本山町の皆さま、こんにちは。加藤和です。和と書いて「のどか」と読みます。名前だけ見れば女の子のように思われますが、3人の子供がいる40歳の男性です。
私は今から14年前ーー2006年4月に、東京から本山町へ移住してきました。当時は妻と結婚したばかりで、妻も山梨県出身なもので、二人とも本山町には縁もゆかりもありませんでした。移住の理由は、妻の健康問題です。妻の持病であった喘息やアトピーの改善のために、都会から田舎へ引っ越そうと思って、14年前に本山町にやってきたのです(素晴らしい環境に住めたので、妻は今はすっかり元気です)。
14年前、僕ら夫婦は、日本全国のいろいろな土地をめぐってまわりました。半年ほど、おそらく100ぐらいの市町村を訪ねて歩いたと思います。その中で、私たち夫婦が最も気に入ったのが、この本山町でした。移住してから14年、今は3人の子供と、本山町南部の大石地区で日々、楽しく幸せに暮らしています。私たち移住者を暖かく迎えてくれた本山町、そしてとりわけ大石集落の方々には、言葉では言い表せないほどの感謝をしております。
さて。私は今、世界中が、そして日本も被害を受けている新型コロナウイルスについて、大変に危惧しています。この文章を書いている時点(4月17日)では、まだ嶺北・本山町で感染した人は確認されていませんが、感染者が現れるのは時間の問題だと思っています。少なくとも行政は、最も悲観的な想像をした上で、それに対する準備をするべきだと思っています。
ですので、悲観的な想像をします。新型コロナウイルスのワクチンは何年も開発されません。感染力の強いウイルスは、地球上の、ほぼすべての人に襲いかかります。この新型コロナウイルスの感染力は高く、国の専門家会議では最悪の場合、日本国民の79.9%が新型コロナに感染すると予想しています。そこで中国の武漢市の年齢別死亡率のデータと、本山町の年齢別人口から計算すると、最悪のケースでは、以下のような被害が本山町にもたらされます。
年齢帯 | 推計総人口 | 武漢市致死率 | 推定死者数 |
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※医療崩壊が発生しなかった場合の推定値 | |||
参考:本山町の5歳階級別の年齢データ(高知県総務部統計分析課) | |||
参考:新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言 (新型コロナウイルス感染症対策専門家会議) |
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参考:「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第1版」の 周知について(厚生労働省) |
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39歳以下 | 885 | 0.2% | 1~2 |
40~49歳 | 367 | 0.4% | 1~2 |
50~59歳 | 385 | 1.3% | 5 |
60~69歳 | 493 | 3.6% | 18 |
70~79歳 | 579 | 8.0% | 46 |
80歳以上 | 700 | 14.8% | 104 |
合計 | 3,409 | 176 |
合計176名もの方が、本山町で亡くなってしまう。もちろん、これは最悪の想像ですが、こういうことが起こってもおかしくないのです。私たちは今、そのような状況にいるのです。
176。それは、ただの数字ではありません。その一人一人は、誰かの父であり、母であり、おじいちゃんであり、おばあちゃんです。長年連れ添った夫や妻です。数十年の付き合いがある友人かもしれません。誰かの息子であり、娘であり、孫かもしれません。誰かに愛され、愛した人です。そして、まだ何年も生きられるかもしれない、その未来を失ってしまう本人こそが、最も無念だと思います。
