【悲報】引きこもりのワイ、里から追い出される。誰か助けて。【所持金0】 作:ケンブリッジ明夫
まぁ前回が異常だったんですけどね。
あれが深夜テンションの恐ろしさか・・・・・
誰も興味ないかもしれませんが、今日中に北海道兄貴と樹海兄貴の情報を活動報告に載せたいと思います。
まぁ野郎の情報なんて誰も興味ないと思いますけど。
スレ住民がアンダーエデン内に侵攻を開始し、館内は混沌とした様相を見せていた。
2階から警備が落ちてきたり、誰かの術か一部燃えていたりと滅茶苦茶な有様だ。
孝太郎は内心現状に対して驚きとドン引きを抱えながらも、ゆきかぜや凛子、そして北海道兄貴とくっついて若干暑苦しい香惧夜、そして自斎を連れて2階を目指していた。
理由は勿論、この娼館のオーナーであるリーアルを捕らえる為である。
理由としてはキメラ微生体。
それに尽きる。
キメラ微生体には術の使用を制限する効果だけでなく、アンダーエデンの敷地内から出ると5分経つまでに敷地に戻らなければこれまた四肢が爆裂するらしい。
ゆきかぜが言うには改造を受けた後、したり顔でそう言い、また解毒剤もお前たちには手に入れられないと嘲笑したようだ。
わざわざ本人に言うなんてよっぽど対魔忍には対しての鬱憤が溜まってたんだろうなぁ・・・と、孝太郎は呆れる。
自分が鬱憤を晴らす為に態々二人を言葉責めしたせいで警備に囲まれる羽目になったことはもう頭にないらしい。
都合の良い頭の構造をしているものである。
階段を登っていると、上の階から警備が数人降りてくる。
待ち伏せされる形となり、孝太郎の体が強張る。
すると香惧夜は孝太郎から離れて、背中に掛けている忍者刀を手に取り、引き抜く。
「見ててよ、パパぁ。」
振り返り、孝太郎の顔を見て妖艶に笑う。
「お前がリーダー格ならお前を叩けば・・・・なっ、目の前が・・・・ぐぼっ!!」
降りてきた男の一人は急に慌てた様子で目を擦り、まばたきしている間に胸元に忍者刀を突き刺す。
「ど、どうした!なんの声だ今のはぁ!がぺっ・・・・!」
さっきの男と同じく視界になにかしらの異常が発生したのだろう、目を瞬かせると香惧夜に腰元のホルダーにつけていた拳銃を奪われて脳天を接射されて事切れる。
そしてついでとばかりに残りの男たちを射殺する。
「・・・すごいですぞ。認識阻害系の忍術の使い手でござったか。」
北海道兄貴は香惧夜の戦闘を見て息を呑む。
速すぎて認識されないことはザラにあるが、目の前にいるのに認識されないということは自分では考えられないからである。
「・・・それにしては殺し方がエグいな。脳漿が床に飛び散ってんぞ。ボカロかよ。」
「それってガールだから当てはまらないんじゃない?狂ったように踊ってないし。」
「ゆきかぜと孝太郎はなんのことを言ってるんだ?自斎さんは・・・なにか分かるか?」
「す、すみません。凛子先輩。私にはさっぱり・・・・」
凛子は幼馴染二人が言っていることの意味が分からず自斎に聞くも、自斎も申し訳なさげに分からないと答える。
まぁゆきかぜと孝太郎の話している内容は戦闘には関係ないどうでもいい事なので、分からなくて良かったかもしれない。
「パパぁ!どう?俺すっごい頑張ったよぉ!褒めて褒めてぇ!!」
