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外国ルーツの子どもたちと作る学校

記事公開日:2020年05月07日

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現在、日本で暮らす外国人は293万人(2019年12月末現在)。この30年間で2.6倍になり、学校には両親、またはどちらかが外国出身者という「外国ルーツ」の子どもが増えています。子どもたちの半数以上が外国ルーツという学校もあり、先生にとってはコミュニケーションや学習指導などが課題になっています。そうしたなか、積極的に課題に取り組み、異文化による教育効果をもたらした学校を紹介します。

外国ルーツの子ども 受け入れに試行錯誤する教育現場

大分県にある由布院小学校は全校児童395人。この学校で唯一の外国ルーツの子どもは、両親共にネパール人のネサン君。半年前に転校してきたばかりです。

画像(ネサン君)

ネサン君はネパール語と片言の英語しか話せませんでしたが、専任の先生からマンツーマンで日本語を習い、少しずつ上達してきました。持ち前の明るさですっかりクラスになじんでいるネサン君ですが、担任の矢田啓一郎先生は今も言葉の壁を感じることがあります。例えば、授業中に教科書の内容を片言の英語で伝えますが、うまく伝わりません。

文化の壁を感じることもあります。ほうきや雑巾の使い方、給食の時の白衣の着方や配膳の仕方など、日本独特の学校文化も一から教える必要がありました。

画像(日本独特の学校文化)

保護者への対応にも気をつかいます。例えば学校行事のお知らせは、プリントを出しても日本語があまり読めない両親には伝わりません。両親に電話をかけて伝えようとしますが、共働きのため、なかなかつながらないので何度もかけることもあります。

画像

矢田啓一郎先生

「学習面であったり、生活面であったり、そういう支援ができる先生や人材が学校現場には足りていません」(矢田先生)

求められる大学の教職課程の改革

女優の秋元才加さんは、母親がフィリピン人で父親が日本人です。学校で困ったことはありましたが、そうした経験をポジティブにとらえています。

画像(秋元才加さん)

「父は日本人だけど書類が苦手。母は外国人で書類が読めなかったりするので、難しい話は親に相談せずに、学校の先生や友だちに聞いて全部手続きしていたので、結構大変でしたね。そのおかげで早い段階で自立できました」(秋元さん)

矢田先生の気持ちがよく分かると話すのは、元中学校教師のいざわさん。自身もかつてブラジルにルーツを持つ子どもを受け持った経験があります。

画像(いざわさん)

「いつも明るくて、困っているときも『大丈夫、大丈夫!』と言っていました。休みがちな子だったけど、学校にいるときはすごく明るいので、『心配事がなくなったのかな?』と思ったら、次の日はまた学校にこない。一体、何を心配しているのか、困っているのかが分かりませんでした。今でも、もやもやしています」(いざわさん)

学校に外国ルーツの子どもが増えている今、明治大学国際日本学部の専任教授で多文化共生論が専門の山脇啓造さんは、大学の教職課程に改革が必要だと感じています。

画像(明治大学国際日本学部 専任教授 山脇啓造さん)

「大学の教職課程には外国人児童生徒教育に関して学ぶ機会が極めて少ないと思います。これからの時代は、すべての教員が少なくとも1コマはそういった授業を受ける必要があると思っています」(山脇さん)

宗教的な配慮に遅れも

学校の先生たちは外国ルーツの子どもたちとの接し方に奮闘していますが、子どもたちの保護者も同じように悩むことがあります。インドネシア人の男性と結婚してイスラム教に改宗したパームさんは、長女の水泳の授業での悩みを話します。

画像(パームさん)

「私たちは宗教上、露出があまり好まれないので、娘が小学校2年生くらいのときに、水泳は上下にラッシュガードを着て授業を受けられませんかと学校に聞いたら、1度NGだったんです。理由はみんなと違うから。でも3、4年生くらいのときに校長先生が変わって、『ラッシュガードを着てもいいですか?』と聞いてみたら、アッサリOKになりました」(パームさん)

同じくイスラム教徒のナディさんは、イランの生まれで6歳の時に来日。宗教上の理由で豚肉が食べられないため、子どもの頃に苦労しました。

画像(ナディさん)

「『完全給食』と言って、絶対残しちゃいけない時代の子どもでした。豚肉を食べないと怒られちゃうと思いましたが、勇気を出して先生に、『例えばミートソースが出てきたらミートソースはのせないで下さい。麺だけは食べるから』と説明すると、『いいですよ』と言ってくれました。でも、(給食で食べられるものが)ミカンと牛乳だけの日もあったりして、そういうときは学校が終わった後に家で食べたりして、しのぎました」(ナディさん)

山脇さんは日本の学校が、校長先生などの裁量に依存していること、宗教的な配慮が遅れていることなどが、課題だと指摘します。

「特に小学校だと校長先生の判断が大きくて、たまたまその先生が異文化に理解があるかどうかで、ルールが変わることは結構あると思います。また宗教的な配慮は、まだまだ日本は対応できてないと思いますし、対応していかないといけないと思います」(山脇さん)

