昇進
あれから三日。
俺とリーシアは今回の事件の後始末に追われた。
さすがに休む時間が欲しい、領地の町で洗脳された連中をある程度解除させた後に少し休んだっきりだ。
洗脳された奴は一見、まともな振りをするので、リーシアやアトラに見抜いて貰う必要がある。
城下町の方はラフタリアやババアが目を凝らして判別したお陰でどうにか選別は出来た。
幸いなのは解除させるのは案外簡単だという所か。
武器を投げるだけでどうにかなるのだから良いよな。
俺だったらプリズンで閉じ込めないといけないのだけどさ。
大雑把に洗脳解除をして、後は住民を一通り見渡すだけで今のところは解決したという事にした。
この頃になると洗脳された連中の方が少なくなり、変な理屈を述べて俺を批判する連中は一応捕まえるという雰囲気が国中に広まった。
ある意味、弾圧状態だけどしょうがない。
俺を非難するイコール、洗脳されているのではないかと言う疑いが掛けられるし。
本心で俺を嫌っている洗脳されていない連中は身を潜めるだろ。
ここが洗脳された連中との大きな違いだな。
ま、そんなこんなで事件は解決に向かった。
で、四日目の朝の事だ。
女王が俺達を城に招待した。
もちろん、錬や元康も一緒だ。
樹に関しては……後で語るとしよう。
今は俺の村で軟禁状態だ。
「此度の国の騒動の解決、真に感謝いたします」
謁見の間に通された俺達、城に駐在していたラフタリア達も待っていた。
ついでにクズが、大人しく座らされている。
というかヴィッチの革命後はクズの奴、以前に増して老けて見えるほど自信を喪失しているようだ。
哀れという言葉がしっくりくる。
ヴィッチ同様、その姿が似合っているぞ。
「で? 何の用だ?」
「イワタニ様は好まないと思いますが、今回の事件を解決して貰い、この国の膿を排除して頂いた報酬を授ける儀式みたいなものですよ」
「ああ、そう言う事ね」
「他にも色々とありますが、まずはこれが先ですね」
「ふむ……」
そりゃあ国家転覆を狙った革命運動を阻止したのだから、王族もそれなりの報奨を与えないと面目が立たないか。
革命の筆頭がヴィッチと言うのもなんだかなとは思うけどさ。
そっちの話を先に聞きたいんだがなぁ。
「まずは今回の事件を解決させる事に尽力を注いでくれた筆頭、盾の勇者様であるイワタニ様から」
「ああ」
また儀式用の剣を渡され、俺は女王の前で気取って腰を落とし、剣を抜いて渡す。
剣を受け取った女王が俺の肩に剣を交互に向けてから告げる。
「此度の活躍により貴殿に侯爵の地位を授ける」
うわぁ……いらねぇ。
伯爵に侯爵の地位をくれるのかよ。一応上だけどさ。
ちなみに複数の爵位って持てるんだよな。
この世界でもそうなのかな?
「イワタニ様の配下への報酬はイワタニ様へ下賜するという事になります。何か欲しい場合はイワタニ様をお通しください。それは他の勇者様方も含まれます」
「ああ」
つまりラフタリアとか俺の配下の活躍は俺を代表にして入ると言う事か。
錬も頷いている。
元康は……フィーロを見るのをやめろ。嫌がってんぞ。
まあ一応錬と元康は勇者であると同時に罪を償っているという名目があるから、活躍していても出世は無しなのか。
女王も俺が面倒臭がっているのをわかっているのか相当簡潔にしている。
というか……ラフタリアに爵位を与える事も出来るのか。
チラッとラフタリアを見ると、ぶんぶんと首を振られた。
面倒だもんな。最終的には贈与するけど。
「やったな! 尚文」
「いや、別に嬉しくないし」
「そ、そうか……」
俺の返答に錬がしょんぼりとしている。
正直本当に嬉しくない。
というか、俺と錬ってこんな事を言い合える仲だったか?
「お義父さん、今回の働きとしてフィロリアル牧場を拡張したいのですが」
「元康、お前は黙ってろ」
女王の言葉がわからないんじゃないのか?
ああ、言いたい事を言っているだけか。
「さて、他に報酬を与える者がおります」
ん?
女王の奴がリーシアの方を見る。
「リーシア=アイヴィレッド」
「ふぇえ!? な、なんでしょうか?」
女王が手招きし、来るように指示を出す。
リーシアはおどおどとした様子で辺りを見渡しながら指示通り女王の前にやってきた。
「リーシア=アイヴィレッド。そなたは此度の件に関して多大な活躍をし、国に貢献した事を、女王であるミレリア=Q=メルロマルクは高く評価します。この評価はイワタニ様の管轄とは別口でのモノである」
「は、はい!」
まあなぁ。
正義ゾンビの洗脳を解いて回ったのはリーシアだし、一番の功労者と言えなくも無い。
なにより、勇者の武器か現状は不明だけど『投擲武器の何か』を所持している分、抱え込んでいたいだろう。
「アイヴィレッド家には別に褒賞金を与えるとして、リーシア様本人には家督とは別に男爵の地位を授けます」
うわ。リーシアも出世だな。
これで別口に領地でも貰えるのかな?
