を出ると、校門辺りに人だかりが出来ていた。

なんだろうと近づいていくと、友人の一人が香子に話しかけてくる。

「ちょっと香子、アンタのお兄ちゃんヤバいね!!」

「えっ・・・・兄貴!?」

いるとは思えない兄が居るということを聞き、急いで人混みを掻き分けて最前列に移動する。

するとそこには・・・・

「おいレイジングハート、音量低いぞ。もっと音量上げろ。」

『OK』<ヤワラカナアイ、ボクガトドケニイクヨー

白い魔法少女のような服に茶髪のツインテールのカツラを被った自分の兄貴が白いソックスと革靴を履いてすね毛の生えた足を丸出しにした状態でバイクに跨っていた。

バイクからはなんか大音量でアニメの曲が流れている。

「あ、兄貴・・・・何してんの?」

「ん?なんだお前やっと来たか。朝、親父が言ってたろ?迎えに来たんだよ。」

兄貴はこちらに目をやるとまるで忘れたのかと言わんばかりのジト目でこちらを見る。

・・いやいやいや、そういう目を向けたいのはこちらの方!!

「そういうこと言ってんじゃなくて!なんでそんな恰好してんのか聞いてんの!?」

そう聞くとあー、と納得した声を出す。

「いやな、バイクはほら有志の人のおかげで限りなくなのはタンの杖に近くなったけどさ、どうせなら乗っている俺もそれに合わせないとダメかなぁ?って思ったからな。」

「意味わかんない!ていうか音うるさいし、兄貴が女装しても気持ち悪いだけだよ!!」

妹の叫びを聞いても表情を変えることはない。

「何言ってんだ。無印リリカルの歌聞いて不快になる人間なんかいないだろ。後、見た目は俺も同意だが見てろ?声真似も出来るんだ。あーゴホン、・・・・・少し・・・頭冷そっか(裏声)」

もろ兄貴の声である。

その高町なんちゃらというキャラクターについては詳しくは知らないが確実に似ていないことだけは分かったわ。

心なしか私達を見ているギャラリーの目が冷たい

それもむべなるかな。

全部兄貴のせいである。

「も、もういいから、さっさと乗せろ。」

私が兄貴の後ろに跨ると、一人の男子生徒がこちらに近づいてくる。

秋山達郎。

斬鬼の対魔忍である秋山凛子の弟であり、兄の友人である。

よく家に来ているので私自身も見知った顔の少年である。

達郎は兄を見て、もじもじとしている。

「なんだ達郎、女の子みたいにもじもじしやがって。」

兄はそんな達郎を怪訝な顔で見つめると、達郎は顔を赤くして目を逸らしつつ口を開いた。

「そ、その・・・・僕は、今の孝太郎・・・可愛いと思うよ?」

「なんだお前、気持ち悪。行くぞマイシスター。」

兄は達郎に対して顔を顰めて、バイクを発進させた。

なんというか秋山君はフォローしていてくれたのかもしれないというのに対応がひどいと思った。

まぁ兄は親しい相手に対しては対応が雑になるので、これも兄の愛情の裏返しなのだろう。

・・・・もしくは本気で寒気がしたのか。

 

「・・・・・」

バイクで走り去る孝太郎と香子。

しかし二人は茂みから隠れてこちらを凝視する影に気づくことはなかった。

 

家に帰った孝太郎を待っていたのは父による説教だった。

「貴様、学校というのは勉学をするための場所だ。確かにお前についてはもはや私も今更学校に行けと言うつもりはない。だが他人の勉学の邪魔をしていい理由にはならない。分かるな。」