そして彼女はこちらを向いて孝太郎を見るとキラキラと眩い笑顔を見せて抱き着いてくる。
返り血で汚れて汚いし、なんなら彼女の内面自体穢れてるし、離れろと口に出そうとして・・・・やめた。
一つの思惑が頭をよぎったからである。
(この女・・・気持ち悪いが強いし、多分言えば何でもしてくれるし、ぶっちゃけ自斎よりも有能なコマじゃないか?コイツを飼い慣らせば俺は安全、そして何もせず目的達成して里に戻ることも可能かもしれない・・・そうと決まれば。)
決意を新たにすると、孝太郎は柔和な笑みを浮かべ、香惧夜の頭を撫でる。
「よ、よーしよし。偉いぞー香惧夜。」
女性の頭を撫でるなんて経験、まったくないので若干声が震えている。
「あ、あふっ!パパぁ、あったかい・・・温かいよぉ、あっ、イ、イク!イきゅぅううう!!」
頭を撫でるといきなり蕩けた顔で下腹部を抑えて小刻みに体を震わせて嬌声を上げる。
(うわぁ・・・・コイツ本当にヤバいなぁ。でも、後で楽をする為だ・・・・)
内心ドン引きしつつ、利用をする為と折れかけた心を再起させる。
「アンタ、急にどうしたの?さっきまでドン引いてたけど。」
ゆきかぜが孝太郎の態度の急変を不審に思い、ジト目でこちらを見る。
傍らで震えている香惧夜に聞こえないように小さな声で答える。
「こっちにも色々あるんだ。聞かないでくれ。」
「ふーん、まぁどうでもいいけど。」
ゆきかぜは興味なさげにそっぽむく。
だったらわざわざ聞くんじゃねぇよ聞こえたらどうすんだと苛つきつつも、2階を目指して階段を登る。
「・・・先輩。」
そんな孝太郎を浮かない顔で見つめる後輩の視線に、彼は気づくはずもなかった。
階段を登り切ると、またしても警備が編隊を組んでいる。
そしてその編隊の真ん中にはパワードスーツを身に纏った兵士が2体居た。
「あれ米連の装備だろ。なんでこんな武装が一娼館にあるんだよ?」
「ここの娼館は色んな勢力の有力者が利用している。つまりはそういうことだろう。」
凛子は孝太郎がぽろりと零した疑問に答える。
奴隷娼婦として実際に接待させられた者だからこそ実感を持ってそう答えられるのだろう。
アンダーエデンは矢崎などの政治家、軍関係者、魔族の貴族、大手企業の重役や米連、中華連合の一員なども多く利用しており、そういうなくなっては困る連中がパトロンとして資金面、風評面、そして万が一の武装面について支援しているのだろう。
「よし、なんか強そうだし自斎、行け!」
「アンタも少しは戦おうとしなさいよっ!」
また他人任せにしようとしている幼馴染に耐えかねて叱責する。
すると孝太郎はまるで信じられないものを見るような目で見る。
「えっ、ちょっ、おま・・・いくら俺が気に入らないからって死ねっていうのはおかしいだろ・・・・仮にも今お前助けようとしてるんだぞ?」
「どうしてそうなるのよ!そんなこと一言も言ってないでしょ!」
孝太郎はため息を吐くと、北海道兄貴を見やる。
「じゃあここはパパッと頼みますわ。北海道兄貴。」
人に物を頼む態度とはかけ離れた軽い感じで頼む。
「了解しましたぞ!フンッ!!」
北海道兄貴はそう言って息を止めて加速する。
視界に収まる自分以外の動きのなにもかもがゆっくりと見える。
止められるのは5秒。
しかし5秒で充分だ。