樹の管理があるから出て行かないだろうけど、自分の領地とかどうするんだろう?
どちらにしても、もう没落貴族とは言えないな。
「領地はイワタニ様に贈呈する土地の中で好きな物を相談して決めましょうか」
「俺にもか?」
「ええ……今回の革命で大量に貴族が捕まりましてね。余っているのですよ」
マジでいらねえ。
「必要無いと顔に書かれていますね、イワタニ様」
「だってさ……」
私兵育成用の土地は確保したし、これ以上領地での揉め事の責任を取らされたら過労で倒れる自信がある。
正直、最終的に捨てていく地位や領地なんていくらもらってもな……。
「大丈夫ですよ。その領地で徴収した物品、税収の一部をイワタニ様へ献上するだけです」
「そうか!」
ま、領主だけで管理なんて出来るはずもないよな。
その場に人を送って管理してくれるのか。
メルティが仕事を代理でしてくれるように!
というか、そんな事ができるなら最初からそうしろよ。
まあ革命派貴族のほとんどが処刑される事が決定した今、領地は穴だらけになるからだろうけどさ。
それに、地位が上がればある程度行動が縛られるとは言え、無理を通しやすくなる。
鳳凰の後に最低二回以上の波が控えている可能性がある以上、装備は整えておきたい。
そういう意味では、より沢山の領地から取れる資源や金は必要だ。
何故か俺の村に住み着いている錬や元康の装備強化も賄う事になりそうだしな……。
樹は……リーシアのがんばり次第か。
「……その事なのですが、女王様」
リーシアが申し訳なさそうな顔をし、先ほどまでの締りの無い声ではなくしっかりとした口調で答えた。
「なんでしょうか?」
「大変栄誉なお言葉に、とてもうれしく思います。ですが、一つお願いしたい事があります」
「……聞きましょう」
「どうか、私に与えようとした地位、領地、勲章、その全てを無かった事にして、弓の勇者であるイツキ様の罪を放免にして頂けないでしょうか?」
女王の側近や騎士達が騒然となる。
今回の事件に樹は一枚以上噛んでいる。
一応はヴィッチや三勇教の残党が行ったと言う事に世間的にはなっているがな。
しかし、リーシアも考えたな。
それ位しか手が無かったとも言えるが。
「話はわかりました。ではリーシア=アイヴィレッド個人への報酬は全て返上とし、弓の勇者であるイツキ=カワスミの罪を条件付きで免除致します」
「条件?」
「ええ、その条件とは勇者として世界を脅かす波に命を掛けて戦い続けるというものです。そして今度、世界に、人々に害を成す行いをした時は、問答無く処刑を致します。管理はリーシア=アイヴィレッドに一任します。肝に銘じるように言いなさい」
「あ、ありがとうございます!」
大した裁きだ事で。
どっちにしても樹は殺すに殺せない事情があった訳だけど、無難な結末か。
ま、俺もリーシアには約束をしていたし、リーシア自身が言わなかったら女王に言うつもりだったけど。
にしても、リーシアはどんだけ樹の事が好きなんだよ。
「さて、報酬の話はこれくらいにしておきまして次は此度の事件に関する責任問題でしょうかね」
辺りの空気が重くなるのを感じた。
ま、結局はそうだよな。
「一つ聞いて良いか?」
「なんでしょう?」
「三勇教の残党が霊亀の件で逃げたという事があっただろ? なんで即日処刑をしなかったんだ?」
「イワタニ様へ直接、手を下そうとした者では無い者が多いのも然ることながら、元々この国の国教であった故に、貴族出身の者が多いのです」
ああ……なるほどな。
犯罪者として処刑するには貴族という家柄が邪魔をする。
問答無用で処刑しようものなら、今回の様な革命を助長しかねないと警戒していたのか。
理解はできないが『貴族』という位だ。ある程度敬意とやらを払わないといけないとか、そんな感じかね。
確か俺の世界では、元々ギロチンとかの斬首刑って貴族階級にだけ行われた執行方法なんだよな。
そんな感じの面倒な手順がこの世界にもあるんだろう。
「処刑の日取りや裁定中でもあったのですよ。他に三勇教の施設の接収もありましたし……その作業に追われている最中に霊亀の侵攻がありまして……」
これって俺の世界に例えると、犯罪者が拘留中に刑務所に入っていたけど、地震とかの所為で国がそれ所では無くなり、しかも刑務所が崩壊したとかそんな状況だった?
