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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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空中要塞

「な……」


 なんだと!

 何故ラフタリアがこんな敵愾心に満ちた目でワシを睨む!?


「何を言っているんだラフタリア!」

「私の知るナオフミ様は間違ってもそこまでの事は言いません!」

「ワシは常に進歩している。考えを改めたんだ!」

「幾らなんでも無理があります。貴方は誰ですか?」


 く……何故ワシに逆らう。


「あ、尚文様。どうかなさいましたか?」


 アトラがフォウルと一緒にやってくる。


「アトラちゃん。ナオフミ様の様子がおかしいんです。何か分かりませんか? いえ、偽者かもしれません」


 ラフタリアがけん制しながらアトラに尋ねる。

 何を疑っているんだ? ワシの様子がおかしい?

 それはラフタリアではないか。

 ラフタリアはワシを否定などせん。

 この考えに同意するはずなんだ。


「そうですねー……」


 アトラはマジマジとワシの方に顔を向け。


「ワシを疑っておるのか!?」

「どう見ても変だぞアトラ!! コイツの、何かがおかしい!」

「大丈夫ですわ。偽者ではありませんわ」

「そうなのですか? では一体どうなっているんですか!?」


 変幻無双流を使ったのか、ラフタリアがワシを睨む。


「何か……纏ってますね。あのおかしな盾が原因ですか?」

「ラフタリアさん」

「なんですか?」

「問題はありませんわ。尚文様におかしな所などありません」

「あの自分称を聞いても言えるんですか!?」

「はい。私は尚文様がどんなお姿になろうとお慕い致しますわ」

「それっておかしいって認めた様なものじゃないですか!」


 ラフタリアとアトラがいつも以上に熱論をしている。

 やがて騒ぎを聞きつけて、錬、元康、樹、リーシア、その他奴隷共が食堂から出てきて集まって来た。


「なんだ? どうしたんだ?」

「喧嘩ですか? 珍しいですね」

「お義父さん。フィーロたんの健康管理についてお話をしたいのですが」


 錬達がこっちに来て尋ねてくる。


「お? 役に立たない知識で勝手に自爆したゴミ共ではないか。お前等は引っこんでいろ!」

「!?」


 錬が目を白黒させてラフタリアに顔を向ける。

 貴様の様なゴミが見て良い相手ではないぞ。


「ふぇえ……何が起こっているんですか!?」

「では引っこんでいましょうか? なんか違う気がしますけど」

「引っこんではダメです!」


 見飽きた問答を繰り広げておる。

 そんな事よりもラフタリアだ。

 何故ラフタリアはワシを拒む!?


「お義父さん、どうしたのでしょうか?」

「元康、お前は黙っていろ」

「アトラちゃん。アレを見てまだ言うつもりですか?」


 ラフタリアの問いにアトラは再度頷いて答える。


「ええ、何度だって言い切れますわ。尚文様で間違いありませんし、何かおかしい所がありますか?」

「おおありです! なんですかさっきのセリフは! 世界征服を宣言しましたよ!?」

「では世界征服に乗り出そうではありませんか。尚文様が望むのなら必要な事だと私は思います」


 アトラはワシの全てを肯定した様だ。

 ラフタリアはここまで妄信的ではないが、ワシの事を理解してくれるはずだ。

 では、この目の前にいるラフタリアは何故、ワシを理解しない。

 ……そうか!


