なぜか数字を塗りつぶしたグラフをクレベリンゲルの実験結果として公開する大幸薬品(追記あり)
3月27日、消費者庁は「二酸化塩素を利用した空間除菌を標ぼうするグッズ」を販売する17社に景品表示法に基づく措置命令を行った*1。これらの商品はには宣伝されたような空間除菌効果を裏付ける根拠がなかったという*2。
命令をうけた17社のうちの1社であり、命令の対象になった『クレベリンゲル』等の商品を製造する大幸薬品は、この措置命令を受けて以下のような発表を行った。
弊社では、自社のみならず研究機関や企業・団体の協力も仰ぎ、研究室や一般居住空間を用いて数多くの二酸化塩素とクレベリンについての実験を繰り返してきました。そのうえで、「二酸化塩素の素晴らしさ」を自信を持ってお伝えし、消費者の皆様に納得してお買上げいただける製品づくりに取り組んでまいりました。この度の件で、対象となる商品をご利用いただいているお客様をはじめとする関係各位にご迷惑をおかけしましたことを、詫び申し上げます。
なお、今回の指摘は、当該2商品の当社ウエブサイト等での広告表現に関するものであり、製品自体の性能については、何ら問題ございません。
(引用元:http://www.seirogan.co.jp/news/20140327Cleverin.pdf 強調は引用者による。)
繰り返しになるが、大幸薬品は、広告表示されていたような「効果」を裏付ける証拠を示せなかったから措置命令を受けたのだ。これが性能の問題でなければ一体何の問題だというのだろう。大幸薬品の反省を疑わせる活動はこれにとどまらない。措置命令後に誤解を与えかねない新聞広告を出して、消費者庁長官が刑事処分に言及する事態に至っている*3。
大幸薬品は同31日、全国紙5紙に広告を出し、同社の商品「クレベリンゲル」について「さまざまな実験や検証を行っております」「一般居住空間における検証も行っております」とのメッセージを載せた。消費者庁は、消費者に誤解を与える恐れがあるとして問題視。同日、大幸薬品に懸念を伝えたという。
(引用元:http://www.asahi.com/articles/ASG424T7SG42UTFL00D.html 強調は引用者による。)
公開された「クレベリンゲルを使った実空間実験」のグラフは軸の数字を塗りつぶしている
では、「一般居住空間における検証」の結果は実際のところどうなのか。大幸薬品のウェブサイトには、措置命令がなされた3月27日付で「クレベリンゲルを使った実空間実験」と題したPDFを公開している。
一般居住空間において、『クレベリンゲル』の設置場所として推奨する「部屋の隅の少し高い場所」(高さ1.5m)に商品を設置。居室内に成分がどのように広がるか、濃度測定を行い、均一に広がることを確認しております。
(引用元: http://www.seirogan.co.jp/news/20140327Cleverin.pdfhttp://www.seirogan.co.jp/news/0327_CleverinTest.pdf 強調は引用者による)
さて、二酸化塩素が「均一に広がること」は効果を示す十分な証拠と言えるだろうか。少なくともこれだけでは十分と言えないだろう。それは一つには、二酸化塩素が均一に広がっているとしてもそれが除菌をするのに十分な濃度だとする保証はないからだ*4。では、実際、この実験での濃度はどれくらいで、その濃度はどのように推移したのだろうか。実は濃度の推移を示したグラフがこの発表資料には載っている。
(引用元: http://www.seirogan.co.jp/news/20140327Cleverin.pdfhttp://www.seirogan.co.jp/news/0327_CleverinTest.pdf)
グラフの軸に数字が振られていないし、単位もない。なんて不親切なグラフだろう。と、私は思ったが、それはちょっと違った。このpdfをAcrobat Readerで開き、「テキストと画像の選択ツール」のアイコンをクリックして画像をコピーし、何か適当なプログラム*5にペーストすると、以下のようにな画像が得られる。
(引用元: http://www.seirogan.co.jp/news/20140327Cleverin.pdfhttp://www.seirogan.co.jp/news/0327_CleverinTest.pdf)
