第二回勇者会議【下】
闇ギルドの会員証って……。
若干俺の顔が引きつった気がする。
「……なんでこんな物を持っているんだ?」
「コロシアムの商品で手に入れました」
「ああ、そう……」
凄く微妙な物を出してくるなぁ……。
樹の行動範囲から持っていてもおかしくない品なんだろうけどさ。
「金さえ積めば手に入らないモノは無いらしいです」
「必要になったら使うとするか」
正直、あんまり関わりたくない。
どうせ奴隷商みたいな連中が経営しているんだろうし。
最近じゃ豚王まで俺の事を気に入っているみたいだが、なんか今更だが知人が悪人よりな気がする。
あれだ。類は友を呼ぶ的な。
……どちらかと言えば俺は悪人だ。全く否定できない。
敵とはいえ、ヴィッチを惨たらしく処刑させた訳だし、どこぞの主人公群からしたら悪人その物だろう。
これがマンガだったら、光の勇者か何かが俺を退治しに来るな。
まあ現実はそんなに甘く無いから、正義の使者みたいな、都合の良い奴等は現れない。
それにしても何で樹がこんな物を持っているんだ?
むしろ以前の樹なら忌み嫌いそうな品だぞ。
「正義馬鹿のお前がよくこんな物を持っていたな。潰しに掛るかと思ったぞ」
「悪も使いようで正義となります」
必殺で暗殺をするような、一見正義に見える感覚か?
樹らしい発想だな。
コイツも暗殺で正義を遂行とかしていたのかもしれない。
「後はそれぞれ採取できる鉱石とか植物、魔物の分布を纏めてみようと俺は思っている。尚文、良いか?」
「ああ、むしろそっちの方が今回の本題かもな」
自分達で攻略をしていく感じで、それぞれの知識を紙に纏めた。
俺も忘れがちである物が浮かび上がってくるような、そんな感じだ。
一応は学べるものがあったか。
なら俺もそれに対する代価を話す意味があるな。
「錬は知っているかもしれないが、変幻無双流という流派に関して話をしようと思う」
「エクレールやリーシアが使う流派だったはずだ」
「そうだ。その流派が使う、気と言う概念だ」
「エクレールも説明していたがどうも俺は理解できない。尚文はわかるのか?」
「まあな。目に見えない何かを突く事の出来るアトラに色々な所を突かれた所為か見えるようになった」
俺は女騎士が最初に変幻無双流の動きを始めた辺りから説明を始め、勇者は無双活性こそ出来ないが、魔力やSPを回復させるのに役に立つ、スキルにも流用の効く便利な能力だと説明した。
その最中、錬、元康、樹がそれぞれ、目で何かを追い始めた。
「……本当だ。さっきまで無かったのに、ヘルプにEPの項目が出た」
「はい?」
「おそらく、エネルギーポイントの略称だと思う……SPと魔力に干渉してスキルの強弱と、精度を引き上げる事が出来る機能……使い方は」
「お、おい……」
ヘルプにある訳無いだろ。俺が見つけた要素だぞ。
勇者とかの武器に組み込まれてないっての。
「使い方も説明されているな。ブレイブスターオンラインの職業にこれと似たモノがあったはずだ。もっと簡略化されているけど、それに近いかもしれない」
「お義父さん。自分の知るゲームにもありますよ」
「同じく……」
えっと、それって職業スキルって奴?
その職業でしか出ない要素とか。
ふざけんな!
「体の中にある生命力を理解……難しいな。でも……」
錬から出ている気に変化が現れる
剣に纏わりつくような、そんな風に、方向性が定まっていなかった気に流れが出来ているのが見るだけでわかる。
それは元康、樹も同じようにしていた。
後はスキルを唱えれば間違いなく威力が向上したスキルが出るはずだ。
「ふぇえ……なんでそんな説明だけで出来るようになるんですかぁ」
「ふぇえ……」
「ふぇええええええ!」
俺もリーシアの真似をして言ったらリーシアが情けなく叫ぶ。
「く……あっという間にSPと魔力、EPが減る。使いこなすのは練習が必要だ。凄い脱力感がある」
「そうですね」
「これは凄い! この元康、お義父さんの為に頑張りますよ!」
信じる事で力になる。
俺が言って、信じたこいつ等にヘルプが出て使えるように?
