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【土日限定】カエルの楽園2020 作者:百田尚樹
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第三章②

 ツチガエルたちに何匹か病気が出てから、ナパージュから水仙が完全になくなりました。

 それまではナパージュのどこでも普通に生えていた水仙の花は、今はもうどこを見渡してもありません。

「俺たちも水仙の花を探してみないか。もしどこかに咲いているところを見つけたら、ツチガエルたちに教えてあげようよ」

 ロベルトは言いました。ソクラテスは賛成しました。

 二匹は、ふだんツチガエルがあまり行きそうもない深い森の奥へ行くことにしました。

 藪を抜けてしばらく歩くと、水仙がいくつも生えている草むらを見つけました。悦んで近づくと、水仙の花の多くはまだつぼみでした。

「残念だな」ロベルトは言いました。「まだ咲いてないよ」

「でも、明日か明後日には咲きそうだ。この場所を教えてあげれば、ツチガエルたちも喜ぶよ」

「そうだな」

 二匹が森から出ようとした時、多くのウシガエルたちが森に入っていくのとすれ違いました。そこには少数のヌマガエルもいました。彼らは、ソクラテスたちが見つけた水仙のつぼみを見つけると、いきなりそれをちぎり始めました。

「おいおい」ソクラテスは彼らに声を掛けました。「それはまだつぼみだよ」

 しかし彼らはそんな声には耳もかさず、黙々とつぼみをちぎっていきます。その中の一匹のヌマガエルが言いました。

「お前たち、何も知らないんだな。つぼみでちぎっても、茎を水の中に浸しておけば、やがて花が開くんだ」

 そして次から次へとつぼみをちぎっていきました。

 草むらにあった水仙のつぼみはあっという間に、全部なくなってしまいました。

 多くのウシガエルと少数のヌマガエルは大量のつぼみを持って、満足そうに去っていきました。

 ロベルトは呆れて言いました。

「彼らはあんなふうにナパージュの水仙を取っているのか」

「あんなことをしていたら、ツチガエルたちは水仙の花が手に入らないよ」

「まったくだ」

「元老たちはこんな行為を許しているのかな。デイブレイクは何て言ってるんだろう」

「行ってみるか」

 二匹は元老会議へ行ってみました。


 緑の池には、いつもより多くのカエルたちが集まっていました。

「なぜ、こんなに多いのですか」

 ソクラテスは一匹のツチガエルに訊きました。

「なんでも、今日は重大な発表があるらしい」

 元老会議の島で、プロメテウスが立ち上がりました。それまでがやがやしていた池の周囲のカエルたちは静かになりました。

「今から、ナパージュの皆さんに重大な決定をお知らせします」

 プロメテウスは(おごそ)かに言いました。

「今日からオタマジャクシは今いる池の位置から動かないようにお願いします」

 元老会議を見守っていたカエルたちの中に動揺が走りました。プロメテウスは続けました。

「オタマジャクシが泳ぎ回ると、病気が広がる恐れがあります。ですから、ナパージュのそれぞれの地域と池に住むリーダーの皆さんにお願いします」

 カエルたちの顔に戸惑いの色が浮かびました。小さなオタマジャクシならまだしも、中には大きくなって足や手の生えた者もいます。そんなオタマジャクシに泳ぐなというのはちょっと酷なんじゃないかと、ソクラテスも思いました。

「俺は反対だ!」

 そう叫ぶツチガエルがいました。

「俺は中の池と呼ばれる池のリーダーだ。うちの池ではオタマジャクシは自由に泳がせる。お前の言うことなんか聞かないぞ」

 プロメテウスは困ったような顔をしました。

「そこをなんとかお願いします」

 しかし中の池のリーダーは「うるさい」と言って、帰っていきました。

 ガルディアンたちもプロメテウスの非難を始めました。

「こんなことになったのはお前が悪い」

 ガルディアンが怒鳴りました。

「全部、お前のせいだ。なんとかしろ」

 ガルディアンとその仲間の元老たちは口々にプロメテウスを糾弾しました。

「では、どうすればいいのですか」

 プロメテウスは言いました。

「うるさい! それを考えるのはトップのお前だろう。この元老会議では、わしらは聞くだけだ」

「あなたたちにはアイデアがあるんですか?」

「アイデアを考えるのはお前だ」

「では、あなたたちはどうして元老になったのですか。ナパージュを良くしたいとは思わないのですか」

「わしらはお前を批判するために元老になったのだ。ナパージュをよくするのはお前の役目だろう」

 プロメテウスはため息をつきました。

「なんだか、プロメテウスが可哀想になってきたよ」

 ロベルトが言いました。

「でも、ウシガエルがナパージュに入ってくるのを止めなかったのは事実だよ」

「それはそうだな。でも、それは多分、ツーステップの命令だとハンドレッドが言っていたぞ」

 ソクラテスは元老会議の島にいるツーステップを探しました。ツーステップは島の端っこに坐っていました。想像していた以上に年老いたカエルでした。よく見ると、居眠りしています。