まるでバットを振るうかのごとくラブドールで頭を殴打していく。
そしてパワードスーツの二人は念入りに殴る。
そろそろ息が苦しくなってきた。
あっ、これ5秒じゃ足りないかも・・・・
そう思った瞬間、限界が来た。
「ぷっはぁ!!ぜぇぜぇ・・・・ひゅーひゅー。」
加速中にあそこまで動いたのは久し振りだ。
かなり息が切れてしまっている。
そして更に不都合なのはパワードスーツの二人を倒しきれていないという点だ。
「ちょっ、ちょっと待ってもらっ・・・・ひでぶっ!」
北海道が殴り飛ばされる。
腹に肉が付いてる分、ゴロゴロと勢い良くこちらに転がってくる。
「ざまぁみろ、クソオラフ。粋がりやがって」
ボソリと北海道兄貴の悪口を言う香惧夜。
それとは対照的に孝太郎は北海道兄貴を労う。
「サンキュな、北海道兄貴。後は俺がするわ。」
そう言って孝太郎は懐から再利用爆弾を取り出し、スイッチを入れて投げる。
再利用爆弾は綺麗な放物線を描いて、パワードスーツを着た二人の前に落ちて、爆発した。
立ち込める煙、そしてそれが晴れると二人が地面に倒れて完全に動けなくなっていた。
「おーヤムチャみたい。それじゃ、片付いたし先に行こうぜ。」
先を促す孝太郎。
しかし周りは静まり返っている。
「ん?どうしたみんな。」
「アンタ、戦えないんじゃなかったっけ?」
ゆきかぜがこちらを睨む。
「出来るなら先にやっといて欲しかったでござる・・・・」
北海道兄貴が悲しそうに呟く。
「えっ、いや戦えないんとは言ってないだろ。・・・戦いたくないんだよ。正直めんど「コイツ一番前に歩かせましょう。」落ち着け。殺す気か。おい凛子、羽交い締めはやめてくれ、それは俺に効く。」
凛子に羽交い締めにされて前に引っ張り出される。
必死に藻掻くも、戦闘向けの対魔忍である凛子の力に敵うはずもなく呆気なく一番前に引っ張り出される。
「おい!もし物陰から敵が出てきて銃で撃ってきたらどうする!明らかに一番前の俺が最初に狙われるだろ!俺はなぁ、お前らと違って銃弾避けたりとかとんでも機動はできないんだよ!俺はか弱いからすぐ死んじゃうだろ!」
「か弱い人間は自分のことをか弱いとは言わないわ。」
「お前は少しそういう所を直した方がいい。将来が思いやられるぞ。」
孝太郎は喚くも、凛子とゆきかぜは取り合わない。
幼馴染である為、彼の面倒臭がりな気性は理解しているのだろう。
ここに至るまでにマシになったと思ったらこれだ。
聞き入れないのも当然だろう。
(コイツら・・・まだ奴隷娼婦の癖にいっちょまえに俺に説教しやがって・・・・だから嫌いなんだ。昔からぐちぐちぐちぐち・・・・)
孝太郎は昔の凛子とゆきかぜとの間のやりとりなどを思い出し、表情を歪める。
すると視界の隅に自斎を見つける。
「自斎!頼む!説得してくれ!!今まで一緒にやって来ただろ!」
「先輩・・・流石に今回は擁護できません・・・・自分でやれることは自分でするべきです。正直、幻滅です。」
情けなく自斎を縋るような声で呼ぶも、すげなく断れる。
「・・・覚えとけよ自斎。」
恨みを込めて吐き捨てると前を大人しく歩く。
「ていうかなんで毎回なんかあったら獅子神さんを呼ぶのよ。」
ゆきかぜが不思議そうに後ろから聞いてくる。
そういえばなんでだろう?
