セントエンジェル(仮)



カツン、カツン…
暗闇に紛れた長い廊下を、二つの足音が交差する。
全身を傷だらけにしながら片足を引き摺る音と、廊下と黒いヒールで勇ましげに歩む音。
すれ違った瞬間に、不穏な空気が纏わりつく。

「おめおめと逃げ帰ってきましたか。情けない」
「今回は戦略的撤退、次回こそは…ヤツらを仕留める!」
「残念ながら、貴方に次はありませんよ」
「何を!?」
「次回からの作戦には私が指揮官として出ることになりました。貴方の命は好きにせよ、と"あのお方"からの命令です」
「嘘だ、そんなはずは…ぐうっ!!」
ヒールの女はその無能な同僚の体を短刀で貫いていた。
「このまま果てなさい」
刀を懐に仕舞い、何事もなかったかのように颯爽と歩んでいく。廊下には、ただ男の死体のみが転がっていた。
「やっとセントエンジェルが、私のモノに…」
女は赤く艶やかな唇を、ニタリと歪めた。



「ねーねー、昨日のアイツ、やっつけたと思う?」
「それはないよ。どうみたって!ミサの決定力不足じゃない?」
机の前で、シオンはミサに向かって握りこぶしを突き出す。ミサは本当にぶつけられてもいないのに「いたい!」と声を上げる。
それを見て、ユリカは静かに吹き出した。
「ユリカも笑わない!」
「ごめんなさいね。だって二人とも面白くて」
セントエンジェルことミサ・シオン・ユリカは同じ高校に通っている。偏差値も中の中、進学する者もいれば就職する者もおり、都市部にある学校ゆえに集まる人間もバラバラだった。
ミサは一つにくくったポニーテールを揺らしながら、シオンとユリカを交互に見ては頬を膨らます。本来ならばリーダーであるレッドのはずだが、天然な部分もあいまって、イエローのユリカにすっかりリーダーの座を明け渡してしまっている。
ブルーであるシオンはミサの喧嘩友達とも言える存在で、男兄弟の末っ子だからか言葉使いも見た目も男っぽい。
「とにかく!手負いの虎は何よりも恐れるべし!特訓だな、ミサ」
「えええ、めんどくさい」
ぶーっとフグのごとく膨れるミサに、再びユリカは笑い出す。
ふと、視線を渡り廊下に向けると見知らぬ女性がこちらを見ていた。
「…あら?」
「ん?どしたの?」
「あの方は…」
「すっごい美人…」
騒然としていたクラスが釘付けになり、しんと静まり返る。男子だけでなく、女子までも、空気を凍てつかせるような美しい女性に視線を奪われていた。
「やべ、担任がくる!」
誰かの一言でクモの子を散らしたようにみんなが席に戻る。ユリカとシオンも例外でなく、自分の席に戻っていった。

黒いヒールの音が、カツン、カツン、と高らかに響く。
黒のロングヘアーに、真っ直ぐ切りそろえられた髪。藍色のパンツスーツはしなやかなボディラインをくっきりと現していた。
担任が、「本日から副担任としてこのクラスに来てもらいました」と説明をすると、いっきに色めきたつ。
よく通る声で、副担任となる女性が話はじめる。
「今日から副担任をさせていただきます、黒江アキラです。専門は古典、何かわからないことがあったらどうぞ、気軽に声をかけてくださいね」
ニコリと笑うその表情に、ユリエは何か冷たいモノを感じた。直感というべきか、第六感と言うべきかはわからない。


朝のホームルームが終わり、何事もなく一日が過ぎていく。
クラスは一面、黒江の歓迎ムードで、休みの間もずっと質問攻めに遭っていた。
普段ならば美しさで僻みを露見する女子も多いはずだが、そんな女子たちも含めて、すでに黒江に心を開いているようだった。
「ユリエ、黒江センセのとこ、行かない?」
「あ、いえ…私は、やめておきます」
「ミサなんてもう先生のところに行ってるんだよ。なんつーか、ミーハーだよな」
シオンが笑うのに合わせて、ユリエも繕うように笑う。
(なんとなく怖いから、なんて理由で遠ざけたら悪いですよね)
ユリエは自分の考えを改めた。黒江のことをチラ、と盗み見る。
気配を察知したかのように、ユリエを凍てつくように見てきた黒江に、心臓が掴まれたと思った。
「…ユリエ?顔色、悪いぞ」
「大丈夫です…。なんだか、今日は体が優れなくて」
「保健室、行くか?」
「大丈夫です。シオン、心配してくれてありがとう」

黒江が教室を支配しているかのような雰囲気のまま、休み時間は終わり、ユリエは暗い気持ちを引き摺ったまま放課後を迎えていた。
ミサは茶道部、シオンは剣道部と、二人には部活動がある。ユリエは体が丈夫ではなく、心配がちな両親の言うことを素直に聞き、部活動には属していなかった。
「何かあったらすぐ連絡しろよ」とシオンは心配してくれたが、こんなことは「何かあったら」には値しない。
とぼとぼと階段を降り、途中で忘れ物に気づいた。
明日提出の課題のプリント。忘れてしまっては予習も宿題もできない。
慌ててクラスに戻ると、黒江が、教卓の近くで何人かの女子生徒に囲まれていた。
後ろからそっと入ろうと、手をかけた瞬間。

「ねー先生、カレシとかいるの?」
「どうでしょうね。みなさんは、そういうことに興味のあるお年頃ですか?」
「そりゃーもちろん!」
お調子者のタイプの女子が勢いよく笑うと、周りの女子もアハハッと一斉に笑い出した。
「…そう…。興味があるのなら、試したいですよね?」
ザワッと背中の毛がよだつのを感じた。と同時に、クラリと世界が揺れる。廊下はさっきまでいたはずの生徒が全部消えて、向こう側まで綺麗に見渡せる。
「先生?」
ぬらりと黒江の洋服が、スーツからピッチリとしたボンテージに変わる。指先から長い鞭のような黒い紐をいくつも出し、その場にいた男子生徒を縛り上げた。
「ひっ!ば、化け物!!!!」
「貴女がたの欲望、よく聞こえましたわよ。『セックスしたい』『快感が欲しい』」
「なんなの!…きゃ、んぐ…!」
それぞれにビクン、と体をのたうち回らせ、床に倒れこんだ。黒江がボンテージから出したイチモツはビンビンにそそり立ち、今にも女を喰らおうとしていた。
「まずは貴女」
スカートをめくり、女性器が露わになった。床に転げた女子は、逃げもせず、むしろ今か今かと待ち構えている。前戯もしていないはずの生徒の中に黒江はゆっくりと差し入れ、腰を振る。
「あっ、ああっ」
「貴女、処女かしら?」
「は、はひっ!」
「私に奪われて、幸せですね」
「あ、あがぁ…」
ユリエは、目の前で起きている惨状が何かわからなかった。いや、理解したくなかった、というほうが正しい。
(と、とりあえず、変身しなければ……!)
胸に両手をあて、変身の言葉を唱える。
「エンジェルイエロー・セントチェンジ!」
体を黄色い光が包み、ベールの如く洋服を纏っていく。スカートとブーツが黄金色に光り、ドアを勢いよく開けた。