これは、最も恐ろしい想像です。もちろん、こうならないかもしれません。日本人は諸外国と比べて、マスクをする割合も高いです。清潔好きな国民性があります。真偽のほどは分かりませんが、BCGワクチンが効くという報道もあります。ひょっとしたら、これほどの恐ろしい未来はやってこないまま、平和な日常が続くかもしれません。しかし、行政の危機管理は、最も恐ろしい未来が実現しないように準備するべきなのです。悲観的に準備する、これが危機管理の基本です。
ありとあらゆることに、行政が適切な準備と対処を行えるか。それにより、亡くなる人の数も、悲しむ人の数も、生活の豊さも、全てが変わってくるのです。では、新型コロナウイルスにどのような対策を行えばいいのか。また、新型コロナウイルス以外の本山町の課題についても、いろいろなアイデアがありますので、皆さんにお伝えできればと思います。
北に新型コロナウイルスが広まることを想定して、一刻も早く、軽症者用の隔離施設を準備するべきです。もし軽症者を全員、病院に入院させてしまえば、病院のベッドが足りなくなり、本当に手当が必要な人が治療を受けられなくなってしまいます。そのためには、病院以外の施設を、軽症者隔離用として準備する必要があります。
近隣の宿泊施設や公共施設など、ある程度の広さがあり宿泊ができるところを利用します。入居者のいない町営住宅なども利用できるかもしれません。本山町だけでなく、近隣自治体とも連携し、広域での受け入れを行うべきであると考えます。
感染しないためには外出しないのが一番ですが、そうは言っても、買い物や通院などで、どうしても外出しなければならないことは、あるでしょう。しかし、特に高齢者にとっては、一度の買い物で感染してしまい、それが命取りになるかもしれません。そのために、買い物や通院などの代行サービスを行ったら良いと思います。
通院の場合は、診察の必要が比較的低い常用薬ならば、オンラインや電話で診療を行い、通院しなくても薬を出してもらえる仕組みづくり。国の方針としてもオンライン初診診療の解禁という流れになっていますので、国の動きを素早くフォローし、安全のためのサービスを一日も早く実現すべきだと考えます。
新型コロナウイルスがおさまるまでの間、ひょっとしたら何年にもわたり、休校期間が続くかもしれません(繰り返しますが、危機管理の基本は、悪い想像をして準備するべきだと思いますので)。
その間の学習フォローは、大変重要な問題です。プリントを配って宿題をやっておけばいい、で済む話ではありません。まずはオンラインで、先生や友達と会話しつつ、共に勉強できる仕組みづくり。スマホやタブレットなどを持っていない家庭には、貸し出しできるようなサービスの提供。また、本山町に整備されている光回線を利用すれば、ケーブルテレビを利用した授業の配信も行えます。教育委員会・学校と連携し、子供たちがきちんと学習できる環境を整えるべきだと思います。
学校やデイサービスが閉鎖されてしまえば、子供や高齢者の面倒を見るために働きに出ることができない人が増え、社会活動がストップしてしまいます。そうならないためにも、感染の危険をできるだけ排除した、少人数での託児サービス・高齢者向けのデイサービスは、存続させなければなりません。既存の施設を少人数で運用する、また、休校中であっても学校の教室を託児施設として利用する、などが考えられます。
もちろん、これらは新型コロナウイルスの広がりを見ながら、臨機応変に対応していかなければなりません。確定したスケジュール通りに進めるというよりは、その場その場のスピーディーな対応を行うべきだと考えています。
産業の仕組みが大きく変わります。飲食業や観光業の売り上げは立たず、多くの従業員が解雇されると思います。一方、医療・教育・福祉・生活サービスなどの業種では、需要が高まり、人手不足が懸念されます。
そのような状況で、行政が一時的な雇用の受け皿となり、失業者と、人手不足の業界をマッチングさせたら良いと思います。人材紹介という形や、一時的に役場の臨時職員として現場に派遣するなどの形をとれば、労働者の生活の安定と、各種サービスの安定供給を両立することができます。
特にゴミ処理・し尿処理などの環境衛生サービスの機能停止は絶対に阻止しなければなりません。そのために余裕を持った人員バックアップ機能を用意すべきだと考えます。