自分でも自分の行動に首を傾げる。
しかし結局答えは見つからない。
「・・・わからん。さっさと行くぞ。」
すげなくそう答える。
すると後ろから誰かが手を握る。
振り返るとそれは香惧夜だった。
「大丈夫、もし何かあっても俺が守ってやる。だから俺のことだけ見ててほしい。」
「・・・・後半の意味がわからんが、でもまぁ・・・なんかあったら頼む。」
(顔は良いんだけどなぁ・・・中身がね・・・・)
顔を一瞬曇らせるが、察されないように前を向き直し、歩き始める。
態々繋いだ手を放して、香惧夜の精神を逆撫でるのも得策ではない。
手を繋いだまま歩いていく。
その後ろ姿を見つめる自斎。
(なんで・・・先輩とあの人が手を繋いでるのを見るだけで、私は・・・もやもやしてるの?先輩はただ私が尊敬できる人っていうだけで・・・さっきのでちょっと幻滅したけど・・・)
足を止めて考え込む自斎。
「獅子神さーん?何してるの?」
ゆきかぜは振り返り、不思議そうに自斎に尋ねる。
「な、なんでもない・・・いますぐそっちに行く。」
自斎は思索を一時放棄して、ゆきかぜ達の元に駆け寄っていった。
少女が感情の原因を知ることはまだない。
リーアルはサブコントロールルームに居た。
ノマドでの顧客に戦力の支援を要請する為だ。
ここまで事業を伸ばすのに何年かかったか。
色んな人間を蹴落としたし、色んな人間を利用した。
だからこそこんな所で終わるわけにはいかない。
「くそっ、米連の狸親父・・・こちらを摘発の対象から外す代わりに融通してやったというのに・・・・・」
机を叩き、忌々しげに吐き捨てる。
リーアルにとって客はただの金蔓、あるいは都合の良い武器庫だ。
利用しない手はない。
どうせあの連中だ。
一度全嬢を無料で使わせてやると言えば、戦力を動かし得る限り動かしてくるはずだ。
そうして連中を炙り殺しにしてやれば、私にかかれば全て元通りになる筈だ・・・・!
「私は・・・あんなガキどもに終わらせられるような男じゃない・・・・男じゃないんだ!!」
そう一人叫ぶリーアル。
すると物陰から一人、人影が浮かび上がる。
「穏やかではありませんね。リーアル様。」
「お、おお!不知火!良い所に来た!今ノマドのバカ共に戦力の追加を頼もうとしているところだ!それまで私を守れ!!これは命令だ!!」
「仰せのままに・・・・」
恭しく膝を突ける不知火。
するとそれと同時に扉が開く。
そこにはあの忌々しいガキ共と、逃れようとしている馬鹿な娼婦が二人。
リーアルは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「何をしに来たかは分からないが、貴様らは終わりだ。追加の戦力はもう呼んだ。そしてここには不知火が居る。お前らは終わりだ。じわじわと嬲り殺しにしてやるから覚悟しろ?女はみんな奴隷娼婦として最悪な客に売り飛ばしてやる・・・・」
自信満々に啖呵を切るリーアル。
しかし孝太郎は表情を変えない。
「そんなことはどうでもいい。キメラ微生体の解毒剤はどこだ。」
そんな孝太郎の様子を見て鼻で笑う。
「まだ分からないのか?そんなことを聞いた所で貴様らは終わりなのだから言う必要などないだろう。それとも認めたくないのか?自らの終わりを。」
下卑た笑みを浮かべるリーアル。
しかしそのどちらでもない。
真相は・・・・・・話を本当に聞いてなかったのだ。
(やっべぇ・・・・チンポジ直してて話聞いてなかったわ。なんか笑っとるし、俺も笑っとこ。)
リーアルから見れば気味悪いだろう。
勝ち誇って詰みを宣言した相手がいきなり自分と同じように笑顔を浮かべたのだ。
しかも口角はバッキバキで目はガン開きで充血している。
頭がおかしいとしか形容できない。
この世の終わりのような笑顔だ。
リーアルは知らず知らず後退る。
「な、なんだその、顔は・・・!?なんのつもりだ!!」
「アイツあんな情けなかったっけ?」
「それほどまでに孝太郎の笑顔の破壊力が高いのだろう。」
ゆきかぜと凛子は小声で自分たちを調教した男の変わりように驚く。
(な、何故だ・・・・追い詰めてるのは私の筈だ・・・・、だというのに何故今、私が怯えなければいけないのだ!!)