ふざけるなよ。
俺がどれだけ苦労して習得したと思ってんだ。
これじゃあ、俺がやり方を実践して見せれば容易く覚えていけそうだ。
俺の盾にあるヘルプを確認する。
俺には無いぞ。
……俺が信じて無いからか?
もしかしたら錬達は俺が急に強くなった時、こんな気分だったんだろうか。
「この力……スキルや魔法に混ぜたりすると威力が上がるのか」
錬や元康、樹が気を少しだけ使えるようになって行く様を、俺は絶句しながら見ている事しか出来なかった。
自分で見つけたと思っていて、驕っていたとでも言うのか?
まったく、理不尽で吐きそうだ。
とはいえ、一応はこいつ等も俺に追いついて来ているのか……。
リベレイションの唱え方教えるのやめておこうかなぁ。
少しでも優位に立っておきたいと言う考えが脳裏に過ぎる。
だけど、そんな真似をするよりも、手綱さえ握れるのなら教えた方が楽に波を乗り越えられる。
信じる事が力になるのなら、信じられないなら力に出来ないとも言えるし、裏切るとかは考える余裕も無いだろ。
それなら俺よりも強くなる可能性のある奴に覚えてもらった方が効率的だ。
盾はどんなに強くても頑丈にはなるが、攻撃はできないからな。
リベレイション系の魔法を攻撃に使えたら、どんな大魔法になるのか興味もあるし。
「まだ気の操作に慣れていないだろうからSPの概念も後で説明しないといけないな。魔法の概念の説明は後回しでいいか?」
「ああ、出来れば教えて欲しいけど段階が必要なら後回しで良い。尚文が教えてくれるなら習得も早いはずだ」
疑うと言う事をしない錬に若干イラっとしてくる。
口から出まかせでも言ってやろうか?
……それが力になったらどうしよう。
失敗しても疑われるし、やめておこう。
この時は出なかったけど、後で俺もヘルプを見たらちゃっかり追加された。
ステータス魔法にもちゃっかりEPという項目が追加されやがった。
で、判明したのは勇者には無双活性は出来ないと言う事実。
伝説の武器は一般人と大きく違う性能として、武器の所持者であると言うだけで常時無双活性が完全な状態で作動しているようなのだ。
ヘルプではエネルギーブーストと書かれていたけどな。
既に作動している無双活性を更に発動って二重起動は出来るはずもない訳だ。
ウンザリする結果だった。
「……他には魔力をアイテムクリエイションに応用すると高品質になる事も確認出来ている。似ているから練習になるはずだ。……現在わかっているのはこんな物か?」
「そうですね」
「お義父さん、自分はもうありません」
「ああ、とても有意義な会議になった」
会議をせずに聞いても良いような気がするけど……。
「ナオフミ様ー」
部屋の扉を叩く音と共にラフタリアが顔を出す。
「ここにいらしたのですか」
「湯上りの熱は冷めたか?」
「はい。そろそろ村に帰ろうと思って、探していたんですよ」
「錬がここで中断した会議を再開したいと言ってな。少し話していたんだ」
「そうだったんですか。何か収穫はありましたか?」
俺が教えてばかりだった気がする。
まあ錬、元康、樹を俺の戦力としてカウントした場合、相当良い結果だったとは思う。
やはり態々異世界から召喚しただけあって、勇者は頭一つ抜きん出ている理由があったって訳だ。
「尚文の信頼に応える為に強くなって見せる。期待して待っていてくれ」
「ああ、はいはい」
錬はなんかうっとおしい奴になってしまった。
昔の錬はイヤな奴だったけど、今の錬は暑苦しくて敵わん。
「そうですよ! お義父さん、私も頑張りますよー!」
元康はウザい。
特に俺の事をお義父さんと呼ぶ所が。
「なんだかわからない内に皆さんが強くなっているような気がします」
リーシアが樹の手を握って、纏めた。
まあこれで錬、元康、樹が強くなっていくのなら、良いのか?