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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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人体実験

「あらー?」


 ワシが指示した移動先はサディナの秘密基地がある島である。

 下にはサディナがワシを見つけて手を振っていた。


「あれ? ごしゅじんさま、もう降りるの?」

「ああ、この空中要塞モードは燃費が非常に悪いのでな、そんな長時間飛ぶ事は出来ん」


 研究所モードに変化し、サディナの秘密基地の島に大きく根を伸ばしたキャッスルプラントは充電モードに変化する。

 まだやらねばならない事があるのだ。

 今は少しでもエネルギーを集めて貰わねばな。


「ナオフミちゃんどうしたの? 派手な登場でお姉さん驚いたわー」

「ふむ、確かお前はラフタリアの保護者だったな」

「今はナオフミちゃんでしょ?」

「奴は偽者だ。ワシの提案を蹴りおった」


 ワシは先ほど起こった出来事をサディナに一から説明する。

 するとサディナはパチクリと瞬きを繰り返す。


「……あらーそうだったのー」


 そしてあっけらかんとした様子で頷いた。


「何が保護者だ。偽者と本物の区別がつかないのか」

「お姉さんも気づかないなんて凄いわねー」

「まったく!」


 とんだ御守りだ!

 護衛対象が別人になっている事に気づかないなんてどれだけ間抜けなんだよ。


「ごしゅじんさまーこれから何するの?」

「世界征服に乗り出すのですよね。まずはどの国を攻め落としますか?」

「まだだ!」


 兵力の確認が済んでいない状況で即座に侵攻など出来るものか。

 それ以前に、ラフタリアがいなければ世界を支配する意味も無い。

 ならばする事は一つ。

 キャッスルプラントの中枢部でワシは更なる改造を指示した。


 命令は広範囲索敵だ。

 出力は限界まで引き上げる。

 後の事を考える必要はない。一回限りで十分だ。

 キャッスルプラントのライトがチラつく程の出力で屋根の上から広範囲索敵の波紋を展開させる。


「わ!?」

「な、なに?」


 キャッスルプラントに居る人員は元より、世界中の人々、生命、全てがその瞬間に何かが体を通り過ぎる錯覚を覚えたと後に事件を振り返って語る。

 もちろん、言われてみれば気の所為で済む程度の感覚だったのだろうがな。

 キャッスルプラントは発信地だった故に奴隷共は感じ取ることが出来たのだ。


「よし!」


 ワシが指示した広範囲索敵の検索対象はただ一人。

 ラフタリアが何処に居るかだ。

 もちろん、あの偽者では無く、本物のラフタリアだ。

 その為に、盾の中にあるラフタリアの毛髪を登録して検索対象に流した。

 石板に検索中のアイコンが浮かび上がり、多大な情報が高速で処理して行く。


 ……検索完了。結果は……


「な――」


 ワシは絶句するしか無くなってしまった。


 1件。


 だからワクワクしながら何処に居るかを調べるとあの偽者だった。

 そんな……本物のラフタリアは既にこの世にいないと言うのか……。

 馬鹿な。ラフタリアがそうやすやすと殺されるはずもない。

 だが、これは事実として物語っている。

 ワシの技術が間違っているはずはない。


「う……うう……」


 絞殺されるかのような絶望がワシの心を支配する。


「ごしゅじんさま泣いてるの? 大丈夫?」

「兄ちゃん。なんか悲しい事でもあったのか?」

「尚文様? どうか泣きやんでください。尚文様の涙を拭う事が出来るのなら、私は何でも致しますわ」

「アトラ! 変な事を言うんじゃない。っていうかコイツ! 本気で泣いているぞ! ガチ泣きだ」


 お気楽な連中だ。

 ラフタリアがもうこの世にいないと言うのに!

 こうなってしまったら、ワシは何を糧に生きていけば良いんだ……。

 そもそも、いつラフタリアは殺されたのだ。

 タイミングがわからない。


 修行をしている間か、それとも村に帰ってきてからなのか。

 偽者は随分と上手く偽装していたが、本物を詳しく調べたはずだ。

 となると、アイツを縛り上げて白状させるのが一番か?

 ……いや。どちらにしてもラフタリアがいなければ意味が無い。


 そうだ。

 ラフタリアがこの世にいないのなら、蘇らせるしかない。

 だが、何処で死んだかわからないラフタリアの遺体を見つける手立てが無い。

 どうする?