精神的に追い詰められていくことに心の中で怒鳴るリーアル。
そして・・・・
「も、もういい!不知火!この気味の悪い男を殺して・・・・えっ?」
不知火に命令しようとしたその瞬間、リーアルは不知火の薙刀でどてっぱらを貫かれる。
貫かれるとは到底思っていなかったからか、気の抜けた声を出した。
「な、何故だ・・・不知火、私を・・、裏切ったのか・・・・」
「裏切る?違うわリーアル。確かに私を捕らえたのはあなただけど最終的に私を調教出来なかったあなたは淫魔王様に、私の調教を委ねた。その時点で私はあなたではなく淫魔王様の女なの。あなたに忠実だったのは淫魔王様からそうしろと命令されたから。どうやら逃げた観客の中に淫魔王様の部下が居たらしくて、淫魔王様から直々に手紙を貰ったわ。見なさい。」
不知火は地面に手紙を落とす。
そしてその手紙を手繰り寄せたリーアルは呆然とした表情で口から言葉を零す。
「そんな・・・嘘だ・・・・・・。わ、私は伯楽とも呼ばれた男だぞ!私がいなければ奴隷の供給はどうなる!?」
「それなら代わりは見つけたわ。あなたはもう、用済み♪」
「そ、そんな・・・・」
がくりと力なく顔を伏せるリーアル。
その首を薙刀で容赦なく首を落とす。
「・・・解毒剤なら地下1階のエレベーターのすぐ前にある調教室に置いてあるわ。それを飲めばここから出られる。」
「ど、どういうつもりでござるか!なぜそんなことを・・・・」
北海道兄貴は急に解毒剤の在り処を言い出した不知火に真意を問う。
しかし不知火は別段表情を変えずに、なんでもないことのように答える。
「別に?私はもうここには用がないのよ。早朝には淫魔王様が来るから、すぐに行かなきゃいけないの。だからこれは取引よ。」
「取引・・・・ですか?」
自斎が疑問符を浮かべる。
「ええ。私はあなた達に解毒剤の場所を教える。その代わり、私の邪魔をしないで。」
そう言って扉に向かって歩き出す。
「それを俺たちが守る義理はないだろ。」
孝太郎はそう言う。
すると不知火は歩みを止めて振り返る。
「ええ。そうね。でも、・・・・もしそうするならば、それ相応の“覚悟”を持って来なさい。私は、今回は手を抜くつもりはないの。」
不知火から放たれる殺気。
ここにいる全員が一気に背筋が冷え込み、冷たい汗が流れる。
一瞬で死を意識させられた。
幻影の対魔忍の名前は堕ちていても伊達ではなかった。
身動きが取れない。
それは脳天気な孝太郎や頭のおかしい香惧夜ですら例外ではない。
「お、母、さん・・・・」
ゆきかぜが母親の名前を呟く。
すると不知火は神妙な顔つきになり、
「さようなら、ゆきかぜ。愛しているわ、永遠に。」
そう言って不知火は部屋を出ていった。
アンダーエデンでの騒ぎの幕引きは幕引きとは思えないほど、呆気ない幕引きだった。
しばらくの間、部屋に静寂が流れる。
するとその静寂を破るように北海道兄貴がわざとらしく明るく振る舞う。
「ま、まぁーまぁー!解毒剤の場所は分かったし、万事オッケーではないですか!早く解毒剤を取りに行きましょうぞ!」
「そ、そうですね。私の任務もゆきかぜさんと凛子先輩を助けたら、ここで終わりですし。」
自斎も賛同する。
「デブに仕切られんのは癪だが、まぁ俺はこのあと孝太郎を武蔵野に連れ帰れればそれで良い。」
香惧夜も渋々同意する。
しかし、孝太郎は顔を上げない。
「ゆきかぜ・・・・」
「大丈夫、ですから・・・・」
凛子は今にも泣きそうなゆきかぜに寄り添う。
しかし・・・・
「大丈夫だと?・・・・ハッ!バカが嘘ついてんじゃねぇよ。」
まるで唾棄するかのように悪態をついた。
「おい、孝太郎。今のゆきかぜの状態を見ろ!そんな口を・・・・」
「なに我慢してんだ?あぁ?目の前で母親を止められたかもしれない機会を逃して大丈夫だと?バカも休み休み言えよ!前から俺に悪口言う以外は母親を見つけ出す為に対魔忍として訓練を積んでるとか当てつけしに来ただろうがっ!それがこの結果か?そりゃさぞかし立派な対魔忍になりましたねぇ!死んだ父親も別の男の元に行く母親も止められない娘を見て喜んでるだろうよ!!」
