結論から言うと、ヤマハの「FM音源」は周波数変調ではなく、位相変調(PM) です。
FM(Frequency Modulation) とPM(Phase Modulation) は非常に近い関係にあり、両者はまとめて「角度変調」(angular modulation) と呼ばれています。
ヤマハのFM音源チップのデータシートでは、FM音源の基本式として、
のような式が記載されています。この式は、前述のチョウニング博士の本には出てきません。
これは、外側の をキャリア、内側の をモジュレータとする直列型の2オペレータ・アルゴリズムになっています。
この式は、角度変調の基本式と同じ形で、パラメータ には「変調度」(modulation index) という名前が付いています。
FMとPMとの違いは、変調度の定義にあって、PMでは、変調度はモジュレータの(角)周波数に依存しません。 一方、FMでは、キャリア角周波数偏移を と定義すると、
変調度
と表されます。
ヤマハのFM音源チップのオペレータの構成では、オペレータ出力は、音色データの TL (Total Level) と、 EG 出力と、キーボード・スケーリングの補正値を掛け合わせた数値になり、(角)周波数に依存するメカニズムは存在していません。
ディジタル処理では、「位相」を表現している数値に変調をかけるのと、「周波数」を表現している数値に変調をかけるのとに、特に有利不利はありません。
それなのに、なぜPMが採用されているかを考えると、
- FMでは変調度がモジュレータの(角)周波数に反比例するので、相対的に高次高調波の成分が小さくなり、色々な音色を出したい楽器向きではない
- PMではモジュレータの(角)周波数を変化させても変調度が一定なので、発生するスペクトラムのエンベロープが不変となり、音作りがしやすい
などの点が挙げられると思います。