革命
「という訳で樹は押さえたし、次は念の為に城下町の方へ行くか」
「フィーロねむーい」
「キュアア……」
魔物ズが眠そうに欠伸をしている。
「確かにそろそろ疲れてきましたけれど、ここが頑張り時ですよ」
アトラが喝を入れているけど、フィーロ達は疲れたを連呼している。
まあ、ずっと戦い続けて疲れてきているし、いい加減寝る時間はとっくに過ぎているよなぁ。
「良いから付いてこい、お前等」
えっと、人員としては7人までポータルで飛ばせるとして……って良く考えたら錬も転送剣が使えるんだから実際の人数はもっと多めか?
というか一度町の方へ帰ってからの方が良いかもしれないが……。
「錬、城下町の方に転送できるか?」
「いや」
そりゃあそうか。俺の所に軟禁状態だった訳だし、自由に出入り出来る様にしたのも最近だったからな。
洗脳を解く事が出来るのがリーシアと俺だけだから、どうしたものか。
「樹を見張る奴も必要だしなぁ。リーシア、お前は事件を解決させるカギなんだからしっかり働かないと、樹にトドメを刺させるからな」
「ふぇえ……」
「これも樹の為だと思って働け」
「わかってますよぉ」
「さて、とりあえず……ヴィッチが居そうな城下町へと行く」
「尚文、俺が樹を見張っていようか?」
錬が見張りの係りを名乗りあげた。
悪い手では無いんだよな。
城下町には元康がいるはずだから、ある程度は対処できているはず。
勇者全員が向かうより、一人は残した方が良いだろう。
となると、俺を含めて七人だから……俺、アトラ、フィーロ、リーシア、ガエリオン、谷子になるか?
乗り物として使っていたフィロリアル達に目を覚ました樹を抑えていられるか?
まだクラスアップしていないからLv三十後半で止まっているんだよなぁ。
変に動かれると困るし……だからと言って樹を連れて行くのは危なそうだ。
高Lvの奴と転送妨害が出来る奴に見張らせておきたい。
「じゃあ錬、ガエリオン、谷子は樹や三勇教の連中を連行してくれ」
「わかった」
「キュア!」
「この人を村に連れて行けばいいのね?」
「そうだ。錬が転送スキルを持っているから、ある程度は大丈夫だろう。で、残ったのは……」
フィロリアルズが選んでほしいと目を輝かせている。
やる気があるのは良いが、告白を待っているような目で佇むなっての。
「お前等な」
「「クエ!」」
嬉しそうに鳴いていやがる。
まったく。
「とりあえずはそんな感じで良いか」
「ああ……」
こうして俺と錬は二手に別れて、次の場所へと転送スキルで飛んだのだった。
俺が登録しているメルロマルク城下町の転送ポイントは初期登録されていた召喚の間だ。
城の中だから場所的にも調度良い。
だが、相変わらず埃臭い。
俺は召喚の間の扉から外の様子を覗き見る。
バタバタと騒がしい音が聞こえてくる。
「差別をする悪しき女王を倒せ!」
とかそれに近い言葉が廊下の方から聞こえてくるな。
やっぱりこっちにも来ていたか。
「アトラとリーシア。どうだ?」
そっと扉を開けてリーシアに見せる。
「はい。そこら中から漂っていますね」
「ええ」
まあそうだろうな。
「そういえば尚文様」
「なんだ?」
「禍々しい気の性質が若干変化しているようです」
「変化? どんな風にだ?」
「なんて言うのでしょう? あのリーシアさんに負けた方が倒れてから、方向性がおかしくなっていると言いますか……」
「ほう」
樹曰く、ジャスティスボウだったか。
やはり、あの武器に何かしらの効果があったと見るべきだな。
良く分からないけど、これは戦って確かめるしかないか。
「よし、リーシアはここから出ると同時に洗脳を解いて回れよ。その武器で」
「はい」
指示と同時に、俺は扉を開けて駆け出した。
「な、何者だ!」
目がおかしい兵士八名が振り向いて戦闘態勢を取る。
「てい!」
しかし、応戦する前にリーシアがチャクラムにした武器を投げ、一人一人の周りを切り裂く。
遠距離武器いいな。
俺が敵の攻撃に備えた直後に飛んで行ったし。
まあ元々防御系の盾な訳だから、遠距離からの魔法や弓なんかとは相性が良いんだよな。
「「「ガハ……」」」
糸が切れた人形のように兵士は意識を失って倒れ、すぐに立ちあがった。