「い、いや学校の前に行くときって何を着ていいのか分かんなかったからさ・・・・」

孝太郎が言い訳のようにボソボソと呟くも父親はそれを聞き入れることはない。

現在孝太郎は袴に着替えさせられている。

「お前の意見を汲み取って衣装の処分ではなく禊で済ませてやるんだ。香子、滝へ連れて行ってやりなさい。」

「う、うん。分かった。・・・行くよ。」

妹が孝太郎の手を引くと孝太郎は青い顔で乞うような顔をする。

「ま、待て・・・・お前からも親父になんとか言ってくれ。流石に1時間滝行は死んでしまう。俺はまだ死にたくない。」

しかし妹は冷徹にも許すことはない。

当然である。

校門の前で兄があんな奇行を取っていたのだ。

翌日からはそれで話題が持ち越しになるし、妹である私もそれについて多くの人に女装癖の兄がいると思われるのだ。

そのくらいなんだと言うのだ。

「よかったじゃん。兄貴死んだらリリカルなんちゃらの世界に転生するとか言ってなかった?叶うじゃん。じゃあ行こうかー。」

「待て!落ち着け!現実で異世界転生するわけないだろっ!いい加減にしろっ!お前頭鉄華団かよ!!放せ!放せぇぇぇぇええええええ!!!!」

妹に首元を引っ張られて家の裏にある山の中に引きずられていく。

妹に力負けするなんて恥ずかしくないのか。

 

「・・・・まるで処刑だな。」

山の奥地。

原生林であるがためにマイナスイオン?っていうのが出てるのか癒される気がするなぁとぼんやりと孝太郎は思う。

しかしそれも滝の音と水量で掻き消される。

目の前の滝は膨大な水を落とし、周囲は水の粒子で白く曇っている。

正直、滝行でこんな滝使うのか?ってくらい勢いが強い。

これ首持ってかれないか?

孝太郎の目はもはや諦観を湛え、達観した様子である。

ていうかポケモン秘密のダンジョンでこういう洞窟あったよな。

アレ滝壺に入る際に滝に飛び込む演出が結構好きだったんだよなぁ~。

妹は距離の離れた岩場でスマホを弄っている。

「あれ、先輩何してるんですか?」

そう物思いに耽っていると、後ろから声を掛けられる。

振り向くとそこには制服を着た自斎が立っていた。

「・・・・なんでこんなところ居んの?お前も滝行か?」

そう言うと自斎は照れたように目を逸らす。

「そ、それは・・・この近くに、お気に入りの場所が・・あるんです。」

「ほえ~森林浴か。やっぱ学校ってストレス溜まるんですね~。いや~行くもんじゃないね学校って。」

自斎の話を勝手に解釈しつつ、自分を正当化する。

すると自斎が孝太郎の顔を窺い、聞いてくる。

「あ、あの・・・先輩、あの恰好って・・・・・・。」

自斎が言っているのはきっと放課後に校門の近くで見せた孝太郎の魔法少女姿だろう。

孝太郎はしばらく黙った後、空を見上げる。

「・・・あれには海よりも深く、山よりも高い理由がある。・・・聞いてくれるな。」

孝太郎がそう言うと自斎が察したような表情をする。

「そ、そうですね。すみません、困らせることをして・・・。」

(そうだ。先輩は本来はヨミハラの時のように特別任務を任され、あんなにも多くの仲間が居るようなお人だ。だからあれもきっと里に紛れている敵対勢力を騙すためのカモフラージュ・・・・忍びの鑑ってこういう人を言うのか・・・・。)

未だに孝太郎とヨミハラで出会った時に抱いた、孝太郎は里にて密命を任されている為に追放され、普段の奇行もその敵対勢力に察されない為にやっていることだという誤解は解けていない為、孝太郎のただリリカル好きが高じた奇行をなにか自身には言えない意味のある行為だと自斎は勝手に断定した。

