宴会と、サシ飲み。あの人とじっくり話すなら
みなさんは、誰かとお酒でも飲みながらじっくり話をするなら、どんな状況がよいですか? ワイワイと宴会? それともサシ飲み?
きっと静かなお店を選び、ふたりで飲む方を選ぶのではないでしょうか。
実はそれは、野菜スープの場合にも、同じことがいえるのです。
今回は、とびきりおいしいトマトが手に入ったら、野菜があれこれ入ったミネストローネにするのはもったいない!というお話です。
あらためまして、こんにちは。有賀薫です。
4年前の冬、私のスープ作りは始まりました。当時、受験を控えているのに朝まったく起きてこない高校生の息子に手を焼いていたのですが、ある朝ふとスープを作ってみところ、効果てきめん。次の日も、また次の日もスープの湯気につられて起きてくるようになったのです。
息子が大学に入った後も毎朝のスープ作りは延々と続き、研究を重ねるようになります。朝スープを提案したレシピ本『365日のめざましスープ』も出版し、スープづくりはすっかり私のライフワークになりました。
これだけ毎朝スープばかり作っていると、いろいろな気づきがあります。
・何時間も煮込まなくていい
・肉はなくても問題ない
・胡椒は常に必要なものじゃない
・バターかミルクは、どっちかだけで、かなり効く
・ダシだって、場合によっては使わなくて大丈夫
などなど。 それまで私はひとつのスープにオリーブオイルを使い、ベーコンを使い、ブイヨンを使い、さらにミルクや粉チーズも使っていました。
でも、味の濃い野菜にとって、コンソメキューブは実はありがた迷惑な存在です。 新鮮なトマトやキュウリ、あるいはふかしたてのじゃがいもは、塩をつけて丸かじりすれば十分おいしい。それと同じように、シンプルなスープでもしっかりした満足感が味わえると気がつきました。
そこから、味のかぶる素材や調味料を、ひとつ、ふたつと引いていきました。最低限、必要なものだけでやる。言ってみれば「レシピの断捨離」です。
だから、おいしそうなトマトをミネストローネにするのは、もったいない!と思ってしまいます。ミネストローネはタマネギ以外にも、ジャガイモ、ニンジン、キャベツ、セロリ、ズッキーニ、さやいんげん、ベーコンなど、野菜のごった煮です。傷みかけた野菜をざっと煮込んでも、充分においしいものです。逆にいえば、そこにおいしい完熟のトマトをいれても、味がまざって、ボヤけてしまうのです。
いろいろ捨てて、残ったのはただひとつ「素材の味がスープにきちんと移っているかどうか」でした。そこさえ押さえていれば、具が少なくてもなくても、煮込み時間が5分でも5時間でも、塩味でも醤油味でもカレー味でも、あとは自由自在というのが私のスープ。
シンプルですが、素材、気分、体調に合わせてバリエーションは無限です。
おいしいトマトが手に入ったら、ぜひ作ってほしいトマトスープ
まず連載初回の一品として、トマト、たまねぎだけで作るベーシックなスープをご紹介します。調味料には、塩とオリーブオイルだけをつかいます。
これは「トマト味のスープ」ではなく、「トマトのおいしさを味わうためのスープ」です。おいしそうな完熟のトマトを見かけたら、ぜひ作ってみてください。
シンプル・トマトスープのレシピ
材料(4人分)
ミニトマト…2パック(400g前後) ※トマトの大きさは問いません
たまねぎ…1/2個
オリーブオイル…大さじ3
塩…適量
水…450mL
1.素材を切る
たまねぎは、薄切り。トマトは、へたをとり、半割りにする。
2.火にかける
厚手の鍋にたまねぎとオリーブオイル、塩ひとつまみを入れ強火にかける。
混ぜながら、たまねぎが温まるまで2分ほど加熱。火を落としてふたをし、中弱火でさらに1~2分加熱する。
ふたをあけてトマトを加え、塩小さじ1と1/2を入れて軽く混ぜたら、再度ふたをし、そのまま約5分蒸し煮する。
3.水をくわえる
ふたをあけ、全体を混ぜてさらに2分加熱。水450mLを加えてあたため、塩で味を調整する。
