酒
「前に来た時より、色々と物が増えているな」
海賊の宝みたいにサディナの秘密基地の中には物が溢れていた。
金銀財宝……とはちょっと違うみたいだけど、魔法の道具みたいのが沢山ある。
後で目利きで鑑定した方が良さそうだ。
単純に金目の物になりそうなのはサディナが持ってきてくれるから助かっているけど、こう言う雑貨もあったんだな。
そういや、サディナの購入費は余裕でぶっちぎる程に金は持ってきているんだよな。
一応はサディナの評価は上げておかないとダメか。
「さ、みんなでパアッと飲むわよ!」
酒樽を持ってきてサディナは宣言した。
「ふむ……我も良いか?」
ガエリオンが酒と聞いて自己主張する。
帰れと言いたいが、コイツのペースに合わせられるとラフタリアも危なそうだしな。
飲む奴が多いに越した事は無い。
「良いわよー、ほら、ガエリオンちゃんはこっちね」
と、サディナは一升瓶を出してガエリオンに渡す。
えっと、日本酒?
無難な所で過去の勇者が作り方を残したって所か。
「では頂こう」
ラッパ飲みでガエリオンは酒を飲み始めた。
「おお……これは中々の銘酒ではないか?」
「そうよー。私の生まれた地方で竜も喜ぶ強いお酒なんだから」
「ほう……」
ガエリオンがご機嫌になって酒を飲んでいる。
そんな物をどこで手に入れたんだよ……。
「ささ、二人も遠慮しないで飲んで、ナオフミちゃんにはルコルの実があるわよ」
と、サディナは俺とラフタリアに酒を勧めていた。
別に俺はルコルの実が好物という訳では無いんだがな。
まあいいか。
「で? 何の話だ? 影や他の奴に聞かれたくないってのは」
「ナオフミちゃんはせっかちねー。もっとほろ酔いになってからで良いでしょ? ラフタリアちゃんも飲んでー、ラフタリアちゃんの両親はお酒強かったからラフタリアちゃんもきっと強いわよね」
「わ、私は……」
盃に酒を注がれてラフタリアは物怖じしながら飲む。
カルミラ島でも飲んでいたと思うんだが。
確かにラフタリアは酒に強かったとは思う。
「ラフタリアちゃんはナオフミちゃんの事をどう思っているのかな? お姉さんそれが知りたいわ」
「私はナオフミ様の事を尊敬しています」
そうだったのか。
いつも俺のする蛮行に呆れているから、そういうのは無いと思っていた。
自分で言うのもアレだとは思うが、俺はやる事が色々と酷いからな。
「それは本心?」
「はい」
「結婚したいとか思っているんじゃないの?」
「そ、それは……」
え? ラフタリアって俺の事を結婚したいとか、異性として見ている?
いやいや、波の被害で自分と同じような境遇の不幸な子供を出さないように頑張っているんだろ?
そりゃあ、俺の事を好きとか言われたら嫌な気はしないけど、もっと優先すべき事があると思っているはずだ。
昼間にサディナが言った事を思い出す。
確かに、ラフタリアなら世界が平和になった後になら……考えても良いかもしれない。
もし上手く行けばラフタリアの地位を確かなモノに出来るし。
「私は……その……えっと……」
ぐらぐらと目を回す様に、ラフタリアは顔を赤くしている。
まだラフタリアの実年齢は低いんだ。本当はお酒を飲ませるのもいけない事だろうし、恋愛とか考えている年じゃないのかもしれない。
俺の事も、亡くなった両親の代わりとしてしか見ていなくて、異性としてどう思っているのかと言われて頭に血が上ってしまっているのだろう。
やはりラフタリアに恋愛は早い。
アレだよな。
ラフタリアにとって俺が他の女と寝ていると勘違いしてしまって困るのは片親の家庭の子が、親の再婚相手と接するような嫌悪感を抱いて拒否している、みたいな状態だろう。
別に何でもないのに過敏に反応してしまう的な。
俺だって、ラフタリアにそんな誤解はされたくないし。
あ、でもフィーロやふんどし犬、イミア辺りは同じ子供なんだから良いんじゃないのか?
