第二回勇者会議【中】
「マジックエンチャント、ね。効果は?」
「魔法剣だ。唱えた後に受けた魔法を付与し、魔法の威力をしばらく維持したまま敵を切りつけられる」
「似たような事をしていた奴が居たな」
サディナが銛に魔法を落として技を放っていた。
アレとは違うのだろうか?
「自分の魔法で無くても良いんだ。普通は自分の魔法を少しの時間だけしか維持できない」
「ほう」
かなり便利な魔法だ。
相手の魔法を受け取ってカウンターも狙える。
「難点はツヴァイトまでしか受けきれない所だ。試しにドライファを受けてみたら無理だった」
「そうか。元康は?」
「ツヴァイト・アブソーブです。お義父さん」
「へー……効果は?」
名称からして魔力を吸い取るとか出来そうだけど。
「ツヴァイトクラスの魔法を無効化して吸い取れます。問題は唱えていると動けません」
戦力的に優秀な元康が動けないのは確かに問題だな。
事前に唱えておいて魔法を使えない状況にするって所か。
「射程は?」
「みた感じだと半径5メートルくらいです」
「なるほど」
これまた変わった魔法を覚えたものだ。
ただ、便利と言えば便利だろう。
あの碑文に書かれているのは、法則からして支援系の魔法になるのか。
ツヴァイトまで、と言っているがリベレイション系の方法で使えば上位の物にも使えるかもしないな。
あれは使い道の幅が広いから調整すればドライファも使う事ができる。
……俺は回復と支援にしか使えないが、錬達はどうなんだ?
「お前等って魔法は何の適性があるんだ?」
「そういえば話してなかった。尚文は回復と援護だったっけ?」
「そうだ」
「俺は水と援護だ。まあ、水の魔法に回復出来るのもあるから一概には言えないけど」
「お義父さん。私は火と回復ですよ。同じように火で援護する事が出来ます」
「僕は風と土です。同じように一部の回復と援護は出来ますけど」
錬が水と援護。
元康が火と回復。
樹が風と土。
見事に割れている。
でもその系統の魔法で僅かに回復とか援護が出来ると。
「尚文の様な、回復と援護の魔法程効果は高くない」
「火の回復魔法は私の方が高いですよ」
「そりゃあそうだろ」
元康は回復魔法も出来るからだろ。
と言う事は……やっぱり俺は攻撃能力が無いんだな。
確か魔法屋が言ってたな。
なんだかんだで魔法を唱える時、本人の資質が影響を受け、単純な回復魔法でも僅かにその資質が現れるとか。
元康の唱えるヒールは若干、火が混じるんだろう。
で、本人の資質に合わない、例えば元康が援護魔法を唱えると威力が目に見えて下がると。
そう言えば……回復魔法には攻撃系のがあったはず……。
確かファスト・ディケイだったか。
唱えてみたが、失敗した魔法だ。
魔法屋曰く、ここまで攻撃資質の無い者は珍しいと言われたな。
その代わり、魔法ファスト・グロウヒールは成功した。
効果は疲労回復。
とはいえ、重度の疲労には効果が薄く、自分に唱えてもあんまり意味の無い魔法だった。
援護カテゴリーの回復魔法がこれだ。傷も多少は治る。
「碑文の魔法は特殊なんだろうな」
オーラは全能力アップ。
マジックエンチャントは武器に魔法付与、しかも相手の魔法も付与可能。
アブソーブは魔法を無効化。
「樹が何を覚えるか、だな」
「はい」
「イツキ様、頑張って覚えて行きましょうね」
「はい」
樹が何度も頷く。
少しは良くなってきているのか?