以上が要点をまとめたレシピです。最初なので、ここから少していねいに写真つきで解説しますね。
トマトの選びかた
トマトの種類には、「ピンク系トマト」と「赤系トマト」があります。
酸味が少ない大玉の桃太郎やファーストは、完熟でも淡い色づきの、ピンク系トマトの代表で、生食向き。
一方、ミニトマトや、イタリアンの煮込みに使われるサンマルツァーノ、シシリアンルージュなどの赤系トマトは、トマト独特の香りや酸味が強く、皮も硬めで、加熱向き。
スープにしてみるとよく違いがわかります。
赤系(左)と、ピンク系(右)。スープにするとこんなに違うのです
今回は「ピッコラルージュ」というコクのあるトマトを使用しました。トマトの品種は多いので、手に入らなければ普通のミニトマトを使うといいでしょう。中型サイズでは、よく大手スーパーで見かけるカゴメの「こくみトマト ラウンド」は加熱に向いています。 ちなみに、フルーツトマトを使うとおいしいトマトスープができますが、高いのでもったいない。生で食べましょう。
トマトについてもう少しくわしく知りたい方は、「スープ・ラボ」(というスープの実験室をnoteで開いています)で行ったトマト比べのレポートをお読みください。
さて、まずトマトとたまねぎを切ります。トマトは皮も種も残してください。特に、種はうまみの部分なので大きなトマトを使う場合も捨てないでください。
野菜の加熱のしかた
最初に薄切りにしたたまねぎを少し炒めます。
ここは重要なポイントです。あまり色付けないようにしながらも、たまねぎの水分はなるべく飛ばすように、強火で2分ほどしっかりと火を通してください。焦げ付きそうになったら、時折うごかしましょう。
たまねぎを炒めたら、火を弱めてふたをし、さらに約1~2分。厚さのない鍋の場合は水を大さじ1ぐらい入れると焦げ付きません。
ふたをあけ、たまねぎがつやっとして独特の匂いが飛んでいればOK。刺激臭がまだ抜けていなかったら、もう少し加熱します。
続いてトマトを入れ、ふたをして5分ほど煮ます。途中でふたを開けてみて、水分があまり出ていないようだったら、水を大さじ2ほど加えましょう。トマトから水がたっぷり出ていれば不要。ふたをあけたりしめたり、ちょっと面倒ですが、ふたをしないとあっという間に水が蒸発してしまいます。
5分たったら一度木べらやおたまで大きく混ぜ、さらに2分ほど加熱します。
焦げ付きそうなときは躊躇せずに水を加えます!
こんな感じに煮あがったらOK。
水の量と味付け
野菜がしっかり煮えてから、水で薄めます。加える前にかならず少し味見をしてみてください。ときどき味を見るのが、スープづくりのポイントです。
野菜の味がしっかりしていれば、だしは使わないほうが、野菜の風味がよく味わえます。私のスープは野菜を味わうスープなので、ダボダボ水は加えません。ちょっと汁が多めの、野菜の煮もの感覚です。温まったら味見をし、薄ければ塩を少し足してください。
オイルが入っている場合はある程度しっかり塩味をつけるのも、おいしさのポイントです。
一人分の量は180mLほど、小さなスープボウル1杯ですから、一人暮らしの人でもこの分量で飽きずに食べきれるはず。トマトの酸味と味の奥行きを感じられるスープです。他の具を加えたスープやソースのベースとしても活躍するので、この季節にぜひ作ってみてください。
飽きたらアレンジ
ごはんにかけて目玉焼きをのせれば「トマトスープごはん」
皮をむいて切ったなすとオクラを入れて煮れば「トマトとなす、オクラのスープ」
いかがでしたか? ぜひおいしそうなトマトが手に入ったら試してみてください。
このスープ・レッスンでは、私の試行錯誤から生まれた身近な材料で簡単にできるスープを紹介しながら、無駄を省いておいしさに最短で行きつく方法をお伝えできればと思っています。
ぜひ、次回もお楽しみに!
スープのレシピや研究成果を発表している有賀さんのnoteはこちら!