「ナオフミちゃん。どうしたのー? さっきから泣いたり真剣な顔になったりコロコロと表情変えてるけど」

「……ホムンクルスでラフタリアを複製すれば……いや、それはあの偽者を作りだすのと変わらないではないか」


 そう、あの偽者はおそらくラフタリアを複製したホムンクルスに違いない。

 盾が教えてくれた技能にホムンクルスに関しての詳細が俺の頭に入っている。

 ホムンクルスは確かに本人そっくりに作りだす事が出来るが延命させるには定期的な投薬が必要で、それでも長く生きる事は難しい。

 それをワシは生きるなんて呼ばない。


 ラフタリアを寸分違わず蘇らせないといけないんだ。

 雲をつかむような発想だが、今のワシに出来ない事は無い。

 よし、まずは世界征服の前にラフタリアを蘇らせる事から始めよう。


 そして今いる配下共の強化もせねばならん。

 と、思っている所でキャッスルプラントが広範囲索敵の反動であるオーバーヒートから復旧して警報を発した。

 ワシは迷わず管理端末である石板に手を乗せる。

 ピッと遠隔撮影した映像が浮かび上がった。


「わーすごーい!」

「何が起こっているのですか、尚文様?」


 アトラは目が見えないからな。

 映像を見る事が出来ない。


「ふむ、あの偽者が勇者共を引き連れ、ガエリオンに乗ってこっちに向かってきているようだ」


 このままでは直ぐにこの研究所に追いつかれてしまう。

 まだ、キャッスルプラントは建築中である。

 今攻められたら簡単に落とされてしまうだろう。


「どうしますか?」

「問題ない。こんな事もあろうかと既に対処はしてあるのだ」


 ワシはピッと石板にコマンドを入力する。



 偽者はガエリオンに乗ってワシの研究所に向かって飛んできている。

 音声も拾えているので、何を話しているか筒抜けだ。


「なんですかあの建物は!」

「骸骨を模した建築物が島を覆い始めている……」

「キュア!」

「まったく……早くナオフミ様を捕まえて正気に戻させましょう」

「ああ」


 させるか。

 その時、ワシが指示したコマンドが発動し、ここに来るまでに蒔いていたキャッスルプラントシードが芽を出す。

 急速に海上に飛び出すキャッスルプラントの眷属、タワープラント。


「な、なんですかこれ!」


 ガエリオンが目を白黒させながら飛びだす塔を避けて進んでくる。

 奴等の目にはアクション映画のように写っているだろう。

 だが、別に塔を出して追い返せるほどガエリオンも偽者も甘くは無い。

 そのまま飛んで着ようとする。


 ワシがその程度で済ますはずもなかろう。

 タワープラントの最上階が光り輝き、研究所と共に大きな結界を形成する。

 中枢はもちろん研究所だ。

 その研究所を中心に聳え立つタワーから生み出される、結界がドーム状に幾重にも重なって強固な防壁を形作る。


「な、なんだ!」


 出現した結界にガエリオンはぶつかり、一瞬間抜けな醜態をさらしたが、直後に結界に押し出され錐揉み回転しながら飛ばされて行った。


「きゃあああああああああああ――……」

「うわぁあああああああ――……」


 偽者と偽者に加担する勇者が間抜けな声を出しながら飛んでいく姿は滑稽だったな。



「さて、これでしばらくは偽者が近付く事が出来ないだろう。その間に準備を整えようではないか」

「これってどういうモノなのかしらー?」


 サディナが画面を見ながら尋ねてくる。

 ふむ、一応は説明せねばならんか。


「ああ、これはワシの盾に繋がっている永続的な流星盾とシールドプリズン発生装置だ」


 ワシの力に掛ればこの程度造作も無い。


「……凄い便利ねー。弱点とかは無いのかしら?」

「そうだな、難点はここに来るまでにばら撒いた八つの塔を全て破壊されると効果を失ってしまうのだがな。上手く調整するのが難しく、一度壊されると修復するには全ての塔の機能を停止させねばならない。まあ、第一塔から破壊していかねばならないから時間稼ぎができるけどな」