「お、おう・・・分かればいいんだよ。」

更に話に切り込まれると覚悟していた孝太郎は物分りの良い自斎を怪訝に思いつつも、滝と向き合う。

「兄貴、後輩と話してないでさ早く滝に入ってくんない?私も暇じゃないんだよね。」

妹は不機嫌さを隠すことなく貧乏ゆすりしながら早く入れと促してくる。

孝太郎はそんな妹を一瞥すると溜息をついて自斎を見つめる。

「自斎・・・・・。」

「は、はい!なんですか?」

孝太郎はまるで電気椅子を目の前にした囚人のような希望のない目で自斎に語りかける。

「もし俺が死んでしまったら遺灰を俺の家に撒いてくれないか?・・・最後に親父の部屋を汚して目に物見せたいんだ。」

「は、はぁ・・・分かりました。」

頷く自斎を見て、滝に飛び込んでいく。

滝の清流が降り注ぎ、頭をハンマーで何度も殴られているかのような衝撃に襲われ、視界がガクガクとブレる。

足元から頭の先まで一気に冷えて、体が生まれたての小鹿のように芯から震えだす。

早く終われ早く終われと目を瞑り、滝行の苦しみに耐える。

ちょいちょい首が地面の方へ持ってかれそうになるし、鼻水はダラダラと垂れ流しになる。

これがまだまだ続くと考えると嫌になる。

 

 

 

 

「もう終わりだって言ってるでしょ!!」

もはや眠ってるか起きてるかのような意識のない状態になってる所で腕を強く引っ張られる。

倒れ込みながらも誰かに引きずられ、滝から出る。

「・・・あ、ぁあ、あぅあ・・・・・・」

鼻水ぶちまけて気絶仕掛けた間抜けな面を晒しながらも誰に引っ張られたか視線を動かし探る。

「兄貴!兄貴!しっかりして!」

「大丈夫ですか!?先輩!!」

マイシスターと後輩が自分の顔を覗き込んでいる。

「家に帰るよ!立てる?」

妹が孝太郎の頬を叩きながら聞いてくる。

立とうとするも足がガクガクと震えて立つことが出来ない。

「・・・む、むりぃ。たてない。」

そう言うと香子が面倒そうに溜息をつく。

「え〜マジでぇ。兄貴重いからメンドクサイんだよねぇ・・・・」

「じゃ、じゃあ私が運ぶ。・・・先輩にはお世話になってるから。」

「・・獅子神さん・・・だっけ?家族を他人に任せるのは悪いからいいですよ。」

妹はにこやかに、しかし是非を言わせない語気の強さで断る。

しかしそれもどこ吹く風。

自斎は勝手に孝太郎を背負って歩いていく。

「・・・悪い。ありがと。」

孝太郎が申しわけなさげに言うと自斎は笑う。

「大丈夫です。このくらいで役に立てたなら嬉しいです。」

自斎は孝太郎を背負い、山を降りていく。

「・・・・・」

妹はそんな後ろ姿を黙って見つめると、何も言わずに二人の後に続いて山を降りる。

 

「・・・・チッ。」

そんな彼らを敵意を向けた目で見つめる存在にまだ誰も気づかない。

 