「あら、邪魔者が入りましたね」
「エンジェルイエローが来たからには、もう悪事はさせません!」
「エンジェルイエロー…確か、援護型魔法の戦士ですね。貴女お一人で、どうなさるおつもり?」
口角をゆがめたまま、黒江は咥え込まれたままのソレを抜き取ろうとはしない。欲望の吐き出される瞬間を待っている。
「援護型だけだと、データには書いてあったんですか?」
掌に光の球が集まる。放たれた球は黒江の指先でぴたりと止められ、そのままイエローに弾き飛ばされた。
「やぁぁっ!!」
避けたものの、腕をかする。
「うっ、ああああ!きちゃうぅ!」
ビクンビクンと体を仰け反らせ、ザーメンをドクドクと注いでいく。
「いいですわ…この若い体。次は、貴女」
イエローのことなどお構いなしに、伝う液体を淫靡に垂らしたまま次の茂みへとしゃぶりつく。
「んんっ…ちゅっ…」
強引に中を、ぴちゃぴちゃと舌でかき回す。イチモツは萎えることなく、女の中へと白濁を注いでいた。
「さて…残りは後でいただきましょうか。お二人さん、目覚めなさい」
パチン、と指を鳴らすと、惚けた顔をした二人がふらりと立ち上がる。
「さて、と。自己紹介が随分遅れました。黒江アキラっていうのは仮の姿。本当の姿はクロエ。悪魔なんですよ」
目の前に立ちふさがるのはクラスメイト。薄ら笑いを浮かべながら操り人形のようにこちらへと歩み寄り、今にもイエローに飛び掛りそうだった。
「聖なる光よ、我を守りたまえ!」
明るい光がイエローの体を包む。簡単な防御魔法だが、とりあえず二人を傷つけずに耐えることはできる。
「レッド、ブルー!聞こえますか!」
耳についたイヤリングが、二人に通じているはず。そう信じて何度も二人を呼び続ける。
しかし、返事はない。
「どうして…」
「こちらは異世界。いくらセントエンジェルとは言え、教室の近くにいなければ気づきもしません」
ジリジリとクラスメイトは距離を詰めてくる。
「…ごめんなさい、お二人とも…!」
小さな光の球を作り、二人の意識だけを奪うようにぶつける。
「ぐあああ!」
獣のような声をあげ、床にぐったりと倒れていた。
「さすが、と褒めておきましょうか。けれど、先ほども言った通り『お一人でどうなさるおつもり?』」
ひゅんっ、と風が吹き、イエローの視界からクロエの姿が消えた。
「ブルーほどの認識能力でしたら見切れましたね」
背後から、抱きつかれる。ぎりぎりと締め上げられ、手も足も出ない。
「きゃっ…あああ!」
痛さについ悲鳴が上がる。
「あなたの欲望、聞かせて頂戴?」

(私は…私は…)



二人がうらやましかった。ミサは明るくて、友達も多い。天然で、彼女がいれば場の雰囲気は明るくなる。
シオンだって、言葉はぶっきらぼうだけど優しくて、陰では女の子のファンクラブがあるのも知ってる。
そんな二人と一緒に、セントエンジェルに選ばれて、嬉しかった。心から素直に、嬉しかった。
でも、どうして足手まといの私が選ばれてしまったんだろう。
直接敵を倒すのは二人。私はただ、それを援護するだけ。同じことを繰り返すだけで、地味な役回りに疲れてしまった。
「もっと力が欲しいのですね?」
「私は、二人みたいな力が欲しい…!」
「いいでしょう、差し上げます」
「え…?」

さっきまで教室にいたはずなのに。
イエローの変身が解け、制服姿のユリエに戻っていた。
体に纏わりつく、温かな闇。内側から、力がみなぎってくる。
「すごい…私に、こんな力が…」
「貴女は他の二人に騙されていたんですね」
「騙される…?どうして…」
クロエの話術の中に、ユリエはとっぷりと嵌っていた。
醸し出される淫靡な瘴気に当てられ、頭はぼーっとし始めていた。
「貴女がそんなに力をもっていたなんてわかったら、二人とも要らなくなっちゃうでしょう?」
「そう…そうです…あの二人は…」
あの二人は、私を邪魔する悪者。
悪者は倒さなきゃいけないもの。私が倒さなきゃいけない。
「さあ、私と契約しましょう。契りを交わせば、更なる力を差し上げます」
「契約…」
「たった一言、『私は貴女の僕』と唱えれば結構」
たったそれだけ、それだけで、私はもっと強くなれる。

「私は……」
言葉を発しようとした瞬間。闇に抗うように、まばゆい光がユリエの体の内側から放たれる。
瞼を閉じて、ミサとシオンの笑顔が見える。
(そうです、私は…あの二人の仲間…こんな罠に騙されません……!)
バシュン!とクロエを弾き飛ばし、倒れこんだ床は教室のもの。元の場所へと戻っていた。
「さすがにセントエンジェル、強い力を秘めているとは。一筋縄ではいきませんか…まあ、いいでしょう」
唇が、何か声にならない言葉をぶつぶつと刻んでいる。その意味を理解することなく、ユリエの意識はそこでぷつりと途切れた。



