この不安を抱えたまま、命と生活を守るための試練はまだ続くことになる。それでも少しだけ先に希望が見えた。ひとりひとりの感染を防ぐ行動が、きっと終息への出口を示すと信じたい。
政府は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため全国を対象とした緊急事態宣言の五月末までの延長を決めた。
国民の我慢が長期化する。だが、五月の先にある不安に応える見通しは示されなかった。納得して我慢できるよう追加支援が必要だが、具体策は見えない。「後手後手」との批判を重ねぬよう準備を怠るべきでない。
感染減少へ一定の効果
感染拡大は減少に転じたが、まだ不十分-。期間延長の理由だ。
確かに、欧米のような感染爆発は起こっていない。人との接触を減らす社会の取り組みが一定の効果を上げていると言える。わずかだが光が見えた。
ただ、感染者数の減少は緩やかだ。医療の態勢も依然、不安がある。警戒を緩めるわけにはいかないことは理解できる。
「新しい生活様式」として手洗いやテレワーク、外出自粛などの取り組み定着を国民に呼び掛けたが、不便な生活の甘受は容易ではない。忍耐が長期に及ぶのなら、状況の変化に応じたより柔軟で迅速な対応が不可欠になる。
政府は地域の状況に合わせて外出やイベントの自粛、休業への規制を緩和する考え方も示した。状況が改善されたというよりは限界に近づく経済の萎縮で規制を緩める必要に迫られてのことだろう。
政府は、連休中の感染状況が判明する五月中旬をめどに専門家の意見を聴き、地域によっては期限を待たず宣言の解除も検討する方針だ。
私権の制限強化の動き
当然の対応だが、感染状況や医療の提供態勢がどうなったら活動自粛などの規制を緩和できるのか出口戦略が見えない。それなしに苦境を耐えろと言われても困る。大阪府は病床利用状況など独自基準を定めて解除を進める考えを表明しているが、基本的な考え方は政府がまず示すべきだろう。
宣言に基づいて、知事には施設の利用制限や、経済活動の自粛要請など私権制限を伴う措置ができるようになった。
複数の自治体が休業への協力要請に応じないパチンコ店に対してより強い休業要請をし、店名を公表した。それにも応じない店に神奈川や千葉、新潟県などは行政処分となる休業指示を出す事態になった。
この動きに、改正新型インフル特措法を所管する西村康稔経済再生担当相が罰則を伴うより強い指示を可能とする法改正検討の必要性を表明した。首相も四日の会見で同様の考えを示した。
自治体は店側に対し十分な説得の努力をしたのか、弁明の機会を保障したのかなどが不明確だ。
どの業種も休業による経済支援が不十分との不満がある。「営業の自由」が制限される以上、休業補償が手薄なままでは休業もままならないのではないか。法改正議論よりこうした点の検証が先だ。
医療機関への支援は引き続き課題だ。日本看護協会によると、四月二十日時点で少なくとも十九都道府県の五十四施設で院内感染が発生している。その拡大は医療崩壊を招きかねない。
同協会の福井トシ子会長は、医療従事者はウイルスによる「疾病」、治療法がない「不安や恐れ」、社会の「嫌悪・差別・偏見」の三つの困難と闘っていると訴える。
医療従事者への検査強化や防護具確保などを急ぎたい。極度の緊張下で治療に取り組む現場やその家族への差別や偏見など論外だ。社会からなくしていきたい。私たちができる医療支援である。
追加の経済支援も政府の責任である。一人に一律十万円の給付金だけでは足りないだろう。事業者は家賃負担が深刻化している。アルバイトを失った学生は退学の不安を抱えている。
生活の困窮も命脅かす
首相は対策の追加を表明したが、具体策は示さなかった。失業や倒産は生活を困窮させ命を脅かしかねない。迅速な対応を求める。
子どもたちも心配だ。休校の長期化で学習の遅れやストレス増大による健康被害も懸念される。今後は、地域ごとに再開を模索するが、感染防止策を工夫しながら進めてほしい。学校の入学や始業時期を九月に移す議論が浮上している。学ぶ権利をどう保障していくのかも政府に課された課題だと認識すべきだ。
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