短めの挿入話を挟みます。
今回は、ラナーは出てきません。
1話の裏側のお話です。
時はユグドラシル最終日に遡る。
「父上、宝物殿へようこそおいてくださいました」
ナザリックの宝物殿の領域守護者であるパンドラズ・アクターは、歓迎の声をあげ、ビシッと敬礼を決める。
もっとも·····それは本人的にはだ。実際にはNPCである彼は命令がなければ動けないし、声はそもそも出ない。意志とは裏腹に微動だに出来ず、ただ寂しげなオーラを垂れ流す漆黒の豪奢なローブを纏った骸骨の魔王をみつめることしかできないのだ。
「俺が創ったパンドラズ・アクター……お前も消えてしまうんだよな……。みんなで色々あーでもない、こーでもないとやっていたのが懐かしいよ。ここがなくなると生きていく楽しみがなくなってしまった感じがする。なあ、パンドラズ・アクターよ、お前は何を感じていたのだろうな」
創造主モモンガが寂しげな声を漏らす。
(ああ、父上·····モモンガ様·····言葉を発する事のできないこの身が·····恨めしい)
今すぐ創造主の問いかけに答えたい、一人寂しい思いをずっとしてきた父に対し"父上は、一人じゃありません! と叫びたかった。
しかし、それは叶わぬ事だ。モモンガの言葉一つ一つが聞こえているのに、彼·····パンドラズ・アクターの声も想いは届かない。
「··········答えは聞けないか。あたりまえだけどな……」
創造主のため息に、パンドラズ・アクターの心は大きく乱れる。
(申し訳ございません、モモンガ様っ!)
今すぐ土下座して謝りたい。でもそれも出来ない。パンドラズ・アクターは、流せぬ涙を流し、途方にくれている。
(何か私にできることはございませんかっ!)
役に立ちたい。何か少しでも、何でもよかった。
「もしも願いが叶うなら、美人なお姫様と仲良く暮らしながら、冒険したり恋愛をしたりして生きていきたいね。俺の今持っている能力や魔法が使える世界でな。きっと楽しいぞ!」
不意に創造主が漏らした願い。
(モモンガ様、畏まりました。その望み叶えられるのであれば、必ず叶えます·····ですからモモンガ様·····)
なんとか叶えたいとパンドラズ・アクターは考える。もっともそれを口にした本人は、出来もしない夢のようなことだと思っているのだが。それを彼·····パンドラズ・アクターは知らない。
(願いを叶える·····ですか)
最後にこの宝物殿を訪れた至高の御方の一人から、アレを預かって居ることを思い出したのだ。
(使えば願いが叶うかもしれないですね。使えればですが)
命令なく勝手は出来ないが、パンドラズ・アクターにとって父と慕う創造主モモンガ──鈴木悟という別の名前を持つことも知っている──の願いは命令と同じだ。あとは使えるかどうかだった。
「さあ、あと30秒を切ったか。では、サヨナラだパンドラズ・アクター。残念だが、もう会うこともあるまい」
骸骨の魔王は、パンドラズ・アクターの肩にポンと手を置いた。
(モモンガ様っ! )
パンドラズ・アクターは焦るが、もちろん何も出来ないし、声は届かない。
「さようなら、アインズ・ウール・ゴウン。さようならナザリック……グッバイ……モモンガ……ありがとう俺の青春。虹色に輝く楽しい時間だった……よ」
父モモンガの最後の呟きに、パンドラズ・アクターは意を決して声を上げた。
「
初めて声がとび、自分の意思で体が動く。その一瞬にパンドラズアクターは素早く·····そう即座にアレを全力で発動し願いを叶える。創造主の願いの通りに·····。
「父上、いつかまたお会いできる日を楽しみにしております。喜んでいただけるとよいのですが·····」
モモンガの姿が消えた事を確認しながら、パンドラズアクターもまた姿を消した。
そして、モモンガ·····いや鈴木悟の新しい冒険が始まる。願いの通りに美人の姫とともに。
「サトル、さあいきますよ」
「待ってよラナー」
いや 言い直そう。二人の物語が始まるのだと。
次回はサト×ラナの本編の予定です。