「さては貴様! 偽者だな!」

「いきなり何を言うんですか!」

「だってそうであろう。ワシの知るラフタリアは決してワシに向かって敵意など持たん!」

「ナオフミ様、とりあえず元に戻ってから話をしましょう。じっとしていてください」


 剣をワシに向けたラフタリアが変幻無双流の気を使った攻撃をしようと低く構える。

 やはりそうだ。

 ラフタリアはワシに剣を向けたりしない。

 おそらくはクズか何かが画策した偽者がワシの暗殺を企てていたであろう。


「させませんわ」

「アトラちゃん、退いてください」


 アトラがフォウルを突き飛ばして前に出る。

 やがて偽者とアトラが問答を始める。

 そんな所にフィーロがやって来て不思議そうに尋ねる。


「お姉ちゃんどうしたの?」

「フィーロ、どうしたではありません。ナオフミ様の様子がおかしいので、取り押さえましょう」

「えー……ごしゅじんさま、なんか普段より楽しそうだよ」

「楽しくなんかありません! 早く手伝ってください!」

「フィーロ」


 ワシがフィーロを呼ぶと、フィーロはパンの実を頬張って振り返る。

 さすがにフィーロまで偽者である可能性は低い。

 なにより先程作ったパンの実を未だに食べ続けている所が本物だと語っている。


「なーに?」

「あの偽者を相手に時間稼ぎをしろ。こんな偽者がいる場所に一秒たりともいられるか」


 まだ戦力が整っていないのだ。

 こんな場所に居たらいつ妨害工作をされるかわかったものでは無い。

 幸い、研究所のカーネルシードの改造は今さっき完了した。

 今頃ワシの招集に動き始めているはずだ。


「わかったー」

「フィーロどきなさい!」

「やー」

「私も助太刀しますよ、フィーロちゃん」

「うん」


 アトラとフィーロがワシを守るために前に出る。

 偽者の隣に錬、樹、リーシアが立って構える。


「何が何だかわからないけど、あの尚文はカースに浸食されていると見て良いんだな?」

「……私達よりも本質を見抜く目を持っているアトラちゃんがナオフミ様だと宣言しているのなら、間違いないと思います」

「だが、ここにきて尚文がおかしくなるだなんて……どうしたら良いんだ」

「とりあえず、ナオフミ様を止めて、呪いに打ち勝って貰わないと」

「と言う訳だ。尚文、俺はお前に多大な恩がある。だからこそ、俺は正気に戻させるためにラフタリアに力を貸すぞ」

「錬……一度ならず二度までも! この裏切り者が!」


 助けてやって更生する機会を授けてやったと言うのに偽者の方に付くだと!

 何処まで恩知らずなんだ、この連中は。


「侯爵! 一体何をしているのよ!」


 どうやら騒ぎを聞きつけてラトがやってきた様だ。

 という事は研究所はもぬけの殻か。

 実に無用心。


「ああ、ラトじゃないか」

「じゃないか、じゃないわよ。一体何をしていると聞いているのよ!」

「そこの偽者がワシに向かって剣を向けてきているのだ」

「偽者って……どう見ても侯爵の方がおかしいと思うわよ」

「ほう……貴様もそちらへ付くと言うのか? 所詮は無能な錬金術師か」

「事もあろうに私に向かって無能とはどういう事よ!」

「こう言う事だ」

「な――」


 ワシは盾のアイコンから遠隔操作で研究所の改造したバイオプラントに干渉し、呼び寄せる。

 ヒュンヒュンと音を立てて、大地の力……地脈のエネルギーを糧に移動空中要塞モードに変化した研究所がワシの上に浮かんで止まった。

 大きさはラトの研究所そのままだから体育館程度はあるか。

 上から梯子が降りてくる。

 ワシは梯子を掴んで、移動を指示した。


「なんですか!? アレは!」

「ワシが改造したバイオプラントの傑作、キャッスルプラントの空中要塞だ!」

「おいおい……尚文、まさか本当にお前がこんな真似をしでかしたのか!?」

「空中要塞ですか?」

「ふぇえ! なんですかアレは!」

「村の奴隷と魔物共よ。ワシはこれから新たな世界を作るために新たな拠点を建築する。我こそはと思う者はついてこい! 選択は貴様等に委ねる。味方になるならば恩威を与えよう。敵になるならば容赦はしない!」