「兄ちゃん、それじゃあオレ達は塔を守ればいいんだな!」

「ああ、塔を守るのもお前等の任務の一つではあるが、あの無能な偽者共が気付けるはずもない。何せ、塔は全て同じ外見だ。第一塔がどれなのか見抜く事もできないだろう」

「……ナオフミちゃん、塔の順番を教えて欲しいな? ほらお姉さん達は塔を守らなきゃいけない訳だし」

「これが第一塔だ。第二塔は――」


 と、順番に全員に言って聞かせる。

 まず見つかる事は無いだろうが、攻められた場合守るべき拠点なのは事実だ。


「レンちゃんやイツキちゃんがいるわよね? 結界が壊されたりしないのかしらー?」

「強度は保障しようじゃないか。しかも一度壊されても即座に再生するので勇者共の攻撃を受けた程度では突破される事はない」

「じゃあ私達も出られないの? お姉さん困るわー」

「問題ない。流星盾と同じ原理を採用している。つまりワシが許可した人員は出入り自由だ。存分に海域を警護せよ」


 現状、少々の問題を抱えているが、絶対防壁の拠点はありえない。

 何より我等は攻める側であって、守る側ではないのだ。

 一方的に相手を蹂躙する事が世界征服の為の一歩だ。

 まあ、それよりも前にする事があるんだがな。


「わーすごいわね」

「さすがですわ尚文様」

「ごしゅじんさますごーい!」

「お義父さん! やりましたね」

「す、凄いのか? 俺には何がなんだか……アトラ、本当にコイツについて行くつもりなのか? 悪者にしか見えないぞ」


 各々がワシを称賛している。

 当たり前だと言うのに言われて嬉しくなるではないか。


「ははは、褒めるな褒めるな!」

「何か違うんじゃない?」

「そうね。あのメスの飼い主、絶対何処かおかしいわよね」

「そうだね。でも、僕達がする事は変わらないはずだよ」

「というか、アイツの笑った顔初めて見るんだけど……」

「いつもブスっとつまらなそうな顔しているもんね」

「どうみても調子に乗ってるわ」


 元康の三匹が何やら言いたげだ。

 知らんがな。


「兄ちゃん兄ちゃん! これから何するんだ?」

「まずは人員を確認だ! 皆の者集まれ!」

「「「おー!」」」


 と、奴隷と魔物共がワシの指示に従って集まる。

 ふむ……大体、半分くらいか。

 そうだ。奴隷紋を使ってあのラフタリアに成済ました偽者を殺せないか?


 と、項目を開いたのだが、エラーが起こっているのか、砂嵐が起こって何も指示できない。

 奴隷紋は使えない。厄介だな。

 しょうがない。あの偽者の処分は後にして……っと。

 ワシは一つ気づいた。


「フィーロ、お前の配下が少ないぞ」


 フィロリアルが五分の一くらいしかいない。

 これは幾らなんでも少な過ぎる。


「元康、お前もだ」

「みんなついて来てくれませんでした! 時間もありませんでしたので後で連れてきます」

「まかせた。とはいえ、フィーロと元康が居て何故こんなに少ない?」

「あのね。ヒヨちゃんが、フィーロの邪魔してごしゅじんさまに付いてこなかったの」

「ヒヨちゃん?」

「フィーロの眷属一号」


 ああ、配下一号ね。そんな名前だったのか。

 あの裏切り者が!