「ユリエちゃん、大丈夫?」
「ん…んん…ここは…」
ぼんやりとした視界に、白い布が映る。消毒液の匂いで、保健室にいるのだと気づいた。
(…!)
「教室に入ってきたらいきなり倒れこむんだもん、心配しちゃったよ」
さっきまでクロエに嬲られていたはずの女子生徒が、心配そうにユリエの周りを囲んでいる。「びっくりしたよね」「大丈夫?」といつもどおりの様子で、ユリエは拍子抜けした。
「あ、あの…さっきまで…」
「ユリエ!!」
激しくドアが開き、ユリエの名を呼ぶ声。シオンが剣道着のままユリエの元に駆け寄ってきてくれた。
「倒れたって本当か?」
「ええ…でも、なんともないですし、心配しないでください」
保健医のすすめもあって、母親に迎えを頼むことにした。クラスメイトは「また明日」と笑って帰っていく。シオンは校門までそばに付き添ってくれていた。
「無理しすぎるなよ」
「ありがとうございます、シオン」
「じゃ、部活に戻るよ」
母親にぺこりと頭を下げ、走っていく姿を見送る。

(あれは…私の夢だったんでしょうか…)
それだけが、ざわざわと胸の中を占めていた。




ユリエは、布団の中で、夢か現かもわからない今日のことを思い出していた。
(私は、なんてことを…)

クロエに唆され、「二人が憎い、悪者だ」と思い浮かべてしまった。
確かに援護の魔法、攻撃型の魔法はは微弱なものしか使えないが、それでも二人の手助けとして役に立っている。
「イエローがいなければ」と何度も言ってくれた。二人のその言葉で、私はもっと頑張れると思っているのに。
(…やっぱり、夢、ですよね。私はそんなこと、思いません)
シーツをぎゅっと握り、ユリエは思いなおす。あれは酷い夢だったのだ、と。



「ユリエ、今日学校来ても平気なの?」
ミサがユリエを見るなり、猛ダッシュで駆け込んできた。ユリエはつとめて明るく笑って、「ご心配おかけしました」と答える。
「シオンが血相変えて電話寄越したからさあ。びっくりしちゃったよ」
「意外と慌てんぼさんなんですね」
「んー?それだけじゃないと思うけど」
「え?」
「シオンにとっては、ユリエは特別な親友なんだと思うよ。もちろん、私にとっても!」
太陽のようなミサの笑顔に、言葉に、ユリエは言いえぬ幸福感を憶えていた。
二人が憎いだなんて、やっぱりどうしたって思えない。そうユリエは強く感じていた。

「と、噂をしてるのにシオンが来ないね」
「本当ですね。朝練でしょうか」
「でもさ、ホラ」
ミサの示したほうには女子剣道部の部員が座っていた。なにより、ホームルーム開始10分前に練習が終わらないはずがない。
健康優良児を絵に描いたようなシオンが欠席するとはとても思えない。
ミサもユリエも、不安な気持ちが沸き立っていた。

「はーいみんな着席」
担任の声がして、座る。シオンに関してのことは何も伝えられず、担任さえも「あの子が休みなんて珍しい」と首をかしげていた。
ユリエの脳裏に黒江の姿がよぎる。まさか、そんな。
けれど、黒江はいつもどおり学校で姿を見かけたし、シオンとの関係はなさそうに思える。
「学校終わったらお見舞い行こっか」と呟くミサに、ユリエは頷いた。


「く…っ…」
そんな噂をされているとも知らず、シオンは囚われの身にあった。
ユリエが車に乗るのを見送った後、部活に戻り、誰よりも遅くまで練習をして帰路についた。
歩いて10分ほど経った頃、複数のローファーの足音がやけに後をついてくる、と気づいた。
もう普通の生徒ならとっくに家についている時間だ。グラウンドや武道場には生徒は残っていなかったし、教室もほとんど電気が消えていた。
不審に思い、足を速めると同じようについてくる。最終的に競歩に近い速さで歩いていたが、後ろの集団は沈黙を貫いたまま、歩き続けている。
振り向こうと立ち止まった瞬間、背後から殺気を感じ咄嗟に身を交わした。
相手は4,5人、顔は暗くて見えないが、全てが自分と同じ制服を着ていて、思わずまごつく。手元に竹刀もない状況では手の出しようがない。
それに、相手の体躯はどうみても女。悪の手先ならともかく、そんな相手に変身するわけにはいかない。
その判断が、命取りだった。
「ブルーエンジェル、来ていただきましょうか」
どこかで聞き覚えのあるその声に振り向いた途端、体の自由が利かなくなり、ズシン、と鳩尾に衝撃を感じた。
それが敵の攻撃だと気づく間もなく、シオンはアスファルトへと体を沈ませていた。

「どこなんだ…ここは…」
どこかの部屋の一室でキリストのように腕と足を縛られ、身動き一つ取れない。
「お目覚めですか、ブルーエンジェル」
「っ!お前が親玉か!」
「いかにも。貴女がたを抹殺しに参りましたクロエと申します」
「……クロエ、だと?」
血のように赤いルージュ、高く響くヒール。姿は違えど、昨日から学校に来ていた副担任だと気づいた。
「だいぶ手間取ってしまいましたね。昨日から学校に潜入したもので、私の使えないイヌどもに偵察させたんですが…」
「イヌ?」
「ええ。昨日の夜、貴女を襲ったアレは私の下僕。欲望の代わりに己を差し出すなんて、躾のできていないイヌも同然ですから」
「どういう意味だ」
欲望の代わりに己を差し出す。まったく言葉の意味がわからなかった。
「じきに、貴女もわかります」
眼前に立ち、じっとシオンの瞳を覗き込む。
両手で顔を挟まれ、動かすことも、視線を逸らすこともできない。
頭の中まで覗き込まれるようで、シオンは不愉快な気分を滲ませていた。
「離せ!」
「そう仰らずに」
瞳いっぱいにクロエが映り、その瞳には自分の姿が映る。その半永久的なループに、そして心の奥まで見透かされそうな視線に、シオンは頭がくらくらしてきた。
「貴女、女性が好きなのですか?」
「…!」
「ユリエさんが、お好きなんでしょう?」
(どうしてだ。誰にも言ったことなんてないのに…)
女性らしい、穏やかな雰囲気に。落ち着かせてくれる笑顔に、気づけば友情以上の感情を持っている自分に気づいた。
そんな感情はおかしいと自分を律し、剣道に打ち込んできた自分の気持ちを、いとも容易くすかしてしまう。
クロエの底知れない笑顔に、シオンは恐怖を感じていた。
「違う、ユリエはただの友達で…」
普段の勇ましいシオンからは発されないような言葉を、弱弱しく言いよどむ。それを満足そうにみていたクロエの周囲が毒々しい霧に包まれる。それはまるで意思を持った手のように、シオンをも包んでいく。
しかし、自分自身の感情を裸にされたこと、自分が感じたことのない恐怖に支配されているシオンはまったく気づかない。黒い霧を存分に鼻から、唇から吸い、次第に瞳がぼんやりしていく。
「本当のことを仰らないからですよ。本当の貴女の欲望さえ包み隠さず言ってしまえば、楽になるのですよ」
「ほんとの…こと…」
呼吸を遮る霧のせいで、頭まで酸素が回らず、思考できなくなってくる。
(私の気持ちに嘘をついて、何になるっていうんだ。ユリエを好きなのは本当の気持ちなんだ)
「わたし…私は、ユリエが好きだ…」
「付き合って、恋人同士になりたいのでしょう?それが貴女の欲望、です」
欲望、という言葉を発すると同時に、クロエの瞳が光る。
「欲望…わたし…ユリエと、恋人に…」
シオンの心に、水が吸い込まれるようにクロエの言葉が入っていく。
言葉の通り、自分の欲望を強く露わにすると、呼吸の苦しさがなくなっていた。
それが本当のことを言ったからだと安易に思い込むほどに、シオンの思考は奪われていた。
好きだと言う度に強くなる欲求。自分が男なら自由に付き合えるのに。
キスをして、抱き合って、そのまま体を求めることもできるのに。
「その欲望、私が叶えて差し上げますよ」
「…え…?」

