古き死の王の目覚め   作:流星カナリア

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癒し動物ようやく登場です。


第13話 ハムスケ

 アインザックとの面会が終わった次の日の事。彼から、今後の冒険者組合についての話し合いは、約一週間程かかると連絡が届いた。

 アインズとしては、もっと時間がかかるだろうと考えていた為、その連絡は吉報だ。

「となると、一先ずこの案件はアインザックに任せておいて大丈夫だな」

 エ・ランテルの執務室で、アインズは書類に目を通しながら頷いた。

「レエブン候、今日は何かエ・ランテル内で急ぎの用などは無いよな?」

 幾つかの書類に判を押していたレエブン候は、顔を上げ、僅かな間を置いてから頷いた。

「……はい、特に急を要するものは無かったかと」

「ふむ。では、今日はもうカルネ村に戻るかな。ブレイン、お前も共に来い」

 後ろに控えていたブレインに声をかけると、彼は嬉しそうに身を乗り出した。

「お? マジで? ちょうどクライムの稽古がイイ感じに進んでたからな。俺がこっちにいる間は、ガゼフに頼んでたんだが――今日はじゃあ二人で見てやるか!」

「ブレイン殿、それでは彼が疲れ切ってしまいますよ。貴方達と違って、彼はまだ体力が無いのですから」

 レエブン候が呆れた視線をブレインに向けるが、ブレインはどこ吹く風だ。

「大丈夫だぞレエブン候。クライムには疲労を軽減できるマジックアイテムを装備させているからな」

「そういう問題では無いのですが……」

 アインズの言葉に、レエブン候は何とも言えない表情を浮かべた。内心「コイツ意外と脳筋なのか?」と思っていたのは秘密である。

「よし。では後はレエブン候に任せて我々はカルネ村に行こう」

「おっしゃ、じゃあさっさと行こうぜ陛下!」

 アインズは目の前に転移門(ゲート)を出現させると、ブレインを引き連れてさっさとその中へ入ってしまう。

 あっという間に二人の姿はこの場から消えて、後に残されたのはレエブン候ただ一人だ。

「……ハァ」

 レエブン候は深く溜息を吐いて、椅子に腰かけた。

 アインズの配下に下ってから、まだそれ程時間は経っていない。だが、少しずつ彼の性格が分かってきた。

 まず、彼は自分の庇護下に置いた存在にはとても慈悲深い。つい最近まで敵だった自分に対し、体調は大丈夫か、仕事量は多くはないかと普通に心配してくる。これには流石に驚いてしまった。

 それと、彼は本当に良き国を作ろうと努力している事も判明した。全てはカルネ村の為なんだろうが、結果として国が平和になるのならば、余計な口出しをする必要は無いだろう。

 あの戦争を経験した身としては、一体どれ程恐ろしい世界を作るつもりなのかと恐怖したものだが、蓋を開けて見れば、嘗ての王国と比べても、この魔導国はかなり善政を布いていた。

(皮肉なものだな。生者ではなく、死者の王が君臨した事で国が平和になるとは)

 

――そこまでの犠牲は計り知れないものだったが。

 

 確かにアインズの言う通り、全ては遅過ぎたのだろう。ならば生き残った人間として、魔導国が目指す世界を見届ける義務がある。今のレエブン候が出来ることは、ただそれだけだ。

「それにしても、あの二人はさっさと行ってしまったが……仕事が無いわけではないんだがね」

 手元の資料を見下ろしながら、レエブン候は本日何度目かの溜息を吐いたのだった。

 

 

   ・

 

 

 アインズ達がカルネ村へと姿を現すと、それに気付いた村人達がわらわらと集まって来た。

「アインズ様!? こんな昼間に来るだなんて珍しいですが……エ・ランテルでの政務は宜しいので?」

「あぁ。特に急ぎの用も無かったからな。レエブン候に任せてきた。ところで、ラナー達はどうしてる?」

 話しかけてきた村人に尋ねると、彼は村の中央広場を指差した。

「ラナーさんはエンリ村長と一緒に、クライム君の稽古の様子を見ていますよ。あの元王国戦士長に直々に鍛えて貰えるなんて、とても光栄だと言っていました」

 そう話す彼に対し、ブレインが「ほぉ?」と口角を上げた。

「アイツ、俺の事は何か言ってなかったのか?」

「え? あ、その、ブレインさんの事は、そろそろガゼフさんに勝てると良いですね、と」

「……よし。アイツの特訓メニュー倍にするわ」

 一応、ブレインはあの戦争でガゼフを負かした事になっている。しかし、あれはガゼフの心の動揺も大きかった。その為、今度は正真正銘勝ってみせるとガゼフに宣言していたのだが、生憎ブレインはまだ彼に勝利していない。勿論、ガゼフから奪った王国の至宝、剃刀の刃(レイザーエッジ)を使うのは反則過ぎるので、普通の剣で勝負している。今のところ互角と言ったところか。