新型コロナウイルスが蔓延すれば、その最前線に立つのは病院スタッフになります。嶺北中央病院の医療従事者・スタッフに、多大な業務がのしかかることが想像されます。医療従事者の過労から、体調不良となり、院内感染等により医療崩壊してしまう事態は、何としても避けなければなりません。
そのためには、医療従事者が健康的に余裕をもって働けるような環境改善が必要です。危険手当などの経済的支援や、また、遠方から通われているスタッフが連日勤務となる場合、町内での休憩・宿泊場所の確保なども行い、医療従事者をサポートしていくべきです。また、必ずしも専門職の必要がないスタッフワークは、積極的に人材マッチングを行い、医療従事者の過重労働を防ぐよう注意するべきです。
本山町では梅雨時期や台風シーズンに、毎年のように大雨が発生し、避難所が開設されます。また、南海トラフ地震もいつ起きるか分かりません。そのような場合に懸念されるのは、避難所での集団感染です。避難した先で新型コロナウイルスにかかってしまえば、元も子もありません。また、新型コロナが怖いから避難しなかったというのも、本末転倒の話です。
避難所は、個人で区切れるスペースづくり、換気や消毒の徹底などはもちろんのこと、可能なかぎり、新型コロナ感染が懸念される人を隔離するためのスペースも作るべきです。集団感染の危険が無い、安心して避難できるための避難所の準備を、一刻も早く行うべきであると考えます。
一日ごとに状況が変わり、一週間もたてば以前の常識が通用しなくなるかもしれない。そういう環境の中で最も大切なことは、正しい情報発信です。役場に情報が集まるように管理し、高知県の情報・嶺北の情報・本山の情報を、正しく素早く発信するべきです。現在、役場からの発信は主に町内放送ですが、これでは、その場にいない人は聞くことはできませんので、LINEやTwitterやメールでの発信も並行して行うべきであると考えます。
それと、光回線を利用したケーブルテレビの嶺北オリジナルチャンネルをつくり、そこで情報を発信することも、技術的には可能です。正しい情報を伝えることで、不安感やパニックを抑え、住民の皆さんが冷静に行動できるようにするように務めるべきです。
私は今、日本のみならず世界中が被害を受けている新型コロナウイルスについて、大変に危惧しています。行政の危機管理は、最も恐ろしい未来が実現しないように準備するべきだと考えます。
これからの数年間は、新型コロナウイルスの対策が最も重要であり、力を入れて解決すべき問題だと思っています。しかし、だからといって、本山町の他の課題を放っておいて良いはずはありません。
本山町の人口は、年間100人近いペースでの人口減少が続いています。
このままでは、そう遠くない将来に本山町が無くなってしまうのではないか? そう危惧される方も、多いと思います。しかし、もっと本山町の魅力を引き出せば多くの移住者が来て、豊かな嶺北、輝かしい本山の未来が開けると確信しています。
なぜ移住者が増えないのか、若者が外に出ていってしまうのか。私は、その大きな原因の一つは「現代的な、まともな住宅が無い」ということだと思っています。例えば、嶺北で結婚した若い夫婦が、本山で暮らして子育てしようと思った。そういう時に、子育てに適切な2LDKぐらいの、水回り(風呂・トイレ・キッチン)もキレイな、まともな賃貸住宅が見つかるかというと、これが、ほとんど存在しないのです。
移住者が本山町の自然を気に入って住みたいと思っても、汲み取りトイレの築60年の家しか無い、そういうことでは、移住しようと思わなくなります。まずは、きちんとした住宅を提供することこそが、人を、この町に繋ぎ止めるために必要なことです。
そこで、町営住宅の建て替えやリフォームを行い、現代的な、子育てをしやすい物件を揃えるべきです。さらに空き家改修やトイレ水洗化(浄化槽)工事を積極的に進めたら良いと思います。基礎の躯体が使える住宅ならば、リフォームで再活用する。そして、現代的な集合住宅も用意し、若い人や移住者が住みやすい家を、数多く整備していく必要があります。
どうすれば地元の雇用が増えるのか。これも、最も単純で基本的な解決策は、人口を増やすことです。人口が増えれば、それだけ消費が増えます。人口が倍になれば、飲食店も倍になります。人口が増えれば、それだけのサービスが必要になり、雇用が生まれます。
