抜き打ちチェック
さて、今日は他の勇者や奴隷共の私室を抜き打ちでチェックする事にした。
理由は、また変な事をされるかもしれないと言うのと、どういったモノを集めているか、などを調べるのが目的だ。
なんだかんだで武器に物を入れても出す事は難しいから私物は保管しなきゃいけない。
魔力水とか魂癒水とかは調合で案外簡単に作れるし魔物のドロップで思いのほか出てくる。
ただ、それ以外のドロップや素材は保管しないといざ欲しい時に出せない。
錬や元康には武器の合成に頼り過ぎるな、とは注意してあるからある程度は集めているはずだ。
で、レアアイテムだけは一人占めとかしてそう。
だから、そう言った物を没収する。
そうして抜き打ちチェックをする為に本人に無断で調べる訳だけど。
「ナオフミ様、何をしているのですか?」
錬の為に建てたキャンピングプラントを特殊ワードで開けて入ろうとする。
その最中にラフタリアが怪訝な目で俺に尋ねてきた。
「錬が何か良い物を隠してないか調べるんだ」
「はぁ……それって……わかりました。ナオフミ様はこう言う方でした」
半ば諦めたようにラフタリアは付いてくる。
何か言いたい事はあるのだろうが、ぐっと我慢するのがラフタリアの良い所だよな。
自分が悪い事をしている自覚が湧くから、まだ俺は大丈夫だと思える。
これを嬉々として褒める奴がいるから、自分がわからなくなるんだよ。
住居不法侵入及び窃盗は勇者の特権だ。
俺の知っている勇者の大多数が常習的にやっている事でもある。
まあ……ゲームの話だがな。
で、最初に調べたのは錬の部屋だ。
「ふむ……特に何も無いな」
武骨に机とベッド、他にイミアの叔父から鍛冶を教わり始め、作成に失敗した剣や鉱石が転がっている。
机の上には読み書きの練習をしているらしきノート。
真面目に勉強しているようだな。
考えてみればレアアイテムは今の錬からしたら雲の上の物か。
呪いの所為で運が下がっているし、経験値も入らないからな。
「ここが剣の勇者の私室ですか?」
「ああ、錬がこの部屋を使っている」
錬はあんまり部屋に居る事は無いか。
なんだかんだで谷子や女騎士とつるんでいる事が多い。
隠し癖も今じゃ殆ど無いし、こんな物か。
「思いのほか綺麗ですね。鍛冶を覚えようとしているのですか?」
「ああ、一応任せている。真面目に取り組んでいるようだな」
銅の剣だろうか? 練習用に作っている感じだ。
呪いもあってあんまり出来は良くなさそうだが。
机には剣のデザイン画が転がっていた。
俺が書くアクセサリーの図面にも似ている。
中二病的な僕の考えた最強の剣って感じの黒歴史は無いだろうか?
と漁ってみたが残念ながら発見できなかった。
腹いせに春画とかないかとベッドの下を調べたが不発だ。
面白くない部屋だな。
「ナオフミ様、つまらなそうに調べるのはやめてください」
「顔に出ていたか?」
「はい」
ふう……ま、よく考えたら泥棒みたいな事になりだしているからこの辺りでやめておくか。
錬も真面目に取り組んでいるようだな。
一応勇者から順番に調べて行こう、という事で次は元康の部屋だ。
元康は村はずれのフィロリアル舎の隣に家を構えている。
実際の所は元康が三匹の取り巻きと同居している家と言うのが正しいか。
ちなみに、それなりに大きな家に住んでいる。
設計したのは俺だ。
キャンピングプラントの仮設住宅である。
現在、元康はヴィッチを輸送中な訳で留守だ。
調べるなら今しか無いだろう。
俺はおかしくなった後の元康が苦手だからな。
「ここが槍の勇者の家ですか? 城で見た時は言動がおかしいままでしたけど」
「ああ、ラフタリアの事を豚と罵ったまま、フィロリアルを育てるのが生き甲斐になっている」
「なんとも……」
とか言いつつ、家のカギを外す。
この村ではカギなんて俺の前じゃ無意味だ。
「ナオフミ様、出来る限りプライバシーは大事にしてください」
「奴等にプライバシーを主張する権利は無い」
実際の所は罪がある訳だしな。
俺だって鬼じゃないし、理由の無い没収はしない。
エッチな本とか春画程度ならそっとしてやる。
「はぁ……」
ラフタリアの溜息が重いな。
と言う訳で元康の家だ。
入ると同時にリビング兼キッチンになっているようだ。
思いのほか小奇麗だな。
そう言えば、みどりが他の二匹に家の片付けをしてほしいと言っていたのをを思い出した。
おそらく、あの三匹の中で一番しっかりしているのはみどりだろう。
取り巻き三匹の中で一番まともなのがオスのみどりと言うのはどうなんだ?
