―カリンシャ
それは、北の要所にして首都ホバンスから東に位置する大都市である。
そして、今ではヴァンパイア共の巣窟だ。
太陽が天高く燦燦と輝く昼下がり、日差しが照り付ける城壁に獣人アズロは立っていた。
「ヴァンパイアさん達は、いいねぇ。いつも日陰でグッスリだ。」
照り付ける太陽の日差しを手で顔を覆いながら、アズロは言った。
そんな中、空中を太陽の光を遮るように一つの影が高速で通り過ぎた。
すると、その影は、アズロの方に近づいていく。
―バサッ、バサッ、バサッ、バサッ
その羽音と共に、その影は、城壁の縁に飛び降りた。
「アズロ、タダイマ!」
大きな翼をしているが、胴体は人間に近い。胸はハト胸で膨らんでいた。目は、鳥というより魚の目に近いが、頭部は鳥であった。
例えるならチョ〇ボールのキョ〇ちゃんの足が人間で翼が生えているといった所であろうか。生物感があると結構グロい。
その翼亜人―ルルは、アズロに向かって言った。
「おうルル、ご苦労様だったな。どうだ、周りに異常はなかったか?」
アズロにルルに尋ねる。
「異常ナイナイ。」
ルルは翼をバタつかせて返答する。
「おう。じゃあ休んでいいぞ。お前、今日はもう飛べないだろ。飯なら、奴らの食べカスが倉庫にあるから適当に食って来い。」
「ワカッタ。イク」
そう言うとルルは小走りに去っていった。
それを見届けたアズロは、城壁の淵に顎を載せて見張りを続ける。
「これから、どうなるんだろうな。」
アズロは、ヴァンパイアに襲われた時の事を思い出した。
「さて、続きを始めましょうか?」
若い兵士は、アズロは剣を向けて言った。
「ま、待て、お前達の目的はなんだ。俺達を狩るためにここまで来たのか?」
アズロは慌てて質問する。
「へ、違いますけど?」
「じゃあ、目的はなんだ?俺達にできる事なら協力するぞ。」
ダメ元でアズロは提案する。
「え~。本当ですか。助かるな~。じゃあお願いします。」
提案が通るとは思っていなかったアズロ達全員が啞然とした。
「僕達、これから人間達を襲うように言われているんですけど。仲間全員、夜型なんで、昼間の管理をお願いしてもいいですか?」
若い兵士は笑顔で言った。
そんなこんなで今の状態にある。
数日前は、みんな、いつ餓死してもおかしくない状況であったが、ここでは、奴らに従ってさえいれば、喰いカスが与えられるので、食には困らない。
まあ、いつ奴らの気が変わって、皆殺しにされるかわからないが、
この都市が占領される時、ヴァンパイアの戦いを見ていたアズロは、ここから逃げ出す事は、死を意味すると知っている。おそらく仲間も皆同じ考えだろう。
今や俺達の生殺与奪権はヴァンパイアにあるのだ。
「俺達はこれからどうすりぁいいんだろ…」
そう言うと、アズロの頭部に感触に馴染みのある手が載せられる。
「男の美徳は悩むことよ…」
アズロの頭を撫でた者が言った。
「どこかに、ねぇかなぁ。俺たちみたいな外れものでも幸せになれる場所がよ…」
アズロは、何もない荒野に向けて呟いた。