 奴隷共は各々見合って迷ったかのようにざわめく。

 何を迷う必要がある。

 偽者とそれに連なる裏切り者共を一掃して、世界を再構築するのだ。


「みんな、あのナオフミ様は何かの影響でおかしくなっています。口車に乗ってはダメです」


 偽者が無謀にもラフタリアのフリをして奴隷共を扇動している。

 無駄だ。

 現に見てみろ。


「兄ちゃん! 俺はついて行くぜ!」

「うわっ! キール、やめろ!」

「キールくん!」


 キールがワンワンとふんどし犬の姿で錬に絡んで転ばせた後、梯子を掴む。

 仲間だと思っていたキールの不意打ちにさすがの錬も対応に困っている様子だ。


「フィーロたんの敵は私の敵ですぞ」


 元康がこっちの陣営に付くようだ。

 少々精神に問題を抱えているが、戦力としては優秀だ。

 使える者は使うまで。


「ア、アトラー! うわっ! やめっ! うわあああぁぁぁぁぁ!」


 フォウルが咄嗟に走り出して手を伸ばす。

 まあコイツなら、アトラさえ居れば言う事を聞くだろう。

 連れていってやろう。


 元康がリーシアと樹をけん制し、偽者達は大きく攻める事が出来ない。

 その隙に、魔物は全員ワシの言葉に同意して声を出すので、バイオプラントに指示して回収させる。

 ……ガエリオンが飛んできた。背中には谷子が乗っている。


「キュア!?」

「何が起こっているの?」

「ナオフミ様が呪いの力でおかしくなっています」

「また?」

「キュアアアア!」


 ガエリオンが子竜モードになってワシの方へ飛んでこようとする。

 よし、貴様が望んでいた改造を施してやろう。

 と、思ったが。


「ダメ」


 谷子が尻尾を掴んで邪魔をする。


「今の盾の勇者に付いて行って何をするつもり?」

「強くなりたいのだろう。自然は限界があるのだ。今のままでは強くなれん。ガエリオンが望む最強にしてやろう。邪魔をするな!」

「イヤよ! 今のアンタの所へ行かせたら碌な事にならないに決まっているわ」

「ふん。ラトの代わりに使ってやろうと思っていたのに、愚かな奴だ」


 さて、村の奴隷共もどっちに付くか決めたようだな。


「ではこれから、世界征服の為の拠点に移る。さらばだ偽者。よくもラフタリアのフリをしたな。いずれ本物を救い出した暁には必ず制裁を与えてやる。首を洗って待っているが良い」 

「させません!」


 偽者が剣を振りかぶってこっちに跳躍してくる。

 ふん、偽者の分際で抵抗だけは一人前だな。


「させませんわ!」

「お姉ちゃん邪魔しないでー!」


 アトラとフィーロが二人掛かりで偽者の剣を弾き、フィーロが蹴り飛ばす。


「きゃ!」


 空中での出来事、咄嗟にワシはアトラとフィーロへキャッスルプラントに指示して、回収用の弦を巻き付ける。

 これだけ距離が出来れば十分だ。

 後は魔法やスキルでの迎撃を注意しないとな。


「ではさらばだ」


 ワシはキャッスルプラントに指示して逃亡用の煙幕と魔法とスキルの妨害用の簡易ジャミングを発生させ、燃料の消費を懸念しながら結界を念の為に展開させた。

 同時に煙幕が作動し、逃走経路を確保する。


「あ、まて! く……煙が!」

「今迎撃するとあの空中要塞が落ちて乗っている人が大怪我しますが撃ちますか?」

「ダメですイツキ様! そんな事をしたら」

「わかりました」


 ふふ、偽者と無能な勇者共が目を白黒させながらワシ達を見ておる。

 偽者がワシに向けて手を伸ばす。


「ナオフミ様ーーーーー!」


 ワシは偽者に触れる手など持たぬ。

 あんなゴミ、見ている暇があるのなら本物を探さねばな。

 キャッスルプラントはワシの指示する通り、追手が簡単に来れない海の方へと移動させるのだった。

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