「なんか寝ているみたいだぞ」とソクラテスは言いました。

「今、起きたみたいだ」

 ツーステップは目を開けて、いったん周囲を見渡すと、またいびきをかいて寝てしまいました。

「あれで元老の仕事が成り立っているのか」

 ロベルトの言葉にソクラテスは「さあ」と言いました。同時に、前にハンドレッドが言っていた「元老の仕事なんてバカでもできる」という言葉を思い出しました。

「いずれにしても」ソクラテスは言いました。「元老たちは、この病気を何とかして防ぎたいと一致団結していないのはたしかみたいだな」

「そんなんで、ナパージュは大丈夫なのか」

「そんなこと、ぼくに言ってもわからないよ」

 元老会議が終わると、急に若い元老たちが池の周囲に集まっていたカエルたちに向かって、何やら言い始めました。

「皆さん、聞いてください。ぼくたちはプロメテウスに、ずっとウシガエルをナパージュに入れてはいけないと提言してきました」

 池の周囲の何匹かのカエルが拍手しました。

「あの元老たちは誰なんですか」

 ソクラテスは拍手をしていたツチガエルに尋ねました。

「あれはプロテクターズと呼ばれる若い元老たちだ。プロメテウスの子分みたいなもんだが、素晴らしい元老たちだ。いつもいいことばかり言っている。何よりもナパージュのことを考えてきたカエルたちだ」

「そうだ」と別のカエルは言いました。「彼らは地位も名誉も命も欲しがらないカエルたちなんだ。常にナパージュのために命を懸けている。プロメテウスの子分だが、信念のためなら親分の敵にだってなるとも言っている」

「すごい!」

 ソクラテスは感心しました。

「それで、敵になったこともあるんですか」

「それはない」

「彼らはこれまでに何をやったのですか」

「今のところは何もしていないが、元老といってもまだ若い彼らにはナパージュを動かす力はないから仕方ないさ。いいことを言っているだけで十分じゃないか」

 ソクラテスは曖昧に頷きました。

 プロテクターズたちは大きな声で言っています。

「ぼくたちはずっとプロメテウスに様々なことを提言してきました。それはナパージュのことを考えているからです。ぼくらは常にナパージュのことを考えています、だからプロメテウスにいつも提言しているのです」

 何匹かのカエルは拍手しました。

 ソクラテスは拍手をしているカエルに言いました。

「彼らは元老会議では、ほとんど発言してなかったよ」

「それがどうした」とそのカエルは言いました。「プロメテウスに提言することが素晴らしいじゃないか」

 でも、ソクラテスは、元老なら元老会議で発言するべきなんじゃないだろうかと思いました。提言したと言ったところで、普通のカエルたちに聞こえない場所でやっても意味がないんじゃないかという気がしたのです。

 その時、元老の島でまた別のカエルが立ち上がりました。

「私もずっと前から、ウシガエルはナパージュに入れてはいけないと申し上げてきました」

 ソクラテスは隣のカエルに「あれは誰?」と尋ねました。

「あれはバードテイクだ。プロメテウスの仲間だけど、ライバルでもあるカエルだ」

「仲間でライバル?」

「前に、元老のトップの座を争って、プロメテウスに負けたんだ。その時、プロメテウスが勝てたのはツーステップのお陰だと言われている」

 ソクラテスは頷きました。

 バードテイクはゆっくりと喋っています。なかなか落ち着いたカエルのようです。

「私は常に正しいこと、真実だけを申し上げてまいりました」

「バードテイクはこの病気に関して何か言っていたの?」

 ソクラテスが周囲のカエルたちに訊くと、皆、「さあ」と首をひねりました。

 その時、黙って聞いていたデイブレイクが「素晴らしい!」と大きな声を上げました。

「さすがはバードテイクだ。実に素晴らしいことを言っている。次の元老トップは君だ! わたしは次の元老のトップには君を強く推す」

 バードテイクはまんざらでもない笑顔を浮かべました。

「バードテイクさんに質問です」

 一匹のカエルが手を挙げました。

「どうぞ」

「今、この状態でナパージュや私たちはなにをすればいいのでしょうか」

 バードテイクは大きく頷きました。

「今、なにをするべきか、なにをどうすれば最善の道が開けるか。そのために私たちは何を考えるべきか。ツチガエル一匹一匹が真摯(しんし)に、誠実に、問題と向き合うことが大切です。今まさに、それを真剣に考える時がきています」

