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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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虎男

「と言う事でフォウル。俺はラフタリアともアトラとも寝ない為にお前の所で寝る事にした」

「出てけ!」


 翌日の夜。俺はフォウルの部屋に来て言った。

 ちなみにラフタリアはアトラとサディナ対策に隣の部屋で寝る事になっている。フォウルが騒ぎ出したり、異変があったら飛び起きて駆けつけてくる予定だ。

 これは蛇足だけど、フィーロ、ふんどし犬、イミアにラフタリア達は「出し抜かれた」とか言っていたが何を出し抜いたのだ?


「何を言うんだ。昨日は酔い潰れていた奴が拒む権利があると思うのか?」

「ぐ……」


 悔しそうにフォウルは言い放つ。


「お前も俺の所で寝ようとする妹を阻止する事が出来るんだ」

「今までアトラと寝ていなかったのか!?」

「ああ」


 一応、コイツも変幻無双流を学んでいるらしいし、ラフタリアと同等に修行していた。

 強い、はず。

 とりあえず一対二の状況からラフタリアに加勢して二対二に出来れば決着が付く程度には。

 まあ、アトラに手が出せないから戦力になるか怪しいけどさ。

 出かけている錬にも帰ってきたら頼んでみるか。フォウルよりは戦力になるだろ。


「貴様! アトラに魅力がないとでも言うつもりか!」

「お前は何を言っているんだ?」

「だってそうだろ! あれだけ時間がありながら! アトラが毎晩隣で寝ていたんだろ?」

「そうだな」

「俺の可愛い妹であるアトラに魅力がないとでも言うつもりか!」

「知らん」


 凄くどうでも良い。

 フォウルは何かあると直にこれだよな。


「貴様ー! 俺のアトラが可愛くないだと!」

「興味が無い。というか、お前の……?」

「貴様ー!」


 ああ、もう、面倒くさいなコイツ。

 アトラと寝ていると知ったら切れて、寝て無いと言ったら切れたぞ。


「まあ、いいから横になれ」


 ベッドに横になりながら俺はフォウルを手招きする。


「な……」


 フォウルの顔色がみるみる青ざめて行く。


「まさか……お前……」

「なんだ? ああ、そういやお前は獣化出来るんだったか? 変化してベッドに来い」


 サディナはどっちが本当の姿なのかわからないが、ふんどし犬の方は小型犬だった。

 おそらくだがフォウルも子供の虎とか、そんな所だろう。


「や、やめろ! 俺にはそんな趣味は無い!」

「何が趣味だ?」


 獣化するのは悪趣味なのか?