 ぶりっ子の癖に、偽者に付くとは愚かな選択をしたモノだ。

 これはワシ直々に制裁を与えなければならんな。


「後は研究所の治療区画で療養中だった子がいるよ」

「そうか……では先にそっちの意思を聞きに行かねばならんな。他の奴らは各自作業を始めろ」

「はい」

「作業って何すんだ兄ちゃん。行商か?」

「違う。別室に光る石を設置してある。その近くで休んでいれば良い。魔力を勝手に回収してくれる」

「わかったぜ兄ちゃん!」


 キールが先頭に立って他の奴隷と魔物共を連れていく。

 残ったのはアトラ、フォウル、フィーロ、サディナ。

 ワシ達は療養区画へと向かった。



「うう……」

「来るな……来るな……」


 治療中の亜人奴隷共が押し込められた研究所の療養区画。

 ラトや治療院の連中が先頭に立って治療していたはずだが……あまり結果は芳しくないようだ。


 部屋の隅で丸まって頭を抱えている奴隷や、虚ろな目で震えている奴隷。

 どう見ても壊れる寸前な者が多い。

 何度も治療の為に来ていたから知っている。


 イグドラシル薬剤は万能だけど、下手な薬物の乱用は危険だと注意されたんだ。

 こいつ等はイグドラシル薬剤を使うと生命に関わると使用を制限された。

 それでも少しは使ってこうして命を繋いでいる。


 少しずつ、治療して行かないといけないし、精神的なケアも必要だ。

 幸いにして、ワシやラトは信用してくれて来ていた所だったが。


「フィーロここイヤ……なんか凄くイヤ……」


 元気なくフィーロが呟く。

 確かにまともな精神であったなら、ここに長くとどまりたいとは思わないだろう。


「毎度、今にも消えそうな、悲しい気が感じ取れますね」

「……」


 フォウルは収容されている奴隷を見て、なんとも言えない悲しそうな顔をしている。

 昔のアトラもある意味、ここに居る連中と似たような状態だったからな。


「さて、お前等」


 ワシは治療中の奴隷共に声を掛ける。


「キャアアアアアアアアアアアアアア!」


 ワシの声に反応して絶叫する奴隷。毎度の事なので、慣れている。

 やがて声も枯れたこの奴隷。

 薬物で体の半分が異形化し、目が極端に大きくなっている。言わば化け物となっているんだよな。

 少しずつよくなってきてはいるが、完治するのはワシの盾の力を併用しても希望的観測だと言われた。


「落ちついたか? さて、お前はワシに付き従うか? それともこのまま朽ちるか?」

「……」


 返答も無く、虚ろに天井を見つめるその目は狂気だ。

 ふむ……これは厄介だな。

 ワシは人体実験と遺伝子改造の技能を発動させ、目の前の奴隷に施す。

 条件は異形化の、出来る限りの治療だ。

 ワシの盾から青白い幾何学模様の文字が飛んでいき、治療中の奴隷を縛りつける。


「!?」


 ガクガクと震えながら逃げる事も出来ず、奴隷は声にならない叫びをあげる。

 その様子を、同じ部屋で治療中だった奴隷が、部屋の隅で縮こまりながら見ている。

 大方、処分される時が来たと思っているのだろう。

 やがて幾何学模様の文字が更なる光を放って……治療を終える。


「あ……」


 治療を終えた奴隷がパチクリとワシに目を向ける。


「さて、調子はどうだ?」

「痛くない。苦しくない……ぼんやりしない」

「そうか」

「確か……時々とても楽になる薬を処方してくれた人ですよね。私を助けてくれたのですか?」

「ああ、もうお前は限りなく正常だ。なんなら外へ飛び出して走って来い。フィーロ、少し相手してやれ」

「うん!」

「ありがとうございます!」


 奴隷はワシに深々と頭を下げる。

 そしてフィーロに連れられて少しの間外へ出かけて戻ってきた。


「本当でした。どうもありがとうございます」

「さて、それでは尋ねるとしよう」

「なんですか?」

「お前はワシの味方として新世界を作る為に力を貸すか、それとも愚かにもワシの敵となって外へ出るかだ」

「……敵となったらどうするんですか?」

「追い出すだけだ。世界中の者に言える事だが、敵対すれば短い命だ。何処へなりとも行けば良い。奴隷紋は解除させてやる」


 奴隷はワシの言葉を何度も反芻しながら……。


「はい。貴方が私を助けて下さったのなら、少しでも恩返しをさせてください。貴方はどのような方なのですか?」

「ワシか? ワシは――」

「ナオフミちゃんは盾の勇者なのよー。亜人みんなの神様」

「ええ!?」


 サディナがワシの名乗りを遮って治療された奴隷が驚く。


「お前の言質は取った。さて、次の奴の治療だ。さっさとこの区画から移って出来る事を始めろ」

「わ、わかりました」


 こうして治療中だった奴隷共を全員治して、新たに配下へと加えた。

 難点はLvがどれも低いと言う事か。

 その問題も盾の力でどうとでもなる。

 だが順序は大事だ。

 そっちに力を割り振る暇があるのなら、今はやらねばならない事が沢山ある。

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