財政破綻までのタイムリミットを計算してみた

(写真:アフロ)

財政規律重視か経済成長重視か

 巷では、政府債務残高の異常なまでの積み上がり、団塊の世代の後期高齢者化に伴う社会保障給付費の急増、意図せざる金利上昇による利払い費の急騰等、財政破綻をもたらす不確定要因は大きく近々の財政破綻は不可避なため、社会保障を中心とした歳出削減や増大する社会保障費を賄うための消費増税による財政赤字削減(プライマリーバランスの黒字化)が喫緊の課題とする財政規律重視派と、現状では金利は低位安定で、アベノミクスの効果で税収も増加した、このままインフレ・経済成長路線を堅持し増税で経済成長の腰を折る事態を避けるため、経済成長やインフレをさらに促進し、万一財政破綻の兆候が見られるとしてもその時初めて政府の保有する金融資産(米国債等)や実物資産(インフラ等)の売却、日銀が国債を買い支えるなどすれば政府債務残高対GDP比が安定するので特段の財政健全化は不要との経済成長重視派が対立している。

 しかし、財政規律重視派にしても経済成長重視派にしても、実は、財政破綻の兆候を何に見いだすのか、財政破綻は時間的にどれだけ切迫しているのか、財政破綻の懸念に対してどう対応するのかが異なるだけであり、財政再建の必要性に関しては、財政規律重視か経済成長重視かのウェイトの軽重はあるにしても必要との立場であるとも理解できる。個人的には、財政規律重視派・経済成長重視派どちらの陣営の考え方にも一理あると思う。ただ、財政規律重視派に対しては、財政破綻は今そこにある危機だとしてもいつ破綻するの?という疑問が投げかけられるだろうし、経済成長重視派に対しても、財政破綻の兆候が出始めてから政府資産を売却するのでは当然二束三文で買い叩かれてしまうので、財政破綻の兆候が出る前に政府資産売却の工程表を作成しておく必要があるのでは?との疑問が湧く。つまり、焦点は、現状を将来に投影した場合、財政破綻はいつ起こるのかもしくは起こらないのか、その時期を特定することにある。

財政破綻の検証手法(テクニカル)

 財政の先行きを検証する手法としては、現在の財政運営が長期的に持続可能か否かを明らかにする計量経済学的な手法や、シミュレーションモデルにより財政変数の動きを検討する手法がある。前者ではいつ破綻するのかが不明であり本記事の目的には適さない。一方、後者は、伝統的なマクロ計量シミュレーションモデルによるものと、ミクロ経済学的基礎を持つシミュレーションモデルによるものとに分けられる。

 本記事ではミクロ経済学的基礎を持つシミュレーションモデルの一種であるOLGシミュレーションモデル(※)を用いて、現在の人口変動、マクロ経済環境、財政・社会保障環境が継続するとしたら(ただし、消費税率については2019年10月の引上げは織り込み済み)、財政破綻は起こり得るのか否か、起こり得るとすればそれはいつなのかをシミュレーションすることで明らかにしてみた。

※ OLGシミュレーションモデルの詳細については、小黒一正・島澤諭『Matlabによるマクロ経済モデル入門』日本評論社(2011年)を参照のこと。

 なお、本記事では財政破綻とは、政府債務残高が増加することで民間資本ストックがクラウドアウトされ、資本ストック価格が高騰する結果、生産の減少、政府利払い費の増加がスパイラル的に進行し、シミュレーションモデルが採用している解法のもとでは解を見いだせない状況を指す。つまり、財政破綻というよりは財政に端を発する経済破綻ともいえる。

財政破綻のタイムリミットは・・・

 シミュレーションの結果、現在の状況が持続するとすれば、もちろん、本シミュレーション分析では考慮していない天変地異や紛争、リーマンショックのような世界的景気の深刻な後退が発生すれば、破綻時期が前後することに十分な留意は必要だが、財政破綻のタイムリミットは2041年であると試算された。つまり、2041年には(消費)増税を行って政府債務を削減するか、政府資産を売却して同様の債務のスリム化など何らかの対策を行わねばならない。2041年を破綻寸前で時間がないとみるか、十分な時間があるとみるかは、人それぞれだろう。解釈は読者にお任せするとして、少なくとも本シミュレーション結果からは、現状維持を続けるだけでは、財政はいずれは破綻することが明らかになったので、財政規律重視派・経済成長重視派いずれの立場にしても事前に対策を講じておく必要があるように思う。

 ただし、財政再建開始時の2041年の経済変数を見ると、政府債務残高対GDP比430%弱で消費税率は54%となっている。現実の日本経済が政府債務残高対GDP比430%弱に耐えられるかは疑問の余地がかなり大きく、また関係施策の調整に時間を要することを考えると2041年は最大限の試算と考えた方が良いかもしれない。ちなみに、財政再建開始時に政府債務残高対GDP比が300%に達しているのは2030年であり、この時の消費税率は30%台半ばである。

蛇足

 最後に、筆者は財政が破綻しない場合でも、世代間格差は経済成長やインフレだけでは解消されないので、世代間格差是正のために財政と社会保障の受益負担の構造改革が必要との立場であることを蛇足ながら申し添えておきたいと思います。

※※世代間格差の詳細については、島澤諭『シルバー民主主義の政治経済学 世代間対立克服への戦略』日本経済新聞出版社(2017年)を参照のこと。