企業ごと誘致するのは、人口と仕事を増やすための真っ当な方法です。本山町は、そのほとんどが山林であり、平地が非常に少ないため、大きな工場などのモノづくり産業には向いていません。誘致すべきは、インターネットさえあればどこでも仕事ができるようなIT企業、また、すでに個人で生計を立てられるリモートワーカーなどです。
このために必要なのは、安定したインターネット環境です。本山町はすでに全戸に光回線が引かれていますので、これをアピールしない手はありません。こんなに山奥なのに安定した回線があるというのは、IT企業誘致に非常に有利に働きます。また、これから5G回線の配備が全国で始まると思いますが、その際にも、真っ先に配備を目指し、IT環境が整っている本山町として売り出すべきだと思います。
現在、本山町には小学校が2校あります。保育園は1つ、中学校も1つなのに、小学校だけ2つあります。これは、子供にとっては好ましくない環境だと思っています。
保育園で3年も4年も一緒に育ってきた友達と、小学校に入学する時に、離れ離れになってしまうのです。これが、あまりに人数が多くて分けるというのであれば納得もできますが、そうではありません。現在の本山小学校の1年生は19人、吉野小学校の1年生は4人です。23人の子を、19人と4人に分けることが、子供たちのためになるとは思えません。
ですので、基本的には小学校は、本山小学校1校に統合すべきだと思っています。しかしそれは、吉野小学校を廃校にするということでは、ありません。私は、吉野小学校は「もう一つの選択肢」として活用すべきであると、考えています。
例えば、不登校支援の学校として活用する。いの町に去年4月「とさ自由学校」という私立小学校が誕生しました。高知県では62年ぶりの私立小学校の開校だそうです。そこには、22人の新入生が入学しました。その多くは、いじめなどで不登校になっていた子供たち。わざわざ県外から、その学校に通いたいがために、引っ越してきた人もいるそうです。
私は、吉野小学校の校舎が、とても好きです。美しい汗見川をプールとして使い、すぐ近くには吉野運動公園もあります。クライミング施設は全国でもトップクラスのクオリティです。とても恵まれた環境にある学校です。この学校を、不登校やいじめ問題に苦しんでいる子供たちや保護者さんにむけて、門戸を開き、新しいもう一つの選択肢として存続させる。
基本的に全員が進学する本山小学校と、外部の生徒も受け入れる別の選択肢としての吉野小学校。そのような形が、最も人々を幸せにするのではないかと考えています。
学力に関して言えば嶺北中学校・高校は、高いというレベルには無いようです。事実、大学進学を目指す生徒が、高知市内の中学や高校に流出してしまうという事態になっています。これはとても悲しいことです。生徒としても、嶺北でレベルの高い教育が受けられるのであれば、わざわざ苦労して遠い市内まで通うことはないのです。送り迎えをする保護者の苦労も、大変なものがあると思います。
ならば、中学・高校の勉強に、今以上に力を入れるべきかというと、それも違うと思っています。嶺北には、高校は一つしかありません。理想は、全ての嶺北の子供が、嶺北高校で、理想的な教育を受けられることです。
子供というのは、一人一人違います。才能も違えば、将来の夢も違います。それぞれの夢に優劣は無く、どれもが正しいことです。勉強をして東大に行きたいというのも、先祖伝来の田畑を継いで最高に美味しいお米を作りたいというのも、等しく価値ある夢であり、どちらも叶えられる環境を整えるのが、理想の学校だと思います。
嶺北中学校・高校は、いろいろな夢に向かって多様化する子供たちを支えられる、多様性を受け入れる学校であるべきです。それは、一つの価値観にそった教育ではありません。多くの価値観とゴールがある、全ての夢を認め、正しいと、子供たちの背中を押してあげられる教育です。これは中学・高校の内部改革ということになりますが、私は、そのような理想を描いています。
本山町の子供の多くは、保護者に車で送り迎えをしてもらい、学校に通っています。スクールバスが運行しているのは、上関下関などの一部地域だけであり、中には国道沿いを長い距離、自転車や徒歩通学している子供もいます。これは交通事故の危険もありますので、何らかの対策をしなければならないと思っています。