 デイブレイクがまたも「素晴らしい!」と声を上げました。

 ロベルトが小さな声で「ソクラテス、バードテイクが何を言いたいのかわかった?」と訊きました。ソクラテスは「全然わからなかった」と答えました。


 プロメテウスが決めたように、次の日からナパージュの多くのオタマジャクシが池から動いてはいけないことになりました。

 お祭り広場では、早速、マイクが「大反対」と言いました。マイクはいろんなカエルを呼んできて、彼らに同じように「オタマジャクシを自由にさせろ」と言わせました。

 あるカエルは言いました。

「プロメテウスはオタマジャクシのことを何も考えていない」

 その言葉を聞いてマイクは大きく頷きました。

 次に別のメスガエルが出てきました。彼女はこう言いました。

「オタマジャクシが動けなければ、お母さんたちはどうなりますか。オタマジャクシが自分でエサを食べられないから、お母さんが用意しなくてはなりません。こんな決定は、お母さんたちを苦しめるものです」

 マイクはまた大きく頷きました。しかし池の周囲に集まっていたカエルたちは、どっちが正しいのかよくわからない感じでした。

 このとき、お祭り広場の中央に、三匹のカエルが出てきました。彼らは全員で声を揃えて叫びました。

「プロメテウスは独裁者です。絶対的権力で私たちを縛り付けようとしています」

 ソクラテスはその大きな声に驚きました。たった三匹とは思えないほどの声量で、もし目を閉じていたとしたら、何十匹の大合唱に聞こえたでしょう。三匹のうち一匹はヌマガエルでした。

 ソクラテスはそばにいたカエルに、「あのカエルたちは誰ですか」と訊きました。

「あれは、ナエというグループだ。デイブレイクの子分みたいな連中だ。とにかく声が大きいので、彼らが喋るときは、わしは耳を塞ぐんだ」

 実際にそのカエルは耳を両手で塞いでいました。

「ところで、オタマジャクシを動かないようにするのは、どう思いますか?」

 ソクラテスの質問に、そのカエルは「うーん」と言って腕組みしました。「オタマジャクシに泳ぐなと言うのもきつい話だけど、病気が広まっても困るしな」

 彼も何が正しいのかはよくわからないようでした。

 反対意見も飛び交ったものの、最終的には、ナパージュのツチガエルたちは、プロメテウスのお願いを聞き入れ、その日から、オタマジャクシは池の中でじっとして動かないでいるということになりました。

 それでも一日ごとにツチガエルの中に病気のカエルが増えていきました。はたしてオタマジャクシを動けなくしたことがどれだけ効果があったのか、わかりませんでした。


   *   *    *


 それからしばらくしたある日、元老会議で新しい病気に関して重要な話し合いが行われるということが知らされました。

 ソクラテスとロベルトは朝から元老会議を見に行きました。

 プロメテウスが集まったカエルたちに向かって言いました。

「病気がどんどん広まっています。このままでは大変なことになります」

 周囲のカエルたちも深刻な顔で聞いています。

「私は今、ナパージュのカエルがナパージュ中を動き回らないようにお願いすることを考えています。この病気はカエルたちがいろいろと動き回ることによって、広がっていきます。だから、カエルたちがあまり動けないようにすれば、病気は自然に収まっていきます」

 池の周囲にいたカエルたちに大きなどよめきが起こりました。ソクラテスとロベルトもこの言葉には驚きました。

「皆さんが驚かれるのはわかります」プロメテウスは言いました。「私もこんなことは皆さんにお願いしたくありません。しかし、今いるところから動けないとなれば、生きていくのも大変です。でも、このまま何もしないでいたら、ナパージュ中に病気が広がる恐れがあります。そうなったら、ナパージュは終わってしまいます。これは特別なことです。なぜなら、ツチガエルの皆さんの権利や行動を制限することになるからです」

 ソクラテスはそれを聞きながら、心に少し違和感を覚えるのを止めることができませんでした。そこまで大変なことをツチガエルにお願いするなら、どうしてずっと前にウシガエルがナパージュに入ってくるのを止めてくれなかったんだろうと思ったからです。あの時、イエストールやハンドレッドたちは、ウシガエルをナパージュに入れるな! と何度も言っていました。そうしていたら、今頃、こんなことをしなくてもよかったのではないだろうか――。

 その時、ガルディアンが大きな声で言いました。

「みんな、だまされてはいけません。もし、ツチガエルの権利や行動が制限されるようになれば、これからプロメテウスはそれを利用して、自分の力をどんどん強くしていきます。つまり、何か自分の都合の悪いことが起きると、そういう命令を下して、自分の好きなようにやっていくことができるのです」

「待ってください、私にはそんなつもりはありません」プロメテウスは言いました。「今回は特別な事態です。今、そうしないとナパージュに病気がどんどん広がってしまうのですよ」

