ほんとうの性被害者 JFNYその1

 こんばんは。今回は本件に関連してとあるサイトを見つけましたので、このサイトについて気づいたところを述べていきたいと思います。
 
Justice For NY(Noriyuki Yamaguchi)というサイトです。
 
山口敬之さんを応援する一般女性グループです。
山口氏の冤罪を晴らすための徹底検証を当ページで共有させていただきます。伊藤-山口シェラトン事件の真相がここに!
 
と自己紹介されています。このサイトでは、民事訴訟に証拠として提出された、伊藤さん・山口さん双方のメールや、判決文などが丁寧に引用されており、非常に読み応えがありました。
 
 

「ほんとうの性被害者の声」

 
このコンテンツは、レイプドラッグによるレイプを受けたという方(以下Xさんとします)が、伊藤さんへの疑問を呈する内容です。確かに、伊藤さんはステレオタイプ的な「性被害者」とは異なる部分が多くありますし、全ての「性被害者」が共感を得られないこともあるでしょう。しかしながら、本コンテンツには事実レベルで異なっていることや、読者に誤解を与えかねない部分がありましたので、本エントリで若干の指摘を行います。
 
 

Xさんは刑事司法による救済を得られたが伊藤さんは得られなかった

Xさんは以下のように語ります。
 
>私は、「レイプドラッグ」の被害に遭った者です。道のりは長かったですが、加害者は逮捕・起訴され、裁判では実刑判決が下されました。私自身、被害者参加制度を利用し、裁判にも参加しました。
>状況は伊藤さんのケースと似ていますが、私はこの女性の言動に共感どころか*疑問と怒りしか感じません*。
>また、彼女を性被害の代表者やカリスマのように持ち上げて報道するメディアにも怒りを覚えます。この女性がちょうど海外メディアに出演し、笑顔で日本批判をおこなっている陰で、私も他の被害者の方も、
>自分たちの事件を闘っていました。そして、最終的に彼女が批判する警察・司法に助けられました。
 
 Xさんは、伊藤さんのケースと「似た被害」を受けられたとのことですが、Xさんは刑事訴訟で実刑判決を取ることができ、伊藤さんの場合は起訴すらされませんでした。ですから、伊藤さんが我が国の司法システムに対して批判を加えるのは当然のことと感じます。
 
 

伊藤さんはM検事と面会していない

また、Xさんは以下のように指摘します。
 
>私が実際に「被害者」として経験したこととBlackBoxの内容を照らし合わせて、まず一番におかしいと思ったことは、警察の捜査中、それも*犯人の逮捕前に検事が登場すること*です。私自身、初めて検察官に会ったのは、加害者が逮捕されてから約2週間後(GWを挟んでいたため通常より遅いのかも知れません)、検察で調書を取られた時でした。それまでは担当の刑事さんとしか連絡はとっていません。また、起訴前は警察、起訴後は(公判前の打ち合わせを除いては)検察事務官を通じて連絡をしていたので、検事さんと電話で直接連絡を取ることは一切ありませんでした。
 
伊藤さんは、著書Black Box(以下BB)の中で、M検事と面会したとは主張していません。伊藤さんがM検事について触れた部分について、BBから引用を行いつつ詳述します。
 
Kindle版BB No.912
4月28日 被害届提出について、高輪署の意向が連日大きく変わることに納得がいかなかった伊藤さんが、しつこく高輪署の担当捜査員A氏を問いただし、A氏が内部であったことを伊藤さんに話すシーン。
 
>私が被害届を出すにあたり、A氏が事前に検察官に報告したところ、かなり否定的な返事をされたようなのだ。彼の発言を要約すると、こうなる。「刑事事件の場合、実際に事件を掌握するのは検察官。警察が調べたことを検事に報告し、検事はそれを見て証拠固めの指示を出す。これ以上捜査することはないとなったら、警察は書類をまとめて検察庁に送る。これが書類送検。最終的に起訴するか、しないかの判断をするのは、検察官だ。その検察官に相談したところ、いきなり、『証拠がないので逮捕状は請求できない。被害者が被害届を出すのは自由だが、任意で呼び出して相手の言い分を聞き、事件として送致して終わりになる』と言われた」よくよく考えてみると、おかしな話だった。すべての事件について、被害者が被害届を出すかどうか、事前に検事に相談するものなのだろうか?
 彼が相談していたという「M検事」はただの検事ではなく、何人かの検事をまとめるポストにいる、という。「検察の中でも植野ポストの人に聞いているのだから間違いない」、そんな口調でA氏は話していた。
 
