魔法戦士ピュアブライト
『さすがはピュアブライト、我が組織の怪人を百体以上倒しただけのことはある。ここまで手こずるとは思わなかったぞ』
マスクからのくぐもった声で、目の前の敵が私を褒める。
「そっちこそ。さすが首領コンダクター。今まで戦ってきた敵の、何十倍も手強いわ」
すでに身体はボロボロだ。
しかし、それでも私は決して諦めない。
地に膝をつこうとも、口元には不敵な笑みを浮かべ続ける。
『ほう、それはまた、どうして?』
「約束したからよ、アイツと……タクトと」
そう、タクト。
私の恋人だ。
孤独に戦い続ける私が心を許せる、唯一の存在。
そのタクトと、この戦いに赴く際に、約束したのだ。
必ず生きて帰ってくると。
「アイツがいれば、私はどこまでも強くなれる……!」
へとへとの身体に鞭打ち、私はブレードを構える。
『ほう』
「行くわよコンダクター! これが、最後の一撃!」
裂帛の気合いとともに、足に力を込めて駆け出した。
次々襲いくる衝撃波を、音速の身のこなしで前進しながらかわす。
遂にコンダクターに、肉薄することに成功する。
「おおおおおおおおおおッ!」
勝った!と確信しながら、力任せにブレードを振り下ろす。
いつもの怪人たちのように、真っ二つになるコンダクター
――――の、ハズだったのだが、
『そういう一生懸命なところが、好きだよ。ルナ』
「――――えっ?」
ふいに呟かれた、変身する前の私の本名。
予想外の出来事に、攻撃は止まり大きな隙を作り出す。
ばん、と腹部を衝撃が襲った。
「がっ……!」
私はぶっ飛び、アスファルトの上に投げ出される。
何が起こったか混乱する私の視線の先には、ゆっくりと歩み寄ってくるコンダクター。
そのマスクに、亀裂が走り始めた。
さっきの攻撃の、風圧で割れたのだ。
ぱかり、とマスクは剥がれ落ち、コンダクターの素顔が私の前に晒される。
その顔は、私にとっての希望そのもの。
「た……くと……?」
そして今は、絶望そのものだった。
「やあ、ルナ。遂にバレちゃったね」
まるで悪戯が発覚した子供みたいに、無邪気に笑いかけてくる。
からん、と何かが落ちる音がした。
見れば、気づかぬうちにブレードはこの手から離れていた。
「うそ、うそよ……。こんなの、何かの間違いだわ!」
私を混乱させる作戦に決まっている。
そうだ、コンダクターが、タクトに化けているんだ!
「『私は必ず帰ってくる。だから信じて、私を待ってて』だっけ? 言われた時は、嬉しかったよ」
「――――ッ」
「騙すような形になって、ゴメンね?」
あろうことか、尻餅をついた私にコンダクター、いや、タクトは手をさしのべてくる。
「ふざけ、ないで……っ」
「やだなあ、どうしてそんな怖い顔するのさ。ほら、そんなところに座ってないで」
むりやり立ち上がらせられ、タクトが私の身体を抱きすくめる。
恥ずかしいことに、その時私の心を一番占めたのは、安堵であった。
「もう、戦いは終わったんだよ?」
「馬鹿言わないで。私は必ず、あなたを倒す……!」
「どうして?」
「え?」
純粋な疑問を問うタクトの目に、逆に私がたじろいでしまう。
そのスキをつくように、タクトの手が私の胸を撫で回す。
「あっ……」
駄目なのに、敵の首領に心を許すなんて駄目なのに。
「ルナ、僕に言ったよね? 正義のヒーローは孤独だって。私のことを理解してくれない人たちのために、私は戦えないって」
「あっ、ぅ、ふぅっ」
最愛の恋人の愛撫に、いとも容易く嬌声を発してしまう。
「けどこうも言ったよね。大切な人を守るためなら、戦えるって。大切な人――――僕のためなら」
「やめ、て……やめてっ、タクトっ」
「じゃあ君は、誰のために僕と戦うの?」
「ああああああっ」
ハンマーで殴られたような衝撃が、私の心を襲う。
強烈な矛盾に貫かれて、弱る私の精神。
その僅かなスキマに滑りこむ、タクトの蛇のような愛撫。
「君が戦う理由なんて、もうなくなっちゃったんだよ、ピュアブライト。これからは……さ」
ふぅっ、と私の耳に息が吹きかけられる。
「ぅく、んんんんっ」
「僕のために、僕の部下として戦ってよ、ルナ」
アダムにリンゴを勧めた蛇のように、まるでおねだりのようにタクトは囁く。
「ふ、ふざけないで! 私は正義の味方、ピュアブライトよ!」
「……違うね、その前に君は女の子の、僕の彼女のルナだ」
「――――――――ッ!!」
その言葉に、私の脳裏にタクトと初めて会った時の記憶がよぎる。
あれはそう、ヒーローに疲れてズタボロになっていた、雨の日。
『放っといて、私がどうなろうが、私の勝手でしょう?』
『ほっとけないよ。このままじゃ君、壊れてしまいそうだ』
『それがどうしたっていうの! 私は正義の味方、ピュアブライトよ』
『違う、その前に、君はただの女の子だ』
「あああああああああああああっ!!」
そもそもが、間違いだったのだ。
私のように誰かのために身を投げ打てない人間が、正義の味方になることが間違いだったのだ。
逃避にも似た過去への悔恨。
