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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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イエスマン

 という事でヴィッチを見送った後、俺は玉座の間に戻っていた。

 報奨の関係も終わり、各自城内で休ませている。

 この場に居るのは女王、国の幹部と俺だけだ。


「さて、では報告を致しましょうか」

「そうだな。色々と聞きたい事は山ほどある」

「そうですねー……まず判明した出来事というとヴィッチがどのように国境を越えたかでしょうか」

「どうやったんだ?」

「どうやら、霊亀によって亡くなった影の死骸から変装用の魔法道具を横領した模様です」


 そういや影は見事に変装する事が出来るのだったか。

 よく使いこなせたな。

 ヴィッチも元康と別れて国境を越えたら詰問されるのをわかっていたのだろう。

 戻るつもりも無く、甘い汁を啜る方法を模索したという事か。


「そういや、ヴィッチの仲間、エレナ以外にもう一人いたよな。アイツは何処だ?」

「既に捕縛済みで、ヴィッチと同様に輸送する予定です」

「あいつも貴族なのか?」

「ええ」


 へー……ヴィッチと同じ末路か。

 ざまぁ。

 それにしても、最後まで名前を聞かなかったな。

 お前の事は直に忘れる。えっと……女2。


「後は奴隷紋に関する事ですね。こちらも既に解決しております」

「何が原因だったんだ?」

「どうやら初期は霊亀の被害による不具合だったようですが、その後はジャミングを掛けられる施設で潜伏していたようです」

「そう言えば、報告をした建物の調査をしたんだったな。あそこに隠れていたんだろ?」

「そのようです。後は事件中に奴隷紋を発動させる事が出来なかったのも、洗脳する力による妨害だった様です。今は掛け直し、フォーブレイの王に委託する事が決定しています」


 ジャミング効果もあったのかよ。面倒くさいなぁ。

 ん? 城の庭の方が騒がしいな。

 窓から様子を覗きこむ。


 するとフォウルがアトラを抱きかかえながらクズから距離を取ろうとしている。

 アトラはなんか渋い顔をするように露骨な表情だ。

 クズはー……なんか軽く手を伸ばして空を切った感じ。


 手にはおやつ?

 アトラを餌付けでもしようとしたのか?

 そういや、クズはヴィッチの処遇を聞いて泡吹いていたもんな。

 心の拠り所をアトラに求めたんだろう。


 まあ良いや。放っておこう。


「他に、巷で有名になっていた奴隷解放組織と言うのも、どうやら三勇教だったのが判明いたしました」

「ああ、そう」


 谷子が村に来た時、奴隷共から聞いた話だな。

 奴隷から自由にさせてくれる慈善組織だったか。


「三勇教が慈善? 怪しさ抜群だな」

「ええ……どうやら人体実験に使うために、解放してあげると囁いて連れ去っていたようですね」


 やはりそうか。

 不自然な連中だったもんな。


「捕らえた際に尋問した所『ああ、解放したよ。この世からな!』や『我等の崇高な使命の為に犠牲となったのだ』と言っていたとか」


 相変わらず凄いセリフだ。

 ま、そんな連中もこの世から解放される瞬間が近付いているんだけどな。

 一つ不満を残すとすれば、犠牲になった奴等が安息を得られなかった事か。


「イワタニ様の報告した施設の一区画に捕縛されておりました」

「ふむ……」

「人体実験によって死んだ者が多数。生存者も多数存在します」

「……大丈夫なのか?」


 女王はそっと目を逸らした。

 ああ、そうか。あんまり芳しくないのか。


「治療が必要になるかと思います。ですが……」

「わかった。俺の所で面倒見よう。もう一人も十人も変わらない。間接的に関っている以上、そうした方が色々と角が立たないだろう」

「重ね重ねありがとうございます」


 ふう……奴隷商に奴隷の調達を中断して貰おう。

 随分増えそうだからな。

 まあ、うちの村には錬金術師のラトも居るし、俺の薬を使えばある程度は良くなる。

 と、思いたい。


「身元がわかっているのはいるのか?」

「三分の一程だけですね。他は、既に奴隷狩りなどで滅ぼされてしまっている様子」


 ラフタリアと同じパターンか。

 まったく、この国はどうしてこうも亜人を嫌悪するかね。

 そりゃあ変わっているのも居るが、話せばある程度通じるぞ。

 むしろ差別とかする奴こそ話が通じないのはどういう事だ?