本山町内の全ての生徒が安全に学校に通えるように、全ての地区へのスクールバスの運行を目指すべきだと思います。生徒の家からバス停までは1キロ以内を目安とし、全ての生徒が、最大で1キロ歩けば、学校に通えるような環境づくりをするべきだと考えています。
スクールバスは、まずは学生が利用することが第一ですが、席に空きがあるのであれば、住民の皆さんの足としても利用できるような仕組みを作れば、より多くの住民の生活が、豊かになると思います。
本山町のすべての家庭には、光回線が引かれています。しかし、この光回線を十分に活用しているかというと、それは、出来ていないと思っています。立派なハードがあるのに、ソフトが追いついていません。公共的に活用しているのは町内放送ぐらいのもので、せっかくの光回線も、宝の持ち腐れとなっています。
どのように活用すればいいのか。例えば、ケーブルテレビで、嶺北のオリジナルチャンネルが作れます。ケーブルテレビは、土佐町の土佐有線テレビさんが管理運営していますが、土佐町と共同で、議会中継やローカルニュース(コロナ関連の報道・注意喚起など)、また、地域の運動会や、学校の文化祭などの中継放送も行えます。
高齢者の中には、せっかくの孫や、ひ孫の運動会に、行きたいけれども体が悪くて行けないという人も、多いと思います。そういう方々に、学校の行事や、本山のお祭りなどを中継して楽しんでもらうことは、町民すべての幸せにつながると思います。
また、これは高知の民放各局との調整が必要なことですが、技術的には、テレビ朝日を配信することも可能です。来年、東京オリンピックが行われれば、中には、テレビ朝日のみが放送している試合もあるでしょう。サッカーのワールドカップなども、そうですね。今まで嶺北に住んでいては、それらの番組は見たくても見られなかったのですが、技術的には解決可能な問題なので、住民の皆さんの暮らしを少しでも良くするように、実現を目指すべきだと考えています。
いろいろと、輝かしい未来の本山を語ってきましたが、もちろん、それらを実現するために重要なのは財源です。もちろん、人口が増え、企業誘致に成功すれば、税収が増えます。それらは長期的なことで、そこを中心に考えるのが第一です。しかしその一方で、手っ取り早く財源を確保する方法としては、ふるさと納税があります。
これはアイデアと努力次第で、町の財政に何億円ももたらす可能性のある素晴らしい制度なのですが、今までの本山町は、残念ながら、これを生かしているとは言えません。高知県の市町村別ふるさと納税ランキングでは、本山町は最下位や、下から3番目とか、毎年そのぐらいの位置にいます。金額にすれば、たったの数百万円です。一方で、本山町と似た人口規模の芸西村では年間6億円、田野町は3億5000万円のふるさと納税を集めています。
本山町にそのノウハウが無いのであれば、ふるさと納税を担当する職員を外部から雇い入れてでも、この事業に注力すべきだと思っています。とりあえず目指すべきは、芸西村の6億円。その先は10億円のふるさと納税を集めるのも、十分、可能だと思っています。
10億円を集めたら、その3割が返礼品になります。返礼品は地場産品で構成されるので、3億円の売り上げが本山町の事業者に生まれるということです。そして、ふるさと納税の経費率は50%以下という総務省の指針ですので、半分の5億円が町の財政に入るということになります。それだけの利益を狙うのであれば、そこに適切なコストをかけ、人材を登用し、町の財政の短期的な改善を目指すべきであると考えます。
本山町の農業といえば、その主力となるのは米です。棚田で育った、日本一おいしい「天空の郷」です。しかし、これもブランド化に成功しているとは言い難いです。稲作では稼げないので、作業効率の悪い棚田は、奥の方から、荒れ果てた耕作放棄地になっていきます。これは、とても悲しい光景です。
どうやって解決するべきか。結論からいえば、中国の富裕層向けに輸出し、国際的な米のトップブランドを獲得を狙うのが最も良いと思います。棚田というのは、どうしても作業効率が悪く、コストがかかってしまいます。原価が高い中で利益をあげようと思えば「馬鹿みたいに高い価格」に設定しなくてはなりません。国内市場では、それは難しいです。可能性が高いのは、中国の富裕層マーケットです。
