新型コロナウイルス禍で経済活動の停滞が長引き、中小企業の体力は限界に近づきつつある。日本で働く人の約七割を占める中小企業従業員の雇用を守るため、制度の拡充に全力を尽くしたい。
新型コロナが引き金となった経営破綻は月を追うごとに増えている。東京商工リサーチによると、二月は二件、三月は二十三件だったが四月は八十四件に急増し、今月八日時点での破綻件数は百二十八件に達した。
今後も、手持ち資金が一カ月~一カ月半程度といわれる中小企業の資金繰りが厳しくなるのは必至で、従業員の雇用は瀬戸際に立たされている。
自然災害などで業績が悪化した企業が、雇用を維持しながら活用できるのが「雇用調整助成金」制度だ。従業員を一時的に休業させた場合などに、企業が支払う休業手当(賃金の60%以上)や賃金の一部を国が助成する。政府は感染拡大を受け、支給対象を雇用保険に加入していないパートらにも拡大し、助成率を引き上げた。上限額の引き上げも検討されている。
しかし、利用は進んでいない。厚生労働省によると、新型コロナの相談窓口を設置した二月十四日以降、四月下旬までに全国の労働局に二十万件超の相談が寄せられたが、同二十八日時点で申請は三千四百五十九件、支給決定は三百二十九件にとどまる。
申請にさえたどり着けない事業者が多い背景には、事務の煩わしさがある。従業員の勤務日数や労働時間に関する書類などが必要になるが、店主とアルバイトだけの小規模な飲食店の場合、そもそも人事・労務担当者がいないケースが大半だ。申請を支援する社会保険労務士から「現場を知らない官僚が机上で考えた制度。本当に苦しい経営者を救えない」との声が漏れるのも当然で、制度拡充が周知徹底されていないのも、利用が進まない原因となっている。
批判を受け、政府も七十以上あった記載事項をほぼ半減した。オンライン申請も五月中に始める方向で検討中。従業員数がおおむね二十人以下の小規模企業に関し、助成額の算定方法を簡略化する。ただ、これらが特効薬になり支給が急速に増えるかは疑問が残る。さらなる工夫が必要だ。
感染は第二波、第三波も懸念されている。一番大きな影響を受けるのは、やはり中小企業だろう。この制度に限らず、緊急時にこそ即効性のある支援の仕組みをあらかじめ考えておきたい。
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