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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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城下町爆走事件

 最上階へ向かう途中、洗脳された連中に遭遇し、その度にリーシアに洗脳を解除して貰う。

 上に行けば行くほど遭遇率が上がっていき、その度に洗脳を解くのでこっちの陣営は増える一方だ。


 その合間、城の窓から外の様子を見る。

 火の手が上がっているのか煙が城下町でちらほらと見える。


 ん?

 気の所為か土煙が町を幾重にも突っ切っているような。

 あれは……考えないようにしよう。


 外を見るのをやめて城内を探索する。

 やがて分厚い氷で作られた壁にぶち当たった。

 おそらくは女王や城の魔法使いが魔法で作ったバリケードだろう。

 女王は氷系の魔法が得意だしな。


 その氷を破壊しようとしている洗脳された兵士が氷を直接武器で叩いたり、魔法をぶつけたりしていた。

 洗脳自体は軽く解除出来るから大丈夫だろう。


「どうする? 結局は突破するしかないか?」

「壊すの?」

「他に道は無いだろうしなぁ……」


 城の外から壁伝いで上る方法が無い訳じゃないけど、そっちも守りをしている連中が居るだろうし。


「フィーロ頑張るよ?」

「そうだな」

「私も頑張ります!」


 フィーロとアトラが氷に向かって走り出す。


「あ、おい」


 リーシアに攻撃して貰えば案外簡単に壊せるかもしれないのに。


「でりゃあああああああ!」

「てい!」


 フィーロ&フィロリアルズの力任せな蹴りとアトラの……急所突きによって分厚い氷の壁が崩れ去った。


「結構固いね。魔法の所為かな?」

「でしょうね」


 なんだかんだで脳筋な連中のお陰で助かるな。

 洗脳を解かれた兵士共が驚きの表情で居る。

 そういや俺の所に居る洗脳された奴隷共が居ないな。


 と、思いながら進んでいると氷で封印された個室の扉がある。

 何があるのかと耳を澄ますと聞き覚えのある声がする。

 多分、俺の所の奴隷だ。


 なるほど、どうにか押さえつけ、ここに閉じ込めているのか。

 今は少しでも戦力が欲しい。


「フィーロとアトラ!」

「はい」

「了解!」


 扉をぶち破って中を確認。

 すると驚く事に奴隷共は縄で縛られて転がされていた。

 やはりリーシアに頼んで洗脳を解除させる。


 なんだかんだで味方が増えてきているから助かる。

 ただ、奴隷共もどうしてここに居るのかわからないらしい。

 多分、籠城も洗脳された兵士によって失敗し、開城。


 辛うじて城内の一部に立て篭ったという状況だな。

 しかし、その法則だとヴィッチがどのように俺の奴隷を城に潜り込ませたんだ?


