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 新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、人と人との接触を抑える前例のない選挙戦が各地で繰り広げられている。

 与党候補が野党統一候補らを破ったおとといの衆院静岡4区の補欠選挙では、各党幹部が現地入りをやめ、候補者は集会や人の集まる場所での演説を自粛した。投票率34・10%は、3年前の前回衆院選を20ポイント近く下回り、現在の区割りになってから過去最低となった。

 投票率の低下傾向は地方選挙でも顕著である。すべてがコロナの影響とは限らないが、選挙運動が制約され盛り上がらない、感染を警戒した有権者の足が投票所から遠のくといったことがあるのだろう。選挙戦や投開票作業が感染拡大を招いてはいけないが、低投票率代議制民主主義の基盤にかかわる。重く受け止めねばならない。

 選挙は自粛を求める「不要不急の外出」にはあたらないとして、総務省は都道府県選挙管理委員会に対し、投票日当日の集中を避けるための期日前投票の積極的な活用や、投票所での感染防止策の徹底などを通知している。現場では、筆記具や記載台をこまめに消毒するなどの工夫がこらされている。各選管は、安心して投票できる環境整備に力を尽くしてほしい。

 候補者にとっては、有権者とのふれあいが減ることは、自らの政策や人柄を直接訴える機会を狭めることになる。特に新人候補にとっては不利益になりかねない。

 今回、コロナ禍のハンディキャップを乗り越えるため、候補者や陣営がSNSを積極的に活用する動きが広がっている。日本では2013年にネット選挙が解禁されたが、候補者側の一方的な発信や日程の告知にとどまるケースも少なくない。双方向性を生かし、有権者個々人とつながる回路として定着する機会になればよい。

 阪神大震災東日本大震災の際は、特例法をつくって被災自治体の選挙を延期した。今回も公明党が特例法の制定を呼びかけている。しかし、多くの投票所が物理的に使えなくなった震災時とは状況が異なるうえ、収束時期の見通しがたたないコロナの場合、いつまで延期すればいいのかもわからない。現状では、細心の注意を払いつつも、予定通り選挙を実施するのが現実的ではないか。

 緊急事態宣言により、国民の自由や私権が制限されている今だからこそ、民主主義の土台をなす選挙の意義、危機対応を担う政治指導者の資質を見抜く重要性に思いをはせたい。選ばれた政治家の側も、国民から負託された責任の重みを改めてかみしめてほしい。

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