保護者からは、日本語が得意ではない子どもの対応により教師の時間がとられてしまうのではないか、という心配の声もあがっていました。しかし、教育評論家の尾木直樹さんは、一人一人の子どもにあわせた教育こそが本来のあり方だと言います。

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尾木直樹さん

「親も子どもも学校の先生も大変になっている大きな要素のひとつが、学校の一斉主義や集団主義。教育本来の姿は、外国にルーツを持つ子が来ようが、あるいは日本の多様な子どもが来ようが、その子にあわせるものだと思う」(尾木さん)

自治体主導の手厚いサポート

どうすれば、ルーツの異なる子どもや保護者が、よりよい学校生活を送れるのか。この状況の解決に取り組む学校があります。

横浜市立南吉田小学校は、全校児童およそ730人のうち、半数以上が外国にルーツを持っています。もっとも多いのは、中国にルーツを持つ子どもたち。学校の近くに、日本一の規模を誇る横浜中華街があるためです。この地域にはほかにも多くの外国人が暮らし、学校には19の国と地域の子どもたちが通っています。

担任の先生は多くの外国ルーツの子どもを受け持っていますが、この学校には担任の先生をサポートする人がいます。国語の時間にやってきたのは、国際学級担当の前川貴清先生です。

画像(前川貴清先生)

一部の外国ルーツの子どもたちを連れて向かったのは国際教室。ここでは、日本語が得意でない子どもたちのために、ひらがなやカタカナなどの基礎を教えたり、簡単な日本語を使って授業を進めていきます。言葉の支援をする前川先生がいることで、担任の先生は自分のクラス運営に集中できるという取り組みです。

通常学級にも、授業内容を同時通訳する母語支援ボランティアの姿があります。こうした支援で、日本語が得意ではない外国ルーツの子どもも、授業の進度が遅れないようにサポートしています。

画像(同時通訳のボランティア)

職員室にいるのは、職員室アシスタントの賈(か)先生。外国ルーツの保護者への電話対応や、お知らせのプリントの翻訳などをサポートする専任の先生です。

画像(職員室アシスタントの賈先生)

例えば、遠足のお知らせには中国語と英語の翻訳を記載。お弁当やリュックサックなど、日本の学校独自の文化はイラストを入れて、分かりやすく伝えます。こうした職員室アシスタントの先生がいることで、外国ルーツの子どもの保護者も助かっているのです。

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中国語と英語の翻訳が記載されたプリント

画像(リュックサックやお弁当のイラスト)

南吉田小学校では日本語指導を行う国際教室は学年ごとに設けられており、それぞれに専任の先生がいます。さらに来日して間もない子どものための初期指導教室という別のクラスもあります。横浜市が外国ルーツの子どもたちへの支援にかけているお金は、年間およそ1億5千万円です。

南吉田小学校の金子正人校長は、こうしたサポートをすることが、将来の日本にとってもプラスになると考えています。

「子どもたちも将来的に日本に住んで、地域を支えていく。今の日本の人材不足を積極的に支えていく人材になっていくだろうと考えています」(金子校長)

子どもたちに生まれる変化

手厚い支援により、先生、子ども、保護者の不安を解消することを目指す南吉田小学校。子どもにも変化が生まれています。

例えば4年3組の総合学習の授業でつくっている料理は、タイの伝統的なデザート、ゲーンブアットです。

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タイ料理のゲーンブアット

実は、このクラスの担任はタイにルーツを持っているクムウォン理沙先生。先生のルーツを知りたいと、子どもたちが自ら提案して実現した授業でした。実際に食べた子どもたちは大喜びです。

画像(クムウォン理沙先生)

「これがタイの食べ物なんだなって。もっと知りたい、調べてみたいという気持ちが湧きでてきて好きになりました」(授業に参加した児童)

こうした取り組みは見守る保護者たちからも好評です。

「私たちにはなじみのないことに、子どもの頃からなじんでいる。公立のインターナショナルスクールのような感じで、新しいと感じました」(児童の保護者)

外国ルーツの子どもたちをサポートする南吉田小学校の取り組みは、外国人が増えたことで、学校や地域、保護者からの声で始まった自治体主導のプロジェクトでした。今後は、国から自治体への支援が増えてくると山脇さんは考えます。

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明治大学国際日本学部 専任教授 山脇啓造さん

「外国人の問題は、これまでかなり自治体任せで、国の取り組みは遅れてきたんですけど、日本語教育推進法という新しい法律が去年できました。これから国から自治体への支援も増えていくと思います」(山脇さん)

私たちの身近にも異なる文化を持つ人たちがいます。まずは、お互いを知ることから始めてみましょう。

※この記事はウワサの保護者会 2020年1月18日放送「外国ルーツの子どもとつくる新たな学校」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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