「そうそう、魔法と言えばお前等は龍脈法という魔法系統を知っているか?」
もう下手に隠し事をする必要はないだろう。
というよりも錬は反省しているみたいだし、強くなる方法を出し惜しみしても良い事は無い。
足の引っ張り合いで波に負けたら意味が無いしな。
「ウィンディアが唱えている特殊な魔法か?」
「ドラゴンや一部の魔物が唱える魔法ですよ」
みどりが補足する。
フィーロと同じくフィロリアルだからな。
ドラゴンが嫌いだし、そのドラゴンが使う系統の魔法だと言うのは理解しているか。
「尚文は使えるって聞いた。どうだ使い勝手は」
「正直面倒だな。ただ、錬が水の魔法で援護を唱える感覚はわかるぞ」
俺は水差しの水から力を受け取って実践して見せる。
『我ここに水の力を導き、具現を望む。地脈よ。我に力を』
「アクア・シール」
錬に向けて水の援護魔法を唱えた。
「うわ」
錬が目を瞑り、パチクリと瞬きをしてステータスを確認する。
「魔法にも似たようなのがあるんじゃないか?」
「ああ、ファスト・レジストファイアと言う火への耐性を上げる魔法だ」
片手を上げて、同様に魔法を俺にぶつける。
なるほど、確かに似た魔法だな。
火の耐性が上がったのをステータスで確認できる。
「それでその龍脈法というのは、どう面倒なんだ?」
「魔法は文字さえ読めれば唱えられるが、龍脈法は計算しなきゃ唱えられないと言うのが一番近いな。式が変動する」
「よくわからないけど、大変そうだな」
「使えるようにならないとわからないだろうな。ただ、いずれ覚えて貰うぞ」
ガエリオンに頼んで、錬達にも龍脈法を教えて行った方が良いだろう。
リベレイションや魔法の概念理解は必須で覚えた方が良い。
むしろ今まで思っていたんだが、ここまで強化方法があるのは必要になってくると言う事に間違いない。
「わかった。尚文がそう言うのだから正しいのだろう」
「僕はもとやすさんに覚えて欲しくないな。ドラゴンの使う魔法だもん」
「みどり、残念だけどお義父さんが覚えろと言うなら私は覚えないといけないんだ」
「ぶー……」
みどりが俺をジッと睨みつけてくる。
知らんな。
「俺が教えてばかりだが、お前等は何か発見したものはあるか?」
錬は一応、仲間の剣という情報を持ってきた。
元康と樹には何があるだろうか?
「クーとマリンとみどりの触ると喜ぶポイント、フィロリアル全体の喜ぶ場所の統計は――」
「元康、黙れ。もう何も言うな」
「もとやすさん。やめてください。恥ずかしいです……」
「待ってください、お義父さん。何か悪い事ですか?」
「知りたくもない!」
頭の中はフィロリアルしかないのかコイツは。
みどりも恥ずかしがってるぞ。
まったく。
ちなみにフィーロは羽の付け根辺りを洗うと喜ぶ。他に喉辺りだな。
フィーロの配下1号のぶりっ子も喉辺りを撫でられるのを喜ぶな。
「そうですね……では、フォーブレイに行った時に見た物でもお話しましょうか。なんとアスファルトの道路と車がありました」
「車って、あの車か?」
「はい。かなり古い物でしたけど、馬車以外の乗り物としてありました。これはゲームとは大きく違う所です」
まあ、異世界から定期的に勇者を召喚しているのだから、そんな奴が知識を披露した可能性が無い訳じゃないか。
何よりフォーブレイは勇者を抱え込んでいる国だ。
そういった知識を持っている連中が再現した物だろう。
「はい。ありますよ。異世界の錬金術で作られているそうです」
リーシアが肯定する。
異世界の錬金術、ね。
まあ理科や科学の前身が錬金術だと聞いた事がある。
そういう意味では異世界の錬金術という名称はあながち間違ってもいないのか。
「メルロマルクじゃ見た事が無いんだが……」
「舗装してある道じゃないといけませんし、燃料の調達が面倒なので、実用化はされていません」
「なるほど」
何より勇者は総じて隠し癖があるからな。
フォーブレイに召喚された勇者とやらも便利な知識を自分の為だけに使った可能性は高い。
考えても見れば映像水晶はデジタルカメラに似ているよな。
現代知識と魔法を合わせた道具を昔の勇者か、それに追随する誰かが作ったのかもしれない。
そういや注文した馬車のパーツに使われるんだったか?
俺もそう言った知識を使って売り上げの向上を図ると言う手があったんだよな。
盾の技能で物や奴隷、魔物を使った方がコストが安く済むからやらなかったし、専門知識が無いから出来なかったんだけどさ。
燃料の調達とかも面倒だ。
石炭で動かす様にした方がいいのか?
それとも魔法で動くように……ってそれならありそうだ。
ぶっちゃけ、飛空挺とかあるかもしれない世界なんだから、気にしたら負けだ。
イミアの叔父辺りに相談してみるか。
「樹、お前は?」
「これを」
樹はカードの様な板状の物を俺に差しだした。
「なんだこれ?」
「闇ギルドの会員証です。これさえあれば闇ギルドで情報を仕入れられます」