「おい。ヴィッチはどんな宣言をしたんだ?」


 洗脳を解いた兵士に尋ねる。


「はい。亜人優遇を進める女王は代々続くメルロマルクの伝統を踏みにじった。だから我等の行動は筋の通ったモノであるとおっしゃってました」


 となると亜人である奴隷を使って女王を倒す。

 なんて真似をさせるとは考えづらい。

 あくまでも人間が女王を捕える必要があるだろうし……。


 いや、俺の奴隷に女王を殺させると言う方法もあるのか。

 大義を妨害した亜人を許すまじとか。

 あるいは、お母様を殺した亜人を決して許しませんわ、とか言うつもりだったとか。


 ありうる。

 その標的を俺に向けさせて、最終的には国をまとめ上げ、内乱が終わった後はシルトヴェルト辺りに戦争を仕掛ける感じで。

 この流れなら、ヴィッチ、三勇教、革命派、それぞれの協力関係が成立する。

 ヴィッチの考え付きそうな事だ。


「とにかく、行くしかないな」


 奴隷共も引き連れて俺達は氷の壁をぶち破って行った。

 そして城の最上階に辿り着いた。


「……誰もいないぞ」


 そう、城の、女王が立てこもっているらしき部屋はもぬけの殻だった。


「どうなっている?」


 そう思いながら城内をくまなく探したがやはり女王はいない。

 ただ、洗脳された兵士の中に、微かに女王を助太刀した者がいると告げた。

 その助太刀した者を追った結果、氷の壁に阻まれ、城の連中は躍起になっていたという。


「非常時の脱出口でもあるのか?」


 そう言うのって内部に知っている者がいると意味がないんだけどさ。

 ヴィッチは知らなかったのか? そう考えるのは希望的観測過ぎるな。

 メルティを連れてくれば良かったかな?

 あいつならこう言うことに詳しそうだ。


「とにかく、城の外に出てみるしかないか」

「はい」

「ふぇえ……女王様は何処ですか」


 一番頼りになる奴が、情けない声を出す。

 なんとも頼りない姿だ。

 樹に啖呵を切って、カースに侵食された勇者を倒したとは思えないな。


「そういやリーシア。お前の武器は勇者のモノなのか?」

「さあ……良く分かりません」

「じゃあ武器を変える事はどうなっているんだ?」

「視界に複数の武器が浮かぶので選んでます」


 盾とかとは違うカテゴリーなのか?

 七星の武器である疑惑が晴れない。


「強化方法とかヘルプで見れるか?」

「強化? ヘルプですか? そのような物はありませんが……?」


 無いのか。

 一体何なんだろう。半透明で実態が掴みづらい。

 威力はあるようだけど。


「ただ、私のステータスにSPという項目が出現しました」

「ふむ」


 とりあえずは勇者とカウントしておくとして、真相の究明は事件が片付いてからにするとしよう。

 と、雑談しながら来た道を折り返して、俺たちは城の入り口まで向かった。



 やはり城の門は開けられていた。

 そして城下町の広場へと足を運ぶ。

 そこには死屍累々と呼べる惨状が……あった。


「うう……せ、せいぎ……」

「大義……」


 正義ゾンビ達が縛られて転がされている。

 他には意識が無いのか、そのまま昏倒して倒れている者が多数。

 それにしても、正義という言葉はコイツ等の口癖か何かか。

 ただ、俺を視界に入れると言うだけで、リーシアとかには言わない。

 やっぱり正義ウィルスは悪人を裁く事に終始しているんだろうな。


「一体どうなってんだ」


 と、俺が言うのとほぼ同時だったか。


「はっはー! 天使達! 行くぞー!」

「「「はーい!」」」


 荷車に乗り、フィロリアルの大群を引き連れた元康が砂煙を上げて通り過ぎて行った。


「……」


 そして逃げる正義ゾンビっぽい奴を跳ね飛ばしていく。

 人がゴミのように空を舞う姿はトラウマになりそうだ。

 この惨状は元康がやったのか。

 アイツ……なにやってんの?


「あ、ありがとうございました」

「気にするな! 俺は盾の勇者であるお義父さんに城下町を守るように言われてきたまで!」


 洗脳されずに生き残っていた冒険者に気さくに話しかける元康。

 えーっと……うん。城下町の問題は元康が、フィロリアルを連れて物理的に解決したんだな。

 足早いなぁ。そういや元康の三匹はクラスアップしたんだったか。


「おーい元康ー」

「あ!? そこに居るのはフィーロたんとお義父さん! 言い付け通り、城の騒ぎを解決させるよう努力しておりますよ!」


 元康を呼んだら、歯がキラっと輝きながら高速でこちらに接近してくる。

 一瞬、回れ右して逃げたくなった。


「むー! くるなー!」


 おっと、盾に手をかざしていた。

 フィーロではないが、きっと本能的にポータルシールドを使おうとしたんだろう。

 クールタイムは終わってないけどさ。


「もはやお前が原因なんじゃないか?」

「何を言うのですか、お義父さん! こんなに頑張っている天使達に褒め言葉を掛けてくださいませんか?」

「「「クエー!」」」

「……」


 頭が痛い。

 面倒なので適当にフィロリアルの頭を撫でながら続ける。


「ヴィッチは何処だ? この辺りで旗を掲げていたそうだが」

「ヴィッチ? 誰ですかそれは?」


 もはやコイツの中ではヴィッチが無かった事にされているのか?