なぜ中国なのか。中国は現在も、福島原発事故の影響で、東北・北陸の米を輸入禁止にしています。今現在、中国に輸出できる日本の米で、最も品質が高いのは、この本山町の米なのです。西日本で、食味コンテスト日本一を2回とった生産地は、他にありません。中国の人が、最高に美味しい日本の米を食べようと思った時に、本山町の米は唯一の選択肢なのです。
また、富裕層のマーケットが巨大なのも魅力です。日本の富裕層(資産1億円以上)は280万人ですが、中国には440万人います。日本の有名な米産地が、原発事故の影響で中国市場進出できない中で、県とも協力し、この巨大なマーケットでブランドを築きあげ、農家の売り上げ向上を目指すべきだと思います。
もちろん、これには解決すべき課題がたくさんあります。一番重要なのは、中国へ輸出するためには、中国政府から認可を受けた精米施設を使わなければならないことです。現在、このような施設は、四国には一つもありません。まずは本山町農業公社のライスセンターが、中国輸出向けの認可をとり、超高級ブランドとして中国へ輸出する体制を整えなくてはなりません。
高い価格で売れれば、作る方は、何十年の経験があるプロフェッショナルが、本山町にはたくさんいます。日本一おいしい米ではなく、世界一おいしい米を目指して、本山町を国際的に売り出すべきだと思います。
本山町は、その90%が山林であり、その多くがスギやヒノキの人工林です。しかし、この人工林も林業として採算が取れているところは、ほんの少しであり、多くは間伐されないまま、手入れされないまま、荒れ果てた山となっています。
荒れた山の土壌は貧相になり、保水力が弱まります。保水力が弱まるとは、どういうことか。簡単にいえば、保水力の高い山というのはスポンジに覆われた山であり、保水力の低い山とはコンクリートで覆われた山です。手入れされていない人工林には日光が届かず、下草が生えず、土壌が流出します。雨水を貯められない山になってしまうのです。
大雨が保水力の高い山に降れば、スポンジのような土壌が雨水を吸収するので、川に流れ出る水は、ごく一部です。スポンジに染み込んだ水は、それから何日もかけて、ゆっくりと染み出します。これが湧き水です。
一方、保水力が低い山に、大雨が降ればどうなるか。水は土壌に吸収されずに、一気に川に流れ出します。コンクリートの地面に雨が降るようなものです。そして、雨が通り過ぎたあとは、カラカラに乾いてしまうのです。つまり、洪水が起きやすく、湧き水は枯れるということです。今、本山町の多くの山は、適切な間伐がされず荒れ果てて、このような状態になっているのです。
洪水は人命を奪います。その一方で湧き水がなくなれば、棚田が維持できなくなります。生活用水を沢水に頼っている集落なら、移転を余儀なくさせられるかもしれません。保水力の高い山を作ることは、安全な暮らしのために、なくてはならないことです。
そのためには、放置されている人工林を適切に管理し、水源涵養(かんよう)林として整備しなくてはなりません。そして、水源涵養林の適切な整備ができるように、その恩恵を受ける下流地域からの財源補助を受けられる仕組み作りを、全国の水源地の自治体と共同で、国に対して働きかけるべきだと思います。
川はつながっています。本山町で降った雨は、吉野川を通って徳島市まで流れるのです。水源地を適切に整備することで、流域に住むすべての人が、その恩恵にあずかれるのです。都道府県を超えた繋がりを築き、適切な森林整備費用を獲得し、地域に林業雇用を生み出し、本山町の山を美しく再生させるべきだと考えています。
本山町は雨の多い地域です。日本の平均雨量が1,718ミリですが、本山町の平均雨量は2,890ミリ、約1.7倍です。それぐらい雨の多い地域なのです。
雨はエネルギーです。そのエネルギーを最もうまく活用するのが、ダムです。ダムというと、真っ先に思いつくのは早明浦ダムでしょうが、それ以外にも本山町には多くのダムがあります。吉野川の支流に作られた、砂防ダムです。