ニタリと笑い、指先から黒い珠を出す。真珠ほどの小さい珠を、シオンのパンティーの中、秘部までグリグリと押し込む。
「あ、ああ!何、する…!!」
そこはユリエを抱く妄想でぐしょりと濡れていた。クロエはそのまま、シオンが抵抗できないことをいいことに愛撫する。
指でさわさわと繁みをなぞり、二本の指で小さなクリをぐりぐりと刺激し、また流れ出す愛液。クロエは腿まで流れたソレを、赤い舌で舐めとって見せた。
「あう、何…やめ、…」
ドクン、ドクンと脈打つ。クロエのイチモツもボンデージの中で疼いていた。
「女の悦びを教えてあげましょう。そして、ユリエさんにも同じように…」
「よせっ!ユリエには、ユリエにだけは…!」
「その悦びを教えてあげるのは貴女ですよ。貴女にも男性のアレができてしまえば…ね?」
「わ、私に、そんなの、嫌だ…!」
指を離し、パチン、と指を鳴らす。シオンの前に、ユリエが立っていた。
ユリエの幻影とも言うべきもので、目からは光が失われ、力なく立っている。
「だったら素晴らしさを見せてあげましょう」
「…!何をする、つもりだ!」
幻影が四つんばいになり、足を少しずらし、開く。クロエはボンデージをずらすと、脈打つ性器は今にもそれを貫く悦びに打ち震え、力強く奮い立っていた。
「ユリエ!?」
シオンが暴れ始める。自分の眼前で、ユリエが、敵の牙にかかりそうになっているのだから。
「…セントチェンジ!」
青いコスチュームに身を纏ったブルーは、渾身の力で枷を引きちぎろうとする。しかし、ギシギシと音を鳴らすばかりで破られる気配はまるでない。
「クロエさま…」
その間も、ユリエは目の前で仁王立ちになったクロエのイチモツを見て、いやらしい声を洩らす。
自らの指でくちゅくちゅと中で鳴らし、惚けた顔で「ねえ…早く…」などと声を発するユリエを見るのは精神的な苦痛だった。
「舐めさせてくださいっ…その、おっきいのぉ…んむっ、ん…」
(あいつは偽物だ、ユリエが、あんなふしだらな真似するはずが…)
「上手いですね、ユリエさん。そろそろ、イきますよ」
ずるりと唇から抜いた瞬間に、ユリエの顔が真っ白に染まる。夥しい精液をかけられ、満足そうに笑うユリエに、すでに心がズタボロになりそうだ。
しかし、次第にその行為から目が離せなくなっているのも事実だった。
「そろそろ本番に参りましょう」
クロエは顔色一つ変えず、ユリエの後ろに回る。赤黒いソレが、ユリエの中にずぶずぶと入っていく。ブルーは息を呑み、その様子を見ていた。
(うらやましい…私も、あんな風にユリエを気持ちよくさせてみたい…)
ズキズキと、欲望が下半身を熱くさせる。愛液がトロトロと流れているのにも気づかず、一心不乱に二人の行為に魅入られている。
(ヤりたい…ユリエと、エッチしたい…)
おおよそ正義の味方とは思えないような考えが、心を占めていた。
それは先ほど存分に吸った黒い霧の魔力でもあり、秘部へと挿入された黒い珠の魔力によるものであるとは、彼女は知る由もない。
「あぅ…すごい…クロエさま、大きいですぅ…」
悦び腰を振るユリエを、普通の頭でブルーが見ていたら怒り狂い、まさに鬼のように暴れるだろう。
「あ、あ、ユリエ…どうして…」
クロエと愉しそうに興じるユリエ。ブルーは嫉妬と羨望ではちきれそうになっていた。
自分も二人の中に混ざりたい。ユリエを、犯したい。
「ああっ!出ちゃいますぅ!」
幸せそうな表情で絶頂を迎え、その場に倒れこむユリエ。膣からはクロエの白濁が流れ、肩で息をしていた。
クロエのペニスを目にして、ブルーにはそれが誇り高いものにすら見えた。あれがあれば、ユリエを…。
「貴女はまだ嫌がりますか?これを」
ブルーの視線はその一点に注がれていた。
「欲しい…すごく、欲しい…」
「ならば、私に忠誠を誓いなさい」
「ちゅうせいを…」
クロエに跪く。たったそれだけでいいのか。
「私は、クロエ様に忠誠を…あ、あああ!!」
イエローの時と同様に、ブルーの体から青白い光が放たれる。
クロエはその姿を睨み付け、昨日のイエローのことを思い出していた。忌々しい力は、やはり三人の戦士すべてに宿っているのだ、と。