 そうそう、ラトにあの研究所の物を接収したらかなり喜んでいた。

 欲しかった機材や、研究内容をある程度参考にするつもりらしい。

 但し、勇者の武器の複製は資料を一目見て即座に断念した様子だ。

 何でも、割に合わないとか。

 今は城の兵士を使ってあの建物の全貌解明を急いでいる。そんな状況だ。


「イワタニ様。弓の勇者様の状態はどうでしょう?」

「リーシアに一任しているが……あんまり良くないな」


 そう、アレは洗脳騒ぎが解決した翌日の昼の事だ。



 樹が目を覚ましたと監視させていた奴隷から報告があり、洗脳解除の仕事をしていたリーシアと一緒に樹を収容していたキャンピングプラントに行った。


「イツキ様!」


 ベッドから体を起こした樹がそこに居た。

 俺は腕を組んで心配そうに駆け寄るリーシアを見守りつつ、何時、樹が暴れ出しても良いようにフィーロやアトラ、錬を外に待機させておいた。


「調子はどうだ、樹」

「……」


 無表情で、しかも眠そうな目をしながらゆっくりと樹は俺に顔を向け、沈黙している。


「……」


 沈黙がしばらく支配した。

 リーシアも樹が何か言うのを待っていたが一向にその様子が見られない。


「おい。なんとか言えよ」

「……なんとか」


 っ……!?

 コイツ! いきなり俺に喧嘩を売るとは良い度胸だ!


「悪いなリーシア。どうやらお前との約束は破らねばならないようだ」


 全く反省の無い奴に生きる価値はこれ以上存在しない。


「ふぇええ! 待ってください。イツキ様、ほら、ここは素直に謝ってください」

「……ごめんなさい」


 無表情でペコリと樹は素直に頭を下げる。

 なんだ? 樹ってこんな奴だったか?


「樹、一体どうしたんだ?」

「……わかりません」

「また隠し事か? お前も本当に好きだな」

「……隠しているのですか、僕は?」

「えっと……樹、お前は自分が何者かとかわからないって奴?」


 カースの代償が記憶喪失とかじゃないだろうな。

 今までの例からそういう状態になっても不思議ではない。

 だとすると、かなり面倒くさい事になるんだが。


「いいえ、僕は川澄樹で、弓の勇者です。正義を志ましたが、負けてしまいました」

「記憶喪失じゃないんだよな」

「わかりません」


 なんでわからないんだよ。


「隠し事はするなよ。何を企んでいる?」

「僕は何かを企んでいるのでしょうか?」

「知るか! それを聞いてるんだよ! 質問に質問で返すな」


 なんだこれ?

 樹の奴、無表情でボーっとしている感じだ。

 覇気がまるで無い。

 廃人になった……とも違うんだよな。

 さっき、俺はなんとか言えと言った。すると樹は「なんとか」と答えた。

 ……。


「樹、逆立ちしたまま服を脱げ」

「はい……」


 樹は俺の言う通りに逆立ちを始め、服を脱ごうと片手でボタンを取ろうとし始める。


「イツキ様! おやめください」

「はい」


 リーシアの言葉に樹は逆立ちをやめて棒立ちになった。

 ちょっと待てよ。誰かが言った事をそのまま実行してるぞ。


「樹、自害しろ」

「はい……」


 樹は弓から縄を取り出して首を釣ろうと引っかける場所を探す。

 これで自害するのが樹ではなく、元康だったら俺の知っているアニメと重なる。

 武器的な意味で。


「ふぇえええええ! やめてくださいイツキ様ー!」

「はい……」

「樹、お前は何をしたい?」

「何をすればいいのでしょうか?」


 ……おい。まさか樹の奴。

 確か樹が唱えていたカーススキルには我が信念とか、想いを代価にと呟いていた気がする。

 信念や想いを代価にしたら……自分の意志で物事を決められなくなるだろ。

 つまり自分の中で何が正しいのかわからなくなっているのか。


「なんで無表情なんだ? 俺の事をどう思っている?」

「無表情……なのですか。尚文さんの事は別に何も……」

「じゃあ、悪人はどう思う?」

「別に……いるのならしょうがないのではないですか?」

「怒ったりしないのか?」

「腹が立ちません……」


 無表情で無感情なのか?

 というか虚言癖と隠し癖のある樹がこうもペラペラ話しているなんて不気味だ。


「とりあえずはお前は俺達に負けて捕虜になっている。リーシアが面倒を見てくれるからじっとしていろ」

「わかりました」


 樹はそう言った後、リーシアを凝視して……また俺の方を見る。


「何かする事は無いのですか?」

「何をするんだ?」

「えっと、何をしようかな、それともジッとしていようかな、動くと……」


 やはり決断力が低下しているようだ。

 代償は意志の喪失とかに近いモノなんだろう。

 まったく、どうしてこうも俺の所に来る勇者って呪いに汚染されているのかね。


「樹、お前はこれからどうするのか、もう一度考えろ」

「そんな……わからないです」

「それは呪いの所為だ。いずれ完治するだろ。その時、俺と敵対するかは知らないが、もしも戦うつもりなら容赦しないことだけを覚えておけ」

「……わかりました」

「イツキ様。私はイツキ様と一緒に罪を償う為に戦いますからね」


 リーシアが樹に向けて言うと、樹は素直に頷いた。


「よろしくお願いします。リーシア、さん」

「はい」


 なんかリーシアが泣いていた。

 まあ、もはやこれは樹の形をした別人みたいだもんな。

 誰かに言われた事に素直に応じてしまうようだし。


 という訳でヴィッチを断罪する時に樹が居たら非常にやばかった。

 もしも樹が居たらよろしくお願いしますとか言っていただろう。

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