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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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優越感

 その後は、作業に追われた。

 あの施設で保護された亜人奴隷の治療、その他町での復興とやる事が多くて構わん。

 隣町の方で商人が受けた損害に関してもある程度、補填をしなくてはいけなかったし。


 まあ、アクセサリー商の一声が決め手になってみんな黙ってくれたけどさ。

 税収も安めだし、盾の勇者というこの国じゃ本来、悪魔である奴が作った町なのだからしょうがないと商人サイドも納得はしてくれた。

 それ以上の儲けがここには眠っているらしい。


 俺が管理しているフィロリアルの足の速さを頼りに行商での巡回ネットワークが確立してきているのを評価してとの事。

 代理販売をすることで売り上げが向上してきているのだとか。

 まあ、元康が何かあるとフィロリアルを買ってきて育てているから、フィロリアルは増える一方だし、問題は少なくなりつつある。

 倒壊した建物の修復も一応進んでいる。

 そんな合い間にも俺は料理したり、アトラと組み手をしたりと、忙しい状況だ。


 そうして村に戻って三日目。

 俺とアトラはリーシアがやっていた外から気を吸うというのを使えるようになってきていた。


「中々難しいよな。これ」

「はい……ですが、無双活性でしたか? それを長時間使えるようになりました」


 そう、アトラはもう無双活性を長時間維持する事が出来るようになった。

 だが、俺は外から気を吸う事は出来ても無双活性の方は全く上手く使える様子は無い。


「ごしゅじんさま、またやってるのー? フィーロも混ぜてー」


 俺達が外から気を吸う練習の手本にフィーロを呼んでやらせていると、なんとフィーロも使えるようになってしまった。

 俺の所の天才タイプは容易くしてくれるもんだ。

 フィーロは魔力回復というポーズでこの外の気を吸うというのを使っていたが、気を吸いながら動く練習を一日するだけで、動き回れるようになってしまった。

 勝手に強くなるとは……便利な奴だ。


 しかもフィーロは無意識に無双活性を使っていたようで、前よりも機敏に動けるようになった。

 何処まで強くなるんだよ、お前等は。

 ただ、フィーロの方は点とか、変幻無双流の技は使えないけどさ。あまりある力で無理やりねじ伏せるとか出来るのだから良いだろ。


「ふぇえ……ナオフミさん達は師範から教わって無いのに使えるようになったんですかー」

「まあな」


 リーシアが樹の世話をしている最中に通りかかる。


「あんなに頑張って覚えたのに、それは無いですよぉ……」


 そりゃあ、リーシアからしたらアトラ達は天才だろうな。

 でもあのババアはリーシアこそ逸材だと言っていたし、樹との戦いを見ると、お前も相当な天才だと思うぞ。


 アトラとフィーロの無双活性ってリーシアがしていた無双活性と何か違う気がするんだよな。

 あくまで見よう見まねで、精度が違うと言うか。

 それでも遜色はないとリーシアは言っている。

 でもなんか違うような気がするんだがなぁ……。


 ああ、そうそう。俺が無双活性が出来ないのと同じ理由なのか、リーシアは何故か無双活性が出来なくなったらしい。

 それでも問題無く戦えると言うか前より戦いやすくなったとか。

 勇者には使えない理由でもあるんだろう。


「じゃあ使えるようになった二人にはちゃんと注意しておきますよぅ」

「なんですか?」

「なーに?」

「あんまり長時間の無双活性は控えた方が良いですよ。じゃないと体が持ちません」


 ああ、そう言うタイプのブーストな訳ね。

 漫画やアニメとかだと長時間使用すると体に負担が掛って戦えなくなるとかそう言ったペナルティがあるんだよな。

 主人公なんかは、重要な局面でそれを使って二度と戦えなくなるが、克服するとか、何か別の力に目覚めたりする。

 まあ俺達はそんな都合良く行かないだろうけどさ。


 おそらくだが、リーシアは外部から気を取り入れる事が天才的に上手いんだろう。

 元々内部にある気……というか魔力はLvが上がった現在でも高い方では無いし、理由付けするとそれしか思いつかない。


 後は、アトラやフィーロはどんなに長時間使用するにしても、限界時間があるみたいだ。

 内部だけで使えば一分程度、外部からで五分程度、みたいな感じだった。

 リーシアはその点、ずっと使っていたな。


「そうですね。体中の骨がビシビシと音を立てる時がありますし、ここぞと言う時以外は攻撃の瞬間にだけ使うのが良さそうです」

「そーだねー」


 女騎士とかの無双活性は元々の効果が低く、持続時間もそこまで無いから気にする必要が無いという所か?