『お前は剣士だろう。もっと誇りを持て』
ブルー自身の声が響く。
『シオン、私たち、仲間でしょ!』
ミサの声も。
『シオン、私たちは仲間です』
ユリエの声。

「う、あああああああああああああああああ!!」
ブルーの強大な力に、クロエは一瞬引き下がる。いつの間にか、ユリエの幻影は消え、枷は破られていた。
青白い光に包まれたブルーの手には細長い剣が握られている。ブルーは余裕綽々に笑い、クロエをにらみ、そして唸るような声で叫ぶ。
「…危なかった。クロエ、お前を倒す!」
「貴女も、そうなると思ってましたよ」
下段の構えから、クロエに間を詰め、一思いに断つ。
「接近型攻撃のブルーに、私としたことが油断しましたね…」
クロエの腕から黒い液体が滴る。深い傷ではないが、一太刀浴びせられたのは大きい。クロエはよろよろと下がり、しかし、口元の笑みは崩さずに言葉を返す。
「ですが…同じ失敗は二度しないのが私の流儀でして」
パン!と大きな拍手をする。
「…気でも違ったか?」
「さあ?」
もう一度、間を詰めようと一歩踏み出した瞬間に、ブルーの下腹部が蠢動した。
「…?」
ずくん、と何かが動いている。
「な、」
ピストンのように、しゅるん、と何かが上下に動き始めていた。
「あ、あっ…」
カラン、とその場に剣を落とし、触りようのないそこの疼きを止めようと、座り込む。
「私に…っ、何を、した?」
ずくん、ずくん、次第に強くなる疼き。痛みではない、ほとばしる快感に、自分の使命を忘れてしまいそうになる。
「欲望を叶えてやると言ったはずですよ」
「…まさか!」
中を縦横無尽にまさぐられるような、熱い快感に襲われる。
クロエはゆっくりと座り込んだブルーに近づき、スカートの中に手を入れた。
「ここもじっとり濡れていますね」
「やめろ…!」
力なく抵抗をするも、ぐしょぐしょの其処は床に水溜りを作り始めていた。
必死に耐えるブルーの頭の中で、小さく声が響く。
『シオン、頑張って』
(そんなこと、言われても…私は、)
理性を少しずつ蝕んでいく律動を理解しないで、頑張れ、なんて。ミサの声が忌々しく感じられる。
『シオン、耐えてください!』
(ユリエ…、ユリエ…!私、私は…)
私は、ユリエを女として見ている。恋人になりたい。キスもしたい。その先のエッチだって。
そのためにこの疼きも耐えているのに…。
「ブルー、貴女を応援してくださってるユリエさんに、尋ねてみたら?」
クロエは残酷なほどに美しい声で、ブルーの瞳に問いかける。

「ねえ…ユリエ…?私たちって…」
ブルーのまばゆい光の中に、ユリエが見えた。聖母のようなほほえみを湛えて、ユリエは答える。
『シオン、私たちは、友達ですよ』
(トモダチ…?)
ブルーの瞳を、涙が零れていく。ユリエの本心。
「友達」「仲間」。そういわれる度に、胸の中を苦い思いが巡っていった。
こんなに好きなのに、ユリエの中では「友達」でしかない。
奮い立たせるはずの言葉が、ブルーの心を粉々にしていく。

力なく、虚ろになった瞳。心が砕けても、体は敏感に反応し、紅潮した顔と、荒くなる息とのミスマッチがクロエをぞくぞくとさせていた。
「私の言うとおりにすれば、ユリエさんは貴女のモノになりますよ」
「本当…ですか…?」
「ええ。ユリエさんは友情と愛情の違いがまだわかりませんの。本当はユリエさんも貴女が好き。でも、そのためには邪魔なものがありますね?」
「…ミサ……」
いつもユリエにくっついて回る邪魔な女。ユリエと二人きりになりたくても、のこのこついてくるバカな子。
忌々しい、あいつさえいなければユリエは私のものになるのに。
「私に忠誠を誓えば、ユリエさんと二人きりの世界を作ってさしあげますよ」
「あぁ…」
ユリエと二人だけの世界。クロエの言葉は甘美で、素敵な響きを持っている。
うっとりとしたブルーに、少しずつ変化が見えていた。
瞳が黒く淀み、惚けたような表情で笑う。
「ユリエさんのために、まずは貴女に雌の悦びを教えてあげましょう」
ブルーは自らスカートをめくり、クロエは己の性器を躊躇う事なくシオンの中に入れた。
「あっ…ああ、」
「骨の髄まで、教えてあげましょう。きちんとユリエさんにしてあげるんですよ?」
「あ、ひゃいぃ!」
貫かれるだけで体中に電流が走るほどの快感。これが犯すということ。
女性に異性のように恋愛感情を抱かれることはあっても、シオンを女性としてみなす男はまずいない。
ぐりぐりと何度も突き上げられ、処女膜を突き破る。痛みよりも遥かにこみ上げる快楽に包まれた。
「あ、ぅあ…きもちぃ、すごい!」
「もっと鳴きなさい!貴女もよがるイヌと同じですよ」
クロエは、ブルーの乳房を揉み、パンパンと鳴らしながら中を蹂躙する。
「きもちいい…、もっと、もっとくださいぃ!」
「私の名前を、お呼びなさい」
「クロエ様…その大きなの、もっと奥にください!」
剣道部で磨かれた力強さも戦士としてのプライドもない、自らクロエのペニスを求め、腰をガクンガクンと動かしていく。
(ユリエもこんな風に…)
自分がユリエを感じさせるという強い欲望が、心も体も澱ませていく。
唇からは嬌声と涎だけが零れ、間もなくブルーは大きく叫んで絶頂を迎えた。


クロエは笑い、シオンの部屋のソファーにどっかりと座っていた。
昨日の夜、シオンを襲った後はそのままシオンの部屋で監禁し、愉しんでいた。術のせいでどこかに連れ去られたと思い込ませただけだ。
無論、シオンの後に、何も知らずに帰ってきた母親もクロエの命令ひとつで動くイヌと変わり果てていた。

