人は細菌が9割、肥満だって腸内細菌を疑え
微生物の生態系が崩れはじめている
ここ数十年で劇的に増加している慢性的な疾患(あるいは不健康な状態)が存在する。たとえば肥満。アメリカでは1950年代から体重の増加が顕著となり、1960年代の初めての全国調査では、成人の13%が肥満(BMI値が30以上)、30%が過体重(BMI値が25~30)とされた。そして1999年の調査では、その傾向に拍車がかかり、肥満率は倍増の30%、過体重の人も34%に達している。さらに、アメリカのみならず世界全体でも肥満は増加し、この40年で男性の肥満率は3倍以上、女性の肥満率は2倍以上に上昇している。
増えているのは肥満だけではない。胃腸疾患にアレルギー、自己免疫疾患、そして自閉症などの心の病気もそうである。そのような、とくに20世紀半ば以降に急増している疾患は、「現代病」ないし「21世紀病」と呼ばれている。しかし、そもそも現代病はどうして急増しているのだろうか。
その点を説明するものとして、近年、わたしたちの体内にいる微生物、とくに腸内細菌が注目を集めている。腸内細菌説によれば、現代病がこれほど増えているのは、腸内細菌の全体(マイクロバイオータ)のバランスが崩れていることと強く関係している。そして、本書『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』もまたそのような見方をしており、マイクロバイオータと健康の関係を明らかにしようとしている。
ヒトは腸内細菌と共生している
ところで、わたしたち各人の腸にはなんと100兆もの微生物がいる。そして、彼らはわたしたちにただ便乗しているのではなく、わたしたちに多大な利益をもたらしてもいる。
ここで、ウシの消化について考えてみよう。ウシは草食動物であるが、自らの力だけでは繊維質の草から栄養分を取り出すことができない。そこで、ウシの祖先が進化の途上で見出したのは、その仕事を腸内細菌にアウトソーシングするという戦略である。ウシは細菌たちに棲み家と食べ物を提供する。その代わり、細菌たちには上記の仕事を担ってもらう。ウシと腸内細菌の間では、そのような形で利害が一致しており、見事な共生関係が築かれているのである。