「あれ? ここ……は?」
「気が付いたか?」
「盾の勇者――」
「三勇教徒か? お前等は」
「い、いえ……ただ、まだ味方だと言う認識が……その……」
兵士の中には俺への敵意がある奴が混ざっている。
一応は軍人で、女王の言葉があるから文句は無いけど咄嗟に敵意を見せるというだけだ。
ま、納得なんて出来ない事もあるよな。別に心でどう思って様が関係無い。
バツの悪そうに兵士は視線を逸らしながら答える。
「何が起こっているか、わかるか?」
「記憶が飛んでいますが……」
「可能な範囲でいい。話せ」
「はい」
兵士共の話ではこうだ。
今日の夕方、城下町で様々な人々が革命運動を起こした。
理由は差別をする女王の抹殺。
方向性の無い暴動を、兵士達は鎮圧に向かった。
だが、しばらくすると鎮圧をしていたはずの兵士達も暴動に参加しだす者が現れ、事態の異常さに気付く。
そして日も沈んだ頃。
革命軍は城下町の一角を占拠し、貴族共々旗印を掲げたと言う。
丁度、俺達が異変に気付いた頃だな。
その革命の代表はヴィッチ。
貴族を誘い出そうと遠征に向かって計画中だった国の上層部は予想はしていたが、こんな手を使う事までは考えていなかったそうだ。
俺も呆れて物が言えない。
いや、まあ……洗脳能力のある武器を使って王族の追放をする、なんて予測出来たら預言者か。
もちろん、影の情報とかもあるんだろうけど、研究内容なんて秘匿されているから調べきれなかったんだろうな。
その場に遭遇しないと最初はわからないし。
すれ違いざまに軽く斬られたら、洗脳されたってわからないんじゃないか?
なにより、あんなおかしな効果のある武器が実在したとしても、普通は最初に存在を否定する。
報告していたとしても、重要視されていなかった可能性もあるな。
まあそれは後々尋ねれば良いか。
影って国の暗部として色々と調べているようだけど、多大に期待をし過ぎるのはどうだろうか?
霊亀の一件で相当の人数が減ったらしいし、しょうがないよなぁ。
って良く考えてみれば、三勇教派の影もいるんだったか。
そっちの処理に追われてるとかじゃねぇだろうな。
それに、なにも国内だけを監視している訳じゃないだろうし、人員が足りて無さそうだ。
……事件が始まってから一度も出てこない所を見るに、何かしている可能性もあるのか?
「で? お前等はなんでこんな所で洗脳されていたんだ?」
「それが……無事な者を集めて鎮圧の準備をしていたら……内部でも襲い掛かる者が現れて……そこから先は覚えておりません」
アウトブレイクの典型って奴だな。
ウィルスの感染者が一人でも居ると立てこもった建物が逆に逃げ場所の無い檻になる。
結果論だけ述べるなら、下策だな。
しかし、突然の事態に洗脳する武器がある、と考える奴は犯人側だろう。
メルティが言っていた魔王の物語にしても、物語は物語、すぐにその結論に行き着くのは些か早計だ。
仮に思い出したとしても、俺ならもう少し情報を調べてから結論を出す。
となると、状況から考えると篭城して味方を待つ方が最善だったはず。
少なくとも、その時点では。
あるいは、篭城する事に何か意味があるとか。
現在起こっている事件を起こさせるのが目的……は、ありえないな。
最終的に革命派を倒せたとしても色々と問題が残るし、諸外国に付け入る隙を見せる事になる。
仮に女王が味方のフリをした敵だったとしても、アイツの立場を考えるにありえない行動だな。
情報不足だ。もう少し情報収集に努めるか。
「じゃあヴィッチは城が開くのを待っていると?」
「おそらくは……」
城が陥落しているのか現状はわからないから、こいつ等も連れて行くしかないな。
しかし逆に考えれば、俺達……というよりは、リーシアが来た事で相手の作戦の本懐を崩す事ができる。
洗脳された連中を元に戻していけば敵が予想していた戦力が無くなる訳だからな。
「よし、まずは状況を完全に理解する所からだ。まずは女王が無事かどうかの確認だな」
「はい!」
「女王は何処にいるか分かるか?」
「おそらく、城の最上階に立てこもっていると思います」
「行くとしよう」
洗脳を解いた兵士達を連れて俺たちは女王が居るであろう城の最上階を目指した。