ソファーの前で、目を覚まし、ブルーは変身も解けぬまま体の変化に気づいた。
「気分はいかがです?」
「私に、こんな素敵なモノを戴けるとは…」
足をM字に開き、スカートから覗かせるソレを握り、上下に扱く。
クロエには及ばないが、男と比べても立派なサイズのイチモツが備わっていた。
握る強弱によって、抜群の感度を誇る。天を仰ぐソレを、何度も指でさすり、ピクピクと震えさせていた。
「そういえば…肝心な事を忘れていましたね。ブルー、私との契約を」
床に転がった刀を拾い、剣先を下に向ける。恭しい態度で、かつてブルーであった戦士は、クロエに跪いていた。
「クロエ様、私をブルーと呼ぶのはお止め下さい。ブルーエンジェルという戦士は生まれ変わったのです。貴女様のおかげで」
「よろしい。では、シオン。私に忠誠を」
「クロエ様、私は永久に、忠誠を誓います」

じわりと青かった部分が黒く染まっていく。首に、首輪のようなチョーカーが巻かれていき、瞳は闇のように深い青に変わっていた。
刀は青龍刀のように大きく、黒い武器へと変貌していた。
クロエは背筋をゾクリと震わせ、シオンの顎を指で引く。
熱い口付けを交わし、悦びの表情を浮かべるシオンに告げた。
「これからは我らのために動いてもらいますよ。闇剣士・シオン」
「はい、なんなりと、クロエ様」
「まずは様子見として、何度かこちらから戦いを仕掛けるかもしれません。そのときはあくまでもセントエンジェルとして仲間の振りをしてください」
「かしこまりました」






「もう、本気で心配したんだから!ちゃんと病院行った?」
「行ってない。もう治ったから大丈夫だって」
二人が心配したのも束の間、翌日にはシオンは平然とした顔で登校していた。
ミサのかじりつくような尋問をひらひらとかわしては、ユリエに苦笑してみせる。何も変わらない、いつものシオンだ、とユリエは胸をなでおろした。
「無理はしないでね。シオンは、大切な仲間なんだから」
「…ああ、わかってるよ」
悲しげな顔で、ユリエの言葉に答えたシオンがひどく胸には残ったが、それもチャイムで現実に引き戻される。
すっかり担任の代わりに教壇に立つことが多くなった黒江の声が響く。ぱらぱらと席につき、元通りに戻っていった。

「シオン、今日は帰るんでしょ?」
「馬鹿言え、剣道部の試合が近いのに帰れるわけないだろ」
「無茶はいけませんよ」
「大丈夫、私は監督みたいなものだから」
「むー…」
「それじゃ、二人とも気を付けて」
良くも悪くも元気になったシオンを見届け、ミサとユリエは顔を見合わせて笑う。
「よかったよね、シオンが元気になって」
「本当に。たった一日休みだっただけでもこんなに心配するなんて」
「さて、私も部活に行こうかな!ユリエ、気をつけて帰ってね!」
「はい。さようなら」
ミサもパタパタと廊下を走っていく。それを見送ったユリエは、後ろの気配に気づくことはなかった。
「ユリエさん」
「!!…黒江、先生…」
先日のことがあってから、ユリエの中で黒江は要注意人物と化していた。夢であると自分に言い聞かせても、第六勘が自分に警鐘を鳴らす。この人に近づいては危険だ、と。
「シオンさんのことなんですけど、少し話したいことが」
「…シオンに、ついて?」

個人指導室に向き合って座り、静かに黒江が声を発する。
「実は、シオンさんのお家、昨日訪ねたんです」
「私たちも行きました。…でも、誰も出なくて」
「私はお母さんが帰宅された後に訪ねました。それで、本人もお母さんも何ともないって言ってたんですけど」
「…けど?」
「どうにも、引っかかることがありまして」
「先生、もったいぶらずに教えてください。シオンは、私にとって大切な友達なんです」
その言葉を聞き、黒江は妖しく笑う。けれど、シオンのことを考えるあまり周りの見えなくなっているユリエには、それを気づく余裕はなかった。
「シオンさん、なんだか前よりも部活での運動量が減ったと思いませんか?」
「え?」
「シオンさんがお休みする前の日、どうも激しく練習したらしくて。でも、シオンさんはそれだけで具合が悪くなったりする子じゃないような気がするんです」
「…確かに」
最近は監督のようなことをすることが多いと言っていたっけ。もしかしたら、自分でも体力の限界を超えないようにセーブしているのかもしれない。
そんな簡単に限界を超えるような人じゃないのに、どうして。
「それで、ユリエさんに折り入って相談が」
「なんでしょう、私にできることなら」
「シオンさんのこと、よく見ていて欲しいんです。私では限界がありますし、ミサさんとユリエさんなら、シオンさんに一番近い存在だからちょっとの異常もすぐ気づけるんじゃないかと思いまして」
「もちろんです!」
机をばん、と強く叩いてしまった。そういえば、最近シオンは戦いの後もやけに疲れたと連呼していたような気がする。
元をたどっていくと、それは数回前の戦闘のとき、ユリエのガードしきれなかった攻撃をシオンが食らったところに戻るような気がしていた。
(だとしたら、今のシオンの不調は私のせいだ。)
ユリエはぎゅ、と唇を噛む。
「この後、私が剣道部を見ておきますから、明日から、よろしくお願いしますね」
「はい!…黒江先生」
「はい」
「ありがとうございます!」
「教師ですから、当たり前ですよ」
黒江はニコリと微笑み、ユリエを指導室から出した。
ユリエは自分のつまらない夢のせいでとんでもない勘違いをしていたのだ、と思い直した。それが黒江の罠とも知らず。