 隣であまり宜しくない雰囲気を放っているブレインに気付き、アインズは呆れたように溜息を吐いた。

「ブレイン。そう熱くなるなよ。そういうところがガゼフと比べられるんだぞ?」

「分かってるっての! あーもう、絶対勝ってやっからな!」

「お前、ガゼフに勝つのは別にもう良いみたいな事言ってなかったか? もっと大きな視点で考えるとか……」

「確かにそう言ったし、その考えは変わってない。だがな、やっぱこう、目の前に立たれると越えなきゃならねぇ壁みたいに思っちまうんだよ」

「成程な」

 きっとそれが戦士というものなんだろう。アインズにはよく分からないが、彼らはそういう生き物なのだ。

「では、彼らの様子を見に行くか」

「おう!」

 二人は村人達に軽く声をかけつつ、中央広場へと足を進めた。

 暫く歩くと、剣を交える音が聞こえてくる。

「やってるようだな」

 ブレインが嬉々としてそう呟く。やがて中央広場に到着すると、そこには激しく剣を交える二人の姿があった。

「あら、アインズ様! それにブレインさんも」

 ラナーがアインズ達に気付き、軽く頭を下げる。彼女の隣にいたエンリは、慌ててアインズ達の元へ駆けて来た。

「ア、アインズ様⁉ 今の時間に来るだなんて珍しいですが……何かあったんですか?」

「いや、特に何も無いさ。ただ、君達の様子を見に来ただけだよ。それで、どうだ? クライムは順調に強くなってるか?」

 アインズが問いかけると、エンリは笑顔で頷いた。

「はい! クライムさん、飲み込みが早いみたいで、最初はガゼフさんの剣に押されてましたけど、今では何とか耐えきれるようになりましたよ」

「ほぉ? それは凄いな。この調子でどんどん強くなって貰えれば、カルネ村の戦力として期待出来るというものだ」

 満足げに頷くアインズを見て「そういえば」とブレインが口を開けた。

「今のカルネ村は陛下が作った死の騎士(デス・ナイト)達が警備してるし、この村自体が要塞化してるから大丈夫なんだろうけどよ。今までこの村ってモンスターに襲われた事は無かったのか?」

 ブレインの疑問に、エンリは目をパチクリとさせた。

「……そういえば、言われてみるとそんな話は聞いた事が無かったです」

「え、マジか?」

 嘘だろと驚くブレインに、エンリはゆるりと首を横に振った。

「本当に聞いた事が無いんですよ。お父さん達からも、今までに村がモンスターに襲われたって話は一度も聞いた事が無くて。普通、森が近くにあれば、そこからモンスター達がやって来る可能性があるんですけど――」

 そう話すエンリを見て、アインズは顎に手をやり何やら考え込んだ。

「何か心当たりがあるのか?」

 そんなアインズに気付き、ブレインが問いかける。

「うむ。確証は無いが、心当たりがある。だが、まさかアイツがまだあの森にいたとは……」

「な、何かあの森にいるんですか?」

 若干怖がりながら問うエンリに対し、アインズは「心配するな」と声を和らげた。

「森の奥にいるのであれば害は無い。ソイツはな、私の両親が若い頃、南のとある国から連れてきた魔獣なんだ」

「魔獣⁉」

 思わず声を上げたが、それも無理は無いだろう。何せ、今までそんな存在が森の中にいるなんて聞いた事が無かったからだ。

「へぇ。そんな奴がいたのか。全然知らなかったぞ?」

「だろうな。何せソイツはきっと、私の両親の言いつけをずっと守っているのだろうから」

「言いつけ?」

「うむ」

 アインズは視線を森の方角へと向けた。

「ソイツは当時絶滅したと言われていた『ハムスター』なる生き物だった。本来、ハムスターとは掌に収まる程度の大きさしかないのだが、そのハムスターは何やら実験動物として様々弄られたらしくてな。その体は人間よりも巨大になってしまったんだ。新婚旅行でその国を訪れていた父さん達が、その研究施設を偶然発見して、これはマズイと思ったのだろう。二人で施設を破壊してしまったんだ。勿論、施設を運営していた連中はそこの都市長へと突きだしてやったらしい」