「なおひゅみ様をわたひゃひは……」
ラフタリアの呂律がおかしい。
「あら。ラフタリアちゃん?」
「わひゃひは」
バタンとラフタリアはテーブルに突っ伏す様に倒れこんでしまった。
「うぬ……我も……少し……」
ガエリオンもふらふらと首を振り、仰向けに寝転ぶ。
「あらあら、さすがは『竜殺し』と銘酒『狸』ねー……ちょっとラフタリアちゃんとガエリオンちゃんには強かったかしら」
「お前……謀ったな」
やばいぞ。どうやらサディナの奴、ラフタリアとガエリオンに効く酒を用意していたと言うのか。
このままじゃこのシャチ女が襲ってくるかもしれない。
最悪シールドプリズンを張ってポータルで逃げるか?
「と言う訳で飲むのを続行しましょう」
「いやだ。俺は帰る」
「まあまあ、これからお姉さんとのお話がある訳だし、ナオフミちゃんが帰ったらラフタリアちゃんとガエリオンちゃんをどうするのよ」
「ポータルで巻きこむ」
「そうでしょうねー。でもお姉さんとお話ししてからにしましょう」
「話? 俺と肉欲の宴とかするつもりなんだろ?」
「違う違う。今夜は本当に休戦よー」
気楽な様子で、まさしく何時もと変わらずサディナは酒を飲んで、俺に答える。
だが、次の瞬間だった。
「ナオフミちゃん。前にもお姉さんは言ったわよね。ラフタリアちゃんとこれ以上の関係を進むなら覚悟してって」
ふざけた様子を吹き飛ばして、サディナは俺に真剣な目で、人型になって問いただしてきた。
「そうだったな。ラフタリアとガエリオンを酔いつぶして、言いたい事はそれだったのか?」
サディナにとってラフタリアはどんな位置に居る子なんだ?
よく知らないけれど、どうもその辺りはサディナも触れてはいけないラインなのか、うやむやに誤魔化すんだよな。
随分前の事だ。
村作りと町の復興をしている最中、俺の右腕をしているのがラクーン種の亜人だと嗅ぎつけてきた亜人の勢力……ラクーン種の連中がやってきた事があった。
「盾の勇者様の右腕がラクーン種であるのなら、私達は家族も同然。是非盾の勇者様の復興に力を貸したいと思って馳せ参じました」
時々こう言う勢力が町にやってきて、協力と言う名の集りに来る。
俺はその時、ラクーン種という亜人を見たのだけど、ラフタリアとの違いに驚いた。
恰幅が良いと言うか……一言で言うなら田舎くさいぽっちゃり系な連中と言うのが第一印象。
顔はあんまり良くないし、泥臭いと言うかなんて言うか。
やる気があんまりなさそうだとも思えた。
だが、ラクーン種という事で俺が断るに断りきれず、一目会えば何処の子なのか、血縁関係を説明するからとしつこく迫ってきた。
いい加減、俺は配下をラクーン種だから優遇するのではなく、一個人として評価している。お前等とラフタリアは関係無い。出て行けとでも言うか、と考えていた。
そんな所でサディナが普段は出さない殺気を放ちながらそいつらに銛を向けた。
「申し訳ないけどナオフミちゃんの右腕をしている子と貴方達とは赤の他人くらいには離れているから血縁を理由に取り入るのは……やめてねー?」
温和に締めたけれど、その殺気を受けてラクーン種の連中は腰を抜かしていた。
そこに俺が元々考えていた事を付け加えて、無難に締めた。
「まあ、どうしても協力をしたいのなら町の方で復興作業を手伝ってくれ、やる気があるかは後で判断する」
と、俺が締めてからラクーン種の連中は町の復興に割いた訳だけど……その後は聞かないな。
思いだしたぞ。
確か配属三日目辺りで殆どが夜逃げしたんだったか?
今では数名が町の方で真面目に仕事している。
でもそいつらは俺に取り入る素振りは無かったな。
「なあ、お前にとってラフタリアってどういう存在な訳?」
「ナオフミちゃん。ラフタリアちゃんやそのご両親はね。私にとって生きる意味だったのよ」