Kindle版BB No.1333
6月8日、山口氏逮捕の予定が取り消しとなり、ベルリンにいる伊藤さんに高輪署から連絡があった後のシーン。
 
>私はすぐに、泊まっていたドイツの友人宅に戻り、キッチンから電話をかけた。当時この事件を担当していたM検事に、話を聞きたかったのだ。M検事あてに電話をかけると、『M検事はこの件から外れた』と、電話に出た人は言った。この人もだ。逮捕のストップがかかった当日に、この件を担当していたA氏も検事も、誰もいなくなった。
 
Kindle版BB No.1503
6-7月頃? 捜査員A氏から電話があった際のシーン。
 
>山口氏のような社会的地位がある人が関わる事件は、所轄だけで判断できないので、一家には報告済みで、逮捕状をとったことについても同様に報告が上がっていたはずだ。そして、A氏が逐一相談していたM検事は、検事の中でもトップに値するくらい経験もある人なので間違いはない、と聞いていたのだ。
 
 
Kindle版BBでM検事が登場するのはこれらのシーンです。高輪署捜査員A氏とのやりとりの中で担当検事のことが話題に出てますが、「犯人の逮捕前に検事が登場する」という事実はありません (私の見落としでなければ)。とはいえ、私も初見の際にはNo1333「M検事に電話をかける」シーンの印象が強く「なぜ逮捕前に伊藤さんが担当検事の連絡先を知っているのか?」と疑問に思いましたので、若干わかりづらいのは事実ですが。事案の性質上、東京地検特捜部の検事さんのどなたかが担当されたのでしょう。
 
 

読まずに批判するのはよくない

>また、被害に遭った後の心理として、私もそうでしたが、お酒を飲み過ぎてしまったのではないかとか、自分の記憶のない間に合意してしまったのではないかなど、自分の落ち度を探しては自分を責めてしまう傾向にありますが、伊藤氏は意識を失った後も、自分の言動に余程自信があるのか、*自責の念に駆られているようには思えません*。
 
 XさんはBBを読んでいないとのことなのですが、 自責の記載はBBを読めば色々書いてあります。実は、山口氏自身が2017年10月26日発売の月刊Hanadaに寄稿した反論手記「私を訴えた伊藤詩織さんへ」も、BBを読まずに書いたとしか思えない部分が多発しています。このことについて、女子SPA!( https://joshi-spa.jp/787558/2 2017年11月21日掲載)のインタビューで言及されていますので引用します。
 
 
>草薙:山口氏は「月刊Hanada」で反論文を発表しました。あれは詩織さんの本が出る前に書かれていますね。お読みになってどう感じましたか?
>伊藤:私への手紙風になっていたのは、嫌でしたね…。  もし反論したいのであれば、私の書いたことを読んでから書けばよいのに、そこを無視して書いているのが不思議に思いました。 
>草薙:たとえば、山口氏は別件で2015年4月23日にワシントン支局長を解任されますが、その噂が出始めた4月18日の詩織さんのメールから「急にレイプだと言いだした」としています。でも詩織さんは、すでに4月9日に警察に行ったと本に書いてある。あと、「彼女は、都合が悪いから隠している」と山口氏が指摘した事実が、みんな詩織さんの本には書いてありますよね(笑)。
> 伊藤:私に対しての人格否定みたいな部分もあって、それには驚きました。残念ですよね。ただ私は、彼を敵だと思っているわけではないし、彼と闘っているわけでもないのです。山口氏を裁くのは私ではなく、司法のすべきことです。しかし逮捕が突然見送られ、司法システムが正当に働いていないと感じたから、私自身が出なければならなかった。 性暴力は絶対に起きてはいけないし、司法を含めた性犯罪に対する日本のシステムを変えたいだけです。向き合っている場所が全く違うなと思いました。
 
 