「流石アインズ様のご両親なだけあって、やる事が凄いですね……」

 エンリは感心したように頷く。

「その施設を破壊している最中、二人はそのハムスターを発見した。ソイツは二人に助けを求めたんだ。勿論、そこの施設にいた実験動物達は、父さんの知り合いの手も借りて、全て保護するつもりだったがね。二人は彼女の願いを勿論引き受けた。それに、彼女は戦闘能力も高かったので、共に施設の破壊作業に加わってくれたんだ。彼女は施設の人間達に、力を制御する魔法がかけられた部屋に閉じ込められていたんだが、そこを二人は破壊した。だから彼女は存分に力を振るう事が出来たのさ。結果として二人が想定していたよりも早く施設の鎮圧が成功した。そしてその後、彼女は自分を救い出してくれた両親に感謝して、二人に付いて行くと言い出したんだ」

「なかなか忠義に厚い奴なんだな、ソイツ」

 そういう奴は嫌いじゃないとブレインは笑った。

「まぁ、父さん達もなんだかんだソイツの事を気に入ってしまってな。結局、ソイツを連れて旅行から帰って来たわけだ。ソイツはかなりデカイから、城に置いておくわけにもいかず、さてどうするかと考えた時に、森の中に置いておくのはどうかって話になったんだ。当時のカルネ村は、森からモンスターが下りて来て村を襲う事が度々あった。だが、ソイツを森に置いておけば、彼女を恐れて村まで近付かないだろうって二人は考えたんだ。勿論、彼女を利用する形になってしまうから、申し訳ないとは思ったらしい。だが、彼女は恩を返す意味も兼ねてそれを快く了承してくれた。それ以降、彼女はトブの大森林を縄張りとして生活するようになった」

「成程……だから今までカルネ村はモンスターに襲われる事が無かったんですね」

「そういう事だな。しかし、まさかあれから300年経った今でも彼女がいるとは思わなかったな」

 眼窩の灯火を揺らめかしながら、アインズは懐かしそうに語った。

「因みにソイツに名前は付けてるのか?」

 アインズの両親がそれなりに愛着を感じていたのならば、名前を付けていても可笑しくは無い。

「あぁ。確か、ハムスターの生き残りだから『ハムスケ』と名付けていたよ。何でも、南の国の国民達は、名前の末尾にスケやマルとかつく者が時々いるとか。それを意識して付けたらしいが、その後、それは男にだけ付けるものだと知ったんだ。ハムスケがメスだと気付いたのも、かなり経ってからだったそうだしなぁ」

 アインズはそう言って苦笑を浮かべた。

「会いに行っても良いんだが、多分、私があのモモンガという青年だったとは気付かないだろう」

「それでも、一応会いに行ってみてはどうですか? 話せばきっと、分かってくれるんじゃないでしょうか?」

 エンリがそう提案してきたが、アインズは乗り気にはなれなかった。

「あれから300年も経っているんだ。会ったとしても混乱させてしまうだろうよ。嘗ての恩人の息子が、アンデッドとして目の前に現れればな」

 本心では、ハムスケに再会したいと思っていた。だが、彼女の中では自分はもう死んでいる身だ。あの日、城から多くの人間達が避難した時、実は父にハムスケの事も頼んでいた。だからてっきり、ハムスケも共に避難したと思っていたんだが――

(ハムスケ程の魔獣がいなければ、トブの大森林にいるモンスター達がカルネ村まで下りて来る可能性は高い。それが無かったとなると、やはりまだ彼女は森に居るんだろう)

