【春の3作品無料読書フェア】君死にたもう流星群
松山 剛/MF文庫J編集部
君死にたもう流星群
序章 流星群
「過去が現在に影響を与えるように、未来も現在に影響を与える」
──ニーチェ
◇ ◇ ◇
「あ、流れ星!」
子供が夜空を指して言った。
青く輝く球体が、空を斜めに横切り、長い長い光の尾を引きながら、ゆっくりと小さくなっていく。美しさと
「そうだ、願いごと、しとくんだった……」
子供が残念そうにつぶやくと、母親は隣で「そうね」と苦笑した。
しかし次の瞬間。
子供は歓声を上げた。母親は買い物袋を落とした。
夜空には、次々に青い流星が現れ、それはあっという間に数え切れぬほどの光の矢となって天上の世界を埋め尽くした。あちこちで大騒ぎとなり、窓から
流星群は尽きなかった。数百なのか、数千なのか、まさに無数の光が空を横切り、長い尾を引き、燃え尽きていった。圧倒的に美しく、また、命が
流星群は世界中で観測された。
これが、二〇二二年十二月十一日──僕が決して忘れられぬ日。
翌朝、人々は真実を知ることになる。『気象衛星ひまわり』『観測衛星だいち』『準天頂衛星みちびき』『超高速インターネット衛星きずな』──流星群の正体が、実は墜落した人工衛星だったことに。日本だけではない。ロシアの『コスモス』、アメリカの『USA』、中国の『
この日、一九五七年の旧ソ連・スプートニク計画に端を発した人類の人工衛星の歴史が、唐突に中断されることになった。判明しているだけでも数千に上る人工衛星たちが、現役の衛星も、役目を終えて墓場軌道にあるものも含めて、何者かの
その圧倒的光景から、『世界一美しいテロ』と呼ばれた一連の現象は、のちに『大流星群』というシンプルな名称で呼ばれるようになった。『12・11テロ』という無粋な呼び名は今に至るまで定着していない。
不幸中の幸いというべきか、地上に激突した衛星はひとつも存在しなかった。衛星の担っていた気象観測やGPS等は大幅な支障を来たしたし、流星群に見とれて自動車事故を起こした者や、階段を踏み外した者など、
ただし、それは『地上』に限ったことで──
この流星群には、一人だけ犠牲者が存在した。