学校を後にするユリエをゆっくりと見送り、黒江は剣道場へと向かう。一歩一歩近づくごとに、むせ返るような雌の匂いが強まっていくのを感じ、恍惚とした笑みが浮かぶ。
「シオン、首尾はいかがです?」
「ん、クロエ様…!」
虚ろな瞳の少女を背面から犯しているところで目が合う。黒江が目にしたのはこの学校の生徒ではなく、クロエの手下・闇剣士シオンの姿だった。
「無暗にそちらの姿を晒さないでください」
「申し訳ございません…しかし、味わうにはこちらの体の方が気持ちいいのです。この子も、こんなに悦んでいますし」
「ふっ…ぁ、いっちゃう!いっちゃうのぉぉ!きもちぃぃ」
白目をむき、ビクンビクンと体を動かしては愛液を垂らす。シオンから送られた精液を体に受け止め、唇からはだらしないイヌのような声が漏れる。
シオンとのセックスを見てオナニーに興じる者、待ちきれずに互いに慰め合う者。
剣道部はもはや、シオンのイヌばかりに成り果てていた。
「上々のようですね」
「クロエ様…これだけじゃ足りません…。もっと、犯したいです」
畳を白く汚したシオンのイチモツと性欲は留まるところを知らない。
「しょうがないですね…少し、計画を早めましょうか?」
黒江はほくそ笑み、シオンの髪を撫でる。スカートの下に手を伸ばし、パンティをずらしたかと思えば、そのままシオンの肉棒を己の秘部へ誘い入れた。
ずぶっずぶっ、と音が聞こえ、あっという間に黒江はシオンのモノを飲み込む。
「クロエ様、すごい…!」
「思う存分注ぎなさい。それが貴女の力となるのですから…」
「は、はい…!」
美しい教師と生徒が淫らにまぐわい合う図。シオンのソレは黒江の内壁にキツく擦りあげられ、絞り出そうとする律動運動に負けてどくどくと流れ出す。
「あ…!クロエ様の中…クロエ様!」
「さぁ、もっとできるでしょう?闇の力をさらに高めて…」
「ああああ!う、ぁあああああああ!」
体中のあらゆる液体がクロエに吸収しつくされたような感覚。クロエはシオンにゆっくりと口づけ、液体を送り込む。
「ん…っ!!!!」
(体が、熱い…)
じわりと脳の中がクロエへの更なる忠誠が染められていく。クロエのためならば、シオンはきっとかつての仲間さえ殺せるだろう。
「っはぁ…気分はどうです?」
「力が湧き上がるようです。もっともっと私のイヌを増やして、そして…」
シオンの頭にはユリエが乱れる姿しか想像できていない。
「決行は明日にしましょう。決して失敗などしないように」
「かしこまりました、クロエ様」


「シオン、今日は大丈夫?」
「え?大丈夫だよ。心配しすぎだって二人とも」
「本当に?」
「だーかーら、大丈夫だっての!」
シオンの笑顔にさえ、不安が拭えない。黒江の言った通り、なんでもないようでも、もしかしたら何かあるのかもしれない。
「心配してくれるのは嬉しいけどな」
ぽん、とユリエの頭にシオンの手が触れた瞬間。
「えっ?」
「ん?どうした?」
「…いえ、なんでも…」
ふわりと、何か香りがしたような。ユリエは一瞬そんな感覚に捉われ、気のせいかと思い直す。
先日の夢と言い、どうかしてるのは自分も同じかもしれない、と一人ごち、首を振る。
その刹那、キィンと頭に響く音。
「久しぶりに、敵が来たね」
ミサの表情が引き締まる。シオンもそれは同じで、戦闘に対し、好戦的な顔も見える。
「シオンのことは私がバックアップしますから」
「はは、よろしくな」



学校をそっと抜け出し、敵の感覚へと近づいていく。商店街にほど近い空き地に、黒い影が見えた。
こんなところで暴れられたら、街の人に被害が及ぶのは間違いない。
走りながら、光に包まれセントエンジェルへと変身した。
「セントエンジェル、ただいま参上!!」
「覚悟しろ、悪党!」
「私たちが来たからにはこれ以上の悪事はさせません!」
緑色のカエル型の怪人が立っていた。パッと見は弱そうだが、外見で判断すると馬鹿を見る。
「気を引き締めていくわよ!」
レッドの声に、ブルー、イエローは頷く。
「ハァッ!」
レッドが高く飛び、怪人にとび蹴りを食らわせようとする。しかし、向こうも同様に高く飛び交わされて攻撃が決まらない。それどころか、長い舌で足をとられ、盛大にこけた。
「いったーーーい!」
「間抜けにもほどがあるな」
「何よブルー!」
「間抜けなお前が悪い!」
「二人とも、喧嘩はやめて!それどころじゃな…っキャァアアアアア!!」
イエローの体にしゅるしゅると舌が巻付く。振りあげられ、空中で身動きできずにもがく。
「くそっ、卑怯な手使いやがって…見てろ」
ブルーが飛び、舌を一閃、剣で叩ききる。舌がするりと離れた瞬間を見計らい、イエローを救出した。
「大丈夫か?」
「はい…ありがとうございます」
ブルーに抱きしめられ、またもやイエローは不思議な感覚に陥る。
どくん、どくん、と胸の高鳴る音。なんだかわからない、とても気持ちのいい香りが体を包んでいく。
(私…なに、してるのかしら…?)
「イエロー?大丈夫か?」
「あ、は、はい!」
地面に優しく降ろされ、イエローは我に返る。さっきのは、いったい何なのか。
「ゲゲゲゲゲゲゲ」
怪人が頬を膨らませ、再生した舌をブルーへと向ける。
「フェアリーシールド!」
イエローは咄嗟に、ブルーの目の前に防壁を張る。バリバリと弾かれ、怪人は悔しそうに地団太を踏んだ。
「ブルー、今度は私が守る番よ」
「頼りにしてるよ」
肩に触れた瞬間、ぐらりと世界が揺れる。香りが鼻を突き刺すように香り、体中の力ががくん、と抜けた。
「あ、ぁ…」
(どうしちゃったの、私…?どうして、こんな)
我に返る。心配そうなブルーの視線がユリエを射すくめていく。
理解しがたい感情が、胸に湧き上がっていた。
「ブルー…?」
「ん?」
イエローが顔をあげたとき、ブルーの背後に怪人が迫っているのが見えた。
「!!!ブル…」
防壁を張る前に、怪人の舌がブルーの体を貫く。
「…い、や…ブルー、ブルー!!!!」
がくりと膝から崩れ落ち、地面に倒れこむ。ブルーの変身は解け、シオンへと変わっていた。
「私のことは…いいから…早く、戦って…イエロー…」
「いや、いや!シオン!」




どうして私には力がないんだろう。
誰かを助ける力も、誰かを守る力も。
私は非力で、惨めで、情けなくて……

「だから、私が力をあげるといったじゃありませんか」
聞き覚えのある声。しかし、仲間という大きなものを壊されたイエローには、それが誰の声なのかわからない。
「力を、差し上げましょう」
「ちから…」
「欲しいんでしょう?シオンを守る力」
イエローの背後から、二つの腕が近づき、抱きしめる。
「私に、力を?」
「そう。あなたが望むのなら、その望みをかなえてさしあげます」
「…力を。私に、あいつを倒す力を!!」
「いいでしょう」
体の奥から、力が湧き上がる。自分でも抱えきれないほどの力が漲り、イエローは立ち上がった。
穏やかなイエローからは信じられないような勝気な表情で、怪人を睨み、叫ぶ。
「ブルーをよくも。…あなたは、私が殺します」
拳をぎゅうっと握り、怪人に間合いを詰め。
「黒き闇よ、この者を葬れ」
口からは言いなれない魔法の言葉がすらすらと零れ落ちる。
ブルーの体を貫いたように、イエローの腕が怪人の体を貫く。断末魔の叫びとともに、怪人は砂のように消え去った。