 彼女なりの忠義の示し方だったのだろうか。そう考えると、やはり一度会っておくべきなんだろう。

「うーむ……どう反応されるか分からんが、一応会いに行ってみるか。お前達はどうする? 共に行くか?」

「いや、せっかくの再会なんだ。俺達も一緒じゃあ邪魔になるだろうよ。俺はガゼフと一緒にクライムに特訓をつけるぜ」

 ブレインはそう言うと、未だ特訓を続けているガゼフ達の元へと向かって行った。

「私はンフィーの所に行きます。ポーション作りの状況の確認でもしておこうかなって」

「そうか。何だかすまないな、お前達に気を遣わせてしまった」

 ポリポリと頬骨を掻くと、エンリは軽く手を振って微笑んだ。

「気にしないで下さい。アインズ様の場合は特殊な事例ですから、会いに行くのを戸惑うのも分かります。ですが、会える相手がいるのならば、絶対に会っておいた方が良いって私は思いますよ」

 その言葉の重みを、アインズは勿論分かっている。だからこそ今、ハムスケに会っておこうと決心した。

「そうだな。お前の言う通りだ。ありがとう、エンリ」

 アインズは目の前に転移門(ゲート)を出現させると、直ぐにその中へと姿を消した。

 

 

   ・

 

 

 トブの大森林。記憶が正しければ、その奥まった場所にハムスケの住む洞穴がある。

 アインズはその周辺まで近づいた。

「ハムスケ!」

 声を張り上げる。

 ただ、この声をアインズの――モモンガのものだと分かるだろうか。

「ハムスケ! 俺だ! モモンガだ!」

 生前の自分を思い出し、アインズは叫んだ。

「俺は300年前、魔力が暴走してアンデッドになってしまったんだ! それから魔力を抑え込む為に、ずっと城の中で眠り続けていた……だが、遂にその暴走を抑え込む事が出来て、俺は300年振りに目を覚ました! だからこそ、お前にそれを伝える為に此処まで来たんだ! 俺はもうあの時のモモンガではなく、人間ではない。だが、生前の記憶は全て覚えている。お前と共に、父さん達と笑いあっていた日々を、俺は確かに覚えている! 俺は、人としての心がまだ残っているから――だから、またあの時のように、お前に会いたい……!」

 ざわりと、森の空気が変わった。

 洞穴の奥から、何かがやって来る音が聞こえる。それは、巨体が必死に体を動かす音のようで――

 

「殿~~~~ッ‼」

 

 洞穴から、一匹の巨大な魔獣が勢い良く飛び出してきた。

 

 雪のように白い毛並みに黒くつぶらな瞳、そして、巨大な丸い姿。20m以上はある長い尻尾が、喜びでブンブン振られている。

 

 記憶と寸分違わぬハムスケの姿に、アインズは眼窩の灯火を大きく瞬かせた。

 

「ハムスケ!」

 その巨体がアインズに思い切りぶつかって来る。普通の人間ならば吹っ飛んでしまうだろうが、アインズは人間よりも耐久力がズバ抜けて高い。ハムスケを難無く受け止めると、グリグリと頭を押し付けてくる彼女を懐かしそうに撫でてやった。

「本当に久し振りだな、ハムスケ。それにしてもお前、俺が怖くないのか? さっきも言った通り、俺はアンデッドだぞ?」

 アインズの言葉に、ハムスケはムクッと顔を上げた。

「そりゃあちょっとは怖いでござる! しかし殿の纏う気配は昔とは違うでござるが、その中心にある魔力は昔と同じもの。だから某は全然平気でござるよ!」

 髭をピクピクと動かしながら、ハムスケはアインズの顔をじっと見つめた。

「そうか……そう言ってくれるのは嬉しいよ。それにしてもお前、あの時父さんと一緒に逃げなかったんだな。何でだ?」

 そうアインズが問いかけると、ハムスケは短い腕をよっこいしょ! と組んで答えた。

「某、殿が生まれた時に父君から殿の事を支えてやって欲しいと頼まれたでござる。その時から某の忠誠は殿のもの。だから、殿がこの地にいるのならば離れる訳にはいかないと思ったんでござるよ。それに、某がこの地を離れれば、カルネ村にモンスター達が下りる可能性が高くなってしまうでござる。父君はマジックアイテムを設置してそれを防ぐと言っておりましたが、正直それでは限度があるでござろう? だからやはり某は此処に残って、殿達が守ろうとしたあの村を、殿達に代わって守ろうと決意した次第。そうやって300年、この地を守ってきたでござる!」