これらの砂防ダムは、発電設備を付ければ、小規模水力発電所として活用することが出来ます。すでにダムはありますので、新たに建設する必要はありません。ダムの横に建物を建てて、中に発電設備を設置すればいいのです。既存の小規模ダムを活用するので、コストも安く済みます。地元の雇用も生まれます。もちろん水力発電は、空気を汚さない、完璧なクリーンエネルギーです。新たなダムを作るわけではないので、環境破壊にも繋がりません。
今まで見過ごされてきた本山町の「雨」と言う資産を有効活用し、産業へとつなげます。水力発電事業が盛んになれば、将来的には、本山町住民へ電気料金の値下げという形で還元できるかもしれません。このような小規模水力発電は、自治体が町営の事業として行うべきです。なぜなら、川というのは地域共同の資産であり、民間や個人に属するべきものではありませんから、公共団体である自治体が行うべきであると考えています。
エコな小規模水力発電の流れで、もう一つ、エコな話をします。断熱材です。住宅の断熱材の効果は素晴らしいものがあり、適切な断熱材を設置することにより、冷暖房の効果は劇的に増し、光熱費は削減されます。もちろん、消費するエネルギーも減るので、地球環境のためにも好ましいことです。
断熱材の「利回り」は20%と言われています。つまり、10万円分の断熱材が、年間2万円の光熱費削減につながるということです。銀行の定期預金が0.1%以下、世界平均の経済成長率が約3%という中で、20%というのは、ものすごく高い利回りです。5年で元がとれるということです。
夏は涼しく、冬は暖かい家に住めるというのは、幸せな暮らしの基本です。冬でも暖かい家であれば、ヒートショックで亡くなる人も少なくなります。暑い夏も、断熱材が入った家で冷房を使えば、熱中症になる危険性も少ないですし、光熱費も安く済みます。本山町の古い家には、断熱材が無い家も多くあります。そういう家が、断熱材を入れる工事をする場合に、補助金を出して、快適でエコな家を本山町に広めるべきだと思います。
本山町の下水道普及率は0%です。0%! そうです、本山町には下水道がありません。これは良くないことです。下水道が無いよりは、あったほうが良いに決まっています。川は汚れるし、浄化槽も各家庭で管理するというのは、手間も費用もかかります。理想としては、本山町の中心部には、下水道を通す必要があると思います。
これはもちろん、すぐに出来る話ではないので、あくまで将来のビジョンというものです。今まで書いてきたビジョンが実現されれば、本山町には素晴らしい住宅が増え、農業や林業で生計を立てられる人も増え、IT企業やリモートワーカーが移住してきて、人口がどんどん増えていっています。住民からの税収も増え、ふるさと納税も増え、という状態です。そういう状態ならば、下水道の設置というのは真っ先にやってしかるべきことです。
しかし当然、本山町の地形を考えると、下水道の普及率100%というのは無理です。山間部まで下水道を通すのは効率が悪いです。山間部でも、家がまとまっているところであれば、小規模の共同下水処理施設を作るというのも選択肢としては、あり得ますが、将来的には下水道と浄化槽を合わせた普及率で100%を目指すべきだと思います。
さて、今まで述べてきたようなアイデアは、一見すると地味なものが多いと思います。断熱材とか、下水道とか、スクールバスとか。基本的には、大きな施設を作ったり、道路を作ったりという方向よりは、このような、日常の暮らしに直結する課題に財源を投入し、地道に改善していくことが、住民の皆さんの幸せに直結していくと考えています。下水道は、目には見えませんが、普段の暮らしを便利にしてくれます。このような、暮らしを支えるインフラに予算を投資していくべきだと思っています。
本山町の上空を米軍機が低空で飛行訓練をするのは、本山町の皆さんにとっては、お馴染みの光景だと思います。悲しいことに、日常の風景の一部となってしまった感のある米軍機ですが、これを、そのままにしておいて良いはずはありません。騒音問題もありますし、下津野を離発着するヘリコプターとルートがかぶっていますので、いつ衝突してもおかしくないという危険性もあります。
