ソニー経由任天堂スイッチ行き、独立系ゲーム制作者の戦略が奏功
望月崇-
不振のソニー携帯機で注目、スイッチでも発売し任天堂が紹介
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人気のゲーム機なら「存在すら気づいてもらえなかった」と制作者
新ゲーム「グノーシア」が3月、任天堂の配信した動画で70秒にわたって紹介されたのは、制作したプチデポット(名古屋市)を率いる川勝徹氏の独自戦略の集大成だった。
4人のゲーム制作者がいるプチデポットは2015年、グノーシアの制作をソニーの携帯型ゲーム機「プレイステーションヴィータ(PS Vita)」向けに開始した。ヴィータはすでに販売台数を公表しないほど不振に陥っていた。
だが川勝氏たちは気にしなかった。ヴィータの生産が終了した3カ月後の昨夏、グノーシアをヴィータ向けに発売。高評価を受け、任天堂の目に留まった。もし別のゲーム機を選んでいたら、あり得ない展開だったかもしれない。グノーシアは30日、任天堂の家庭用ゲーム機スイッチ向けに配信を開始した。
配信動画ニンテンドーダイレクトで披露されるゲームは、ほんの一握りだ。独立系ゲーム会社が制作した「いっしょにチョキッとスニッパーズ」や人気シリーズ「アサシンクリード」が同時に数百万人ものゲーム愛好者に紹介される。新型コロナウイルス感染拡大や「あつまれどうぶつの森」によってスイッチの人気は高まっており、紹介されただけで快挙だ。
プチデポットのグノーシア
川勝氏は「制作には紆余(うよ)曲折あったが、結果として自分たちが信じ、やってきたことが間違ってなかったということが証明された」と話した。「もしグノーシアを他のプラットホームに出していたら、毎日たくさん出される新作の中に埋もれてしまい、ユーザーにこういうゲームが存在しているということすら気づいてもらえなかったかもしれない」と分析している。
スイッチのような人気のゲーム機で少数のプレーヤーを獲得する代わりに、ヴィータという舞台でスポットライトを浴びた。新作を欠いたヴィータファンの高評価に後押しされ、グノーシアは発売から3週連続で最もダウンロードされたゲームになったほか、プレイステーションの公式ブログでも取り上げられた。
今月18日に発表されたファン投票で選出する「ファミ通・電撃ゲームアワード2019」では、独立系ゲーム制作者から選ぶベストインディー賞に選ばれている。同賞実行委員長の林克彦氏は「ユーザー満足度が非常に高かったのが選定の決め手となった」と話した。
ライフサイクルが終わりかけのゲーム機をあえて選ぶ戦略をプチデポットが取ったのは、グノーシアが初めてではない。米マイクロソフトの「Xbox One(エックスボックス・ワン)が発売される1年前の12年には、日本では不人気だったエックスボックス360向けに「メゾン・ド・魔王」を発売した。
川勝氏によれば、熱心なファン層のいるゲーム機の小さなプラットフォームだけに新作を販売するのは、限られたファンに絞ってゲームを制作できるからだ。一方、多くの人が遊ぶプラットフォームでは、その分野のゲームにあまり興味のないプレーヤーの好みに合わず否定的に評価され、評判が落ちることもあり得る。 川勝徹氏
メゾン・ド・魔王は、エックスボックス360での高評価を耳にしたゲーマーからの要望でパソコンやスイッチ向けにも発売された。グノーシアも熱心なヴィータファンが無料で宣伝してくれたほか、19年のヴィータ唯一の明るい材料だったことで注目を集めた。
川勝氏は、グノーシアへの反応や発売前ダウンロードは想定を上回っていると述べた。プチデポットは次のゲームでも販売終了間近のゲーム機に狙いを定め、高評価を獲得する戦略を取る可能性がある。
エース経済研究所の安田秀樹シニアアナリストは「誰であっても、過去に実績のないよく分からないゲームを大きく取り上げるというリスクは取れない」と指摘。グノーシアのスイッチ版がヴィータ版と同時に発売されていたとしたら「ニンテンドーダイレクトで取り上げられるようなことはなかっただろうし、結果として通算の売り上げも全然違ったものになっていただろう」と分析した。