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特集

2020年5月1日(金)掲載

異例のラマダン “希望の灯”絶やさない

イスラム教の断食月「ラマダン」が、4月24日から中東をはじめ多くの地域の国々で始まった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、各地で異例の事態を迎えている。エジプトでは、例年、大勢のイスラム教徒が集まるモスクが、ことしは感染拡大を防ぐために閉鎖され、家での礼拝が推奨されている。感染拡大の影響は、この時期の風物詩であるランタン「ファヌース」を作る職人たちにも及んでいる。ファヌースは、日中の断食を終え、夜に家族や仲間と食事をするときにも灯されるエジプト発祥とされるランタンで、1000年以上の伝統があるといわれている。代々、家業としてファヌース作りを受け継いできた職人の思いに迫る。

感染拡大で変わった“日常”

タレク・ゴマアさん

ファヌース職人のタレク・ゴマアさん(50)。40年にわたってファヌースを作り続けてきた。

ランタン「ファヌース」

エジプト発祥とされるファヌースは、色ガラスやブリキを加工して作られている。長い歴史の中で、「道しるべ」「希望」といった意味が込められるようになり、ラマダンの夜を彩ってきた。

タレク・ゴマアさん

「ファヌースは、大昔からラマダンの始まりを告げてきた美しい文化です。ファヌースを買ってくれる人に幸せが届くよう心を込めて作っています」

エジプト カイロ

しかし、そのファヌースづくりにも新型コロナウイルスの感染拡大の影響は及んでいる。夜間の外出が禁止され、レストランや商店の営業が夕方までに制限される中、例年なら、数々のファヌースに彩られ、多くの買い物客でにぎわう夜の市場は事実上、閉鎖。多くの人が買い求め、売り切れることもあったタレクさんのファヌースも、ことしは在庫が山積みになったままだ。新型コロナウイルス感染拡大の影響で経済が落ち込んでいることもあり、売り上げは、例年の3割にとどまっているという。「40年あまりこの仕事を続ける中で、いろんな出来事を経験しましたが、ことしが一番厳しいです」(タレク・ゴマアさん)

“希望と喜びの灯”を世界へ

5人の家族を養うタレクさん。断食を通し、“飢えや渇きに苦しむ人たちに思いを寄せ、連帯を強める”というラマダンの精神にならい、これまで売り上げの一部を貧しい人に配る食料の購入にあててきた。しかし、ことしは収入が激減し、その余裕はないという。それでも、ラマダンの精神を子どもたちに伝えたいと考えている。

タレク・ゴマアさん

「ラマダン中はアラーが罪を許し、我々の“善い行い”を愛してくれるんだ」

息子

「ことしも、いつもと同じことができるかな?」

タレク・ゴマアさん

「いつもと同じにはできないけれど、できるだけのことをしよう。問題は量じゃない。できることをすればいいんだ。通りがかった人に笑顔を向けることだって“善い行い”なんだ」

デーツを配るタレクさんの息子

ラマダンが始まって3日目。“たとえ生活が苦しくても、できることは必ずある”。そんな思いから、タレクさんは、息子と一緒に断食明けに食べる、デーツ(ナツメヤシの実)を貧しい人たちに配ることにした。「手を取り合い、団結することが必要な時期だと思います。できることを実行することで、互いに助け合っていくべきです」(タレク・ゴマアさん)。

タレクさんは、来年のラマダンの夜こそ、ファヌースの希望の明かりが、各地で灯されることを願っている。

タレク・ゴマアさん

「全世界に伝えたいのは、ファヌースが愛や幸せ、より良いあすへの希望をもたらしてくれるということです。日常が戻り、来年はファヌースが人々にもっと喜びをもたらしていることを切に望みます」

動画をご覧ください↓

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