詭弁(きべん)(ろう)するな」

「詭弁じゃありません。私は病気を防ぐためにこれが最善の方法だと思ったから言っているのです」

「それなら、どうして、前にウシガエルを止めなかったんだ!」

「ディーアールたちがそれほどの病気ではないと言っていたからです」

「そのディーアールたちは、新しい病気に詳しいのか」

「いいえ」プロメテウスは答えました。「これは未知の病気です。今回の病気に詳しいディーアールなんていません」

「それなら、ディーアールの言ってることも信用できないじゃないか」

 プロメテウスは一瞬、言葉に詰まりました。

 ソクラテスもガルディアンの言ったことは正しいと思いました。未知の病気には、これまでの常識は通用しなかったのです。怖がるだけ怖がってもいいくらいなのです。イエストールが言っていたように、最初からすべてのウシガエルをナパージュに入れなくすればよかったのです。

「では聞きますが」とプロメテウスは言いました。「ガルディアンさんは、ウシガエルをナパージュに入ってくるのを止めろと言いましたか」

「言った」ガルディアンは言いました。「最初からずっと言っていた」

「ガルディアンは嘘をついているね」

 ロベルトは言いました。

「うん」ソクラテスは頷きました。「ガルディアンと仲間の元老たちは、チェリー広場の話ばかりしていた。ウシガエルの病気のことなんか全然していなかった。今になってそんなウソをつくのは汚いよ」

「とにかく、ツチガエルが動けないようにするなんて、絶対に反対だ」

 ガルディアンは頑強に言いました。

「では、どうすればいいんですか」

「それを考えるのが元老のトップだろう。わしは反対するのが役目だ」

 その時、池の周囲のカエルたちから一斉にブーイングが起きました。それを聞いてガルディアンは慌てました。ガルディアンは池の周囲のカエルたちに向かって言いました。

「皆さん、私はプロメテウスがやろうとしていることを認めると、彼はそれを利用して、どんどん好き勝手なことをやると心配しているのです」

 しかし池の周囲のカエルたちは納得しませんでした。それどころかガルディアンとその仲間たちに冷たい視線を送っています。

 すると突然、ガルディアンは、「私はプロメテウスの言うことに賛成だ」と言い出しました。彼の仲間たちも次々に「賛成、賛成」と言いました。

「どういうことだい」

 ロベルトはソクラテスに訊きました。ソクラテスもあまりに急な展開に「わからない」と答えました。

「簡単な話だ」

 その声に振り返ると、ハンドレッドがいました。

「ガルディアンは、自分の言った言葉にツチガエルたちが賛意を示さなかったから慌てたんだ」

「ツチガエルたちが賛意を示さなかったら、どうなるのですか」

「ナパージュの元老は、ツチガエルたちの人気で決まるんだ。人気がなくなれば、元老でいられなくなる。ガルディアンと仲間たちは、やばいと思って、プロメテウスの意見に賛成したんだ」

「そういうことだったのですね」

「かなり前のことだが、プロメテウスがナパージュを守るための新しい決まりを提案したことがあった。この時、ガルディアンたちは大反対した。その反対はすごかった。まさに命懸けだったな。でも、最終的に元老会議でプロメテウスの意見が通った。それからしばらく経ってから、ガルディアンたちの人気がどんどん落ちて、仲間が次々に抜けたことがあった。その時、ある大物カエルが俺たちの仲間に入れてやろうかと言ったんだ。その時、その大物ガエルは、入れてほしかったら、前に出したプロメテウスの意見に賛成しろと言ったんだ」

「どうなったんですか」

「ガルディアンたちは全員、賛成します、と言ったんだ」

「本当ですか!」

「あいつらには信念なんかないんだ。自分が元老でいられるなら、ウンコだって食べるようなやつらだ」

 ソクラテスはハンドレッドの言葉にうげっとなりました。

 ソクラテスはあらためて元老会議に入る面々を見渡しました。これまで元老たちはナパージュの中で最も優れたカエルだと思っていたのに、どうやらそうではなかったようです。

「すると、元老ってあんまり優れたカエルたちじゃないんですね」

「前にも言ったが、バカばかりだな。あと、(いや)しいカエルが多い。元老になれば、美味しいものが食べられて、皆の尊敬を集められる。それだけのために元老になる奴がほとんどだ」

 ソクラテスは、もしハンドレッドの言うことが本当なら、元老っていったいどんな存在なんだろうかと思いました。ナパージュのことよりも、自分が元老でいることの方を大切にするなんて――。

 そういえば、前に見たプロテクターと呼ばれていたプロメテウスの子分みたいな元老たちも、自分たちはプロメテウスに懸命に提言しているとツチガエルたちにアピールしていました。元老会議ではそんな話はまったくしなかったにもかかわらず。プロメテウスのライバルと言われていたバードテイクもそうです。でも、一番ひどいのは、ウシガエルと仲良しと言われているツーステップです。

