米国関連

米海軍がアメリカ級強襲揚陸艦4番艦を発注、米空軍は秘密予算廃止を訴える

米海軍は4月30日、アメリカ級強襲揚陸艦4番艦(LHA-9)をハンティントン・インガルス・インダストリーズに予定通り発注した。

参考:Contracts For April 30, 2020

トランプ大統領が盗んだ国防予算は未だ各軍の口座に戻っていない

トランプ政権はメキシコとの国境沿いに「壁(通称:トランプウォール)」を建設するための予算を捻出するため、国防総省に割り当てられた予算の一部を取り上げ流用することを思いついた。

そのため米海軍はアメリカ級強襲揚陸艦4番艦(LHA-9)建造に割り当てられた6.5億ドルの予算削減、対潜哨戒機P-8A 1機、戦闘機F-35B 2機、遠征高速輸送船1隻の調達費削減を命じられ計13.1億ドル(約1,400億円)を捻出することになり、陸空軍の削減分を合わせると計38億ドル(約4,150億円)もの資金がトランプウォールに流用されることになる。

ただし資金の流用は一時的なもので後に流用された資金は各軍の口座に戻されることになっているのだが、本当に戻ってくるのか確信がなくアメリカ級強襲揚陸艦4番艦の発注に遅れが出るのではないかと不安視していた。しかし米海軍は4月30日、アメリカ級強襲揚陸艦4番艦を1.9億ドルでハンティントン・インガルス・インダストリーズに予定通り発注した。

本来6.5億ドルで発注する予定だったので、今の所トランプウォールに流用された資金は米海軍に戻されていないと判断することが出来る。要するに米海軍は初年度の支払いを1.9億ドルに減らして形で発注を行ったため来年以降に支払いが増えるという意味だ。

アメリカ級強襲揚陸艦の建造費は1隻34億ドルと言われており予定通りにトランプウォールへ流用された資金が戻ってくれば問題ないが、仮に約束が反故にされれば海軍の艦艇建造予算は一気の苦しくなる。

出典:public domain コロンビア級原子力潜水艦

米海軍は2021年からオハイオ級原子力潜水艦の後継艦「コロンビア級原子力潜水艦」を建造する予定で、2025年までの艦艇建造予算はコロンビア級原潜に大半を持っていかれるためアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦やバージニア級原潜等の調達を半分に削減(21隻→11隻)削減するなど台所事情が苦しい。

そんな状況下でアメリカ級強襲揚陸艦4番艦を発注したのだから、おそらく資金の目処はついているのだろう。

もしも資金が戻ってこなければ米海軍の艦艇建造計画は大幅に狂うことになる。

陸海空軍への予算配分は平等というのはただの伝説に過ぎない?

古今東西、国家予算や国防予算などには触れてはいけない闇や謎がつきもので、米国もその例外ではない。

参考:8 steps to fully funding our Air and Space forces

米国の国防予算は戦争など大きな要因がなければ基本的にほぼ平等になるよう陸海空軍へ分配されると言われているが、実はこれは見せかけの分配であり実際には陸海軍に比べて空軍の予算は不当に冷遇され続けている。

空軍に配分される予算の中には空軍が手を付けることが出来ない極秘予算(通称:Pass Through)が含まれており、2018年には220億ドル(約2,350億円)に達し現在編成中の2021会計年度予算要求では遂に380億ドル(約4,100億円)にまで膨れ上がり、もはや無視できない存在になっている。

補足:現在編成中の2021会計年度予算要求における各軍の要求額は陸軍1,780億ドル、海軍2,071億ドル、空軍2,072億ドルだが、空軍予算に盛り込まれている380億ドル(約4,100億円)の極秘予算と宇宙軍の予算(154億ドル)を除けば1,536億ドル(約1.6兆円)しか残らないという意味だ。

空軍は何年も前から極秘予算の負担を空軍だけに押し付けるのは不公平なので極秘予算を国防予算全体から支出するよう求めてきたが実現には至っておらず、恐らくこれは単純な会計上の問題ではなく政治的な意味合いを含んでいるからだろう。

出典:Public Domain F-35A

これはあくまで噂レベルの話だが、この極秘予算は諜報機関に回すための資金であって会計処理上これを単独で処理すると目立ち過ぎて議会で問題になるためだと言われており、これを突くということは政治的なパンドラの箱を開けることに繋がる可能性がある。

しかし米空軍の退役将校達は72年ぶりに新しく宇宙軍が創設され予算分配を見直す最大の好機だと判断、この不平等な極秘予算の受け入れを終了させるため公に「Pass Through」廃止を叫び始めた。

彼らは現在の米空軍の規模は1991年の砂漠の嵐作戦時に比べて約1/3まで縮小していると主張しており、このままでは国が必要とする戦略を実現できないので今すぐに大規模な投資が必要だと訴えている。その第一歩が「Pass Through」の廃止で、この資金を空軍に解放しろと言っているのだ。

もしこの予算を空軍が自由に使う事ができれば第5世代戦闘機F-35Aを400機以上発注することができる。さらに「Pass Through」を廃止しなければ陸海空軍への予算配分は平等というのはただの伝説に過ぎないとも主張している。

ただ、この主張は退役将校達による訴えであり米空軍から出てきた話ではないのだが、裏で米空軍が糸を引いている可能性もあるため単なる告発や提案では終わらないかもしれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo illustration courtesy of Huntington Ingalls Industries アメリカ級強襲揚陸艦3番艦「ブーゲンヴィル」

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