SHUNSUKE
OYU
from
Connehito, Inc
Letter from Shunsuke Oyu
2016年6月7日、「ママリ」(正式には「ママリ」を運営するConnehito株式会社)はKDDI傘下の「Syn.ホールディングス」の連結子会社になりました。妊活、出産から子育て、それにとどまらない女性の不安や悩みまで、家族の悩みを解決するプラットフォーム「ママリ」はどのように生まれ、多くの人々の支持を得たのでしょう? Connehito株式会社代表取締役社長、大湯俊介が綴ります。
起業家の「勝ち」は、時にバットの振り方では決まらない
僕たちがアンリさんと出会ったのは、今の「ママリ」とは全く異なるサービスをつくっていた時のことでした。それはクリエイターのためのオンラインギャラリーサービス「Creatty(クリエッティ)」。絵描きなど、ものづくりに携わるクリエイターがインターネット上で創作物を自在に展示・公開できるようにするサービスでした。
まだ僕たちは大学を卒業したばかりで、起業にまつわるイロハは何も分かっていなかった。そんな中で、孫泰蔵さんが主催する「MOVIDA JAPAN」の勉強会で、アドバイザー役として目の前にいたのがアンリさんでした。
でも当時のアンリさんは、僕たちの事業にノリ気ではなかった。「いいね」とは言ってくれるんですが、遠回しに「この事業やめようよ」と言いたい感じが漂っていたんです。起業家はいろんなものを捨てて命がけて事業に取り組んでいるので、「事業をやめようよ」というのは、言ってみれば全否定のようなものです。そんなアンリさんに対して、僕は「あれ? この人、起業家支援してるんじゃないの?」なんて思っていたものです(笑)。
「Creatty」は第2期「KDDI∞Labo」の最優秀チームに選出され、熱狂的なファンからの大きな期待も獲得し、順調なスタートを切りました。
しかし、どうも伸びがよくない。とても「Etsy」のような海外勢と張り合うことができるイメージを持てなかったのです。さらに、とあるユーザーインタビューは衝撃的でした。僕たちは命がけで事業をやっているのに「ものづくりは週末にちょっとできれば幸せなんだ」と言われたんです。
もちろん僕たちと同じように命がけでやっていたクリエイターもいたかもしれない。でも僕はこのユーザーからの言葉を受けて、この事業に“限界”を感じてしまったんです。
創業者の意思がくじけたら、お金があってもなくても会社は終わりです。「この事業をやめよう」そう決意したとき、きちんと話を聞いてくれたのがアンリさんだった。
「君らに必要なのは、言ってみればバットの振り方じゃなくて、試合の出方なんだ。君らは、3回ぐらい試合に出ればホームランを打てるプレーヤーだ。つまりホームランを打つためにやるべきことは、3回試合に出ればいい。ホームランが打てないのは目の前の試合のバットの振り方じゃないんだ」
そうして僕たちはピボットを決意し、アンリさんからの投資を受けました。アンリさんは、僕たちの事業(試合)にではなく、僕たちというプレーヤーに期待してくれていた。だからあの時、僕たちの事業を、退屈な野球の試合のように見つめていたんだろう。
とにかく、困っている人の問題解決だけを考えた
次に僕たちが選んだ試合が今のサービス「ママリ」でした。
もともと「心と体の健康」は、起業時から関心のあるテーマでした。「Creatty」もそうでしたが、中長期にわたってユーザーに愛され、価値をもたらすことのできるサービスをつくってゆきたいという考えが僕たちにはありました。
中長期にわたって価値が出る事業は、その事業のテーマについて、社会の多くの人が困っている必要があります。「心と体の健康」は、困っている人が圧倒的に多い。20年後にFacebookは、少なくとも今と全く同じ形では存在していないかもしれないけれど、心身の健康に困っていて、インターネットで調べる人はおそらくいなくならないはず。そう思って「ママリ」の原型となるサービスをはじめました。
と言っても、ピボットした当初はまだ「ママリ」という名前もなく、アウトプットはいわゆる「健康をテーマにしたサイト」でした。しかしその中で、いくつか熱心に読まれる記事がありました。それらが共通して女性の心や体への不安を扱っており、特に読まれていたのが「陣痛タクシーを提供しているタクシー会社まとめリスト」でした。
「陣痛タクシー」というのは、タクシー会社が提供している妊婦さん向けのサービスで、登録しておいて陣痛になった時に呼べば、タクシーが超特急・最優先で病院まで連れて行ってくれるのです。都市部に住まう妊婦さんの多くが使っているとされています。
陣痛タクシーをはじめ、妊娠中の方々が求めている情報の多くはインターネット上で分かりやすくまとめられていませんでした。そのため情報を取得しづらく、場合によっては間違った知識を得てしてしまうリスクもあり、そこには大きなひずみがあると感じていました。
こうして僕たちは、現代社会でもっとも心と体の健康の情報に困っている人々である妊婦さんにたどり着いたのです。結果、メンバーには男しかいないにもかかわらず、とにかく困っている人の問題解決に「振り切ろう!」という強い思いから、突如サイト名が変わり(笑)、「ママリ」が誕生したのです。
ママリは社会問題を解決するプラットフォームだ
「ママリ」のM&Aのニュースをご覧になり、終始にわたり順風満帆だったと思う方も多いかもしれません。しかし実際には、「こんな狭いジャンルでビジネスになるの?」「みんなに使ってもらえるの?」と、創業メンバーの中では常に苦悶と葛藤を繰り返しながら育ってきたサービスです。
「ママリ」の成長の要因はいくつもあると思いますが、業界内における「ママリ」の“伸びている感”の醸成は、アンリさんに大きく支えていただいたと思っています。つまり、アンリさんに投資いただいていることで、ベンチャー界隈で「ママリは伸びてるらしい。よく分からないけどすごいらしい」といった噂が、僕たちの実態とともにポジティブに流れていく。評価されやすい環境を生み出しながら実際のサービスも成長してきたことが、現在に至るポイントだったと思います。
現在の「ママリ」は、妊婦の方々ひとりひとりだけでなく、家族の意思決定を支援をしているのだと思っています。子どもが生まれる前、そして生まれた後の保険や教育、子育ての悩み、それらを包括的に支援することで、家族が人生で最も大きな意思決定のひとつにポジティブになれる。
そうして家族に2人目、3人目の子どもがもたらされることを考えると、ママリは近い未来に日本が直面する人口減少問題にもアプローチできる。ママリは、たったひとりの妊婦さんの悩みから始まって、社会問題すらも解決できる大きな可能性を持っている事業なのだと感じています。
だから「ママリ」は「家族の毎日を笑顔にする情報サイト」なのです。