 そんなカエルたちにナパージュの命運を任せていいものだろうかとソクラテスは心底心配になりました。

 ガルディアンたちの突然の賛成で、その日の元老会議の結論は「ナパージュのカエルは自分が住んでいるところからは動かないように」ということで決まりました。

「俺たち、どうする?」

 ロベルトは言いました。

「そうだなあ。もともと住んでいるところはないわけだから。こうなったら、お祭り広場の近くに住もうか。そこなら、いろんな情報がわかるし、たまにデイブレイクも来る」

「そうだな」

 ソクラテスとロベルトはお祭り広場の近くに住むことを決めました。


 お祭り広場に行くと、マイクたちが大騒ぎしていました。

 ディーアールたちが何やら喋っています。

「私たちはもっと早くこの命令を出せと言っていました。元老たちは何もかも遅すぎます。このままでは、ナパージュはこの病気で滅んでしまうから、早くやれとあれほど言っていたのに」

 お祭り広場にいたカエルたちは、「そうだ、そうだ」と言いました。

 ソクラテスの記憶では、たしかこのカエルは「この病気はたいしたことない」と言っていたはずです。もうこの病気に関しては、ほとんどのカエルたちが前に言っていたのと違うことを言っている気がしてきました。

 別のカエルが出てきました。

「元老たちの命令には罰則がありません。それでは何のための命令かわかりません。もっと厳しく制限すべきです」

 ツチガエルたちはまた「そうだ。そうだ」と言いました。

 ソクラテスの記憶では、このカエルは、たしか以前、何かの時に、「元老たちがツチガエルの権利や行動を制限するのはよくない」と言っていた記憶があります。

 とにかく、この日以降、ナパージュのカエルたちは移動を制限されました。期限はサツキの花が咲くまでと決められました。


 ナパージュ全体で火が消えたようになりました。

 どこも活気がなくなり、ツチガエルたちの顔からも生気がなくなってきました。それもそのはずです。多くのツチガエルがハエや虫をふんだんに食べられなくなったからです。というのも、ハエや虫はふだん住んでいる場所にはいないことが多く、それまではツチガエルたちはわざわざ虫やハエを探して食べていたからです。

「俺たちもだんだん腹が減ってきたなあ」

 ある日、ロベルトが苦笑しながら言いました。

「たしかに」ソクラテスは言いました。「だけど、サツキの花が咲くまでの辛抱だ」

「でも、プロメテウスは、それまでに病気が収まらなければ、延長すると言っていたぞ」

「こんなことがずっと続くと、餓死するカエルも出てくるかもしれないぞ」

 実際、数日が過ぎると、かなりのツチガエルが腹をすかし始めました。でも、移動してはならないと言われているので、ハエや虫を取りに行くことができません。

 何匹かのカエルたちは、このままでは腹が減って死んでしまうので、移動できるようにしてくれと言い出し始めましたが、その願いは聞き入れられませんでした。

 多くのカエルたちは、以前に元老たちが決めた「ハエを十匹食べたら一匹をナパージュの国に差し出す」決まりをなしにしてくれと頼みました。ほとんどのツチガエルは満足にハエも食べられない状態の中で、ハエを差し出すのがきつくなっていたのです。しかし、元老たちは断りました。

 これだけ皆が苦労しているにもかかわらず、病気は収まる気配がありませんでした。


 ある日、お祭り広場で、ディーアールたちがこの病気に関して驚くような話をしました。

「私たちが調べたところ、意外なことがわかりました。この病気はウシガエルが持ち込んだものと、西の国のカエルが持ち込んだもののふたつがあるということがわかりました」

 お祭り広場にいたカエルたちはキョトンとしました。

 ディーアールは続けました。

「最初にウシガエルが持ってきたのは、実はツチガエルにはあまりうつらないのですが、後から西の国のカエルが持ってきたのは、うつりやすく、罹ると重い症状になるという見方が有力です」

 マイクがディーアールに言いました。

「ということは、西の国のカエルも入れてはいけなかったんですね」

「そういうことです。元老たちも西の国のカエルは大丈夫だろう思って、ウシガエルをストップした後も、普通に入れていたのです。それと西の国に遊びに行って病気に罹ったツチガエルがナパージュに帰ってきて広まったのもあるようです。今の深刻な病気の拡がりは、もしかしたらそっちです」

 ディーアールの話を聞いていたソクラテスは全身の力が抜けました。元老たちはウシガエルばかりに気を取られて、もっと恐ろしいかもしれない病気をむざむざとナパージュに入れてしまったのです。とんでもない油断です。同時に、ディーアールにも腹立たしい気持ちが起きました。油断していたのはお前も一緒だろうと思ったのです。病気が本当に怖いと思っていたなら、西の国のことも調べてほしかったと言いたい気持ちになりました。

「皆さん、よく聞いてください」

 マイクが深刻な顔をして言いました。

「実はさっきディーアールさんが言った西の国では、カエルたちがばたばた倒れているそうです。聞けば、ナパージュの百倍近い数のカエルがなくなっているそうです」

 お祭り広場に集まっていたツチガエルたちは押し黙ったままマイクの話を聞いています。

「ツチガエルの中には、このまま移動できないと、腹が減って死んでしまうと言う者もいますが、ここは辛抱です。最初はプロメテウスも、サツキの花が咲くまでと言っていましたが、病気は増えていく一方です。このままだともっと延ばす必要が出てきます」