凛子を無視して罵倒を続ける。
凛子が殴って止めようとしたその瞬間、ゆきかぜが泣きながら襟首を掴む。
「アンタにっ!アンタに何が分かるって言うのよ!!!そりゃ私だって止めたい、止めたかった!でも無理なの。私達では勝てない。勝てないの・・・・・。」
涙がぽろぽろと床に落ちていく。
「じゃあ止めたいって言えよ。大丈夫って嘘なんかつくな。」
そう言う孝太郎を睨みつけるゆきかぜ。
「言った所でどうなるのよっ!!お母さんには勝てないわ!さっきの感じたでしょ!?邪魔をすれば殺される!それにそれを抜きにしても、・・・私も凛子先輩も、今は忍術が使えない。・・・・まともに相対することも叶わないの・・・うっ、うぅぅ、悔しい、悔しいよお!私に!もっと力があったら・・・・だから、もうどうしようもないの!」
「どうしようもなくなんかない!お前が行きたくても行けないなら・・・・俺が代わりに止めに行ってやるっ!!」
泣き叫ぶゆきかぜに呼応してとんでもないことを言い放つ孝太郎。
「じ、自分が何を言ってるのか、わかっているのですか!?もう私達のやるべきことは終わったのですぞ!」
慌てて止めようとする北海道兄貴を振り払う。
「まだだ!まだ俺のやるべきことは終わってない!安価ではこのアンダーエデンの全ての奴隷娼婦を解放しろと出た!あのBBAも調教された後、ここに来たと言った!なら俺の中では奴隷娼婦と同じだ!アイツも解放して本当に俺の安価は終わる!」
「えー。確かに後味悪い終わり方だし、気になるかぁ・・・・。なら俺がベッドでゆっくり慰めて忘れさせてやるからさぁ・・・」
そう言って尻に指を這わせる香惧夜の腕を払い、怒鳴りつける。
「さっきから意味のわかんねぇことグダグダ言い腐りやがって!きもちわりぃんだよいい加減!ホントに死ねよ!!」
「き、きもち・・悪い?し、・・・死ねって、え?」
香惧夜は言われたことの衝撃から内容を理解できず思考がフリーズしている。
「安価ってなんだ!そんなことの為に行かせるわけ無いだろ!死ぬぞっ!」
凛子も孝太郎に負けじと大声で止める。
しかし、孝太郎は聞き耳を持たず、懐からのある物を出す。
「うるせぇ!俺のやることにいちいち口出しするんじゃねぇ!!俺がやるって言ったらやる!俺が決めたことだ!誰にも邪魔させない!!これが本当の安価スレ主だぁぁぁぁ!!!!!」
そして取り出したものを地面に放る。
すると煙が狭い室内に吹き出す。
スモークグレネードだ。
部屋が狭い分、煙は濃密。
部屋を走って出ていったのか孝太郎の慌ただしい足音がする。
「北海道さん!止めてください!加速して!」
「ちょっ、ゲホゲホっ!気管に煙が、ゴホッゲホッ!無理でござうぉぇほっ!!」
自斎が北海道兄貴に頼むも、気管に煙の粒子が入って咳き込んでいる北海道兄貴には加速することは叶わない。
「なら!呉姫さん!」
「死ねって言われた・・・・パパに、死ねって。」
同じことを呆然と呟き、使い物にならない。
そうこうしている間に、孝太郎は既に1階まで降りているのだった。
孝太郎が不知火を追うのは別にゆきかぜを見て可哀想とかなんとかしてやりたいと思ったからではない。
・・・・いや、それも2割程度はあると言ってもよいが、やはり大きな原因は安価と不知火の価値だ。
自分にとって見れば不知火だって調教されてこのアンダーエデンという場所に居た。
であれば奴隷娼婦とほぼ同じなのだから、解放の範囲に入ってしまっている。
それに不知火は幻影の対魔忍としてその名を轟かせていたにも関わらず、5年前に行方不明になっている。
ルーキーの希望の星として期待されていたゆきかぜや凛子を抜擢するほど不知火を連れ戻す任務は優先度が高いと見受けられる。
であればその任務も俺が成功させてしまえば、さらに手柄として一気に昇進、里に戻れるどころかニート生活しても何も言われなくなるかも・・・・・
そういう打算も心にあるのだ。
(そうだ、俺は自分の為に動いている。べ、別に・・・・あんな奴の為なんかじゃない。うん!自分の為、自分の為。)
どことなく自分の為だと言い聞かせている感じがするのは気のせいだろうか?