 実際、フィーロしか見えない訳だが。

 その関係で俺の命令を聞く訳だし、文句は言わんが……呼び方どうにかならないか。


「お前を裏切った女の名前だよ」

「ああ、そう言えばそんな豚がいましたね。私が来た時には旗なんてありませんでしたが」

「そうか……」


 と言う事は現在城はもぬけの空で、城下町の方も正義ゾンビしかおらず、洗脳されていない奴は元康が救助中という事か。

 どうなっているんだ?


「ごしゅじんさまー」

「どうした?」

「えっとねーラフタリアお姉ちゃんの匂いがするよ」

「ラフタリアが?」

「うん。あっちー」


 と、指差したのはリユート村の方角だ。

 それにしても匂いと来たか……魔物スペックは常識を逸脱しているな。

 いや、動物的には自然なのか?


「とりあえずリーシア。この城下町にいる正義ゾンビ共を正気に戻す作業を始めてくれ。俺達は女王やヴィッチ、後フィーロが言うラフタリアを探してくる。他の連中もリーシアの作業を手伝ってくれ」

「わかりました」

「お義父さん! 私は何をすれば良いでしょうか?」

「引き続き城下町で正義ゾンビ共を引き倒して集めてこい。洗脳されていない奴は救助しろ」

「了解です、お父さん! さあ、天使達、次の周回だー!」

「「「クエー!」」」

「「「わーい!!」」」


 後に、この事件はヴィッチの革命、では無く神鳥のメルロマルク城下町爆走事件と語られるようになる。

 というのはどうでも良い補足か。


 俺はフィーロにまたがって走り出す。


「あ、尚文様、置いて行かないでください」


 アトラも一緒だ。


「よしフィーロ。とりあえずラフタリアが居るのならそっちの方を目指してくれ」


 とか言いながら俺は荒廃したメルロマルク城下町の大通りを通り過ぎていく。

 ふと武器屋が目に入る。

 ……親父は大丈夫だろうか? 調べに入って正義ゾンビ化していたら凄くイヤだなぁ。

 大丈夫だと信じたい。とりあえず確認しておこう。


「フィーロ、武器屋に寄ってくれ」

「はーい」


 俺は店内が暗くなっている武器屋の中を覗き込む。

 棚は……武器一式が無くなっている。


「親父ー……いるかー?」


 ……返事がない。

 恐る恐る店内を探索する。

 店の奥にある扉に手を掛け、開く。


「泥棒め! 正義の為に、死ね!」

「うわ!」


 親父か? と思ったが知らない冒険者だった。

 即座にフィーロとアトラがそれぞれ攻撃して昏倒させる。

 何が泥棒だ。どう見てもお前が泥棒だろう。


「ビックリしたー」


 親父だったらと思って、心臓がドキッとしたぞ。


「尚文様、この建物の中にはこの方以外、いらっしゃらないようですよ」

「うん。誰もいないよ」

「そうか」


 気が見えるアトラにはある程度察知する事が可能か。

 野生の勘が鋭いフィーロも一緒に言うのだから間違いないだろ。

 親父は無事逃げだせたみたいだな。

 どこかで徘徊しているかもしれないけどさ。


 それにしても、この冒険者、なんでこんな所に居たんだ?

 まあ、これはゾンビの謎という事にしておこう。


「よし、じゃあ再出発だ」

「はーい!」


 こうして、夜間は閉まっているはずの城下町の門をくぐりぬけて、俺達は日が昇りかけて薄く明るくなっている草原を走り出した。

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