義賊
「と言う訳で、お前には大きな仕事をして貰おうと思ってな」
「い、いやだ! 俺は、罪を償ったら村に帰って真っ当になるって決めているんだ!」
そう、俺との遭遇率が異常に高く、カースの所為でおかしくなった錬によって管理されていた盗賊を、国の刑務所から特別に連行し、奴隷紋を頂いて計画に組み込んだ。
現在説得中だ。
盗賊はこれまでの事を偉く反省しているのか、俺の計画に否定的だ。
「お前に拒む権利があると思っているのか?」
「例え何があろうとも、俺は真っ当になる為に更生している最中なんだ! 邪魔をしないでくれ」
「まあまあ、まずは話を聞け、俺も無茶を要求している訳じゃないんだ。お前だって十分得になる」
あれだけボロボロにされ、それでも尚盗賊家業をやりきったコイツを俺は高く評価している。
不運ではあるが悪運はあると見て良いだろう。
「まずは特別にお前をクラスアップさせてやる。Lv上げも込みでな」
ちなみに国が寄越したコイツの罪状と言うか、処分はLvリセットの後、開拓事業に従事する事だとか。
つまりはLv1だ。
今では戦う術は無く、国の開拓事業その他を奴隷の如く罪を償っている最中である。
もちろん、奴隷であるのだから逃亡は奴隷紋の発動で死ぬというペナルティを負って生活しているのだ。
ここ等辺は俺の世界より管理が楽そうだよな。
「次にお前の地元が何処なのかは知らないが、家族に資金援助をしてやる。一応お前は国に雇われたという形になる。家族も鼻が高いぞ」
「ぐ……」
盗賊の奴が俺の提案に声を詰まらせる。
「これは善行なんだ。上手く行けば大幅な減刑を約束しよう」
「尚文、凄い悪人顔だぞ」
「うるさい。司法取引だよ」
「ちょっと違うだろ」
「じゃあ囮捜査だ」
「囮なのか?」
錬が俺を疑いの眼差しで見ている。
「それでも俺は――」
「まあまあ、急ぐな。急な召集で腹も減っているだろ。特別に飯を出してやろうじゃないか」
と、俺が盗賊に出したのは見よう見まねで作ったカツ丼モドキだ。
材料がこの世界じゃ調達できないからあくまで似た別の料理である。
ぐう……。
盗賊の腹がなる。
ごくりと盗賊は俺が出した飯を見て唾を飲み込んだ。
「毒は入っていないから安心しろ。何なら少しだけ俺の所の奴隷に食わせて見せてやろう」
と、ふんどし犬を呼んで、小皿に移したカツ丼モドキを食わせる。
「兄ちゃん。これもうめー! もっと頂戴」
「少し待ってろ、コイツが頷かなかったらやろう」
「じゃあ断れよ。人相の悪い人」
「く、食えば良いんだろ! 食えば!」
ふ……。
盗賊は俺が出したカツ丼を食い始める。
「な、なんだこれ!? 滅茶苦茶美味い! 手が止まらない! おふくろの味のようで涙が――」
泣きながらカツ丼をかっ込む盗賊と羨ましそうに見つめるふんどし犬。
錬が凄く微妙な顔をしながらこっちを見てるな。
知らんな。
「まあ、別にお前じゃなくても良いんだ。お前の仲間には見覚えのある奴が何人かいるからな」
カツ丼を平らげた盗賊に、もったいぶって話す。
腹が膨れてストレスが解消された今、少しはこっちの話も聞くだろう。
後は搦め手でこちらに懐柔させれば良い。
こう言う交渉は楽しいな。
「ぐ……」
「俺の言う通りの仕事をしてくれれば、差し入れ位は作ってやっても良い」
「それでも俺は……仲間を売るような真似を――」
「フィーロー」
「わかった! 成功の暁には俺を自由にしてくれるんだな!」
幾らでも交渉の手段はあるからなぁ。
さっきも言った通りコイツじゃなくても頷いてくれる奴はいるだろう。
「もちろん、約束しようじゃないか」
自由になれるのならな。
「尚文……」
なんか錬が俺に何か言いたそうに口を開いている。
「なんだ?」
「いや……しょうがない、のか? エクレールの考えがわかったような気がする」