いや、みどりが一番おかしいのか。オスでありながら元康を狙っている訳だし。
で、リビング兼キッチンから四つ部屋が分かれている。
それぞれ部屋の前に赤い羽根、青い羽根、緑の羽根、そして槍の絵が掛けられている。
おそらくそれぞれの部屋を割り振っているんだろう。
迷わず槍の絵が掛けられている部屋のカギを外す。
なんか三重に鍵が掛けられていた。
厳重過ぎて逆に気になる。
実は頭がおかしくなっているのは演技で、俺をハメる算段でもしているんじゃないだろうな。
ガチャっと扉を開ける。
その先には至って普通の部屋、ちょっとフィロリアルのグッズが多い。
ベッドが無いな。
って良く考えたら元康はフィロリアルに抱きついて寝ている事が多いからベッドはもう不要か。
「なんかかわいらしい部屋ですね」
「そうだな……だが」
何かおかしい。
最初に俺が建てた時の間取りより遥かに狭い。
どっかに仕掛けがあるのだろうが……面倒だ。
「緊急改変、扉精製」
キャンピングプラントの壁に扉を作る様に指示する。
グニッと音を立てて扉が出来る。
「……ナオフミ様の前ではプライバシーは無いですね」
「キャンピングプラントで作った家なら無いに等しいな」
でなければ、錬や元康を安易に住まわせられないだろう。
などと考えながら、俺は扉を開けた。
「これは――」
思わず扉を閉めてしまった。
「ナオフミ様?」
俺は眉間に手を当てて考え込む。
やらなきゃよかった。
と、本当に思ってしまった。
「どうしたのですか?」
俺は無言でラフタリアに部屋の扉を開けるように指示する。
さすがに事態を察してラフタリアは覚悟を決めて扉を開けた。
「な……」
ラフタリアは扉を開けて絶句する。
そう、元康の隠し部屋は……予想通りフィーロに彩られていた。
いや文字通りと言うべきだろうか?
