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【社説】

コロナ禍に考える 温暖化も非常事態だ

 新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の発令からちょうど一週間の今月十四日、気象庁の異常気象分析検討会は、「記録的暖冬」に関する分析結果を公表しています。

 昨年十二月から今年二月の平均気温は、平年と比べて東日本で二・二度、西日本で二度高く、戦後の統計開始以来、最も暖かい冬でした。

 北日本と東日本の日本海側では、降雪量も最少になり、名古屋市では一八九一年以来、最も遅い初雪になりました。

◆海は熱くなっている

 検討会はその要因を、遠くインド洋で発生した「ダイポールモード現象」であると結論づけています。

 インド洋西部、アフリカ側の海水温が高くなり、上昇気流が発生して偏西風を南北に蛇行させ、日本付近では北へ押し上げたため、本州から九州の広い範囲で、南から暖かい空気が流れ込み、気温も上昇したのだと-。

 このような現象は、五年に一度ほどの割合で発生しているそうですが、今回は「過去最強」。海水温は高くなり、四季の乱れは年々加速しています。温暖化の影響だと考えざるを得ない状況です。

 「緊急事態」と「異常気象」。私たちは、大変な時代に暮らしているようです。

 実はコロナ対策の緊急事態宣言より前に、世界各地の自治体が「非常事態宣言」を発しています。地球温暖化による「気候非常事態宣言」です。

 気候非常事態宣言は二〇一六年の暮れ、オーストラリア南東部のデアビン市が世に問うたのを皮切りに、世界約千自治体に広がりました。

 日本では一九年九月の長崎県壱岐市が第一号。イーズ未来共創フォーラムのまとめでは、これまでに二十七の自治体が宣言し、コロナ禍が広がりを見せ始めた三月以降でさえも、大阪市など十一市町村が仲間に加わりました。

◆二つの危機に直面し

 <本県は、ここに気候非常事態を宣言するとともに、二〇五〇年には二酸化炭素排出量を実質ゼロにすることを決意し、県民一丸となった徹底的な省エネルギーと再生可能エネルギーの普及拡大の推進、さらにはエネルギー自立分散型で災害に強い地域づくりを進め、もって本県の持続的発展を期するものとする>

 昨年暮れに長野県が出した、都道府県としては初の宣言です。

 その二カ月前、台風19号による千曲川の氾濫で甚大な被害を受けたばかりであるだけに、温暖化がもたらす気象災害への危機感が強くにじんでいます。

 世界が一斉に地球環境を考える「アースデー」の二十二日、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(17)はインターネットを通じて訴えました。

 「気候変動と環境の危機は依然として続いています。私たちは新型コロナウイルスの世界的な大流行と合わせ、二つの危機と同時に闘わなければなりません」

 十一月に英国で開催される予定だった気候変動枠組み条約第二十六回締約国会議(COP26)は延期になりました。

 しかし、グレタさんに共鳴する日本や世界の若者たちは、会員制交流サイト(SNS)上にプラカードを掲げて温暖化政策の強化を訴える「デジタル気候マーチ」など、コロナ禍に即応した活動を続けています。

 むしろ若者たちの方が知っています。「今」をむしばむ未知のウイルス同様に、気候変動が自らの「未来」を脅かす、目に見えぬ危険な敵であることを。

 温室効果ガスの排出量は、地球規模で急減しています。

 新型コロナの大流行で大都市が封鎖され、生産ラインは停止して物流は滞り、人々の移動も制限されているからです。

 やがて必ずコロナ禍は終息し、反動が訪れます。

 暴落した石油や天然ガスを湯水のようにつぎ込んで、世界は経済再生を競い合うことになるのでしょうか。リーマン・ショックの前後のように。

 それが続けば、ウイルス同様に恐ろしい“もう一つの危機”を回避することができません。

◆今、世界を変えるとき

 コロナ後に世界は変わると言われています。変わらざるを得ないのです。新しい世界の種は、今からまいておかねばなりません。

 例えば「脱炭素社会」の種。再生可能エネルギーや蓄電システム、水素インフラ、交通網…。エネルギー転換への投資は、経済再生にも有効です。

 温暖化の進行は、新たな感染症の発生や拡散に関連があるとも言われています。

 若者たちの未来に、もうこれ以上、禍根を残してはいけません。

 

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