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 安倍首相が他の業種に先がける形で、文化イベントの開催の自粛を要請して2カ月になる。

 音楽や演劇などの公演の主催者、アーティストが順次これに応じ、ぴあ総研の推計では、この状態が5月末まで続けば15万本の公演が中止・延期となり、損失見込みは3300億円に上る。映画も同様の苦境にあり、文化芸術の存立そのものが根底から脅かされている。

 中小事業者やフリーランスが多くを支えてきた世界だ。そうした担い手たちが離れていってしまえば、再興は容易でなく、次代の芽も育たない。その先に広がるのは荒涼とした風景だ。

 ところが政府の対応はいかにも心もとない。目につくのは、購入者が払い戻しを求めなかったチケット代を、寄付扱いにできる税金の優遇措置くらいだ。文化芸術団体やアーティストに直接の経済支援を行う欧米に比べ、見劣りは明らかだ。

 多くの産業が打撃を受けるなか、ある分野だけ特別扱いするわけにはいかないという事情は分かる。だとしても、「文化芸術立国」をうたい、国際社会への発信にも力を入れると唱えてきたのは何だったのか。

 文化庁は3月末に「文化芸術の灯を消してはならない」とする宮田亮平長官の談話を出したが、具体策を伴わない内容に失望の声があふれた。少ない予算しかなく、霞が関で発言力も低い役所かもしれないが、危機に直面する今だからこそ、知恵を絞り、各方面にも働きかけて、支援の実をあげる必要がある。

 先のチケット代に限らず、文化芸術への寄付全般に優遇措置を広げる、官民による基金を整備するなど、検討すべきことはあるのではないか。すでに民間では基金づくりの動きが出ている。行政はそうした活動を支える手立てを講じるべきだ。

 自治体では、活動再開に向けた企画やリサーチ、技能向上の取り組みを含めて、今やれる文化活動に最大30万円の奨励金を交付する京都市をはじめ、鳥取県東京都、北海道などが独自の対策を打ち出した。文化芸術のすそ野は広い。地域の実情に応じた施策を競ってほしい。

 業界でも様々な試みが始まっている。作品や公演のネットを使った有料配信や、無料配信したうえで寄付を募る企画も増えてきている。新しいファンを開拓し、将来のビジネスに結びつく道を探ってもらいたい。

 新日本フィルの楽団員の自宅での演奏を合体させた動画は、100万回以上再生された。人々は音楽や映像に励まされて、苦しい日々を乗り越えようとしている。この事実が文化の意義と大切さを物語る。どんな支え方ができるか、考え続けたい。

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