Vol.1
「じゃあ次の質問だ」
「なんですか?」
今の樹は嘘を言う事が出来ない様な状況だ。
ならば今のうちに根掘り葉掘り聞き出すのが一番だろう。
これで呪いが解けた後、また虚言癖を出されても後の祭りに出来る。
「お前がコロシアムで使っていたリングネームはなんだ?」
「パーフェクト=ハイド=ジャスティスです」
「ふっ!」
やべ、ちょっと吹いた。
無表情で、感情の篭っていない声で言うからさ。
「で、その名前はなんなんだ?」
「正義は人知れず人を救うからです」
「アホか」
「あなたの中ではアホなんでしょう。あなたの中では」
「……なんだと?」
待て、こいつは思っている事を言っているだけだ。
普段はきっと言わないだろう。
思っていてもむかつくけどさ。
……もういい。コイツがどうして正義にこだわるのかは後に回そう。
じゃないと俺の堪忍袋の緒が切れる。
俺は結構短気だからな。
ぶっちゃけコイツの正義感とかどうでもいい。
「……お前はこの世界を、良く知るゲームに限りなく近い世界だと言っていたな」
「はい。僕の知るディメンションウェーブというゲームのルールでこの世界は動いていると思っていました」
過去系?
まるで今は違うと思っているみたいな表現だ。
そこ等辺は呪いが弱くなったらわかってくるか。
「じゃあ質問だ。何故、霊亀に挑んだ?」
「早く手を打たないとストーリーミッションで脅威となるからです。というのも――」
ここから先は一部省略する。
大体の返答が錬と被るためだ。
まあここ等辺は今までの流れから予想通りでもある。
「次は鳳凰で良いんだな?」
「はい」
「ふむ……次の質問だ。お前のやっていたディメンションウェーブの……エンディングはどうなっている?」
俺は錬や元康と樹が根本的に違う所であるゲーム知識の核心を突く。
錬はVRMMO、元康はMMOで、樹はコンシューマー。
つまり樹は終わりのあるゲームをプレイしていたと言う事だ。
「応竜を倒すと一部完でエンディングとなりました。後はコンバートの為にやりこみをするという所です」
「なんだと!?」
最悪だ! つまり樹の知識も役に立たない事を証明してしまった様な物じゃないか。
というか一部完ってなんだよ。
確かにVol.1とか続編前提のゲームとかあるけどさ。
そう言うタイプだった訳?
いい加減にしてくれよ。最後までやってからこの世界に来いっての。
「実際どんなゲームだった訳?」
「カテゴリーで言えばハック&スラッシュ。このゲームの発祥は僕の世界で約三十年前、名称未決定と称される体験版だけで2TBもあるPC専用エロ同人ゲームが一大センセーションとなりました」
「は?」
突然ペラペラと能弁に語りだした。
そもそも樹の世界では三十年も前に2テラバイトも搭載できるハードディスクがあったのかよ。
こいつ自分の世界は普通だとか思っていただけで、錬程では無いにしても近未来じゃねーか。
なんか会話が成立しないな、と思っていたんだが、そういう事だったのか。
となると、元康の世界と俺の世界が近いのか?
いや、アイツはギャルゲの世界だろう、きっと。
アイツだけギャルゲの世界かもしれないけどさ。
「それで?」
「製作者不明のこのゲームは最終的に販売権利兼製品版は一人の軟禁状態だった富豪が私財を投げ打って購入したと言うのがニュースとして有名になりました」
「は? もっと分かり易く説明してくれ」
「僕も生まれる前の話なので、インターネットの情報サイトで見た程度ですが、非常に高額で販売権と共に製品版が販売されたそうです」
「へ~……で?」
「その富豪はゲーム購入後に消息不明になりましたが、別の意味で有名になり、その富豪を軟禁していた者は逮捕されました」
「お、おい。それとディメンションウェーブというゲームに何の関わりがあるんだ?」
「大ありです。その名称未決定とされたゲームのシステムを辛うじて解析した結果、作り出されたゲームがディメンションウェーブなのですよ」
樹の話ではディメンションウェーブと言うゲームは、やろうと思えば何でも出来るゲームであったらしい。
勇者、悪人、善人、商人、王、淫魔。
無限に存在するキャラクタークリエイトによってそのゲームは楽しみの幅を持たせていたのだと言う。
で、共通するワールドクエストとして災厄の波を乗り越えるという目的があったそうだ。
この辺りは本家のゲームとは違い、マップ固定で幅が狭いのが難点だったとかどうでも良い補足をしてくれた。
突発クエスト辺りは再現されていたらしいけど。
要するに、インスパイアされたゲームだった訳ね。
で、Vol.1をやりつくしていた樹は勇者としてこの世界に召喚されたと思い込んでプレイしていたって訳か。
しかもゲームではご丁寧に早いうちに霊亀を倒すことで被害を抑えられたんだと。
「じゃあ応竜の先は知らないのか?」
「はい」
つかえねぇ……。
「……次の質問だ。青い砂時計が霊亀の中にあったんだけど、知らないか?」
「ゲームにもありましたけど尚文さんの話した場所とは別の場所ですね」
「場所って?」
「封印されている都市の中心です」
「ふむ……」
オブジェクト扱いだったとか?