「…私…今、何を…?」
「素晴らしい力じゃありませんか」
拍手とともに挙がる声に、イエローははっとした。この声の主は。
「貴女は私の力を借りて強くなりました。もう向こう側には、戻れませんよ」
クロエが笑う。気づけばイエローと、クロエと、そしてシオン以外誰もいない亜空間。
「騙したのね!!」
「騙した?もしそうだと言うなら、この人にもきちんとその言葉を言ってくださいね」
「……まさか」
むくりと起き上がる。セントエンジェルに似て、非なる格好に身を包んだ仲間はクロエの隣で笑っていた。
「この姿で会うのは初めてでしょうね。シオン、ご挨拶を」
「私は闇剣士シオン。クロエ様に忠誠を誓う僕」
「嘘でしょう?…わかった、これも、クロエの罠ですね!?」
「そう思いたいなら思えばいいでしょう。じきにあなたもすべてを知り、そして受け入れるのですから」
「何を…!!」
体の奥が熱い。大きな力を手に入れた時のような感覚に、言葉を失う。

「あっ…!!ああ!!」
中から自分の声が叫び始める。
『綺麗事ばかりの自分なんて捨ててしまいなさい』
『クロエ様のすべてを受け入れなさい』
(何…?なんなの…?)
「貴女は私から力を借り、直接敵を屠りました。…そのときに、どんな感情が起きたのでしょうね」
胸の奥を突かれたような気分になる。怪人を貫いた快感。破壊衝動。貫いた腕が、ビリビリと感じ出す。
(違う、違うわ!)
『何が違うの?あなたは壊して楽しかったんでしょう?』
(楽しくなんか)
『じゃあ言い換えましょうか。気持ちよかったんでしょう?』
(ち、が…)
もう一人の自分が目の前で笑っているようだった。
『クロエ様の闇の力で、あなたは本当の快感を知ってしまった』
(そんな、そんなこと)
『じゃあ、これからずっと目の前で二人が敵を倒していくのを見てるだけで耐えられるの?』
びくん、と体が揺れる。ああ、と唸る声だが唇から零れた。
ユリエの破壊衝動は、性的な欲求までもを焦らしていく。
「ユリエ、その気持ちは恥ずかしいことじゃない」
シオンに触れられ、体中に電流が走る。理解不能な感情が入り乱れ、今にもユリエは爆発しそうになっていた。
『壊すのは、楽しかったでしょう?もっともっと、力がほしいでしょう?』
「ちから…ほしい…こわす…壊したい…」
シオンに体をまさぐられ、ユリエは頬を紅潮させる。嫌だとか、不快だとか、そんな感情は微塵もわいてこない。
己への破壊衝動。ひいては、雌としての悦びの萌芽がユリエの心を蝕んでいく。
『シオンがあなたをリセットさせてくれるわ。そうすれば、何も囚われることなく自由に考えられる』
「シオン、が…?」
「ユリエ…」
シオンの手が、ユリエの整った乳房に触れる。下からぐにゅ、と揉まれ、ユリエは衝撃に包まれる。
自分で感じたことのない感情。シオンに揉まれる度に強くなる甘い香り。
「シオン…いい、もっとして…」
固くなった突起をクリクリと詰られ、もう片方の腕は繁みの中へと差し入れられる。
「!?」
クリトリスを優しく、ころころと指で弄られる。充血していくそれを弄りながら、人差し指でユリエの中を探っていく。
「あ、あああ…シオン…?」
獣のように本能をむき出しにするシオンに、ユリエは恐怖など感じなかった。それ以上に襲いくる快楽が、すべてを麻痺させていく。
「あ…ああああああああああ!!!!!」
処女膜を突き破る感覚。どうして女のシオンに、こんなことが。
ユリエは咆哮し、舌からだらだらと涎を垂らし、結合部を見る。確かにシオンの体には、男性のソレと同じものがついており、そしてそれは自分を貫いていた。
「あぅ…どうして、こんな…」
「蕩けそうですか?」
その行為を楽しそうに見つめるクロエ。ユリエの惚けた頭では、どうして自分がこの人間を目の敵にしていたのか理解できなかった。
「シオンに身を委ねて、貴女も生まれ変わりなさい」
ちゅくちゅくといやらしくキスされ、クロエから黒い液体を中に注がれる。とろとろと中を伝い、じわじわと体に染み込んでいく。
(ああ…私は…どうしてクロエさまに反抗していたの…?)
瞳が潤む。こんな素晴らしい力を与えてくださったのは、クロエ様なのに。

「シオン、中にいっぱい注いでぇ、欲しいの、私、変わりたいの!」
「ぅう!イく…!!!」
「あっ、んぁああ、くる、きちゃううううう!!!」
体中が精液でテラテラと光る。荒い息を整えて、ユリエはむくりと起き上がる。
「クロエ様、私めをどうか、貴女様の僕にしてください…」
「いいでしょう。シオンとともに、私に仕えてください」
クロエの掌から黒い球が渦を巻く。どく、とユリエの体に入り込み、服装が少しずつ変わっていく。
体を隠すようなラインの洋服が、ぴっちりと淫靡な体を見せつけるようなラインに変わり、胸元が大きく開いたデザインに変わる。陰部もほとんど隠すことのないボンテージのような格好になり、首には鎖の付いた黒いチョーカーが巻かれる。
瞳の奥には悪意がたちこめ、男を惑わせる怪しげなオーラが纏わりついた。
「黒魔導士・ユリエ、とでも名付けましょうか」
「素敵…クロエ様、私にできることはなんなりとお申し付けください。どのようなご命令でも、きっと遂行してみせます」
とろりと顔が惚け、愛液が垂れる。
今までの清らかなユリエの影は、どこにもない。


「セントエンジェルもあと一人。…ここからが、本番なのですよ…」
クロエは意味深に笑った。





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