朝と同じく気まずい食卓から逃れるかのように食事を終わらせて自分の部屋に逃げる。

戸を開けて、電気を付ける。

すると、

「久しぶりだね・・・・パパァ。」

万年床の布団に座り込んで、こちらに気持ちの悪い笑みを向ける女。

それは見覚えがあるどころか実際に話したことのある女だ。

「武蔵・・野・・・・」

孝太郎が呟くと香惧夜は笑う。

「違うよパパァ・・・・香惧夜だよぉ。ちゃーんと名前で呼んでくれないと、やだやだやーだっ!」

「おかーさーん!警察呼んでー!おかぁーさーん!!」

大きな声を張り上げて母親を呼ぶ。

しかし悲しいかな、母は既に孝太郎など見放してしまっている。

「こんなところに居ちゃダメだよパパァ。私のお家に行こ。この前の続きをしようよ。」

「俺はその時のこと覚えてないんだよぉ!カエレ!」

「パパが覚えてなくても俺がちゃんと覚えてるよ・・・・次は赤ちゃんプレイがいいなぁ・・・、俺赤ちゃんがいいでちゅ。」

「ひ、ヒィィ〜〜〜!!」

帰れと言っても聞き入れず挙げ句の果てに赤ちゃん言葉でプレイを要求する変態女に戦慄が走る。

「うるっさい!なに叫んでんのクソあに・・・・誰、この人?」

騒ぐ兄を叱りつけに行ったところ、知らない女に絡まれている兄を見て呆然と兄に尋ねる。

「し、知らない人だ!お父さんかお母さん呼んで!なんなら頼りになる大人!うわぁ!!」

孝太郎を押し倒し、覆い被さる香惧夜。

「なに他の女と喋ってんだ!!お前は俺のもんだろ!許せねぇ・・・バブバブする前にぶち犯してやるからなぁ・・・・。」

孝太郎のパジャマに手を掛ける。

「や、やめろぉ!脱がそうとするなぁ!やめろ!やめてぇぇぇぇぇ!!」

衣服を引っ張り、抵抗するもパジャマが破れる。

「なんだお前、ウチの息子に何やってんだ!!」

すると慌ただしい足音と共に父が部屋の前まで走ってきて、見も知らない成人女性が息子に覆い被さってるのを見て、その女の腹を蹴り飛ばす。

「ちょっとなに騒がしくして・・・えっ、何この状況。」

母親が階段をゆっくり上がってきて、状況を目にして困惑する。

は、は、うわぁあああ、わぁあああ!!!

父に助けられたことを認識すると父親の足にすがりつく。

絶対にいないはずの相手に襲われて衣服を破かれた恐怖は計りしれず、孝太郎は錯乱し、ガタガタと震えて泣きべそをかいている。

「香子!孝太郎を頼む!母さん!警察を呼んで!!」

「わ、わかった!兄貴こっち!」

ヒィ、ヒィ!うわぁああああ!!!

「よ、よしよし大丈夫父さんが来たからね。大丈夫だよ!」

やはり一家の長。

冷静に指示を出しつつ、変態と対峙する。

妹は泣きそうになっている兄を抱いて頭を撫でることで宥めて、母は携帯を自室に取りに行く。

「・・・しょうがないなぁ。今日の所は勘弁してあげる。でも覚悟しろ。絶対にパパには俺の家に来てもらうからなぁ。」

「逃がすと思ってるのか。」

父が変態をにらみつける。

しかし変態は不敵に笑う。

すると視界がノイズに包まれた。

「こ、これは・・・くそっ、術か!!」

そしてノイズが晴れると窓がぶち破られていて、そこに女はいなかった。

「父さん警察呼んだよ!・・・あれ?」

母が部屋の前まで来て言うも、女が居ないことに気づいて首を傾げる。

父は不甲斐なさげに顔を伏せる。

「すまない。術で逃げられた。・・・とにかく警察に相談しよう。」

 

その後警察は来るも侵入者は捕まることなく、孝太郎に心当たりがあるか聞いても答えが要領を得ないので警戒としてしばらくの間、夜間の家の周りを警官が巡回することで話が終わる。

もしまた変態が来たときに、警官がすぐ対応でき、場合によっては里の対魔忍を派遣できるようになるらしい。

そうして夜に起きた変態騒動はなんの解決もせず、幕を閉じたのだった。




次回からママは対魔忍編が始まります。
武蔵野はとうとう彼の家族にさえ要注意人物に認定されましたね。
まぁ詳細はどうあれ親御さんに挨拶に行ったわけですので、もう夫婦と言っても過言ではありませんね。(頭武蔵野)
達郎君に立つホモ説。
コメ欄にあったイッチがもし女だったらっていうifを番外編としていつか書きたいですね。
多分イッチが杏ちゃんみたいな働きたくないとか言っている系女子になるだけなんで多少はね?

これからも更新頑張りますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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