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1HAM ◆HAM.ElLAGo :2020/04/29(水) 20:52:49 ID:nPAva3e2

オレの神様としての能力。

人間に「なにか」を与える。

その代わりに「なにか」を奪う。

与えたものと、同じ価値の対価をもらう。

その能力を使って、オレは人間に干渉すればいいらしい。

……別に干渉しなくてもいいらしい。

ヒマだし、人間はわりと面白いし、オレは度々人間に接触しては遊んでいた。







2以下、名無しが深夜にお送りします :2020/04/29(水) 20:57:59 ID:nPAva3e2

……

「動物に好かれる力が欲しい」

「なんだって?」

目の前に寝そべる少年。

なんだか、ただ物でない雰囲気があるけれど、願ったものは可愛らしいものだった。

「動物たちとね、会話がしたいの」

「そりゃあまた難しい願いだな」

会話か……動物が寄ってくる能力とはまた別物だ。

同時に二つは与えられない。

「会話がしたいか? それとも好かれたいか?」






3以下、名無しが深夜にお送りします :2020/04/29(水) 21:03:48 ID:nPAva3e2

「んー」

少年はしばらく考えた後、「動物に好かれる力」を願った。近くの動物は寄ってくるようになる。

「会話できても、動物が寄ってこないと意味ないよね」

「ぼく、たぶん、動物に嫌われてるからさ」

「会話だけできても、悪口言われるだけかもしれないし」

確かに。

小さいのによく考えているやつだ。

「『よう人間の出来損ない! 俺様の視界に入るんじゃねえ!』とかネコに言われたら立ち直れないよ」

ああ、それはつらい。

泣くかもしれない。






4以下、名無しが深夜にお送りします :2020/04/29(水) 21:08:43 ID:nPAva3e2

その能力に対して、オレが奪う対価は「足のにおい」だった。

つまり単純に、足が臭くなる。

「お父さんと同じ感じ?」

「お父さんが3日足を洗わなかったにおいが、常に足からする」

「うげ」

「まあ、しっかり靴を履けばマシになるんじゃねえか」

少年を慕って寄ってきた動物たちが、足のにおいに悶絶するのは可哀そうだ。

「靴……苦手だけどちゃんと履くことにするよ」

少年は裸足が好きだった。

いつも裸足で走り回っては、動物たちを追いかけ回していた。

だけどなぜか、動物たちは彼を避けていた。

それが今日から、変わるのだ。






5以下、名無しが深夜にお送りします :2020/04/29(水) 21:17:49 ID:nPAva3e2

オレが手をかざすと、少年に「動物から好かれる」能力が与えられた。

と同時に、足のにおいが臭くなった。

地獄みたいなにおいが足元からする。

オレはとっさに呼吸を止めた。

「うぇっほ!! オエ!」

少年自身も自分の足のにおいに絶望していた。

「目に来る!!」

のたうち回っている。

においをマシにする草とか探してきてやろうか。

あれはさすがに可哀そうだ。






6以下、名無しが深夜にお送りします :2020/04/29(水) 21:25:02 ID:nPAva3e2

と、ウサギが一匹、彼のもとへ近づいてきた。

口をもぐもぐさせながら、悶絶する少年に身体をこすりつけている。

「あ、あれ? どうしたの? 臭くないの?」

少年は自分のにおいに苦しみながら、初めての体験に嬉しさを隠せないようだ。

ウサギはなおも少年のそばを離れない。

試しに少年が足を向けてみたが、一向に離れていかなかった。

「あ、あはは、あははははは。嬉しい! こんな近くに動物がいるなんて!」

彼は心から嬉しそうな表情を見せてくれた。

オレはその顔を見て、満足することができた。






7以下、名無しが深夜にお送りします :2020/04/29(水) 21:29:56 ID:nPAva3e2

こうして、動物には好かれる一方、人間がまったく近寄ってこない少年が出来上がった。

逆のものを奪ったという点で、やはり「対価」と言える。

しかし少年はまったく満足そうだったし、オレはそれで十分満足だった。

オレは人間がなにを欲しがっているか、観察して、想像した。

予想通りのこともあれば、まったく見当違いのこともあった。

だがそれが面白かった。

人間は、オレを退屈させなかった。






8以下、名無しが深夜にお送りします :2020/04/29(水) 21:33:56 ID:nPAva3e2

……

あるとき、欲しいものを尋ねたらこう答えたやつがいた。

「誰もが羨む野球の才能が欲しい。ただそれだけが欲しい」

その男は目をギラギラさせて、居酒屋でオレに語った。

小さいころから努力して努力して、血のにじむ努力をしてきた。

誰にも負けない情熱がある。野球を好きだという気持ちがある。

だけどそれだけじゃあどうにもならないのだ、と。

「でもアンタ、プロ野球選手になったんだろ? 才能、あるんじゃないか」

プロになれない人たちが、いったいどれほどいるというのか。

「なれただけじゃ、ダメなんだ」

男は大きく肩を落とした。






9以下、名無しが深夜にお送りします :2020/04/29(水) 21:39:46 ID:nPAva3e2

「プロは化け物どもの世界だ。俺なんかが割って入れる余地はねえ」

「二軍ですら、俺の活躍の場がねえ」

「だから……他のなにを失ってもいい……野球の才能が欲しい……」

男はそう言って、酒をあおった。

「へ……今年の冬にゃあ戦力外だよどうせ……心が折れちまいそうだ……」

頭を掻きむしってうつむく。

まだ若いのに。

野球の世界は厳しいようだ。

オレはこの男に野球の才能を与えることにした。






10以下、名無しが深夜にお送りします :2020/04/29(水) 21:45:39 ID:nPAva3e2

「野球の才能って言っても、様々だろう? 打撃、守備、走塁、投球」

「そっからさらに細分化されるだろう? 直球の質とか、コントロールとか、鋭い変化球とか」

「アンタはなにが欲しいんだ? そもそも守備位置は? ライバルに勝つには何の能力が必要だ?」

急に具体的な話になったものだから、男は多少訝しんでいたが、オレの質問に答えてくれた。

「俺は外野手だ。守備力は平凡。肩も普通。外野手が天下を取るためには、突出した打撃力がいる」

「ああ、まあ、走塁もありだが、俺が目指したいのは打撃の神様だ」

「パワーはないわけじゃない。だがバットに当たってくれないんだ」

「球が見えてないわけじゃないんだが、バットがきっちり当たらねえ」






11以下、名無しが深夜にお送りします :2020/04/29(水) 21:50:50 ID:nPAva3e2

「そうだな、あえて言うなら、欲しいのは『コンタクト力』だな」

ボールにバットをぶつける能力。

簡単そうで、やはり難しいらしい。

「速い球、動く球、落ちる球、伸びる球……どんな球が来ても、きちんとバットに当てられる能力」

「そんな力が俺にあれば、打撃で天下を取ってやれるのに……」

面白そうだ。

この男が天下を取るところを見てみたい。

能力の成果をすぐに実感できるところと言えば……

「おいアンタ、今からバッティングセンターに行くぞ」






12以下、名無しが深夜にお送りします :2020/04/29(水) 21:55:42

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