 多くのツチガエルが絶望的な(うめ)き声を上げました。

「でも、皆さん。もし今ここで、自由に移動できるようになれば、はるか西の国のカエルたちのように、ナパージュが地獄になってしまいます。そうならないように、頑張りましょう」

 いつもならマイクが喋ると大きな拍手が起こるのですが、この日はまばらな拍手しか起きませんでした。みんな、お腹が減って元気がなくなっているのです。

「マイクの言うこともわかるけど」ロベルトは言いました。「このまま移動できない期間を延ばすと、多くのツチガエルがお腹が減って倒れてしまうよ」

「ぼくもそう思う。病気も怖いけど、お腹が減って皆が倒れてしまうのも怖い」

 ソクラテスがそう言った時、「その通りだ!」という大きな声が背後から聞こえました。振り向くと、ハンドレッドが立っていました。

「こんなところまで来たんですか。移動してはいけないのに」

「十分注意してきたから大丈夫だ」

 ハンドレッドは胸を張って言いましたが、ソクラテスは勝手な理屈だと思いました。

「たしかにウシガエル病は怖い」とハンドレッドは言いました。「しかしウシガエル病で死んだツチガエルは、ナパージュ全体の中で見ればほんのわずかだ。しかもそのほとんどは年取ったカエルだと言うことがわかってきた。壮年のカエルや若いカエルはかかっても、死ぬことはまずないんだ」

 ハンドレッドは一貫して新しい病気をウシガエル病と言っていました。

「でも、移動できる自由を与えたら、西の国みたいな地獄になるかもしれないじゃないですか」

「西の国でナパージュの百倍以上のカエルが死んでいるのは事実らしい。だからナパージュもそうならないようにと、移動する自由を止めた。ところが、それから何日か経っても、それほど亡くなるカエルは増えない」

「それって、移動する自由を止めたからじゃないですか」

「西の国でも、移動の自由を禁止しているのに、死ぬカエルが爆発的に増えている」

「それは禁止するのが遅かったからじゃないですか」

「何を言ってるんだ。ナパージュは西の国よりももっと遅かったんだぞ」

 ソクラテスは、あっそうか、と思いました。たしかに西の国はウシガエルが入ってくるのを止めるのも早かったし、病気が出たときに、移動の自由を止めるのも早かったと聞いています。それもナパージュよりももっと厳しい制限があったということです。それなのに、西の国では病気によって死ぬカエルが爆発的に増え、ナパージュではそれほど増えていません。

 ソクラテスはこれはどういうことだろうと考えました。

「おい!」

 マイクがハンドレッドの姿を見て、いきなり大声を上げました。

「今、ナパージュは亡くなったカエルが増えていないと言ったな」

「言ったがどうした?」

 ハンドレッドは言い返しました。

「毎日、少しずつ増えているのがわからないのか」

「増えているのは知っている」

「なら、どうして、増えていないと言ったのだ」

「西の国に比べれば、全然増えていないと言ったのだ」

 マイクは周囲のカエルたちに向かって言いました。

「皆さん、ハンドレッドは、移動の自由を戻せと言っています。そのことによって、どれだけ病気が増えて、どれだけ多くのカエルが死んでもいいと言ってるんです」

「別にそんなことは言ってないだろう」

「いや、言った。言ったぞ」マイクは怒鳴りました。「言ったのと同じだ。お前はハエが食べたいというくだらない理由だけで、自由に移動させろと言ったんだ。それで、どんなに病気が広がってもかまわないという勝手な理屈だ」

「じゃあマイクに訊くが」とハンドレッドは言いました。「この病気で死ぬカエルがどれだけ減れば、自由に移動していいことになるんだ」

「今よりも減れば、そうするべきだと思う。だから、今は苦しくても皆で頑張るべきなんだ。年寄りは死んでもいいから、移動させろと言うのは大反対だ」

 ハンドレッドは「わかったよ」と言って、もうそれ以上は言いませんでした。

 それからごろりと横になると、「じゃあ、もう移動するのはやめるわ」と言って、いびきをかいてその場で寝てしまいました。


 移動の自由の制限はそれ以降も続きました。その結果、ほとんどのカエルがひもじい思いをしていました。

 しかしサツキの花が咲くころが近づくと、病気に罹るツチガエルの数の増加が少し鈍ってきました。もちろんその数は決して少ないとは言えませんでしたが、一番多かったころに比べると、ぐんと減少していました。予想された最悪の数字よりはるかに小さいものでした。

 多くのツチガエルたちの間に希望の光が灯りました。ひもじい思いをして苦労してきた甲斐があったというものです。サツキの花が咲くころに移動の自由が認められたら、どこでも好きなところへ行ってハエも虫も食べられるようになります。

