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【社説】

コロナ禍に考える 無極の時代を生きる

 コロナ危機によって鮮明になったのは国際社会の実相です。米国が主導的立場から降板し、リーダー不在の世界が浮かび上がりました。無極の時代の到来です。

 時として独善的となり、他人のことにおせっかいを焼きたがる半面、世界のリーダーとしての自負と責任感を持っている-。これが今までの米国でした。

◆リーダー降りた米国

 例えば、無益なイラク戦争を起こして不評を買ったブッシュ(子)政権ですが、エイズ(後天性免疫不全症候群)対策では世界に大きく貢献しました。二〇〇三年に救済プログラムをつくって八百五十億ドル以上を拠出。アフリカを中心にして千七百万人の命を救い、数百万人の感染を防いだといわれます。

 ブッシュ政権の後を継いだオバマ政権は、西アフリカでエボラ出血熱が猛威を振るった一四年、封じ込めのために三千人の兵士を現地に派遣しました。

 リベリアから渡米後にエボラ熱を発症した患者から看護師が感染する院内感染が起きたりして、米国にとってエボラ禍はひとごとではありませんでした。

 今回のグローバルな危機に当たっても、米国は先頭に立って人類の試練に立ち向かう姿勢を見せてほしかった。

 ところがトランプ大統領は世界保健機関(WHO)や中国を攻撃するのに躍起になっています。米国が世界最多の感染者を出しているのは、検査態勢につまずき感染状況の把握が遅れたことが大きく響いています。トランプ氏の外敵たたきは、初動の不手際から国民の目をそらすためではないか、と勘繰りたくなります。

 では、トランプ氏に代わってリーダーシップを発揮している指導者はいるか、というと見当たらない。そうした意欲がある人もいますが力量不足です。

◆国際信用を欠く中国

 しかもWHO、G7(先進七カ国)という国際機関・枠組みも非力を露呈したり機能不全に陥っています。国際社会の連帯感は強いとはいえません。

 米国による一極支配の時代のたそがれに登場したトランプ氏。旗印とする「米国第一主義」は、ありていに言えば、米国さえよければいいという開き直りです。

 十一月の米大統領選で民主党のバイデン前副大統領がトランプ氏を倒したとしても、すっかり内向きになった米国が以前のように積極的に世界に関与していくことは期待薄でしょう。

 米国に取って代わって覇権を握る野心をぎらつかせているのが習近平国家主席率いる中国です。

 ですが、世界がリーダーと認めるまでの信用を得ていません。南シナ海での強引な海洋進出と国際司法の判断を無視した振る舞いは中国への信頼を損ねました。

 強力な手法によるコロナ禍封じ込めは成果を上げましたが、一方で共産党の強権的な統治は各国の懸念と反感を呼んでいます。

 「パクス・アメリカーナ(米国による平和)」は幕を閉じ、それに代わる秩序の担い手がいない。世界は不安定で視界不良の端境期を迎えました。

 コロナ禍はグローバル経済を後退させました。国境を越えたサプライチェーン(流通網)が寸断されたのはもちろん、都市封鎖や外出制限によって経済活動そのものが極度に縮小。感染拡大を恐れる各国は国境を閉ざし、ヒトとモノの往来は激減しています。

 各国とも感染症との闘いと同時に、失業者や企業救済のために巨額の財政出動を行い、危機乗り切りを図ろうとしています。グローバル化によって役割が小さくなった国家が復活に転じる現象が起きています。

 トランプ大統領の誕生と英国の欧州連合(EU)離脱は、経済のグローバル化に取り残された人々の既成秩序への逆襲でした。米英ではグローバル経済によって貧富の差が拡大し、主に労働者階層が犠牲になりました。

 国家回帰の動きが、グローバル経済の行き過ぎを調整することにつながれば結構なことです。

 ですが、各国が自国第一主義に走ってエゴをむき出しにすれば、危険です。コロナ禍の副作用として、多くの国で排他的なナショナリズムが高まっているだけに心配が募ります。

◆国際協調を忘れずに

 さて、あてにできなくなった米国と、野心満々の中国の狭間(はざま)にあるのが日本です。主体性とバランス感覚が一層問われます。

 日本は孤立しては生きていけません。国際協調の精神を忘れてはなりません。選択肢を増やして外交の可能性を広げていくべきです。中国をはじめ体制の異なる国とも、協力できるところは手を握る。不安定な時代を生き抜くには、しなやかさがより必要とされるでしょう。

 

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