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以前、香港のマスク事情を通して比較的放任姿勢を取る香港政府、そして香港産のマスクを積極的に生産しようとする地元企業についてお伝えした。今回は「オープンソース」のような形をとって市民が主体となってマスクの供給を増やそうとする事例を紹介する。この事例を通して香港の分散型抗議活動がどのような知の共有をもたらしたか探ってみよう。
(撮影:Kaoru Ng、以下同)

社会的企業などが支えたマスク開発

 以前の記事で香港政府がマスク供給に積極的に介入しない一方で、民間企業がマスクの配布のみならず、地元産のマスクを生産しようとしている事例を紹介した。以前の記事で述べたように、マスクは香港の民間社会のダイナミックさを見せてくれる。

 その中で、筆者が特に注目しているプロジェクト「HK Mask」について取り上げたい。筆者がこのプロジェクトに注目したのは、香港でものづくりを行うこと(香港製造)、ものづくりのレシピを他者と共有すること(オープンソース)、さらに一人ひとりが作り手となってものづくりに参加すること(メイカームーブメント)を目指しており、なおかつその前提となる関係者のマインドが一連の抗議活動によって育まれてきたように思えるからだ。

 まずこのマスクが生まれた経緯と関係者について簡単に紹介する。このマスクは正確に言えば何度も洗って利用できる布製のマスクフィルターで、使い捨てマスクの上につけて機能性を高めるものだ。「Dr. K. Kwong」として知られる鄺士山博士が呼びかけ人となって様々な専門家が集まって実現したプロジェクトだ。

「HK Mask」を手に持つ鄺士山博士

 鄺博士がどのような人で、実際どのようなマスクを作っているかについては、日経ビヨンドヘルスの甲斐美也子さんの記事に詳しい。博士はかつて香港大学・香港中文大学で講師をしていた。また、香港の大手学習塾「現代教育」で化学の講義を持っていたこともあり、香港の若者の間ではよく知られた存在である。香港のこれまでの一連の抗議活動においては、催涙弾の使用など警察の行動に対し自身のFacebook上で専門知識を用いて批判を繰り広げた。そして博士はFacebookページに15万以上のいいねがつくほどのインフルエンサーとなったのである。