 じゃあふんどし犬は趣味が悪いのか。


「はぁ……はぁ……」


 天井から荒い呼吸が聞こえる。


「く、くせもの!」


 フォウルが拳から魔法の玉みたいのを練って打ち出した。

 天井が一部砕けて、人影が落ちてくる。

 誰だと思ったら洋裁屋だった。


「素敵な瞬間に立ち会える予感がして見張っていました。美味しゅうございます!」


 元気に何かをスケッチしてる。

 何をしているのだろうな。非常に嫌な予感がするけど。

 こいつは何かを勘違いしているに違いない。


「とりあえず出ていけ」


 ぽいっと洋裁屋の襟を掴んで家から追い出す。


「と言う訳で、変な誤解は無い。ほら、早く獣化してベッドにこい」

「い、いやだ!」


 洋裁屋が何処かで聞き耳を立てている気配がする。


「良いから早くしろ。眠い」


 俺は奴隷紋を起動させてフォウルに命じた。


「ぐ……貴様……う……わ、わかった」


 さすがにアトラほど奴隷紋に逆らえる余裕が無いのか、フォウルが獣化した。

 立派な白い虎男でした。

 筋肉質な感じで、小さな虎の子供を想像していた分、ちょっと期待外れだ。


 おかしいな、ふんどし犬は可愛い感じの犬なのにな。

 だが、見た目は強そう。

 頼りになる位になったか楽しみだな。

 今じゃアトラの方が強い気がするし、借金分は本人が働いて返した気がする。


「まあ良いや、早くベッドに来い。その毛皮があると寝やすいんだ」

「う……」


 凄い青ざめた表情でフォウルがベッドで横になる。

 俺が手を伸ばすと思いっきり距離を取られた。

 ま、少し触れる程度が良いよな。


「あ、アトラ、兄ちゃん、お前の為なら純潔をささげられるぞ。汚されたって負けないからな!」

「うるさい。黙って寝ろ」


 別にゲイに目覚めた訳じゃない。

 いや、ゲイだと思われたらサディナやアトラが諦めてくれるなら別にいいんだがな。

 むしろフォウルが良いなら私も、などと言い出しそうなので、この案は却下だ。


 第一何が悲しくて虎男と寝なきゃならないのかとは自分でも思うけど、ラフタリアやアトラみたいに寝つけないよりはマシだ。

 フィーロやキール達と寝ていたらラフタリアが不機嫌になってしまったからなぁ。

 だから男のフォウルなら良いか? と聞いて了承を得たんだ。

 ラフタリア、凄い微妙な顔してたな。


 無論、フォウルを選んだ理由もある。

 少々気になっていた事があったから、ついでだが。


「そういや、洗脳事件が終わった後、城でアトラと一緒にクズと話をしていたよな? 何を話していたんだ?」

「なんでお前に話さなきゃいけないんだ」

「あいつが何を企んでいるのかとお前は察する事が出来るのか? 仮にもお前の一族を追い詰めた奴らしいぞ?」

「う……」


 初めて会った時に女王から色々と聞いていただろうに。

 さすがに俺の返答にグウの音も出ないのか、フォウルは話し始めた。


「アトラに食べ物を与えようとしていたから引き離したんだ。なんか前に見た時より老けた感じで元気がなかった」

「そうだろうな」

「何か知っているのか? アトラもお兄様とよく似た方と呼んでいたぞ。俺はあんなに老けてないし、ハクコ種の仇とよく似ていると言われても嬉しくない」

「まずは全部話してからにしろ」

「……わかった。その後、あの老人が俺とアトラを見た後、遠く空を見ながら言ったんだ。『何があっても妹を守り切るんだ。じゃないと後悔する』って」

「……そうか」


 想像の範囲のセリフだ。

 語った人物がクズでなければ名言になったかもしれない。


「あいつは何か知っているのか? なんでアトラに近付く?」

「あのクズはお前の妹によく似た妹が居て、ハクコにおそらく襲われて行方不明になったんだと」

「な――」

「だからお前等がその妹の子供なんじゃないか? って話だ。何か覚えは無いか?」

「母上は……確かに人間だ。目が見えなかったけど、とても優しい人だった」

「名前は?」

「アルシア」


 別人か?

 いや、偽名の可能性がある。

 そもそも確かクズの妹の名前はルシアだったはずだから一文字追加しただけだ。


「アトラを産んでからしばらくして、戦争に巻き込まれて死んでしまった……俺にアトラを任せて」

「そうか……じゃあお前は自分がハーフだと知っていたのか?」

「ああ」

「お前の父親は?」

「なんでそこまで話さなきゃいけないんだ!」

「そうだな。だが、知らないとこっちも対処が出来ないぞ。ハクコ種はシルトヴェルト辺りで風当たりが強いかも知れないのだろ? 盾の勇者である俺の庇護下にあると知って嫉妬している連中がいないとも限らない」

「う……わかった。俺の父親は……あんまり戦う事を望む人じゃなかった。物静かで優しい人だった。それでも強かったと思う。戦争から部下や俺とアトラを逃がすために、最後まで戦地に残って敵を屠っていた」

「戦争で両親とも亡くなったんだったな」

「ああ……随分前だけどな」


 フォウルの年齢はそこまで高くない。

 出会った時が12歳前後だった訳だから、随分前と本人が言っても精々6年前後か?

 詳しく知らないからよくわからないけど、この世界も戦乱が激しいみたいだな。

 メルロマルクはクズのお陰であまり戦争はしていないらしいけど。


 それでもヴィッチの年齢とかを逆算して平和なのは20年前後か?

 コイツの祖父がシルトヴェルトでどんなポジションだったかは知らないが、有名人だったらしいしな。

 面倒な火種が転がっている。


「俺はアトラを死んでも守らなきゃいけないんだ」

「その妹は俺にご執心みたいだけどな。上手く手綱を握れよ」

「……アトラに興味がないのか?」

「どう答えようとも怒るお前が満足する答えがあるのか?」

「う……」

「何度も言うがな、俺は色恋に興味がない。アトラは……そうだな。あえて言うなら子供みたいな感覚だろうな」


 ラフタリアを娘だと思う様に、アトラも、なんだかんだで強引に迫ってくる養女みたいな感覚が芽生えている自覚がある。

 村の奴隷共も、最近だとそう感じてきているのだ。


 恋愛感情とか、そう言う感覚は今の所ないな。


「お前も似たようなモノだ。精々守りきれるように、妹に負けないように頑張るんだな。まあ、波と戦わせる為に育てている俺が言うのもアレだが」

「お前に言われなくてもやってやるさ! アトラが戦わなくても良いように俺が波でも何でも倒してやる」

「はいはい。じゃあ、お前の願い通りに、アトラは波と戦わせないように考えてやろう」

「は?」


 フォウルが呆気に取られたように声を出す。


「何を不思議がっている? 俺は戦う意欲の無い者を戦地に連れて行く気も無ければ、戦わせたくないと願う奴の言葉を聞かない程でもない。お前はアトラを危険な戦いに身を置かせたくないんだろう?」


 アトラに色々と危ない橋を渡らせている俺が言うのもなんだけど、それでもフォウルが望むのなら波の戦いに参加させないという事も出来る。


「良いのか?」

「お前がその分頑張るならな」

「……」


 フォウルが黙りこむ。


「まあ、本人が戦いたいと願うかもしれないけど、その時はお前が止めて見せろ。俺は無理強いさせない。本人に一任する」

「わかった」


 妙に素直に頷いたな。


「お前をアトラが気に入っている理由が少しだけ……わかった気がする。それでも気に入らないが」

「抜かせ。それよりお前の妹の暴走を止めて見せろ」

「…………」

「じゃあ俺は寝る。ちゃんとアイツ等が来たら追い出すんだぞ」


 こうして、夜は静かに更けていく。

 やはりアトラ&サディナペアが部屋に侵入してきたらしく、ラフタリアとフォウルが戦った……らしい。

 今度は割と直ぐに撃退出来たそうだ。


 目が覚めると、ラフタリアが俺の手を握って寝ていた。

 アトラを捕縛したフォウルは、アトラを部屋で寝かせている。

 その寝顔は大きな仕事をやり遂げた男の顔をしていた。


「明日は負けませんわ!」

「兄ちゃんはアトラが悪い道に行くのを阻止して見せる!」


 とか翌日言い争っていた。

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