 えっへん! と胸を張る姿に、アインズは思わず抱き着いた。

「そうだったんだな。ありがとう、ハムスケ。お前のお陰で、俺が眠っていた300年の間、カルネ村は一切モンスターに襲われる事は無かったそうだ。一人で大変だっただろう?」

「そんな事は無いでござるよ。あのトーマスとかいう男が時々来て、一緒に薬草を探したり狩りをしたりしたでござる。その時に、殿はいつか絶対に目覚めるから、その時まで待っていてくれって言われたんでござる。だから某は安心してこの地に残っていたんでござるよ。長い留守番だと思えば、気にならなかったでござるし!」

 短い腕を必死に振ってそう伝えてくるハムスケ。

 その姿は、まるで自分を心配させまいとしているように見えた。

(いや、実際そうなんだろう。300年の間、ハムスケはこの森にずっと一人だったわけだし。いくらトーマスが時々来ると言っても、彼の死後はあまり人もこの森に入って来なかったと思うしな。寂しい思いをさせた事に代わりは無い)

 アインズはハムスケの鼻を傷付けないように、そっと骨の手で撫でてやった。

「これからは時々此処に来るよ。実はな、俺は国を作って王になった。だから少々忙しくてな。来れる時間は限られるかも知れないが、その時は色々魔法を見せてやろう。この姿になってから、使える魔法が笑える位増えたんだ」

 そうやってカタリと骨の音を鳴らして笑うと、ハムスケはピンッと尻尾を伸ばして驚いていた。

「殿、王様になったんでござるか⁉」

「あぁ。実はそうなんだ」

 アインズは、目覚めてから現在に至るまで何があったのかをハムスケに全て伝えた。ハムスケは驚いたり怖がったりしていたが、取り合えずアインズの選んだ道について、否定はしないようだった。

「誰だって自分の国を守ろうとするでござるよ。だから人間達は戦を引き起こすでござるし、殿が王国軍を虐殺したのだって、カルネ村の為にもそうする必要があったんでござろう? この世は弱肉強食。王国が民を救う力を失って、滅びの道を進んでいたのは明白でござるし、それだったら未来ある帝国側につくのは当たり前でござる」

「だよなぁ。俺もそう思うよ。王国は本当にどうしようもないところまで堕ちていたんだ。だから、エ・ランテルを俺が貰って、他を帝国が支配する形にしたのさ。正直言って、まだカルネ村しか領地が無かった俺にとって、いきなり一国を支配するのは難しいと思ったからな。取り合えずエ・ランテルを支配下に置いて、そこで色々と国を運営する為の能力を鍛えようって思ったのさ。皇帝からはそのまま王国を支配下に置けば良いって言われたが、やんわりとお断りしておいたよ。まずは出来る事からコツコツと、堅実にってな」

 そうアインズが説明すると、ハムスケはうんうんと頷いていた。

「殿は昔から慎重な男だったでござるからな。そこはどうやら変わっていないようで安心したでござる」

 鼻をひくつかせながら、ハムスケはコテリと首を傾げた。

「ところで殿。殿はエ・ランテルを拠点にしているようでござるが、そこには某の種族はいるでござるか?」

 ハムスケは、当時から自分の種族を探したいと言っていた。絶滅したと言われていた種族だった為に、その思いが強いらしい。

「今のところそんな情報は無いな。だが、今冒険者達を様々な未知の地へと送り出す計画を練っているところだ。そこでもしかしたら、お前の種族を見付けるかも知れないぞ?」

 そう言ってやると、ハムスケは瞳をキラキラと輝かせた。

「ほ、本当でござるか⁉ 某、もう一人は嫌なんでござるよ!」

 その言葉に、思わずアインズは息を飲んだ。

 

 自分も一人は嫌だ。

 だからこそ、同類を探し出したい。何処かにいる筈の同類を。

 

「……必ず、見つけ出そうな」

 

 ハムスケの気持ちが痛い程よく分かる。

 アインズは彼女の鋭い爪を、キュッと優しく握り締めた。

 

 

 

――その日以降、ハムスケの住処には、アインズの他にエンリやブレイン達が度々訪れるようになる。

 

 実に300年振りに出来た新たな友人達に、ハムスケは大いに喜んだそうだ。

 

 

 




まるでヒロインみたいだな……。

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