朝日新聞デジタル
2020.5.6

 新型コロナウイルスのPCR検査を増やすことで自宅などで隔離療養する感染者を倍増できるなら、国民の接触機会は、国が求める「8割減」でなく「5割減」でも、感染は早期に収まるとする計算結果を、九州大学の小田垣孝名誉教授(社会物理学)がまとめた。経済活動と感染拡大防止の両立の「かぎ」はPCR検査にあることを定量的に示したもので、議論を呼びそうだ。

 小田垣さんは、感染拡大防止のために国が施策の根拠の一つとして活用する「SIRモデル」を改良。公表値を使って独自に計算した。

 SIRモデルは、まだ感染していない人(S)、感染者(I)、治癒あるいは死亡した人(R)の数が時間とともにどう推移するかを示す数式で、1927年、スペインかぜの流行を解析するために英国で発表された。疫学の専門家でなくても理解できる平易な数式で、1世紀を経た今回のコロナ禍でも国内外の多くの識者がこの数式を現実に則して改良しながら、さまざまな計算結果を導いている。

 小田垣さんによると、このモデルの難点は、感染者を、他人にウイルスを感染させる存在として一律に扱っている点だ。だが、日本の現実の感染者は一律ではない。そこで、無症状や軽症のためPCR検査を受けずに通常の生活を続ける「市中感染者」と、PCR検査で陽性と判定されて自宅やホテルで隔離生活を送る「隔離感染者」の二つに感染者を分け、前者は周囲に感染させるが、後者は感染させないと仮定。さらに、陽性と判定されたらすぐに隔離されると仮定し、検査が増えるほど隔離感染者が増えて感染が抑えられる効果を考慮してモデルを改良し、解き直した。

 「接触機会削減」と「検査・隔離の拡充」という二つの対策によって新規感染者数が10分の1に減るのにかかる日数を計算したところ、検査数を現状に据え置いたまま接触機会を8割削減すると23日、10割削減(ロックアウトに相当)でも18日かかるとした。一方、検査数が倍増するなら接触機会が5割減でも14日ですみ、検査数が4倍増なら接触機会をまったく削減しなくても8日で達成するなど、接触機会削減より検査・隔離の拡充の方が対策として有効であることを数値ではじき出した。

 国は1日のPCR検査の能力を2万件まで拡充できるとしているが、実施数は最大9千件にとどまる。小田垣さんは「感染の兆候が体に一つでも表れた時点で検査して隔離することが有効だろう。接触機会を減らす対策はひとえに市民生活と経済を犠牲にする一方、検査と隔離のしくみの構築は政府の責任。その努力をせずに8割削減ばかりを強調するなら、それは国の責任放棄に等しい」と指摘している。

 小田垣さんは研究成果をhttp://urx.blue/U6iFで公開している。

 現実に実験したり調べたりすることが難しい状況で、モデル計算によって現実を再現するのがシミュレーションだ。一部の実測データをもとに全体を推測したり、どのような対策が最も効果的かを推定したりするのに使われる。

 国がコロナ禍を乗り切る政策判断にあたって根拠とするシミュレーションは、厚生労働省クラスター対策班が担う。1日の専門家会議では、同班が算出した「実効再生産数」のグラフが初めて示された。実効再生産数は、「ひとりの感染者が周囲の何人に感染させるか」を示す数字で、政策判断の目安として注目される。

 その数値の妥当性はどうか。シミュレーションは使うモデルやデータ、前提条件によって結果が大きく変わる。国の公表する新規感染者数や検査数などのデータは、最新の結果を反映していなかったり、すべての感染者を網羅できていない可能性があったりするなど信頼性に難がある。そのような中で、計算結果の正しさを主張するなら、計算手法や使う数値などの情報を公開すべきだが、これまで明らかにしていない

 シミュレーションの妙味は、データ不備などの悪条件下でも、起きている現象の本質を捉えることにある。今回、小田垣孝・九州大名誉教授の結果は、「検査と隔離」という感染症対策の基本の重要性を示した。その徹底によって感染者数を抑え込んだ韓国の事例をみても、意義の大きさは論をまたない。