薬物検査とは

 
Xさんは、自身のケースについて毛髪での薬物検査を行うことで加害者逮捕につながったとし、以下のように語っています。
 
>*■ドラッグの検査はいつ、どのように行ったか*
>(中略)
>毛髪鑑定を受けるに至るまでの理由は長くなるので、かいつまんでお話させていただきます。睡眠薬は、摂取後3日までは体内に残り、尿検査で検出される可能性があるそうです。私の場合、最初の相談の際に尿検査は実施されませんでした。(私もその当時、尿検査について知識がありませんでした。)その一週間後、証拠がないため事件化できないということで一旦捜査は終了しましたが、*被害から約2ヶ月後に告訴*することになり、前回とは別の刑事さん(女性)に担当いただくことになりました。尿検査を受けていなかったため、証拠保全に刑事さんも頭を悩ませておられたようですが、大阪府警科捜研で毛髪鑑定の研究をされていることを教えていただき、検査を打診されました。まだ実験段階で、必ずしも検出される確証はありませんでしたが、望みを託して検査を受けることにしました。その結果、毛髪から睡眠薬抗不安剤の成分(ゾルピデムアルプラゾラム)が検出されました。
>毛髪鑑定について記事にされています。
>記事では「数ヶ月前」との記載ですが、*場合によっては数年前まで検出可能*のようです。私が検査を受けたのは2017年12月ですが、研究実績はそれ以前にもあるようです。
この検査は大阪府警と_警視庁_でのみ受けられるとのことです。
 
Xさんは事件の3ヶ月後(2017年12月)に 「まだ実験段階」である毛髪検査を受けられたとのことです。Xさんが紹介されている産経新聞記事(2018年12月29日掲載)は私も読んだことがありますので簡単に内容を紹介すると、
 
>近年、睡眠薬を悪用した性犯罪被害が増加傾向にある。従来の尿検査では、短い場合1日もすれば検出できなかった。大阪府警科学捜査研究所が2012年から研究を重ね、髪の毛からごく微量の睡眠薬を検出する新手法を確立。新手法では数ヶ月まで検出期間が延びたため、新手法を活用し検挙に結びついたケースが見られている。
 
 
 
さて。伊藤さんの事件は2015年4月です。産経記事からは、2015年時点で本手法が我が国の捜査機関一般に普及していたとは読めません。また、Xさんが提示したkakenのサイトの実績報告書を読むと、「毛髪中に取り込まれた薬物は、半年~1年以上にわたって検出可能」「数日~一週間毎の摂取歴を特定」とのことです。伊藤さんは事件から約2週間後に受診した産婦人科で、不眠の症状があり睡眠薬の処方を受けています(BB 794)。ですから、伊藤さんが2017年頃にこの検査を受けた場合、産婦人科で飲んだ睡眠薬が検出される可能性があります。本検査法最大の問題点は「被害者が性交と同時期に睡眠薬を内服することで、証拠のねつ造が可能である」という点です。山口さんのえん罪を疑うJFNYサイト運営者の皆様にも、この点には何卒ご留意いただきたいと思います。
 
なお、「産婦人科で検査をしてもらえば良かった」という指摘をよく見かけるのですが、モーニングアフターピルの処方を行う産婦人科クリニックに、TriageやNarcocheckなどの薬物検査キットが置いてあるとは到底思えず、現実な議論ではありません。
 

Xさんのケース、伊藤さんのケース

X氏は「伊藤さんと同様の被害」を受けたとのことですが、刑事司法の下した判断は全く別のものでした。何が違いをもたらしたのか、Xさんの寄稿文からポイントを抜き出し、伊藤さんのケースと比較したいと思います。
 
Xさん
伊藤さん
日時
2017年9月頃?
2015年4月4日
事件現場
Xさん自宅
会うまでの経緯
婚活アプリ
伊藤さんから口利きを頼んだ
(BB 831)
捜査機関への申告
翌日
6日後
薬物検査
3ヶ月後、捜査機関の勧めで
毛髪検査を実施。睡眠薬検出
行われず
余罪
逮捕後の取り調べで複数発覚
不詳
 
Xさんは婚活アプリで出会った男性と飲酒し、自宅に招いたとのこと。加害者側にとっては「合意」を主張しやすい状況です。それでもXさんが実刑判決を勝ち取れたのは、捜査機関への申告が早かったこともさりながら、「毛髪薬物検査が行われ睡眠薬が検出されたこと」「逮捕後の取り調べで余罪が発覚したこと」に思えます。Xさんのケースで逮捕が行われたのであれば、伊藤さんのケースで被疑者逮捕が行われても不思議ではないように感じます。
 
 本日は以上です。XさんのX指摘のうち、主に事実レベルで誤認しておられる部分を指摘いたしました。決してXさんを誹謗するものではなく、Xさんが心身ともに健やかにお過ごしになっていることをお祈りしております。JFNYについてはまた取り上げたいと思います。最後までお読みいただき有り難うございました。