 サツキの花が咲く直前、元老会議が開かれました。

 プロメテウスは緑の池に集まったツチガエルたちに向かって言いました。

「皆さんのお陰で、病気の大きな広がりを抑えることに成功しました。ありがとうございました」

 そして深く頭を下げました。ツチガエルたちは次の言葉をワクワクして待ちました。ところが、プロメテウスの言葉はツチガエルたちの期待を裏切るものでした。

「ただ残念ながら、皆さんの努力にもかかわらず、病気を封じ込めるまでには至りませんでした。そこで、この病気の感染が少なくなるまで、皆さんに、もうしばらくの間、移動しないようお願いすることになりました」

 池の周囲から失望の呻き声が上がりました。

 ソクラテスももちろんがっかりしましたが、気になったのは、プロメテウスは病気の感染が少なくなるまでと言いましたが、その具体的な数字を口にしなかったことです。それでは、プロメテウスや元老たちの気分によるのではないかという気がしたからです。


 多くのツチガエルたちが不満に思っていたのは、元老たちは皆、満足にハエを食べていたことです。というのは元老たちがいる緑の池と小島にはハエはふんだんにいて、彼らは移動の自由がなくても、まったく食べることに困らなかったからです。つまり元老たちは、本当に腹が減っているカエルたちの苦しみはわからなかったのです。

 噂では、空腹のツチガエルたちにハエが支給されるということでしたが、対象をすべてのカエルにするか、あるいは特別に空腹のカエルにするかで何日も揉め、またハエ数をどれくらいにするかでまた何日も揉めました。最終的にはナパージュに住んでいるすべてのカエルに支給されることが決まりましたが、今すぐではなくて、かなり先に支給されることになりました。

「なんかもうすべてががっかりだな、ソクラテス」

 ロベルトの言葉に、ソクラテスは同意しました。

「ぼくはハエの支給よりも移動の自由がない方がきついけど、病気が広がる危険を考えたら、仕方がないのかも」

 ソクラテスがそう言った時、ハンドレッドの笑う声が聞こえました。

 ハンドレッドはあの日以来、ずっとお祭り広場の一角で寝ていたのでした。

「お前らは本当にバカだな」

 ハンドレッドは体を起こすとバカにしたような声で言いました。

「どうしてですか」

「ずっと移動しなかったら、ウシガエル病がなくなると思っているのか?」

「そりゃあ、いつかなくなるでしょう」

 ロベルトは言いました。

「たしかにどのカエルも、他のカエルに一切近寄らないで、ずっと過ごせば、誰もウシガエル病には罹らないですむだろう。そうしたら、この病気もいつかはなくなるかもしれん。しかしカエル同士がまったく触れ合わないで生きていけると思うか」

 ロベルトは何か言い返そうとしましたが、言葉が出ませんでした。

「そう、無理なんだ。生きていく限り、誰かと触れ合う。もし、触れ合うことが無理なら、オスガエルとメスガエルが結ばれることもない。触れ合うことが無理なら、生まれた子供と遊ぶこともできない。つまりだ。一切、ウシガエル病にかからないように生きていくのは土台無理なんだ」

「でも、触れ合う機会を少なくすれば、病気に罹る回数も少なくなるでしょう」

「カエル同士が離れて生きるとなれば、生きていくのは大変だ。満足にハエも取れず、ずっと腹をすかして生きていくことになる」

「じゃあ、どうすればいいんですか」

「病気に罹るのを覚悟して、前みたいに生きていくしかない」

「ええっ!」

 ロベルトは驚きの声を上げました。ソクラテスもこれには驚きました。いくらなんでもそれは無茶すぎる意見だと思ったからです。

「ウシガエル病がナパージュに入ってくる前、あるいは入ってすぐの頃は、それがどれくらい恐ろしい病気かわからなかった。しかし実際、ウシガエル病が入ってきて何日か経ってわかったことは、この病気に罹って死ぬのは年老いたカエルがほとんどだということだ。若いカエルや子供はほとんど罹らない。万が一罹っても、大変なことになる例はごく僅かだ。それがわかった。このことはお前たちも知っているな」

「はい」

「ほっといてももうすぐ死ぬ年寄りのカエルのために、若いカエルが皆、腹を減らしてどうするんだ」

「あなたは、年老いたカエルは死んでもいいと思っているんですか」

「誰もそんなことは言っていない。話を勝手に解釈するな」

「でも、あなたが言うように、移動を自由にすれば、年老いたカエルが病気に罹る数が増えるじゃないですか」

「それでは聞くが」ハンドレッドは言いました。「いつまで移動の自由を制限すればいいんだ?」

「マイクが言っていたように病気になるカエルが少なくなってからじゃないですか」

 とロベルトが答えました。

「どれくらいだ?」

「――半分くらい?」

「ほお、それで半分くらいになったところで、移動を自由にすれば、また増えるかもしれないじゃないか」

 ロベルトは少し困ったような顔をしました。

「じゃあ、三分の一くらい?」

「三分の一まで減れば、移動を自由にしても病気は増えないのか?」

 ロベルトは黙ってしまいました。

「わかったか。つまりはそういうことなんだ。移動の自由を止めて病気が少なくなっても、それは移動の自由が少ないからであって、移動を増やせば、また増える。そういう論理でいけば、いつまで経っても行動を自由にできないということになる。