外国だと裁判をする前に刑務所に入れられるってのがあるって聞くし、処刑前に逃げる機会がって奴か。
そもそも、俺達が三勇教の教皇を倒してから霊亀出現まで、そこまで時間があったかも怪しいからな。
国の貴族が関わっているとして……事件当初まで二週間くらいか?
そりゃあ処刑には時間が掛るか。
「で? 結局、どうなった訳?」
「さすがに今回の事件を起こした責任を擁護する事は国の貴族でも不可能ですし、イワタニ様への異議申し立ては現状では不可能ですので、処刑が決まっています」
「ほう……」
「弓の勇者様の元配下に関する詳細は承っております。後ほど、イワタニ様の前で処刑する事が決定しております」
鎧やその他の処刑も決まっているのか。
そりゃあ楽しみだ。
というか処刑した事を俺自身に見せるのか。
あんまり目に良くは無いけど見届ける必要はあるか?
「ここまで大きな事件となりますと責任者は城下町の広場で大々的に処刑する事になりますね」
「へー……」
「これでも昔は処刑をよく行ったモノなのですよ? 相手は敵国の将軍などが大半でしたが」
そう言う物か。
現代で生まれ育った俺としては、そういうシーンは想像し難い。
というか、嫌悪感すら湧いてくるが、相手が相手だからな。
ざまぁみろ、という感情が半分、哀れだな、という感情が半分って所か。
「一応、公衆の面前で処刑するのは今回の騒ぎの筆頭である者達と、革命派の貴族、三勇教の関係者となっております。もちろん、他の方々も別口で処刑します」
「処刑方法って何?」
「複数ありますが、何か望みのモノはありますか?」
「いや、何があるのか知らないんだが」
そもそも処刑方法を選べって……どんだけだよ。
「貴族用にはギロチン。三勇教徒にはアイアンメイデン。弓の勇者の元配下には金属で作られた雄牛を捩ったモノに入れて燻製にする処刑器具を使う事が決定しております」
う……それってそれぞれカースシリーズの武具にある奴じゃねえか。
俺達が使っている以上、過去の勇者から参考にしたんだろうが、どんだけ……。
錬の奴が俺と同じように渋い顔をしている。
見ていたら自分のスキルで殺したような苦い感じがしそうだ。
「他に串刺し、魔法による蜂の巣など、レパートリーはある程度ありますが何がよろしいでしょうか?」
さらりと処刑方法を列挙する女王にちょっと引いた。
いや、これが普通なのかもしれないけどさ。
考えてもみれば、クズや女王は何年もシルトヴェルトと戦争していた訳だし、慣れているんだろう。
この世界の風習にある程度慣れたつもりだったが、やっぱり根本的に違うな。
「雷の魔法による感電死などもありますよ? 拷問に良く効くそうです」
……サディナの魔法が思いだされる。
あいつは雷魔法が得意だからなぁ。
ん? シャチっぽい亜人のアイツがなんで雷系魔法が得意なんだ?
まあいいか。
「お義父さん! 何の話をしているのですか?」
「お前は黙ってろ! そうだな、みどりだったか。元康に女王が言った事を代弁して教えろ」
「うん、わかったよ」
元康の配下であるフィロリアルのみどりが状況を元康に教える。
すると元康がふむふむと頷き、口を開いた。
「では処刑方法に立候補を致します」
「なんだ?」
「鳥葬です」
鳥葬!?
鳥葬って……鳥に死体を食わせるとかいう、アレの事か?
ちょっと待てよ。つまり処刑する罪人を鳥葬にするって……。
「却下!」
フィロリアルに人の味を覚えさせたらどうなるって思ってんだ。
あれは食べるかもしれないから効果があるんだ。
それに、本当に気に入ったら厄介な魔物の誕生だよ。
「ごしゅじんさまー鳥葬って何?」
「お前は覚えなくて良い事だ!」
「えー……」
元康……鳥関連ならなんでも良いのか?
少し、いや、かなり元康が怖くなってきた。
この話題は危険だ。即座に変えないと。
「で、聞きたかったんだけどヴィッチには何をさせるんだ?」
「ああ、その事ですか。ではヴィッチをここに連れて来てください」
女王が側近に指示を出すと、喋れない様に口枷を付けられ、魔法によって縛りつける拘束具を着させられたヴィッチが連行されてきた。
「むー……! ンー……!」
その目は、まだ生きる事を諦めていないようで、俺を見るなり親の敵のように睨みつけている。
他に憎らしい相手の中にラフタリアも入っているようだ。