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2020/03/30

source : 週刊文春 2012年10月11日号

genre : エンタメ, 芸能, テレビ・ラジオ

新宿にある居酒屋「ひとみ」から生まれた「ひとみばあさん」

 コントであろうが何であろうが、その役になりきる才能は誰もが認めるところだ。たとえば志村のヒットキャラ「ひとみばあさん」を見ていると、どこかに実在しているのではないかと思えるほど、ある種のリアリティがある。

志村 あれは新宿何丁目だろう、24時間やっている居酒屋のおかみがひとみさんで、実際に「ひとみ」という店があったんですよ。20年以上前なので、もうお亡くなりになっているんですけど、僕、ひとみさんが気に入ったんで、そこに床山(カツラ屋)さんを連れてって、「あの頭を作ってくれる?」って頼んだんです。

 ご本人はごく普通の女性で、コントでやるような話し方はしません(笑)。「ひとみばあさん」をコントにして、その後、お店でひとみさんとお話ししたことはありますよ。たわいもない話なのではっきりとは覚えてませんが、ひとみさんは「あれ、面白いねえ」と言ってくださって、嬉しかったですね。

 自分の考えたキャラは心の底から愛しているかもしれません。同じネタを考えるんでも、「ひとみばあさん」だったらこうするだろうとか、「バカ殿」はこの感じでは使えないとか、キャラクターごとに発想が違いますから、そこは自分がそのキャラになりきって考えてますね。

「ひとみばあさん」に扮した志村けん ©文藝春秋

「芸人と喜劇人は俺の中では違うんです」

 志村は尊敬するコメディアンについてこう語った。

志村 昔の喜劇人が好きですね。影響を受けたのは、高校生の時に見たジェリー・ルイス。彼の映画は高校を休んで見に行ってました。特に「底抜けてんやわんや」という映画が好きで、ひとこともセリフをしゃべらないで、一人のボーイがずーっとショートコントを繋げていくんです。それが一番好きで、何回も見ました。ただ、後にDVDを買って見たら、あれ、何なんだろう、と(笑)。高校の時に学校を休んでまで見て熱中し、あんなに大笑いしたのに、今から見ると「ん? うーん」てなっちゃうんですよ(笑)。高校の時と比べると、見方が変わってしまったのかもしれない。今はお笑いの仕事をしているから、もっとこうしたら面白くなるのにって、自然と頭がそうなっちゃっているのかもしれませんね。

(日本人では)僕が今舞台でやっている藤山寛美さんも好きだし、三木のり平さんや、由利徹さんですかね。なぜかというと、みなさんやっぱり芸があるんです。最近そういう方は少ないけれども、東八郎さんなんかは、「バカ殿」の爺をやってもらうと、踊りもできる、立ち回りもパッパッと型になる、決まるっていうのかなあ。所作が全部できるんですよ。今は喜劇人というのがないんですね。芸人と喜劇人は俺の中では違うんです。寄席に出ている人は、漫才師とか、芸人さんですよね。喜劇人は舞台中心で寄席には出ませんから。

 喜劇人の諸先輩から教わったことは沢山あります。東さんからもよくしてもらって、「けんちゃんたちは、まだ芸者遊びを知らないだろう」と言って向島の置屋とかに連れてってくれたこともありましたね。ただ、本質は見て盗むしかないんです。