また、行方不明者捜索のための山岳救助ヘリや、山火事消火のためのヘリが通ることもあります。現在は、米軍からの飛行タイムスケジュールの共有は無く、いつ飛んでくるか全く分からない状態です。危険な事故が発生するリスクは、常にあります。
これらの飛行訓練は、住民の暮らしと安全をおびやかすものですから、メディアの方々に協力してもらい大々的に報道してもらうとか、世界に向けて報道してもらうとか、言論の力を使い、解決に向けて行くべきだと思います。正攻法で、国や米軍に訴えても解決への道筋はつけにくいので、世論を動かす形の方が、解決が早いと考えています。
新型コロナウイルス対策のことを色々と申し上げましたが、ここで、そもそも加藤和とは何者なのか、どこの誰なのか、詳しくお伝えしたいと思います。もちろん、本山町で14年間も生活しているので、知っている人は知っているでしょうが、当然、聞いたことも会ったこともないという人の方が多いと思うので、加藤和というのはどんな人物で、どういう経緯で本山町に来たのか、きちんとお伝えしようかと思います。
1979年(昭和54年)、東京都目黒区で生まれました。勉強が得意だったので(笑)、進学校の開成中学・開成高校に進みました。そのまま東京大学に進むのが普通なのですが、なんとなく、このまま官僚などの人生を進むのが嫌だったので、いろいろと紆余曲折を経て、東京都立大学の哲学科を卒業しました。
本山町に引っ越してきたのは26歳の時です。本山町の農業研修生として移住してきまして、そこでお世話になったのが、寺家で有機農業を営んでおられた、故・山下一穂さんの山下農園でした。山下農園では半年間の研修を受けました。実は、最初は2年間の研修を受ける予定だったのですが、やっているうちに、一刻も早く自分だけでやってみたくなり、山下さんに無理を言って半年で辞めさせてもらったのです。当時、山下さんには大変ご迷惑をおかけしました。
その後、農業公社の方を通じて、大石地区の田畑を借りることができました。私たち夫婦は、田舎暮らしといっても、すごく田舎の山奥で住むのが夢でした。分かりやすい言い方で言えば、テレビ番組のDASH村のようなところです。ああいう雰囲気のところに、自分の家を建てて暮らせたらなと思っていました。幸い、大石地区の奥の方に素晴らしい土地を見つけ、地主さんや、当時、そこで放牧場を営んでいた方に、無理を言って売ってもらい、その土地に住み始めました。それが2011年のことです。
それまで仕事は、農業のかたわら、インターネットを使った仕事をしていました。東京にいた頃から、田舎でも出来る仕事を作っておこうと思い、始めたのがテープ起こしの仕事です。インターネットを通して送られてきた会議の音声を、議事録にするという仕事です。主に、省庁関係の議事録を作っていました。また、田舎暮らしをテーマにしたメールマガジンの配信もはじめ、それのアフィリエイトで生計を立てたりしていました。
最初は本山町の街中に住んでいたので、そんなことも出来たのですが、山奥に住み始めたらインターネット環境がなくなったので、それから数年は山奥でひっそりと暮らしていました。現在、子供は3人。本山町に引っ越してきてから2人の子供に恵まれました。また、以前から児童相談所を通じて里親登録をしていましたので、養護施設にいた子を1人、里子として養育しています。田んぼをしたり、畑をしたり、ニワトリを飼ったり、ヤギを飼ったり、そんな暮らしを数年間、続けました。
私が大石の奥に住み始めた時、隣の家は2キロ離れていました。しかしその後、近所に、滞在型市民農園のクラインガルテンもとやまが建設されました。これは、移住者のための全10戸の施設で、クラインガルテンを通じて本山町に定住された方も、数多くいらっしゃいます。2018年からは、この施設の業務委託管理を引き受け、管理人として移住者のお世話や、施設の維持管理などを行なっています。
移住して14年、縁もゆかりもなかったこの土地で、多くの友人ができ、知り合いができ、ご近所さんにも恵まれて、楽しく日々を過ごさせてもらっています。このままひっそりと山奥で暮らし続けるのもいいよな(コロナにもかからないし)と思う気持ちはあったのですが、やはり、今までお世話になった本山町が危機の時に、自分のできる最大限のことをしたい、今は、そういう思いでいます。