走っていると、人が飛び出してきて足を止める。
「よぉスレ主、急いでるみたいだな。」
冷たい印象を与える容貌をした美人な女性。
・・・・あぁ!警備射殺して通りすがりのとか言っていた。
「ちょっと、すみません!俺、まだやらないといけないことが・・・・」
すると俺の様子を見ていたその人は訳知り顔になる。
「なるほど、大体わかった。水城不知火を追いたいのだろう。今からでは間に合わん。かなり遠くに行っているみたいだ。」
孝太郎は身構える。
「なんで、・・・そんなことまで知っているんですか?」
そんな様子の孝太郎を見て不敵な笑みを浮かべて、肩に手を置く。
「安心しろ、オレは別にお前の敵をしようというわけじゃない。どちらかといえば味方だ。ただ物知りなだけ。それに話してる暇などないんだろ?ならばオレが送ってやる。どうせどこに向かってるか見当も付いてないんだろ?」
孝太郎は顔を伏せる。
彼女の話は納得できるが、どうしても信用できない。
きっと彼女の飄々とした態度が原因だろう。
「それはそうだけど・・・でも、「少し、くすぐったいぞ?」えっ、ちょっまだ話は終わってぇぇええええ!!!」
まるで空間の穴に引きずり込まれる感覚。
掃除機に吸い込まれているみたいだ。
なんとなくそう自嘲していると、目の前が真っ暗になる。
・・・そして、次の瞬間、空中に投げ出されていた。
「えっ、待って!待って!待って!流石に無理だって!俺は上条さんでも鯖太郎でもないんだぞぉ!!死ぬ死ぬ死ぬ!!!!」
空中を落ちながら、下を見る。
するとそこにはゆっくりと歩いている不知火の姿。
確かに不知火の所まで送ってはいる。
空遁だろうか?あそこからここまで飛ばせるのは大したものだ。
ただ初期位置が頭おかしいだけ。
(くそっ、なんだあの女、位置の調整も出来ないなら有無を言わずにやるんじゃねぇよ!!)
心の中でさっきの飄々とした女の愚痴を言いながらも、視界の横である物を捉える。
全面ガラス張りのビル。
であればここから昔からやりたかったアレができるんじゃないか・・・・?