何か意味がある可能性はあるんだが、そういうのは次回作で明らかになるって感じだったんだろう。
こりゃあVol.1とかの感覚だっただろうからLvも上限とかあったかもしれないな。
「Lv上限は?」
「100です」
うわぁ。役に立たないなぁ……。
というか、そんな中途半端な知識でよく、俺チート! みたいな顔ができたな。
「それでよく霊亀に挑もうと思ったな」
「60あれば余裕過ぎる相手なので」
「鳳凰は?」
「70です」
「……麒麟は?」
「75です」
はぁ……あんまり期待できそうにないなぁ。
お前、80でボロ負けしてんじゃん。
「鳳凰は強いか?」
「そこまで強くは無いです。二匹いますし、飛ぶのが厄介ですけど、僕は弓なので常に攻撃を当てられます」
「だから自分は最強とか思っていたのか?」
「はい。ディメンションウェーブはハック&スラッシュの面が強かったので、遠距離から大量に攻撃できる武器やスキルが優秀でした」
「今はどう思っている?」
「一長一短ではないでしょうか?」
まあ、あれだけ俺達にボコボコにされれば気付くよな。
あるいは、内心気付いていたが、否定していたのかもしれない。
今は嘘が言えないから思った事を喋っているんだろう。
「ふぇえ……イツキ様とナオフミさんは何を話しているのですかぁ。全然わかりません」
仲間だったリーシアにも話してなかったのか、コイツは。
本当呆れる。
「他にも聞きたい事がある。どういう経緯であの建物で眠っていたんだ?」
「ゼルトブルのコロシアムで賞金稼ぎをしていた所、マルティ王女が僕に力を貸してほしいと勧誘してきたんです」
マルティ王女……か。
まだ樹は真相を知らずにいるんだな。
「これから元第一王女の名前をヴィッチ以外で呼ぶ事を禁じる。もちろん呼び捨てだ」
「はい。で、ヴィッチが僕に色々と尚文さんの悪行を語り、是非と……僕が頷き、同行するとあの建物に案内され、マルドや僕の下を離れた仲間達が集まって尚文さんへの反攻作戦を計画していました」
「なるほど、続けろ」
「マルド達は僕に辛く当ったのは傲慢だった僕に成長する機会を与える為だと言い。ヴィッチや他の方々が僕に、何か、武器の欠片を渡しました。僕がその武器の欠片を弓に入れると、弓に新たな力が宿ったのです」
ふむ……ここまでの路線、樹だけの主観で考えれば確かにロボットモノやバトルモノで良く見る光景だよな。
突然得た力で世界平和の為に戦う使命を受け、人知れず悪を倒す戦いを繰り広げた後、強大な敵に敗れて一時仲間は解散。
それでも自らを磨く戦いを繰り広げていた所で過去の仲間達と合流、迫害されて国を追われた王女と共に、様々な悪さをしながら生き伸びている強大な悪を倒す。
しかも元王女に新たな力を授かった。
なんてシチュエーションだったら自分が主人公だと思いこむのも頷ける……のか?
で、新たに手に入れた力は体に負担が掛るからと培養液に満ちた試験管で眠らされ、時が来るまで待つ。
アニメにしたら面白そうな展開かもな。
「先に言っておく。アイツ等はお前を利用していただけだ。証拠も後で見せてやる」
「……そうですか」
呪いが解ければ元に戻るから、話ができる内に教えておこう。
記憶を失っている訳じゃないんだし、呪いが薄まれば考える事もできるだろう。
「今でもお前は自分が間違っていないと思っているか?」
「……わかりません」
やはり呪いによって判断力が低下しているみたいだな。
質問には素直に答えるけど。
どう思っているんだ? とか、どっちだ?
などの問いには答えられない。
「イツキ様……」
「じゃあお前は勇者の武器がどんなモノなのかは知らないよな」
「はい」
あんまり役に立たないなぁ。
元々霊亀に負けた連中の言葉だし、期待はしてなかったけどさ。
だとしても、ここまで情報が微妙だとがっかりするな。
「はぁ……他に何か無いか? 前と大きく違う事とか」
「そう言えば……」
「なんだ?」
「先程からステータスの魔力とSPが回復しません」
おい。それって魔法もスキルも使えないって呪いまで掛ってんのかよ。
ホントクソだな。
錬は経験値が入らず、金目の物を扱えない。
元康は……特に問題は無いけど女が豚に見えて話を聞かない。
で、樹はどんな命令でもイエスマンになった挙句、無表情無感情、正義感も無いっぽいし、プライドも無いんだろうな。
まあ、樹は錬以上にカースっぽいスキルを使っていたから重複で呪いを受けているんだろう。
「他に何かあるのかな? まだ僕に聞いて回るのかな?」
「ん? どうした樹?」
「何がですか?」
「イツキ様?」
「僕、何かおかしい事を言っているのかな? どうしよう、尚文さんが睨んでる」
樹がおろおろと挙動不審になっている。
……何か変だぞ?
とりあえず命令してみよう。
「樹、嘘を吐いてみろ。この部屋は宮殿みたいだろ?」
「いえ、変な植物の生えた変な家です」
ああ……念の入った呪いだ事で。
それにしても、本当に嘘が言えないんだな。
実際、変な植物だし変な家でもある。
「樹、リーシアの事をどう思ってる?」
「雑魚だったのになんか異常に強くなったチート」
「ふぇええ! チートってなんですか!?」
「言葉の意味はズルをする事ですが、この場合不自然に見えるという事でしょうか」
「ふぇえええ……」
これだけだと確証は無かったが、その前に命じた事で明らかになったな。
今の樹は思った事を口にしてしまうという状態になっているんだ。
たぶん。
こんな奴を外には出せないぞ……。
仮にも勇者だから戦闘能力は高い方だし、命令を聞くだけのお人形さんとか厄介極まりない。
やはり俺の所で管理するしか無いんだろうな。
他にも、樹の世界には明かしていない部分があります。
というか、今回の某繋がりは初期設定に入っているだけで、無くてもよかったんですけどね。