「ワザワザ盗賊共を刈り取って行くのも限度があるだろ? それなら根元から刈り取らないとな」
この盗賊を頭にしてこの国の盗賊が増えている原因を調査するのと同時に、治安維持を図る。
勇者のお陰で光が強まるのなら、そこから生まれた闇も管理するのが良いに決まっているからな。
まさか、裏で勇者が盗賊を使役しているなどと考える奴がこの世界にどれだけいるか。
仮に居たとしても、四聖勇者全てが俺の軍門に下った今、怖い物は何もない。
考えても見れば、俺の立場も随分と変わったな……。
「まずは盗賊の仲間を集めろ。そうして、勢力を拡大するんだ。もちろん、俺の所の商人は襲うんじゃないぞ」
ちなみにアクセサリー商とは既に交渉を済ました。
メッチャ大興奮で、俺を絶対に後継者にさせると断言していた。
奴の琴線はわからん。
「商人を襲わずにどうやって生活しろってんだ! 盗賊なめんな!」
「襲うなとは言ってないだろ? 実は襲ってほしい商人が居るんだ」
アクセサリー商によると、商業組合に所属せず、縄張りや決まりを破る悪質な商人の勢力が存在し、暗躍しているらしい。
で、そう言った連中を抱え込んでいるのが穏健派の盾反対貴族だそうだ。
洗脳事件に関わりこそしなかったが、未だに私腹を肥やして俺を排斥しようとしている勢力らしい。
そういや、そう言った貴族が俺の事を睨んでいたのを覚えている。
つーか、考えてみればそう言う勢力が盗賊を飼っているのかも知れんな。
真相はわからない。
「見分けがつかねえよ!」
「大丈夫だ。俺の所の商人や襲ってはいけない連中の巡回路は常に報告してやる。お前は襲う馬車を選んで悪徳商人からだけ積み荷を奪うんだ」
人、これをマッチポンプと呼ぶ。
良く例えるなら、悪人だけを襲う正義の盗賊だ。
「で? その奪った積み荷はどうするんだ?」
「そうだな。俺の所に持ってきても良いが、足が付くと困る。半分は部下の盗賊を飼うために、もう半分は恵まれない人々や村とかに施しとして配れ。そうすれば世間はお前達を悪く言わない。そして国は……俺を見ればわかるな?」
「それが勇者のする事なのか……?」
盗賊であるお前に言われたくないがな。
暗躍なんて大きな組織では当たり前の行動だ。
女王とも組んで、ついでに隠れているゴミ掃除も一緒にすればいい。
「大丈夫なのか?」
「勇者も巡回して、盗賊を処分していると名目は立てるからな。お前は鼻が効く優秀なボスとして君臨するんだ。逆らう部下や邪魔な奴は俺の所を襲わせれば良い。返り討ちにして処分してやるよ」
「……わかった」
「交渉成立だな」
こうして俺は盗賊を子飼いにする事に成功した。
この盗賊のLv上げ?
フィーロのスパルタコースの刑に処す。
「尚文……どんどん黒くなってないか? エクレールとウィンディアが真似すると困るんだが」
「雑草を刈っていたってまた生えてくるだろ? なら根っこから刈り取って、芝生にした方が楽だ」
「わからなくもないけど……」
で、こうして盗賊を子飼いにした結果わかった事。
それはやはり俺の領地が生み出す富で商人が活発化しているのが根本的な原因だったらしい。
この国の盗賊は国や俺の奴隷共が定期的に捕まえていた所為で勢力が縮小、その影響で様々な他国の盗賊が支配域拡大の為、来ていたそうだ。
その所為で、盗賊が多くなっているとはな。
一部の動物を狩った所為で別の動物が増え過ぎた的な障害が今回の事件の正体らしい。
まあ、結果だけで言えばメルロマルクに義賊ギルドという一大組織が生まれてしまった訳だ。
国で盗賊を管理できれば良いに越した事は無いしな。
まあ国民には言えない暗部がまた一つ増えた訳だ。
ちなみに俺が見込んだ盗賊はやがて義賊ギルドでも有名になるのはまた別の話。
明日からは10時です。