風を利用してビルの方へ近づき、ビルに足を付ける。
落ちる勢いで後ろに足が持っていかれる前に片方の足を踏み出す。
それを何回も繰り返す。
そうすることで彼は落ちるのではなく、ビルの外壁を走り下りていた。
昔訓練でやらされたことだからまだ出来るか確証がなかったが、まだまだぎこちなくはあるが、できるようだ。
ホッと胸を撫でおろす。
そして大声で不知火に対して叫ぶ。
「待ちやがれそこのバニーBBA!!まだ・・・安価は・・・終わってねぇぇぇええ!!!!」
不知火はこちらに気づいたのか、目を丸くする。
そう叫ぶと勢いよく両足を踏み込み、飛び上がる。
その瞬間踏み込んだ衝撃でガラスが割れるが、誰のビルかもわからないし、知ったこっちゃない。
そして片足を突き出し、キックの姿勢を取る。
まるで仮面なライダーのようだ。
そして孝太郎はその刹那、心の中で迷う。
(今の俺は、・・・なんかすごい絵になってるはずだ!なら・・・・必殺技名くらい、言ってもいいよな!そういうのってこういう時言うもんだろうし・・・タイムブレーク?それとも単純にライダーキックとか!?・・・・いや、でも俺は別にバイク乗ってないし、ライダーじゃないからライダーキックじゃなくて普通のキックになるんじゃ・・・・)
そんなどうでもいいような下らないことを考えている間に猶予はどんどん迫っている。
そして色々考えた末に頭の中がごっちゃごちゃになった孝太郎は結局こう叫んだ。
「(ライダーじゃないからライダーキックじゃないけど本当はすっごく一度言ってみたかったからそこらへん無視させてもらって)ライダーキッーーーク!!!」
言外に籠もった思いが大きすぎる。
言いたければ不知火以外聞いていないのだから勝手に言っておけば良いのに変に葛藤する辺り、孝太郎は生粋のライダーオタクであった。
しかも面倒くさいオタクだ。
不知火の側からすればいきなりでさっき威圧した昔馴染の少年がライダーキックと叫びながら空中から飛び蹴りしてきたら、驚いて対応できるわけもない。
もろに蹴りを食らって地面を転がっていく。
(決まった・・・・・)
孝太郎が達成感でちょっとスカッとしていると、不知火が起き上がる。
「まさか・・・あなたが来るなんてね・・・・・意外だわ。死にに来るなんて。もっと賢い子だと思ってたんだけど。」
立ち上がり、微笑みながらも殺気を出す不知火。
しかし空中に放り出されたことによるアドレナリンとライダーキックの達成感と爽快感を頭にキメた孝太郎はもう威圧されて動けなくなることはない。
「俺は死なないさ。こちとらまだ終わってねぇんだよ。アンタを解放するまで俺は死ねない。ぜってー負けねぇからケツ穴おっぴろげて神妙に覚悟しろ?俺はてめぇの御主人様よりもはげしいからさぁwww不知火ママww」
半笑いで武蔵野姉貴のレスを参考にしつつ、昔孝太郎自身が不知火をからかう際に使っていた呼び名を使って煽る。
眉根をピクリと動かす不知火。
昔からの彼女の怒った時の仕草だ。
・・・・うろ覚えだから確かなのかは確証がないが。
それにしても武蔵野のレスは煽るときにかなり使えるなぁ。
即興で御主人様を侮蔑するような発言を織り混ぜてみたが効果覿面のようだ。
・・・・どんだけ忠犬なんだよw
やっぱ夫や娘に誠実で一途な人ほど堕ちれば堕ちるとこまで堕ちるんだなぁと感慨にふける。
もはやそんな馬鹿なことを考えるほど精神的な余裕がある。
あの時の威圧されて声も出せなかった時とは完全に違う。
不知火との実力差は変わらない。
このままでは殺されてしまうことは確実だ。
だが・・・・孝太郎の中にはなんの不安もない。
ただ今まで通り、自分がやれることをやるだけだ。
斯くしてアンダーエデンの事件は終わるも、安価は終わらず。
いわゆる延長戦が今、始まろうとしていた。
なんというか今回はなんか一部シリアス?っぽくなってしまいました。
あのなんか不知火とゆきかぜの別れとか。
それにネタも少ないのですしね。
あとなんか不知火追い掛ける前のイッチが不破さんみたいなこと言い出してますね。
これはランペイジガトリングを腕力で開けて、股間がオールライズ。
不知火にランペイジオールブラストする可能性が、濃いすか?
あともうちょっとだけヨミハラ編は続きますし、頑張って更新するので最後までお付き合い頂ければ幸いです。
多分ヨミハラ編は後日談含めて2・3話で終わると思います。
・・・・多分。