 ふむ……見よう見まねだけど奥が深いな。


「っと、そろそろ飯の時間か」


 修業を中断して俺は昼飯の準備をする為に食堂へ向かった。

 そして下ごしらえを任せていた奴隷と一緒に料理を作る。

 川や井戸に流された毒の浄化は既にバイオプラントを改良して済ました。


 まったく、三勇教の連中も碌な事をしないよな。

 ああ、三勇教の連中は昨日処刑された。

 代表のシスターはヴィッチと同じくフォーブレイの豚刑で、他の幹部はアイアンメイデンだ。


 イメージの関係からか、民衆の前に俺は出ず、処刑人の一人の振りをして見せられた。

 現代日本で育ったからか、やっぱり公開処刑を見るのはあんまり精神に良くなかったなぁ。

 昨日は悪夢を見た。

 民衆共は被害もあって、野次を飛ばしつつ、熱心に見ていた。

 俺の世界の中世でもこう言った出来事は民衆のガス抜きに使われていたらしいというのを何かの本で読んだ覚えがある。

 本当かは知らないけどさ。


 本能的な解消と言うのだろうか?

 焚き火を見るとなんか感じるような物に似ている気がする。

 拷問器具であるはずのアイアンメイデンが処刑に使われるというのはどうなんだ?

 叫び声が城下町の広場に轟いて、トラウマになりそうだった。


 そうそう、鎧やその他、何処に居たのか知らない樹の元配下も処刑された。

 皮肉な事に真鍮製の牛に入れられて燻製にされる処刑具。

 俺の世界だとファラリスの雄牛だったか。

 樹が使ったカーススキルだ。


 鎧の奴、自分が今から殺されると知るや震えながら命乞いをし、腰が抜けていたっけ。

 凄い絶叫が雄牛を象った像から聞こえてきた。

 うん。やっぱり残酷な世界だよな。

 悪人は処刑すべきだと思うけど、いざその光景に遭遇すると頭がクラクラとした。


 爽快感も糞も無い。

 自らの手で殺すとかだと……爽快だったのか?

 考えてみれば俺はブルートオプファーで教皇を殺しているんだよな……。

 あの時は爽快感も糞も無く、体の痛みしかなかった。


 やっぱり良く分からないな。

 今更人殺し云々で悩む事は無いが、惨たらしい死に方を見るのはあまり気分が良い物じゃない。

 う……昨日の事を思い出していたら肉料理が食いたく無くなった。

 人が焼ける匂いがあの時はしてたし、血生臭いのはちょっと控えたいな。


「兄ちゃん! ご飯!」


 ふんどし犬が興奮気味に俺が盛る飯を欲しがる。


「よし」


 俺は別口で用意していた地に落ちたクレープを乗せた皿をふんどし犬の足元に置く。

 みんな、俺の方を見て絶句している。

 何を絶句しているんだ? 俺は決めた事はする男だ。

 例え洗脳された状態だったとしても、あんな事を口走った奴に相応の罰を与えなければならない。

 むしろこの程度の罰で済むだけ感謝してもらいたい位だ。

 要するにふんどし犬だけ今日は貧相なクレープだ。


「忘れたとは言わせないからな。それが今日のお前の飯だ」


 ちなみに他の奴等にはいつもより少しだけ豪華にしてある。

 これで少しは自分がむざむざ敵に洗脳された事を反省するだろう。

 もちろん、後で飯を分けてやるがな。


「兄ちゃんありがとう!」

「な――」


 ガツガツとふんどし犬はクレープを犬食いし始めた。

 他の奴隷共はふんどし犬に視線を向けて口をパクパクさせている。


「へへ」


 すっげー優越感に満ちた目でふんどし犬は食堂にいる他の奴隷共を見渡す。

 奴隷共は唾を飲む様にキールが完食した皿を見つめている。

 谷子と一緒に飯を食べていた錬も、なんか絶句している。


「な、なんだ? なんて言うか、キールが食べた奴だけ凄く美味そうに、特別に作って貰ったかの様に見えてくる」

「うん」

「盾のお兄ちゃん。私もクレープ頂戴」

「俺も!」

「僕も!」

「そう言う意味で出した訳じゃねえから!」


 お仕置きだよ!

 なんでふんどし犬だけ特別に作ってやったみたいな状態になってんだ!

 まったく、こいつ等は……前向きに取り過ぎだ!

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