実はこのグラフ、元々は両方の軸に数字がふられていたのに、その上から白いボックス*6が被せられ数字が読めないように加工されていたのだ*7。この軸の数字が正しいとすれば、二酸化塩素濃度の最高濃度は0.032 ppm程度で、実験は約12日間にわたって行われたことになる。結局のところ、この数字が実用上の効果を示すに十分なのか、それとも少なすぎるのかはこの実験のみからは判断できない。だが、どうしてわざわざ一部を塗りつぶして重要な情報を隠すかのような処理を行ったのか、理解に苦しむ。
なお、私が確認した限りでは、大幸薬品が専門家向けに公表した二酸化塩素に関する実験のページ*8でも、生活空間での効果を示した実験結果は公開されていなかった。溶液中での実験だったり、マウスの「半閉鎖系ケージ」での実験だったり、病院解剖室の実験だったりで、真正面から実際的な効果を示した実験がない。なぜ解剖室で「室内の浮遊菌量が減少」を確認しているのに、大半の消費者にとってより現実的な居住空間で同様の実験を行わなかったのか*9。これも理解に苦しむ。
本当にこの商品には買う価値があるのだろうか。不信感が募る。
消費者が数字を読めないようにグラフを"完全に"塗りつぶした"大幸薬品(4月5日追記)
改めて上記のPDF ( http://www.seirogan.co.jp/news/0327_CleverinTest.pdf )を確認したところ、文章全体が画像化されており、隠れた軸の数字は完全に読み取れなくなっていた。大幸薬品はファイルを差し替えたのだ。だが、当初の不可解な加工は依然として検証可能である。当初のバージョンの魚拓 ( http://megalodon.jp/2014-0403-2034-23/www.seirogan.co.jp/news/0327_CleverinTest.pdf )を参照して欲しい。
「実空間」→「空間」へこっそり修正する大幸薬品 (4月5日追記)
さらに大幸薬品はトップページからのリンク先を以下のように変更した*10。
- 修正前: http://www.seirogan.co.jp/news/0327_CleverinTest.pdf
- 修正後: http://www.seirogan.co.jp/news/0327CleverinTest.pdf
この修正後のファイルでは、先述のファイルと同じくグラフの軸の塗りつぶしが完全化されている以外にもう一つ修正がなされていた。それは、文章のタイトルが以下のように変更されていることだ。
- 修正前:「クレベリン ゲルを使った実空間実験について」
- 修正後:「クレベリン ゲルを使った空間実験について」
この実験はマンション居室で行われたが、「実」空間と呼べるような条件設定ではなかったということか。そうだとすれば、修正するのはいいことだろう。しかし、何の説明もなしに文章を差し替えるのはいかがなものか。何もやましいことがないのなら、修正前のファイルを読んでいた消費者に向けて、きちんと説明すべきだと私は考える。
*1:http://www.caa.go.jp/representation/pdf/140327premiums_2.pdf
*2:http://www.asahi.com/articles/ASG3W5Q12G3WUTFL005.html
*3:http://www.asahi.com/articles/ASG424T7SG42UTFL00D.html
*4:それ以外に少なくともこの部屋の容積、換気の頻度、測定装置の設置位置の高さの情報は必要だろう。
*5:word、ペイント等
*6:白いボックス状のオブジェクトの存在は、pdfの編集が可能なLibra Office 4.2で確認。数字の部分が範囲外に出てしまったとか、別のラベルに隠れてしまったというような事故とは考えにくい。
*7:偶然にもH. Obokata, et al. , Nature 505, 641 (2014).のFig.2eを想起させる。http://stapcells.blogspot.jp/2014/02/blog-post_2064.html
*8:http://www.seirogan.co.jp/medical/eiseidata.html
*9:あるいは公表していないのか。
*10:なぜ先述のファイルを残しておいたのか謎。修正に気づかせないためか単なる残骸か。