だがタクトは、逃げ道すら一つずつ摘み取っていく気だ。
「そんなことないよ。大切なものがあるってのは、素晴らしいことだ。ルナの大切なものになれたことが、僕はとっても嬉しいんだ」
「やめてぇっ、私に優しい言葉をかけるのは、もうやめて!」
「ルナ、愛してるよ」
「ぃやあああっ」
タクトの指は、いつの間にか胸から下半身へと移行している。
体験したことのない倒錯に、私の秘裂はとっくにヨダレを垂らしている。
「びしょびしょだね。……もう、いいよね?」
「ああっ! ああっ!」
そうだ、何を迷う必要があるのだろう。
どの道帰ったら、タクトに処女を貰ってもらおうと思っていたところだ。
今まで頑張り続けてきた、自分への小さなご褒美。
それが少し、前倒しになっただけだ。
「きてっ、きて、たくとぉっ」
「行くよ、ルナっ」
ずぷり、と肉棒が挿入された。
「あ、っはぁぁぁぁぁぁぁっ」
今まで多種多様な痛みを戦闘で味わってきたが、そのどれとも違う。
倒錯に包まれた破瓜の痛みは、ちょっとだけ癖になりそうだった。
「っ……、っ……、ルナの中、すごい狭いね。……気持ちいい?」
それこそ、聞くまでもないことだ。
「うんっ! うんっ! ぁぁぁっ。私、悪い子なのかなぁっ?」
「そうだね、そうかもしれない。悪党の親玉と、セックスしちゃってるんだからね。でも――――」
ずんっ、と怒張が子宮口を叩く。
「そんな悪い子のルナも、僕は好きだな」
「ぁぁああああっ」
「ルナ、もう出そうだ。キレイに生まれ変わらせてあげるからね」
生まれ、変わる……?
「実はね、君が戦っていた怪人たち。あれは全部、僕が中出しした女の子たちなんだ」
少し後ろめたそうに、タクトが告白する。
まるで何百人殺すことよりも、私一人に不貞を働くことのほうが悪事のようだ。
「僕の精液には、体組織を変質させる効果があるんだ。でも安心して。ルナは特別だから、彼女たちのように化け物にはしないよ?」
人間じゃなくなるのは同じなのに、その言葉が私にはたまらなく嬉しかった。
いや、ひょっとしたら、変わることそのものが幸せなのかもしれない。
もう、タクトと一緒なら何でもいい。
「イくよ、ルナ。おなかの奥で、しっかりと受け止めてっ」
「ぅんっ、ぅんん! きて、私の中に、いっぱい出してぇっ」
「イ――――くっ」
ごぷり、とタクトの鈴口から、子種たちが発射される。
「あっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! イく、イくイくイくイくイっちゃうぅぅぅっ」
ぴちゃぴちゃと子宮を叩く精液の衝撃で、私は簡単に絶頂してしまう。
少し辛そうにしながら、射精中のタクトが右手を目の前にかざす。
現れたのは、等身大の鏡。
そこに後ろから抱きすくめられた私の全身が、まさにいま世界で一番の幸福を味わっている私の顔が映し出されていた。
――やだ、私、すごいいやらしい顔してる……!
だが、やめようと思ってやめるにはその快感は強すぎた。
まるでタクトの精液が血液に乗って全身に行き渡ったかのように、錯覚してしまう。
と、鏡の中の私の姿に、変化が訪れた。
手入れを欠かさず自慢だった長髪が、毛先からどこか淫蕩な、紫色に変色していく。
タクトが黒真珠みたいだと褒めてくれた目の色が、血のように赤くなる。
白と黄を基調にしたピュアブライトのコスチュームが、どす黒く染まっていき、目の色と同じ赤で神を穢す文様を作り出す。
しかも戦いでボロボロになった衣装の部分は直ることはなく、至るところから柔肌が覗いている。
これからの私は、このツギハギが制服なのだ、と自分の服なのに、その煽情っぷりに息を飲んでしまった。
そして肌のあちこちに、イレズミのような呪印が刻まれる。
ピアスもしたことのない私には、それがどうしようもない背徳感となって心に押し寄せる。
もっとも、今の私にとって背徳とは悦楽以外の何物でもないが。
「すごく、綺麗だよ……ルナ」
抱きかかえたまま、タクトが生まれ変わった私を褒めてくれる。
……タクト?
「……うふふ、違うでしょ?」
吐く息すら色っぽくなったような気がした私が、ゆっくりと回された腕をはがす。
「ルナじゃあない。今の私は、ダーク・ピュアブライト。生まれ変わったのよ。そうでしょ? コンダクター様♪」
膝をつき、ご主人様に最上級の敬服の意を示す。
満足そうに、私の『元彼氏』はうなずく。
「そうだね、悪かったよ。……我がしもべ、ダーク・ピュアブライト」
ああ、ご主人様が、私の頭を撫でてくださっている。
それだけで、はしたない私のアソコは疼いてしまっていた。
「さあ、それじゃ行こうか。これからはお互いどこにも嘘はない。ずっと一緒だよ」
「はい、ご主人様」
連れだって、二人は歩く。
どこに続くかはわからない、だが幸福だけは約束された、この暗い道を。
「うふふ、うふふ、……ふふ、……ふふ、……ふ、ふ……」
―完―
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