「じゃあ、移動を自由にするのはいつがいいんですか」

 ロベルトは怒ったように訊いた。

「だから、今から、やればいいんだ」

 ハンドレッドはそう言い切りました。

 ソクラテスはこの返事には驚きました。いくら何でも今、行動の自由を認めたら、大変なことになると思ったからです。

「でもな、残念なことに、誰もそんな決定は下せない。お前たちはこの国がどんな国か知らないだろうが、ナパージュという国はな――動くのが遅くて、止まるのも遅いんだ」

 ソクラテスはなるほどと思いました。そうかもしれない。

 ハンドレッドは続けました。

「この病気がウシガエルの沼で流行っていると聞いたとき、わしはこの病気は絶対にナパージュの中に入れてはいけないと思った。もし、とてつもなく恐ろしい病気だったら、ナパージュが亡ぶと思ったからだ」

「はい」

「しかしプロメテウスもデイブレイクもお祭り広場のマイクも、いや、ナパージュのツチガエルのほとんどがこの病気を恐ろしいものとは考えなかった。で、ウシガエルがどんどん入ってきて、ナパージュの中のカエルが病気に罹った。ところが、意外に広がらなかった」

「はい」

「プロメテウスを好きな連中は、プロメテウスのやり方がよかったと褒めているが、なに、たまたま運がよかっただけだ。なぜかは知らないが、ナパージュのツチガエルと病気の相性が良かっただけだ。いや罹りにくかったから、相性が悪かったと言うべきか。いずれにしても、これは結果論だ。しかし、その幸運が結局は命取りになった。というのは、西の国にいたカエルたちは平気で入れたし、西の国へ遊びに行っていたツチガエルも平気で迎え入れた。それが悪かった」

「はい」

「西の国で流行ったウシガエル病はウシガエルの沼で流行った病気よりもたちが悪かったんだ。多分、西の国で病気そのものがよりたちの悪いものに変化したんだろう。しかしウシガエルを大量に入れても、たいして病気が増えなかったから、西の国で病気が流行っているとわかっていても、プロメテウスたちは、制限もしないでどんどん入れた。要するに、最初の油断が結果的に悪い方向にいってしまったんだ」

「はい」

「で、西の国から入ってきたウシガエル病が流行り出した途端に、ナパージュ中のカエルが大騒ぎだ。もう終わりだとか、このままいけば地獄になるとか、ナパージュは滅ぶとか、皆が悲鳴を上げた。お前たちもあの時のお祭り広場の騒ぎを覚えているだろう」

「はい」

「で、どうなったか。結局、全員今その場から動くな、となったわけだ。ところが、それから何日か経つと、この病気はナパージュを滅ぼすほどの恐ろしい病気ではないことがわかってきた。たしかに病気に罹って死ぬカエルもいる。それは気の毒なことだ。しかし西の国でバタバタカエルたちが死んでいるのと比べると、その規模は比べものにならない」

「それってなぜなんですか?」ソクラテスは訊きました。「なぜ西の国ではバタバタ死んでるのに、ナパージュではそうではないのか」

「さっきもいっただろう。なぜかは知らんが、ナパージュのツチガエルは、この病気に強い体質を持っていたというしかないな」

「理由は何ですか?」

「知らんがな」ハンドレッドはにべもなく言いました。「わしはディーアールじゃない」

 ソクラテスは無責任な言い方に呆れました。

「そんな理由の解明なんかどうだっていいんだ。後でもいい。大事なことは、なぜかナパージュのツチガエルは西の国のカエルよりも罹りにくいということだ。いずれ誰かがその謎を解くかもしれんが、今はわからん」

「けど、実は、まだ病気が本当に広がっていないだけという見方もできるんじゃないですか?」ロベルトが言いました。「そのうちに西の国のカエルみたいにバタバタ倒れるかもしれないじゃないじゃないですか」

「お前はバカか」ハンドレッドは言いました。「西の国でも最初は病気に罹って死んだカエルは少なかった。ところがそこから爆発的に増えた。ナパージュでも西の国から来た病気の数は最初は少なかった。これは西の国と同じだ。ところが、今に至るも爆発的には増えていない」

 ソクラテスは、うーん、と唸りました。ハンドレッドの言っていることは相当無茶苦茶なように思えますが、一方で妙な説得力があったからです。

 ソクラテスにはもう何が正しいのかわからなくなってしまいました。唯一わかっているのは、ナパージュは選択を間違えると取り返しがつかないことになるということです。

 はたして今後、ナパージュはどうなってしまうのだろう――。

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