部屋の壁一面に、元康が自分で描いたであろうフィーロの絵がびっしりと、天井を含めて貼り付けられている。
そして机には大量のノート。
書かれているのは鳥型人型含め全てフィーロだ。
地味に上手いな……。
アイツ顔が良くて、勇者で、料理も作れて、絵も描けるのか。
性格さえどうにかなればモテモテだな。
いや、元々はモテモテだったんだっけ。
別にいいか、元康の恋愛事情なんて。
俺はどうでもいい思考を止め、部屋をもう一度眺める。
部屋の各所にはフィロリアルの羽が散らばっており、ベッド……というか等身大フィーロぬいぐるみ(フィロリアル形態)とその上に等身大フィーロ人形(人間形態)が飾られている。
この二つってダッチ――。
この考えは危険だ。深く調べるのはやめよう。
ベッドのぬいぐるみの綿はフィーロの羽根とフィロリアルの生え換わりの時の羽毛を使って作っているみたいだ。
うっ……室内がフィロリアル臭い。
「な、なんですかこれ!?」
真っ青になったラフタリアが息を飲んで言い放った。
俺も同意見だ。
「フィーロのストーカーの部屋だな。いや、ヤンデレの部屋か」
ヤンデレに恐怖を抱いていた元康がヤンデレになってどうするよ。
ノートを試しに開いてみる。
なんか耳に「キャー」って効果音が流れる。
ノートにはフィーロのスケッチがビッシリと書き込まれていた。
で、別のノートを開くと……フィーロを使ったエロ同人みたいな絵が描かれている。
なんでフィロリアル形態の物まであるんだよ。上級者過ぎるだろ。
しかも相手の男は元康か? 触手の場合もあるが……。
「フィーロの身が危険ではないのですか?」
「あのフィーロが? 元康はフィーロの命令には絶対服従で、いつか振り向いて貰えると信じているみたいだぞ」
「で、ですが、仮にも勇者です。無理矢理フィーロにこの様な事をするかもしれません」
「それは無いと思う」
仮に暴走してフィーロに迫ったとしても、嫌がるフィーロに無理やり関係を迫れるか? と言う物があるだろ。
あの三匹にも手を出せないようだし、そこまでは暴走しないと思いたい。
「仮にここにある物を撤去したら、その後が怖いな」
「……そうですね」
あくまでここは元康の暴走した欲望を閉じ込めている部屋なのだろう。
変に抑圧すると爆発する恐れがある。
ガス抜きができる様に、このままが一番適切だろうな。
とにかく、これは見たくなかった。
まったく、元康の狂気は果てがないな。
……とりあえず他の三匹の部屋も覗いてみよう。
結果、ペットは飼い主に似る。
おそらく元康が暴走しても、あの三匹がどうにかしてくれるだろう。
「次は樹か」
「あの、やめませんか?」
「やっておかないと何かあったら困るだろ?」
元康の部屋を忘れたとは言わせない。
何かしら対策を取れる様、頭に入れておくのも重要だ。
「でも弓の勇者はリーシアさんにお任せしているんですよね?」
「そうだけどな。そのリーシアが懐柔されたらたまったもんじゃない」
「はぁ……」
まあ、樹は俺の所に住み着いて日が浅いからそんなに私物は無いだろうけどさ。
常にリーシアが見張っているし、変な真似はしないだろうさ。
今日はリーシアと一緒に奴隷共のLv上げの補助に出かけている。
呪われているからイエスマン状態だし、逃げる気配はないそうだ。
そんな訳で樹とリーシアの家。
リーシアからしたら愛の巣か?
不埒な事はするなと念を押しているから大丈夫だろう。
「ふむ……普通だな」
「そうですね。というかリーシアさんの家なんですからそうでしょうとも」
ま、リーシアはなんだかんだで俺が再建した村の初期から携わっている。
元々の性格と同じでマメなんだよな、リーシアって。
一応掃除は行き届いている。
部屋には武器や防具も飾ってあって、冒険者の家って感じだ。
寝室の方を覗くと大きなベッドがある。
二人で寝ているのだろうか?
何の発見も無い平凡な家だったな。
樹の呪いが解けて、それでもこの家に住み着いた時がどうなるか楽しみだ。
「ナオフミ様? なんか変な事を考えてませんか?」
具体的にはギャンブルに嵌った樹がリーシアのコツコツと貯めていた貯金を奪って家庭が崩壊して行く様を想像すると、少しだけスッとするような気がする。
最終的に樹はリーシアに捨てられてまた犯罪に走り、俺達に打倒されてしまう結末だ。
「ナオフミ様! しっかりしてください!」
「……なんだ?」
少し楽しい妄想に耽っていたのにラフタリアに注意されてしまった。
だって樹って反省してないし、呪いでイエスマン状態になっているだけじゃん。
発想がクズいのは認めるけどな。