 PCR検査の件数がなかなか増えなかった日本では、市中感染者の実像を十分につかめていない。4月7日に緊急事態宣言が出て以降、国は「行動自粛」によって時間をかせぎ、その間に検査を拡充して医療態勢を整備し、次の波に備える作戦を取った。

 全国民を巻き込む施策を続ける以上、政策判断が恣意的であってはならない。西村康稔経済再生担当相が4日の会見で、今後の政策判断として「科学的根拠をもとに、データに基づいて」を強調したのはこうした理由からだろう。

 国のシミュレーションはクラスター対策班が一手に握る。詳しいデータの早期公開を実現し、他の専門家の試算も交えながらオープンな議論を進めるべきだ。その過程を経ずして「科学」をかたってはならない。

(嘉幡久敬)





「科学的根拠をもとに、データに基づいて」と言いながら、政府はそのデータを示さない。

専門家会議はモデル計算の結果は示すが、計算のもとになった条件やデータは示さない。

今回の小田垣さんのように、情報はすべて公開にして専門家間のオープンな議論をすべきだろう。

小田垣さんのモデル計算による提言は納得のゆくものである。

このまま検査を拡大せずに「外出制限」だけに対策を頼っていたら、市民生活と経済の犠牲が大きくなるのみで、出口が見えてこない。

徹底的な「検査と隔離のしくみの構築」なくして自粛解除と感染収束はあり得ない。

この小田垣さんの提言は今朝(5.8)のモーニングショーでも紹介されていたが、「検査と隔離」の重要性はモーニングショーが当初から一貫して主張していたことでもあった。

とにかく①必要な検査をたくさんする→②感染者を早期に発見して早期治療につなげる→③感染者は隔離して更なる感染を防ぐ。

この当たり前の論理がなぜなかなか受け入れられなかったのだろう。今でもモーニングショーは攻撃されている。




・検査と隔離をめぐるツイートを紹介


○理論物理学の先生に言われてんじゃん。【PCR検査数を増やし、感染者を隔離する対策が最も有効】僕だけじゃなく、2月からみんな言ってたじゃんねえ。厚労省やクラスター対策班とクラスター潰しを支持してPCRは信用ならないと言っていた医者や大学教授あっちは全員責任とれや。

○結局、「PCR検査するな」の声の嵐は何だったんだろう。水際でたくさん検査をして、全国に陽性者の隔離外来を設けるやり方をやっていたら、今頃は緊急事態宣言も解除されて、経済活動も再開できただろうね。厚労省までがモーニングショーの指摘を謙虚に受け止めなかった。ホント変な国になったよね。

○不思議なのは。我が国は「経済、経済」と言うのに、どうして「徹底的に検査、隔離して(多少偽陰性があっても)感染の状況を把握、経済活動を再開させよう」とならないで「検査を抑えて誰が感染しているかわからないから自粛しましょう」となるのでしょうね? 検査をしてきた韓国や台湾は経済再開です。

○死に至る感染症が流行する中で、検査も隔離もろくにせず、マスクも消毒液もなく、自粛の要請はあるがまともな補償はなく、感染者が出た家には嫌がらせが始まり、国はカビの生えたマスクを配り、どこかの自治体では雨がっぱを集め、またどこかではアマビエの像を立て、総理大臣はカンペを読み上げる。

○新しい生活様式のこと考えてて気がついたんだけど、もしかして、ボクたちの政府は、あくまでもお金をかけないですまそうとしてる? 自粛、手洗い、生活様式…。全部、政府じゃなくて、ボクたちの「努力」でなんとかしようとしてる? はやく検査と隔離の体制を。自粛への補償を。医療従事者へボーナスを。

○敬意、感謝、絆、って何だよ。今この国に必要なのは、検査、隔離、給付金だろうが。あー、しんど。つら。むり。

○ぶっちゃけ日本も韓国も最初に考えたことは同じだったと思うのよ。病院に患者が殺到して院内感染が発生したらどうしようって。んで韓国は相談電話増やし専用診療所つくり検査と隔離を始め、日本は電話を繋がらなくして家で寝とけと放置したと。そら両国で最終的に大きな差がついたの必然よね。